春草の疑問
この世界は万物に精霊が宿り、そして万物と共に死に、そしてその子孫に受け継がれて回っている
そんな世界のちっぽけな存在の精霊が疑問を持ちました
「ねえツリ爺、秋ってどんなの?」
「どうした?急にそんなことを聞いて」
ゆらゆらと新芽をなびかせる春草は雪を被った古株の木に問いかけました
「私ね、ちょっと気になったの。どうして暖かい時に芽を出さないの?って」
「そうだな。逆に秋に芽を出す草はなんで熱くなる時に芽を出すか分からないのと同じじゃないかな」
「...なるほどー、ツリ爺は頭いいね」
妙な納得と共に春草はさらに秋に興味を示しだしました
「ねえツリ爺、秋ってどんな景色が見れるの?」
「そうだな。だんだん景色が茶色くなったり黄色くなったり落ち着いてきて。しだいにヒラヒラと葉が落ちてきて。とても綺麗だよ」
ツリ爺はどこか穏やかな声をつぶやきました
「なんだか桜みたい。どうして私は見れないのかしら」
「ご先祖さまがそういう風に進化してきたからとしか言いようがない。」
春草は考えました。どうやればひらひらと舞う茶色い葉を見れるかを
しかし、いくら考えてもいいアイディアは浮かびませんでした。
仕方なしの妥協案を思いつき、地面に文字を描き始めました
「何をしてるんだい?」
「人間がね、紙というものに字を書いて他の人に渡すってことをしたのを見た気がするの。地面に書けばきっと秋草とお話ができるわ」
春草は世紀の大発見とばかりに胸を張りますが、ツリ爺はどこか物言いたげに声を漏らしました
「なによ。もっといいアイディアがあるの?」
「えーっと...地面に書くと動物に踏まれて消えちゃうんじゃないかな?」
ハッと気がついた春草はシヨシヨと落ち込みました。
その様子を見たツリ爺は仕方なしに伝言を伝えてあげると春草に言いました。
春草は何を伝えようか、何を聞こうか。考えて考えて考え続けているうちに、いつの間にか桜が満開にまでなっていました。
その様子を眺めながら春草はツリ爺を見上げました
「ツリ爺、伝言お願い。」