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色々ありましたね1、アホ役令嬢とおじーちゃんの苦悩~

暴れん坊未亡人シリーズ続編です。短編になる予定でしたが色々ありすぎて短編になってません。

今回は愛されアホ令嬢にして百合の花が咲いちゃった騎士団長ジュリアちゃんとおじーちゃんの話です。ほとんどギャグです。

キャラの掘り下げをしながら物語も少しずつ進みます

プロローグ


「お姉様~待って~今日こそ姉妹になりましょ~よ~」

赤みがかった長い髪の女性を透き通るような金髪の女騎士が追いかけ回している。

「うるせー馬鹿!仕事しろ!」

赤みがかった髪の女性が女騎士を思い切り蹴り飛ばすが謎の耐久力で起き上がる。思いきり蹴られたのに全然元気そう。

彼女の始まりはいつだったか。腐れダニ王ことガワダーニの元で近衛騎士団長を務めていた。日々弱っていく国の民を見て反乱を企てた。幼なじみの司祭長も協力してくれた。他にも良心ある者が集まってくれた。しかし反乱戦が長引けば決起者だけではなく国民に被害が出る可能性が高まる。やるなら電光石火。もう一押し何かが欲しいと思っていた。そんなとき司祭長が神託を得た。獅子王なる者が現れ国を救うと。彼女は期は来たと確信した。根回しだけは済ませてある。獅子王とは何者なのか楽しみだった。獅子王は神託より一日遅れでやって来た。やっと国は救われる。予想と違ったのは獅子王がメイド服を着たえらい美人さんだった事だ。逞しいグランレイ王のような英傑を想像していた。しかし確かに黒い獅子みたいなのに乗って現れた。決戦が始まる。結論から言えばガワダーニは腐った化け物だった。足を痛めた彼女は死を覚悟した。だが獅子王に抱き上げられた。鎧を着こんだ自分をあっさり持ち上げた。近くで見る獅子王の顔は凛々しく美しく決意に満ちていた。胸が高鳴った。だがまだだ。その後獅子王は訳あって彼女のパンツを剥ぎ取った。

ここだ、これが彼女の始まりだ。高鳴る鼓動を抑えられない!いらないスイッチが押されてしまった。

最終的に獅子王は山吹色の光を放ち完全に化け物と化したダニ王を消し去った。あの山吹色の美しい光景を彼女は忘れられない。見惚れていた。一生慕い付いて行こうと決めた。剣一筋だった彼女に変化が訪れた。

こうして清廉潔白だった彼女の堕落の日々が始まった。


~第一章~おじーちゃん、喜ぶ~

一年前に遡ってガワダーニを倒した数日後。季節は初夏。場所は王都からかなり離れたクザーツ町。風光明媚な景色と温泉で有名な場所だ。

その町外れに一軒の民家兼道場。ローレン-ブロンデルの家だ。建物は古いがきっちり手入れが行き届いている。

ローレン公、グランレイ王時代には騎士団長を務め息子は王家のエンダ妃の姉、サリア妃を嫁にもらい王候貴族の仲間入り。公爵扱いとなった。もっとも王都在住時代に息子は戦死、その妻だったサリアも流行り病で亡くなった。もう10年近く前だ。自身も数年前のグランレイ王死去の後は騎士を辞め生まれ故郷に戻ってきた。生家と道場はローレンの妻マロワが守って居てくれたので安心して王都に旅立ちそして帰ってこれた。ちなみにローレンとマロワは10代の頃出会った。当時荒くれ傭兵だったローレンは新米騎士のマロワにコテンパンにやられた。美しく舞うような剣術を扱うマロワに一目惚れ。稽古をつけてもらうと言う理由で毎日城に通いつめついに二人は結婚。ローレンも騎士へ転向した。

後は公爵令嬢に当たる18才になる孫娘が一人王都で騎士をやっているのが気掛かりだが生半可な鍛え方はしていないから元気でやっているだろう。ちなみにローレンの道場に流派は無い。基礎を徹底的に叩き込み後は各々の道へ進ませるようにしている。ローレン自身もマロワに教わった基礎から上は我流だし息子もそうだった。孫娘に至っては10才に満たないうちに基礎をマスターしてしまった。そこからの成長を亡き息子夫婦の代わりに見守るのもローレンの楽しみだった。

