最後の公演3
少年は、V-07のもとへ通うようになった。
最初はただ歌を聴くだけだったが、次第に会話を試みるようになった。いや、正確には一方的に話しかけ、V-07がときおり短い単語を返すだけだった。
それでも、少年はめげなかった。
「なあ、V-07。これは何だ?」
ある日、少年は小さな金属片を持ってきた。かつては何かの機械の部品だったのだろう。
V-07はそれを見て、しばらく沈黙した後に答えた。
「……基盤の……一部。」
「きばん?」
「電子回路……情報を処理する……。」
少年は首をかしげる。
「ふーん、つまり頭の一部みたいなもんか?」
「……否定。」
「違うのかよ。よく分かんねえな。」
少年はつまらなそうに基盤を放り投げた。
変なもの探し
少年はそれからというもの、街で見つけた「変なもの」をV-07のもとに持ち込むようになった。
「これ! なんか回るんだけど!」
「……ファン。」
「これ! やたら軽い!」
「……発泡スチロール。」
「これ! ふわふわしてる!」
「……ぬいぐるみ。」
少年は目を輝かせていた。彼にとって、街で拾う人工物はどれも新鮮で、面白いものだった。
そしてV-07は、それらが何なのかを淡々と説明し続けた。
少年はある日、鏡を持ってきた。
「これ、すげえぞ! 映るんだ!」
「……鏡。」
「お前も映るぞ、V-07!」
少年はV-07の前に鏡を差し出した。V-07はじっとそれを見つめた。
「なぁ、お前、自分の顔見たことある?」
「……認識は、している。」
「じゃあ、どう思う?」
ヴィオはしばらく沈黙した。
「……変化なし。」
少年は笑った。「そりゃそうか!」
少年の興味は、次第に「V-07自身」に向かうようになった。
「なあ、V-07って味気ねーからあだ名つけていいか?」
「……適切ならば。」
「なあなあヴィオ、お前って服とか着ないの?」
「……必要、なし。」
「でも、せっかくだからさ、なんか着てみようぜ!」
そう言って少年は、街で拾った布切れをヴィオに巻きつけた。
「おお、ちょっとかっこよくなったんじゃねえか?」
ヴィオは自分の姿を鏡で確認し、「……変化。」とだけ呟いた。
少年は楽しそうに笑った。
それからというもの、少年はヴィオに「オシャレ」させることに夢中になった。
帽子をかぶせたり、サングラスをつけさせたり。時には古びたマフラーを巻いたりもした。
ヴィオは特に拒否もしなかった。ただ、じっと少年の試みを受け入れていた。
そしてある日、少年は言った。
「なあヴィオ、お前、ちょっと人間っぽくなってきたな。」
ヴィオは、その言葉の意味を考えるように、静かに歌い始めた。
それがどんな曲なのか、誰に向けての歌なのか
少年には、分からなかった。
だが、彼はただ、ヴィオと過ごす時間が楽しかった。