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ソウルライフ

ここは──どこだ──



意識がふっと浮き上がる



だが完全には浮き上がらない



どこか心地いい浮遊感と



なんとなく窮屈な空間



──まあ────いっか



ゆっくりと眠りにつくように彼は意識を落とし、浮遊感に身を委ねた









ドタバタと男が走り産婆の家のドアを勢いよく開ける


「婆さん!!破水が始まったって本当か?!」


息を荒らげ、汗を滝のように流している男は今年親となる最初の人物となる


しかも医者の推測によると双子だそうだ


その事が嬉しくて不安でたまらない気持ちを抑えきれず大声になっていた


「うるさいねぇ!男の出る幕じゃないんだよ!!さっさと水を沸かして出ていきな!」


「出る幕あるじゃねーか!急いで持ってくる!!」


直ぐに外の井戸から樽いっぱいの水を汲み上げ産婆の家に入り水を沸かす


「清らかな水よ沸き上がれ...俺が求は命の受け水」


水に手の平をかざしブツブツと唱えるとじんわりと暖かくなり初め、40度程のお湯となった


「出来たぜ婆さん!」

「ならさっさと外に行きな!出るもんも出てこなくなるよ!」


実際にはそういうことは無いのだが産婆の経験上、そういった経験の無い夫が立ち会うと大抵ろくな事が無かった。なんと声をかければいいかもどうすればいいか分からずウロウロされても邪魔になるだけなのだ


3人目の子ならば少しは役に立つだろう


男は家の外で座り込み、時折聞こえる嫁の呻き声を聞いてはオロオロと情けなく顔を歪ませる


「頼むぞ...アシュリー」









どれほど時間がたっただろうか。

この世に誕生した産声にハッと起き上がる

ノックも声もかけずに男が部屋に入り赤ん坊を抱える産婆に駆け寄った

「婆さん!?」


中に入ると少しどんよりとした暗い雰囲気に異常を感じた


「なぁ婆さん!!どうしたんだよ!」


アシュリーを見ると疲れ果てたのか、眠ってしまっていた


そして産婆が抱える生まれたばかりの赤ん坊をみる


「...ごらん、男の子が兄で女の子が妹だよ」


片方は未だ泣き続ける元気な赤子


もう片方は小さく、声を上げていなかった


「うそ...だろ...」


「男の子は死産だったよ」


男は膝から崩れ落ちたが、産婆から女の子を抱えさせられた


「いいかい、この子の分までしっかりその子を見るんだよ?」


「あ"ぁ...」


流した涙が赤子の頬を伝い地面に落ちた


アシュリーと毎夜毎夜考え、どういう子になって欲しいかで決めた名前


生にしがみつくような名にしよう決めた名を、せめてこの子だけでも


「産まれてきてくれてありがとう...お前の名前は...マリアだ」














────



(狭くない...)


意識が再び浮き上がり当たりを見回す

足元には泣きじゃくる赤子を抱く男と赤子

その近くにはおばあさんと動かない赤子


(何が起こってるんだ?)


最後に振り向くと、近くのベットには女性が寝ていた


「──お前の名前は...マリアだ」


(マリア?)


その名を聞いた瞬間、突然頭上から光がスポットライトのように照らされ、心地よい賛美歌のような歌声と共に現れたこの世ならざる姿かたちをした者が天井をすり抜けて現れた


それは産まれたばかりと思われる赤子に向けて手を合わせたと思うと、頭の中に声が響く


(かみ)の祝福があらんことを】


怪物は今度はこちらに振り向き、無機質に語りかける


(かみ)の元へ戻るぞ】


(何言ってんだこいつら)


先程から思考停止状態が続いており怪物の言葉に返答出来ず、疑問が浮かぶばかりだった


【考えた?】

【考えたな】


怪物は顔を見合わせ首を傾げた


【アストラル体だ】

【異常だ】

【成長じゃないか?】

【進化じゃないか?】

【早すぎる】

【可能性はある】


ああでもないこうでもないと議論しているのをボーッと見ていると不意に引っ張られるような感覚を覚える

何に引っ張られているか見てみると赤子をだいた男が揺籃に赤子を連れていこうとしているところだった


(あの子...)


なんとなく...そう、なんとなく赤子に親近感を覚えた彼は赤子の額を指先で撫でようとすると指が赤子をすり抜けてしまった


反射的に指を引っこめる


信じられなくてもう一度突っ込もうとしたら怪物に声をかけられた


【貴殿を新たな生命体として(かみ)に報告する】

【ここで待っていろ】

【すぐ戻ってくる】


(はぁ...分かりました)


なんとも微妙な返事をすると、怪物たちが天井をすり抜けて消え行ったのだった



新たな生命体...?

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