この町は山間にあるせいか寒期が長いので春が終わる頃にはもう次の寒期の準備をしなければならない。ローレンが寒期に備えて薪割りをしているとちょっと小太りの人の良さげなおじさん、クザーツ町の町長が庭に飛び込んできた。公爵であるローレンによく町の話をしに会いに来る、誰よりも町を愛する町長だ。

「ローレン公、えらいこっちゃ!新聞見たっぺか?」

ローレンは首を降る。以前は王都発行の新聞を購読していたが愚王ガワダーニの都合の良いように改竄されていく記事にうんざりして読むのをやめてしまった。息子が王女と結婚したのでガワダーニは義理の甥っ子にあたるが自分良ければそれで良しの性根から腐った人間だったのでどうでも良かった。それに新聞自体、田舎だから数日遅れで届く。

「凶悪な魔物情報でも出たか?この付近なら倒しに行くが」

「ちげえよ。このページ見ろ、こりゃ凄い事になるぞ」

町長が開いたページを見る。見出しは

『これさえあれば大丈夫!夜の営みが不安になったあなたのための精力増強薬。ナイトマッスルマグナム8』

凄いことになる。ローレンは頭に妻の姿を浮かべた。マロワは18の孫が居るとは思えないほど若い。ローレンの頑張り次第ではもしかしたらもう一人くらい………………

「って、いやいや。若く見えても家内も歳だし」

「あ、わりい、違うページだった。この真ん中のページぶち抜いた見開きのとこ」

ローレンは頭の中の煩悩を消し去った。見開きページに移る。

『ガワダーニ政権に終止符!腐れ王は本当に腐った怪物だった!?国を救ったのは若き救国の戦士達』

と言う見出しの記事だ。

「なんと」

ローレンは言葉を失う。記事を読む。数年で国を腐らせたガワダーニの悪政ならいつか反乱は起きるだろうと感じてはいた。反乱の際は賢王として名高かったグランレイ王の右腕だった者としていくら老いぼれようと誇りと命を賭けて戦うつもりでいた。

「反乱は成ったのか!」

「それよかこの念写真見てみいな」

町長に促される。この世界にはカメラが無いので写真は無いが代わりに魔術でその場を紙に念写する念写真と言うものがある。モノクロだが。

真ん中には堂々とした長い髪の美人さんだが気の強そうな女性とその女性に抱き上げられた女の子、両隣には司祭服の女性と騎士服の女性。それを囲うように寝そべる大きな黒い犬のような動物が写っていた。隅には見切れているがチンパンジーみたいな男が倒れているのも写っていた。騎士服の女性に目が止まる。

「………これは!ジュリアか!やってくれたな!」

最後に会ったときよりより美しく凛々しく(おじーちゃん視点補正)なってはいるが見間違えるはずもない。孫のジュリアだ。

「ワシの願いを代わりに叶えてくれるとは何とじじ思いの孫なんじゃ!ジュリアはワシの誇りじゃ!エメル様の導きじゃ!」

エメルとはこの世界で信仰されている神だ。各街に教会もあるし通貨単位にもなっている。

ローレンは今にも飛び跳ねそうになる衝動を抑える。

「この真ん中の女は知らんの。抱いているのはレイエンダ姫か?大きくなったのう。こっちはマーニちゃんか。うむ、立派になったなあ。このでっかい犬はなんじゃろ?でもまあウチの孫が一番じゃな、今すぐ会いたいが何かそれも恥ずかしいしのう」

ローレンはそわそわし始めた。

「いかん、ワシ一人だけはしゃいどった。町長、新聞借りるぞ。マロワにも見せなければ!」

「おう!記念にその新聞やるよ、良い歳してあまりはしゃぐなよ、夜に祝い酒呑むなら付き合うかんな」

ローレンは町長の話を最後まで聞かずに薪割り斧を放り投げ飛ばし母屋に走っていった。


クザーツ町が見下ろせる高い山の山頂の泉。

投げ飛ばされた斧が泉に着水した。ブクブク沈んで行くかと思いきやサバッと勢いよく頭に斧が刺さって血まみれの女性が出てきた。血まみれ過ぎてまっかっか。白い衣もまっかっか。何だかよく分からないが怒っているのは分かる。

