悠久の王は──
この世は無常
千の歳を生きたとして
その先にあるのは死のみぞ。
「お父様!!目をお開けください!!」
どんなに素晴らしい父になろうとも
「陛下!!へいかあぁぁー!!」
どんなに良き君主になろうとも
「お前!なんで...なんで俺より先に行こうとしてんだよ!不老の人間だって言ってたじゃねーか!」
どんなに良き友人を持とうとも
死は、必ず訪れる
だが、ああ...だがもう悔いはない
「...ありがとう」
室内に死を告げる音が鳴り響く
皆に引き止められ
誰にも引き止められずに
「父様ぁぁぁぁ!!!」
で、なんでこうなった
(ねぇ、そろそろ私子供産める体になったんだけどいつ子作りしてくれるの?)
(しない)
(もう、またそんなこと言って)
身長16センチ
体重35グラムのハムスターになっていた
私は心の底から叫んだ
(どうしてこうなったぁぁぁぁぁぁ!!!!!)
ああ、断言しよう。私は千の時を刻み君主として大往生した最高の人生を過ごしたはずだ
それは間違いない
断じて野生のハムスターの夢だったなんて思いたくもない
(...旅に出よう)
その想いが募りに募って私は気が狂ったのか着の身着のまま巣から飛び出してしまった
だが、この世はハムスターには過酷すぎる
「ギャー!!」(ハムスターだ!!)
「ギギャーー!」(おやつ!おやつ!)
(しんでたまるかぁぁぁ!!)
食物連鎖の底辺...という訳では無いが、小動物であるハムスターはゴブリン共には最高のおやつになるようでよく追いかけ回される
(クソ!二匹はさすがに逃げきれないか...)
ゴブリンは森のハンターだ
2匹となれば先回りもされるし罠だって仕掛けられる
あまり魔力もないから最後の手段となってしまうが、私は魔法を使うことを決めた
(ファイアーボール!)
「ギャース!!」
「グギャ?!」
目の前の1匹を何とか殺し、逃げ切ることが出来た
(ひぁ、ふぅ、ふぅ...何やってんだ私は)
魔力の消費が激しく体から90%が失われ、頭が賢者モードとなったのだ
(...食べ物を探すか)
これ以上魔力が減るとやる気が無くなり腹が減ろうとも動く気力が出ないのだ
しばらく食べずに逃げ回っていたからなかなかに危ない消費量だった
(はぁ、チーズとワインでも落ちてないものか...ハムでもいいな)
好物でもあれば気力が湧き上がり普段以上に魔力が使えるものの、あいにく私の好物は加工品ばかり
(もっと貴腐物のワインを飲んでおくんだったなぁ)
そう愚痴をこぼしても無理なものは無理だ
貴腐物と言っても100年は熟成させたものであり1人の人生でも足りない期間が必要で前の私でも飲むのを躊躇ったほどだ。
「ギィギ!!」
「ぎゃぎゃぎゃ!」
(くそっ!またゴブリンがきやがった!)
もう魔法は使えない
腹も空いてる
(ああ、クソっ...前とは大違いだな)
ひとまず木の幹の穴に入り込んでやり過ごそう
「ギギャ?」
「ガグキャ...」
(クソが、何を探してるんだよ)
口癖になってしまった悪態を心の中で吐きつつ様子を伺っていると人間の子供が4人ほどでこちらに歩いてくるのが見える
と言ってもゴブリンからは茂みなんかのせいでまだ見えていないだろうが
剣や盾を持っているようだが足取りはまだおぼつかず、当たりをキョロキョロと頻繁に見間渡している様子から慣れていないと見る
「ギャー」
「グギャ」
どうやらゴブリン達はここに目的の物がないと思ったのかどこかに消えていった
(運のいい人間だな、ゴブリンと会わずに済んで)
ゴブリンがいなくなったところで木の幹から出てこちらも食べ物を探すのを再開した
──ハム公となる