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吾輩は猫であった2

「真実……ですか?」


「ああ、そうさ。でも、それを話してしまう前にまずは私の話をしよう」


そう言って彼女は語り始めた。自分の過去を――そして、彼女がこの世界にやってきた経緯を。


「私はね、もともと地球っていう異世界にいたんだよ。そこでの名前は『小鳥遊優衣奈』。どこにでもいる普通の女子高生さ」


「え? 地球の日本に住んでいたんですか?」


「そうさ、ちなみに今は28歳。結婚もして子供も2人いるよ」


「そうだったんですね……」


「まあ、今さら何を言ったところでもう遅いんだけどね……。とにかく、この世界にやってきてからは大変な毎日だったよ。いきなり知らない土地に投げ込まれて、言葉も通じないし、周りにいる人間たちは皆敵みたいに思えた。それに何よりこの身体だ。いくら頑張っても魔法が使えなかったせいで、すぐに行き詰まってね。正直、何度も死のうと思ったよ。でも、それでもなんとか今日まで生きてこれた。それは偏に愛する家族がいたからだ。だから、私はまだ頑張れる。だけど、もし私一人だけだったらきっと耐えられなかったと思う。でも、私にもこの世界で支えてくれた仲間ができた。だから、たとえどんな困難が立ち塞がろうとも負けずに前を向いて歩けるんだ。だから、君もこの世界を生きる上で大切なものを見つけてほしい。それができれば、きっと君なら大丈夫だと思うから」


「はい……」

「あー、ごめん。なんか偉そうなこと長々と。一人語りなんて退屈だったよね?」


「いえ、とても興味深いお話でした。ありがとうございます」


「そっか、それじゃあ次は君の番だよ。さっきの質問に答えよう」


「はい」


「結論から言うと、この世界では人間族が家畜のような扱いを受けていないのは事実だ。それどころか、この世界で最も優遇されている種族といっても過言ではない」


「本当ですか!?」


「ああ、嘘じゃないよ。それじゃあ、なぜ人間族はこの世界でも他の種族から嫌われているのか、その理由を教えよう」


「お願いします」


「わかった。まず最初に断っておくけど、これから話すことは全て本当のことなんだ。信じられないかもしれないけど信じてほしい」


「わかりました」


「よし、じゃあ続けるぞ。そもそもこの世界において人間族は他の4つの種族に比べて圧倒的に数が少ない。これは知っているかな?」


「はい、それは知っています」


「そうか。だが、それは少し間違っているんだ。正確には人間族以外の種族は数が極端に少ないんじゃなくて、増えにくいだけなのさ」


「えっ? どういうことでしょうか?」


「うん、わかりやすく説明するために、ちょっと別の例え話をさせてもらおう。例えばの話、牛や豚といった家畜がいるとする。彼らは自分たちが家畜であることに疑問を持っていないだろう? あるいは疑問を抱いていたとしても、それを自覚していないはずだ」


「はい……」


「でもね、私たち人間は違うんだ。家畜であるという事実を自覚しているし、家畜として扱われることに違和感を覚えている者もいる。そして、そういった者たちはやがて『自由』を求めるようになるんだ」


「『自由』ですか?」


「そう、『自由』だ。しかし、ここで大きな問題が発生する。なんだと思う?」


「えっと……」


「ふふっ、わからないようだね。正解はこの世界に『奴隷制度』が存在しているということさ」


「あっ!」


「どうだい? これで少しはわかってくれたかな?」


「はい、確かに理解できました。つまり、人間族は家畜として扱われていますが、奴隷として使役されるようなことはない。しかし、それは人間族だけが特別なのではなく、この世界に住むすべての生物が家畜として扱われているため、人間族だけが特別視されるということがない――そういうことですよね?」


「うん、その通りだ。やっぱり君はやっぱり君は頭が良いね」


「いえ、そんなことは……」


「いいや、君はすごいよ。だって君は家畜という立場にありながら、家畜であることを嫌がっているじゃないか。普通は逆なんだよ。家畜という身分を受け入れてしまえば、後は楽なもんさ。ただ大人しく飼われていれば良いだけだからね。でも、君はそうしなかった。だからこそ、君は素晴らしい存在なんだ。そして、私は君のことを尊敬できると思っている」


「……」


「おっと、話が逸れてしまったね。それでここからが本題になるんだけど、実はこの世界に『奴隷制度』が存在する理由は、人間族の扱いを見ればわかるんだよ」


「えっ? どうしてですか?」


「簡単さ。この世界に存在する全ての生き物の中で最も数が多いのは何だと思う?」


「えっ?」


「ほら、早く答えなさい」


「えっと、一番多いのは獣人族です」


「そうだ。でも、それはあくまで数字上だけの話であって、実際はもっとたくさんの種族がこの世界に存在している」


「それじゃあ……」


「そう、人間族が一番数が多くて最も弱い種族なんだ」

「そんな……」


「だから、人間族は他の種族から奴隷のように扱われてしまう。しかも、人間族は他の種族と違って、繁殖力が低いために、なかなか数を増やせない。だから、人間族はどんどん減っていく一方で、他の種族たちはどんどん増えていく。その結果、今ではこの世界を支配しているのは人間族ではなく、他の4つの種族になってしまった」


「……」


「これがこの世界の真実だよ。そして、この世界で生き残るためには強さが必要だ。だから、君には強くなってもらいたい。君ならきっとできると信じている。もちろん、私も協力するよ。私もかつては君と同じようにこの世界で虐げられていたからね。でも、今はこうして幸せな生活を手に入れることができた。それもこれも全ては愛する家族のおかげなんだよ」


「はい……」


「それに、今はまだ子供だけど、いつか君も恋をして愛する女性を見つけるだろう。その時、君の心の中には必ず彼女の存在が刻まれることになるはずだ。そして、もし彼女がピンチに陥った時には、君は命を賭けて彼女を救いに行くだろう。それこそが男ってものさ。それに、この世界では強い者こそ正義だからね。だから、君にも強くなる理由があるんだ。だから、君ならきっと大丈夫だよ。私が保証してあげる」


「ありがとうございます。僕、頑張ります」


「ああ、頑張ってくれ。応援しているよ」

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