「妾は湖の精霊。お前が落としたのはミスリルの斧かオリハルコンの斧か、それとも頭に刺さっとる忌ま忌ましい普通の斧か?なんならエクスカリバーとかもあるぞ」

誰もいない。泉の回りには誰もいない。

「誰もおらんやん!訳わかんね!」

湖の妖精は怒りのあまり頭の斧を引き抜き思い切り投げ捨てた。ミスリルの斧もオリハルコンの斧もついでにエクスカリバーも投げ捨てた。あさっての方向に飛んでいった。


場所は変わって広い草原。その中のひときわ長い草の中に隠された赤いハッチバックの車から生気の薄いひょろっとした青年、小石川時雨が出てきた。首を振りコキコキ鳴らす。

「あー痛かった!こっち来て何回目の死だっけ、チクショウ、化け物トカゲめ。首から噛み千切りやがって」

歩きだそうとすると空から斧が三つ降ってきた。

「あぶねっ!何でこうこの世界はやたら僕を殺そうとするかな」

ドスッ。最後に飛んできた剣が体を貫いた。

「ゲフッ」

時雨は死んだ。でも次生き返った時三つの斧と何か凄そうな剣を拾えたのでまあいいかと思った。痛かったけど。一応何かの役に立つかも知れないし全部車にしまっておいた。それらはそのまましばらく忘れ去られる事になる。


第二章~おじーちゃん、ガッカリする~


数ヶ月たった頃。ローレンの元へ一通の手紙が届く。

「お爺様、お婆様へ

お元気ですか。お変わりありませんか。こちらはなんとかやっています。しかし経験不足の若輩者ばかりなせいかなかなか国の運営が上手くいきません。マーニが頑張って居ますが限界が近いのは見えています。そこでお願いがあります。お爺様がグランレイ王の元で振るった手腕、もう一度レイエンダ様のために見せて頂けませんか?少しの間でも構いません。王都に来て頂きたく思います。どうかよろしくお願いいたします。

追伸、会わせたい人が居ます。とても大事な方です。

ジュリア-ブロンデル」

そう書かれていた。

ローレンは立ち上がると叫んだ。

「ついに来おったー!」

実はローレン、新聞を見た日さっそく王都に向かおうとしたが

「今はきっと忙しいでしょう。行っても邪魔なだけ。今さらじいさんが出てって何になるの?これからは若い子の時代よ。必要なら向こうから連絡してくるわよ」

そうマロワに言われ

「いいもん、どうせワシなんかいらないじじだもん」

としばらくいじけていた。

しかしついに待望の時が来た。可愛い孫娘が助けを求めている。

マロワに手紙を見せると

「あんまり無理せず、適度にやりなよ?あと約束。私が生きているうちに必ず帰って来ること」

と言われ快諾された。

ローレンだって分かっている。二人ともまだ還暦前だから寿命が尽きるのはまだ先だが何があるか分からない。なるべく問題を早く片付け帰ってくる予定だ。もっとも自分の役割は若者達を導く事。あくまで表舞台には立たない。

翌朝、再び王都に向かう準備をして町のみんなに挨拶。最後にもう一度マロワに挨拶すると何日かぶんの保存食と手作りの御守りをもらった。

「はい、アンタの分とジュリアの分。まあどうせ会うならアンタは自分の足で会いに行きたいんだろうし。浮かれて谷に落ちるんじゃないよ」

そう言う妻に感謝しつつローレンは少し寂しさを感じながら山間の町を出て王都に向かうのであった。

山道を降りながらふと思う。

(会わせたい人?誰じゃろ。まさか男でも出来たか?ろくでもないのだったらワシが叩き斬ってやる)

考えているとはぐれ飛竜が咆哮を上げながら襲ってきた。

「もううるさいのう。今考え事しとるんじゃから」

ローレンは剣を抜くと一閃した。飛竜は真っ二つになり谷底に落ちていった。魔物でも最上級種が一閃で墜ちる。剣の腕はなまっていない。常人なら数日かかる山道を1日で降りきった。そこで野営の準備をする。

