狐仮面2
夕食をいただき、せめてお皿洗いでもと思い片付けているとしずりんから宿舎の空き部屋に1泊だけ泊まらないかと提案された
「願ったり叶ったりだが、不審者をそんな簡単に泊めていいのか?」
「もー、自分のこと不審者不審者うるさいよ!門の中に入れちゃったしどっちみち一緒!ふっ、民の平穏を脅かすか…私に捕まるかだ──」
キリッとしたキメ顔にターンを加えるキザなセリフに白い目を向けられ、必死に「なんでもない!」としずりんが濁す
「で?、どーすんのよイケボ高身長狐仮面さん」
「なんだそのあだ名は」
「だって名前を聞くタイミング逃しちゃったし会う雰囲気でもないじゃない?」
あ、と声を漏らし、一瞬考える
(本名でいいか)
特に嘘つく理由もなければ困ることもそれほどないだろうと自分で納得する
「北村直樹です。あなた達は?」
「私はしずりんよ、てかなによ改まって「です」なんて付けて」
しずりんは頬を片方を膨らませて抗議した
怒っているんだろうが仕草がなんとなく可愛いので全く威嚇になっていない
「いや、何となくだ…というかそれあだ名じゃないのか?」
「れっきとした名前です!これがあだ名なら本名どうなるのよ」
「んー、雫辺りか?」
「じゃ、じゃあ、私は?もえぴーって言うんだけど」
「萌香だな」
「じゃあじゃあ!逆にあなたの名前をあだ名にしたら何になるの?」
「なっきーとかそんなんだろ」
「「あ〜、先輩と同じ名前!」」
なにが楽しいのか2人はいえーいとハイタッチをした
「じゃ、ナッキー先輩!明日は不審者の身元を固めるために冒険者協会に放り込む仕事が出来たので早めに起きてくださいね!」
「なんだその仕事、ていうか冒険者協会ってなんだ?」
「やだなー根無し草が日銭を稼いだり、ぶらぶら旅をしてほっつき歩いてる人をサポートする世界協定のひとつですよー」
「しずりん、言葉が悪いよぅ…」
「日銭か…はぁ、家に帰れれば金には困らないのに」
「おや?実家がお金持ちのご家庭で?」
「いや、宝くじを3回当ててな。10億ぐらい貰ったからあとは節約しながら死ぬまで遊ぼうと決めてたんだが…はぁ、転移だかなんだか知らんがこんなところまで飛ばされてしまったんだ」
「じゅ、10億?!!」
「宝くじって何?!私もやりたい!」
ん?この国には宝くじとかはないのか
「宝くじっていうのは1枚の紙を買って、そこにランダムに書かれた数字が書かれてるんだがな、当たる確率は雷に当たるぐらい低いんだ」
「雷に3回当たるぐらいの確率なら…」
「運があれば10億が当たる…ゴクリ」
「まあ、当たったぶんの不幸がこれなのかなー…あれ?聞いてる?」
目の前で手を振るが完全に上の空だ
…猫騙し!
パン!!
「はっ!国際魔法禁止法違反!!!」
しずりんがハッと目を覚ますと突然叫び出した
なにやら転移魔法とは国際的に違反した魔法のようだな
「そんなことより、風呂は──シャワーだけでも無いか?昼間汗かいたから流したいんだけど」
「そんなこと?!強制的に転移魔法でひとりぼっちにされた上に10億がどうなってるか…あわわわわわ!!」
「警備隊用のお風呂ならあるけど、2日ぐらい入らなくったって変わらないわよ」
「は?」
今しずりんはなんて言った?
2日ぐらい入らなくてもいい?
首が機械が錆びたような歪な動きでもえぴーに目を向ける
「わわ!私はおうちに帰ってお風呂に入ってるよ?」
ほっ、と溜息をついた
「とりあえず、俺は入れるなら我慢出来ない。入らせてくれないか?」
「いいわよ、ここから出て突き当たりを左に行ったところが脱衣所だから」
しずりんは二つ返事で了承してくれたので遠慮なくはいろう
…としたのだが
「なんじゃこりゃ」
ひとまず浴槽の確認をしようと覗き込むとカビの臭いがツーンとする上に浴槽の中は乾燥した何かでベトベトのカピカピになっている
「どうしたの?」
どうしたはこっちのセリフだ
どうやったらこんな汚い浴槽になるんだ?
「汚っ!」
「別に大丈夫よ、さっさと入っちゃいなさい」
「これに?!先に掃除させてくれ!頼むから!!」
「な、なによ急に。そんな面倒なことしなくても死にはしないわよ?私だって入ってたんだし」
「は?!これにか?」
ええ、と頷く彼女に顔を大きくしかめる…が、仮面のせいでよく分からないだろうが、怒気は伝わったようだ
「おい、腕を擦ってみろ」
「わ、分かったわ」
そう言って擦ると4回ほどで垢がポロポロとこぼれていく
「ちょっと待ってろ」
「え?なんて──」
バタン!と扉を閉めて室内にあるブラシを手に取り構え、袖を捲る
「大仕事になるな」
1時間後──
「ふしゅぅぅぅぅ…」
浴槽をピカピカに整えた俺は待たせたしずりんを呼んだ
「うわーすごい綺麗…こんなに綺麗なの何年ぶりかしら」
「次は貴様だァァァ!!」
「え、きゃぁぁあ!!」
服を勢いよく剥ぎ取り、全裸のしずりんを腰に抱えるとジタバタと暴れだすが体格差で拘束は解けない
「し、しずりんが…えっちな目に…でもでも!私じゃ勝てそうにないし…!はわわわわ」
扉を閉める俺にもえぴーの声は届かず、一心不乱かつ丁寧に体を隅々まで綺麗にした
その間もしずりんは「自分で洗うからやめてー!」とか言っていたが無視した
ここまでほって置くヤツのことなんて聞いてられない
だが汚れはなかなか落ちきらず2回3回と繰り返す羽目になりしずりんはだんだん無表情となり、最後の方にはむしろ気持ちよさそうにしていた
「肩まで使って100数えろ、そしたら上がっていいぞ」
汗を拭いながらしずりんに告げて先に風呂場から出たのだった
…そういえば女性の裸体を見たはずなのに自分でもびっくりするほど性欲とか湧かなかったな
ばっちい軍服メイドを見て思いついた
しずりん、不衛生設定にしてごめんな…