「野営か、騎士団を思い出すな」

現役時代、遠征の度に野営をした。騎士や兵士たちと笑いあった頃を思い出す。ほとんどが魔物にやられ生き残りは少ないが。

「懐かしむなんぞ老けた証拠じゃな」

明日の夜かあさっての朝くらいには王都に付くだろう。

ローレンは簡単に夕食を済ませるとさっさと寝た。


翌々日昼、余裕を持って王都に到着したローレンは少し違和感を感じた。街の様子はそんなに変わりは無い。雰囲気は明るい。一度ガワダーニ時代に来たがその時の街は腐臭が漂い国の終わりを感じたが持ちこたえたようだ。グランレイ王の頃の活気を感じる。ただ何かが足りない気がした。街のどこからでも見えた城が無い。グランレイ王時代よりもっと前の時代に立てられ古びていたが荘厳で威厳あるかつての自分の職場。フッカーヤ城が無い。

「困ったのう」

現騎士団長の孫に会うなら城に行けば良いと考えていたのでローレンは戸惑う。

(馴染みの人間にでも会えれば良いのだが。とりあえず城が有った方へ行ってみるか)

街自体の地形は変わっていない。所々に獅子王様フェアとか神狼ちゃんキャンペーンとか書かれた店がある。

(獅子王とは何ぞや?レイエンダ姫が王になったのではないのか、ああ、まだ小さすぎるか)

最後にレイエンダに会った時を思い出す。齢一桁の娘であった。

(獅子王なる者が代理を務めているのか。なかなか人気のようだな。しかし神狼ちゃんって何じゃろな)

考えながら歩いていると尋常じゃなく大きな黒犬がバカでかい台車に大量の瓦礫を積んで横切った。

「魔物か!こんな真っ昼間から往来を魔物が。騎士団は何をやっとるんだ!やむを得まい、ここはワシが何とか」

ローレンは剣を抜こうとするが大きな黒犬は一生懸命手をヒラヒラと横に振っている。

「魔物、じゃないのか?」

黒犬は大きく頷くと首元に下げられたポーチをローレンに近づけた。ローレンは中に入っていた紙を一枚取り出す。ポーチには帆かにお金も入っていた。

『この子は魔物じゃありません。神狼フェンリルです。とても賢くて優しくて強い自慢の子です。神狼ちゃんと呼んであげてね』

と書かれており最後に『獅子王』と判が押されていた。

「失礼した。お主が神狼殿か。邪魔をしてすまんかった」

神狼はもう一度手を振ると再び台車を引っ張り去っていった。

(そう言えば邪気はまったく感じなかった。ワシも感が鈍ったもんじゃ。お金も持ってたな、買い物もこなすのか?)

黒き神浪を見送ったローレンはもらった紙を見ながら

「世の中まだまだ知らん不思議があるんじゃなあ」

と呟きつつ再び歩き出した。

城前広場は石だの木だのの資材とバラバラの瓦礫で埋め尽くされており多くの職人やら大工やらでごった返していた。ローレンは邪魔にならないように通り抜け城に着いた。正しくは跡地。

「な、何じゃこりゃ」

かつての自分の職場は姿かけらもなく城(仮)と書かれているプレハブみたいなのと役所(仮)と書かれたプレハブみたいなのがあるだけだ。小さい。絶対騎士団入りきらない。

ローレンは肩を落としガッカリしながらその場を去った。何だか旅路の疲れも出てきた。

(はあ、あれでは騎士団はあそこには居ないよなあ。何処におるんじゃジュリア。じじは疲れたぞい)

大通りの隅っこのベンチに腰をかける。

誰かが走り込んでくる音がする。

「お姉様~待ってってば~何もシナイから~」

何だかアホみたいな声がした。赤みがかった髪の若い女性を金髪のさらに若い女性が追いかけている。

「何もしないなら何で追ってくるんだバカ、あっ」

赤みがかった髪の女性が通行人を避けようとして転倒、受け身を取るが抱き付いてきた金髪の女性に捕まった。

「やったー!お姉様ゲットだぜ。エヘヘ」

金髪の女性は赤みがかった髪の女性の服の中をまさぐる。

「ちょ、あっ、本当にやめろバカ。シャレになってないってば」

金髪の女性は真面目に赤みがかった髪の女性を見つめた。

「ええ、シャレじゃありません。本気です」

そっと口付けをした。舌が絡み合う。

(やばい、何か気持ちいいかも………何で、こんなに上手なの?)

二人とも美人だ。美人同士の絡み合いは絵になる。いらん花が咲きかけた。そこへローレンが

「人の趣味は自由じゃが続きは家なり宿なりでしてくれんかの」

気が付けば子供から老人まで人だかりが出来ている。

美人さん二人は立ち上がる。

「なんだよ~もう少しだったのに~」

「危なかった、何かを失うところだった………」

金髪の女性がローレンを睨み付ける。だが表情が崩れる。

「あ!おじーちゃんだー。何で居るの~?」

(何でってお前が呼んだんじゃろがい)

金髪の女性もといジュリアはローレンに飛び付き抱き付く。

「まあいいや~こっちのお姉様が獅子王アイラ様!私の姉妹で大事な人~。もうすぐ家族になるよ~」

(まさかとは思ったがこの変態が本当にジュリアじゃった………)

ローレンには孫娘が何を言っているのか分からなかった。さらに

「そうだ!お小遣いちょーだい」

ローレンはちょっと見ないうちに墜ちた孫を見て心底ガッカリした。剣の様に真っ直ぐに生きていた孫娘はどこへ消えたのか。

「おじーちゃん何ションボリしてるの?まあドンマイ!」

アホの励ましだけが響いた。


第二章~おじーちゃん先生誕生~


ローレンが王都に戻って数週間立った。

戻った日、獅子王アイラ(本当は獅童アイカだがこちらの世界ではその名で通っている)に王都で起きたことを聞き城が消失した理由も分かった。孫娘がアホになってた理由は分からないが。

そして孫娘の幼馴染、マーニとも再会。凍りついた微笑のマーニすらローレンとの再会時は涙を溢した。さらにレイエンダ姫とローレンの再会はこっちが本当の孫娘なんじゃないかってくらい感動的だった。義理の姪っ子なのに。

「ローレン様、ローレン様!」

「大きくなったの、姫様」

「私がふがいないばかりに国民に辛い思いを………」

「姫様のせいではない。だらしない大人が悪いんじゃ。国を捨てたワシもだらしない無責任な大人の一人じゃよ」

「そんな、ローレン様は戻って来て下さいました」

「姫様もよう頑張った。アイツも良い娘を残したもんじゃ」

「ローレン様~」

ローレンは亡きグランレイの代わりにレイエンダを抱き締めた。

そんな感じで周囲も涙した再会だった。

そしてすぐに宰相の座を勧められたが断った。

「これからは若い者の時代。老いぼれの出番はないよ」

だそうだ。これにはアイカが特に驚いた。

「私の居たところなんていつまでも権力や金にしがみつく連中ばかりなのに」

そんな国に未来は無いとローレンは思った。

あくまでも相談役として裏方に回る。それが老いた自分に出来ることだと。

ローレンが王都に戻ってから数週間たった。

(しかし獅子王アイラ、異世界から来て一日で国をひっくり返すとはな。どんな運命の持ち主か)

この数週間で獅子王が国民に愛されていることは分かった。だが実力はどうなのか。国を任せて大丈夫なのかは別だ。さらに問題は孫娘の人格が変わってしまった事だ。剣をほっぽりだして毎日遊び回っている。今日は獅子王の命を受け新しい騎士団の入隊テストをしているはずだ。

ガワダーニ時代にあった徴兵制度は廃止された。これも

「戦いたくない奴連れてったって無駄死にさせるだけでしょ」

と言うアイカの一言からだった。

ローレンも概ね賛同した。無理矢理兵にしても足を引っ張り士気を下げるだけだ。だが毎日軍人は嫌だがたまにならと言う実力者もいる。そこで考え出されたのが遊撃傭兵制度。対価を払う代わりに騎士団では手が回らない魔物討伐などに当たってもらう。登録は役所で行い実力に見合う魔物討伐を行ってもらう。ちなみに登録第一号が獅子王アイラで二号が神狼フェンリルだった。

「実質、王でありながら自ら前線に立つか、まるでグランレイのようじゃな」

亡き盟友を思い出す。そこへジュリアがやって来た。

「おじーちゃん、騎士団希望者の選別終わったよ。全員失格」

「城ではローレン公と呼ぶように言ったろうに」

何回言っても直らない。一応公爵令嬢なのに困った孫だ。

(騎士団希望者はかなり多かったはず。腕に覚えが有るものから美人さん達に近付きたいだけの奴まで。しかし早すぎないか?)

「どんな試験をやったんじゃ?」

「何すればいいかわかんないからとりあえず全員いっぺんにかかってこいって言って全員叩きのめしたー」

「馬鹿者!お前に剣で勝てる奴なんてそうそういるか!」

後日採用試験はローレンがやり直す事になった………

さらに別の日。マーニと国の設備について話していたら獅子王が会議室に逃げ込んできた。孫娘から………

「ローレンさん、お孫さんどうにかしてください」

真面目に頼まれた。ローレンは頭が痛くなった。

「マーニちゃん何悩んでるの?」

マーニがアイカに何やら数字がたくさん書かれた紙を見せる。

「国の予算と設備なのですが纏まらなくて」

アイカはざっと目を通すと

「これとこれ、後回しで良いでしょう。あとこの列、計算間違ってる。それにこの国って流行り病やけに多いよね」

確かにサリア妃もエンダ妃も流行り病で亡くなっている。

余談だがアイカはマーニにこの世界の文字の読み書きを教わると一週間程度でマスターした。アイカいわく

「全裸ちゃん(エメル)が言うには私の居た所とこの世界って表裏一体らしいから何となく似てるのかもね」

だそうだ。

「それでさ、私考えたんだけとこの国、川から流れ込む水路がろくに整備されてないの。水って国中に流れてるしそれが汚れてたら病気流行るよ。井戸水も定期的に検査した方が良いかもね。ほら、水って人間にとって大事だし。みんな飲むし使うし。だから先に対策して欲しいな、国民が元気なら国も元気になるよ」

ローレンは感心した。出掛ければ遊んでいるようでよく街を見ている。大胆でありながら繊細。本当にグランレイの再来のようだ。ローレンは心から思った。

「アイラ殿が男なら良かったんじゃが。レイエンダ姫なりウチの孫なり王族とくっつけば文句無しで王なのに、実は男だったとかそういうのないのかのう」

アイカは怒り気味に返す。

「ローレンさん。自分で言うのもなんだけど私、かなーりいい感じの女だと思ってるんですけど!胸だって尻だってなかなかの物なんですけど。ちょっとやんちゃな可愛い美人な未亡人なんですけど!確かに私は子供は産んでるしこのお城にはマーニちゃんやジュリアちゃんとか若い美人さん多いけど私だってまだ負けてないと自信あります。レイエンダちゃんが成長したら負けるかも知れないけど」

膨れっ面で話すアイカは子供が居るとは思えないほど可愛らしかった。

「わかっとるよ。ワシだって嫁が居なかったら思わず求婚したじゃろし………って今の無し。ウチの嫁だって………」

ローレンの嫁自慢トークは30分くらいかかった。マーニとアイカは途中で違う話し合いを始めたがローレンは気付かなかった。

「マーニちゃん、この夢中になるとまったく人の話を聞かない感じ、誰かににてる気がする………」

「遺伝ですね、きっと」

とりあえず愛妻家と言うのは分かった。

「むっ、いかん。話がそれた。そう言えば言いにくいとは思うがアイラ殿は未亡人と聞いたが旦那はどうした?やはり流行り病か?魔物に襲われたとかか?」

「違う違う。私の居た世界って魔物とか居ないから。何でだっけなあ。思い出そうとすると何か頭がもやもやになるの」

ローレンは不味い事を聞いてしまったと思った。思い出せないくらい辛い記憶なのだろうと思った。

「ああ、悪いことを聞いた」

「別に良いよ?どうせろくに記憶に無いし何かどーでも良いし。娘居るから幸せだし」

あっけらかんとした口調で言う。

(………おかしい、これだけ喜怒哀楽の激しい人間がこんな大事なことを忘れるだろうか。必ず心に傷が残るはずじゃが)

ローレンはグランレイを思い出した。エンダ妃が亡くなった時初めて泣くのを見た。あれほど強い人間ですら泣くのに目の前にいる女性はまったくそんな素振りが見えない。しかし心が欠けているような人間にはまったく見えない。

(またワシの知らぬ不思議が出来たのう)

考えても仕方ないので話を戻す。

「そうじゃ、明日からレイエンダ姫に国政やら地政やら色々教えるんじゃがアイラ殿も一緒にどうじゃ?」

「あ、今まではマーニちゃんが教えてたんだっけ?」

マーニは珍しく困ったと言うより疲れた顔をしている。

「そうなんですが私は元々神官長ですしなかなか手が回らなくなってきまして。少しローレン様に甘えようかと」

「実質今のところ国がもってるのってマーニちゃんのお陰だもんね。レイエンダちゃんはまだちっこいし………勉強は好きじゃないけどやっといて損はないか」

アイカはローレンに向かい言う。

「じゃあ明日からよろしくね、おじーちゃん先生。ビシバシお願いします!」

「ははは、おじーちゃん先生か。なかなか良い響きだ」

こうしておじーちゃん先生は誕生した。

翌日、城(仮)の会議室。

「なんでお前がおるんじゃ」

今日はフッカーヤ王国の回りの地理の勉強にした。ローレンは黒板の前に立ち対面する形で机を挟みレイエンダ、アイカ、何故か隣にちゃっかりジュリアが座っていた。

「お爺様、私だってたまには初心に返り勉強したいのです」

「………ならば良いが………」

99%アイカ目当てだろうが残り1%にかけることにした。

黒板にざっくりこのあたりの地形を書く。

「お爺様、その溶けた汚いスライム何ですか?」

ぐさり。ローレンは心で泣いた。確かに異物の混じったスライムに見える。絵心は無かった。

代わりにジュリアがさらさらっと地図を描いた。上手い。高低差まで分かりやすい。最近アホ扱いだが本来は優秀なのだ。

「う、うむ。ジュリア君10ポイントあげよう」

ローレンの授業は士気を上げるためにポイントが貯まると豪華商品がもらえる。まあおやつとかが豪華になる程度だが。マイナスになると補習コース。

「さて、ここが王都で南に街道を進むとトーネ川、ここには橋と何があるかな?」

ジュリア「何もない!」

アイカ「あー………」

レイエンダ「………瓦礫」

ローレンは不思議な顔をした。ここには砦がある。一般人でも知っている。特にレイエンダの回答が気になる。

「砦があるんじゃけど………みんなマイナス10点」

レイエンダが立ち上がった。

「あの、確かに砦があったんですが一度魔族に奪われまして、それを奪い返したのがアイラ様でその時に砦が半壊しまして崩れたら危ないから撤去して今は解体された瓦礫が放置されてます」

ローレンは言葉を失う。あの屈強な砦が半壊、解体。信じられないがレイエンダが言うのだから間違い無いのだろう。

「マイナス取り消し。レイエンダ姫20ポイント、アイラ殿、取り戻して偉い、25ポイント、ジュリア君、10ポイント」

隠居してる間に色々変わっててちょっと寂しいローレンだった。

「さてさて、次じゃ。橋を渡ると魔族領なのはみんな知っているじゃろうが魔王の城はどこにあるか分かるかな?」

レイエンダ「分かりません」

ジュリア「魔族領は謎だからなあ、分かりません」

アイカ「はいはい!知ってる!チビスケに聞いた」

アイカは黒板に印を付ける。

「ここら辺から迷いの森になっててその奥だってさ。チビスケはひとっ飛びだから簡単だけど人は迷うから行くなって言ってた」

(アイラ殿は神狼殿と話せるんじゃよな、やはり不思議じゃ)

ローレンはますます感心した。だが

「ぶっちゃけワシも行ったこと無いから正解か分からんのよ。という訳でこの問題はノーカン」

アイカは机に突っ伏した。

「おじーちゃん先生、そりゃないよ………」

こんな感じで楽しく授業は進んでいった。

以外なのはジュリアが真面目に授業を受けている。てっきりアイカに絡み付いて殴り飛ばされて今頃外でちょうちょでも追い掛けてるとローレンは思っていた。酷い。

「はい、最終問題。ここに山間部の街があります。クザーツ村と言う街で温泉が有名です。あとワシの家もある。さてここに向かう安全を考慮した上での最短ルートを示しなさい」

アイカ「いや知らんがなそんな街」

レイエンダ「何度か行ったことありますが………最短ルート………」

ジュリア「私の故郷だ!簡単」

アイカ「なんだかんだ孫贔屓かよ~、おじーちゃん先生見損なった。いいよ、どうせチビスケに乗ればひとっ飛びだし」

レイエンダ「え~と確か街道を南に行って途中で西に逸れてここから山道ですね。片道で数日かかりますが」

ローレンが拍手する。

「さすが姫様じゃ、これが一番安全で早いの、100点!」

が、ジュリア異論をを唱えた。黒板に線を引く。

「王都から左下に真っ直ぐ、ちょっと左に山登ると山頂に湖あるからそこから下にジャンプして出っ張った岩に着地、そうするともうじいちゃんちの屋根が見えるからこれが一番」

ローレンは頭を捻る。安全うんぬん以上に自分も知らないルート。何故孫娘はこんなへんてこな道?を知っている?

「なあジュリア君、これ道あるのか?」

「あるよ!ほっそい獣道だけど。この間手紙届けたときも使ったし往復3日くらい。頑張れば2日。早い!」

レイエンダが口を挟んだ。

「そう言えば先月里帰りするって何日か居ませんでしたね」

ローレンは服の内ポケットを探る。

一枚の封筒。ジュリアからの手紙を入れていた。なんだかんだ可愛い孫娘からの手紙を常に持ち歩いていた。

「むう、そう言えば切手も何もない。ジュリア、来たなら何で顔を見せなかったんじゃ?」

「あれ?おばーちゃんには会ったよ、お昼ご飯作ってくれたしお小遣いも持たせてくれた。おじーちゃんは町内会の会合でしばらく帰ってこないって聞いたからおばーちゃんと稽古して一緒に温泉行ってその後お城に帰ってきた。おじーちゃん、おばーちゃんから何も聞いてないの?」

ローレンはふと思い出す。マロワとの別れ際。

(どうせ会うなら自分の足で会いに行きたいんだろうし)

妻のセリフを思い出す。

確かにローレンは孫娘に会うなら自分から会いに行きたいと思っていた。

(はあ、見透かされていたか、かなわんのう)

ローレンはため息を付いた。

「あとこの道教えてくれたのもおばーちゃん。おばーちゃんも山から降りるときはよく使うって言ってた、おばーちゃん全盛期は日帰り出来たってさ。おばーちゃんすげえ!」

確かにマロワはローレンより若いし剣の腕もたつ。と言うか勝ったことがない。獣道を歩くくらいどうって事無いのだろう。

「おじーちゃん先生ってもしかして大したこと無いの?」

アイカがうっかり口走った言葉にローレンはへなへなと力なく椅子に座ると

「いいもん、どうせ大したこと無いただのじじだもん」

といじけてしまった。

代わりにアイカが黒板に最初に書いた地図とまったく同じものを上下逆に書いた。今度は下に書かれた魔族領が上に来る。

「ジュリアちゃん。これ、ただ逆さまにした地図なんだけど`北´ってどっちか分かる?」

アイカはジュリアが方角を上下左右で表すのが気になった。アイカは嫌な予感がしたので一応確かめる事にした。

「やだなあお姉様、北は上に決まってるじゃないですか!」

元気よく答えるジュリアを見て他の三人は固まった。要するにジュリアに取っては東西南北は右左下上でありどこでどう地図を見ても常に上が北なのだ。

「あは、あははは、あは…………」

沈黙を破ったのは一生懸命場を明るくしようとするレイエンダの乾いた笑いが響くのみだった。


みんなが去った会議室。ローレンだけが残された。

最終的にみんなにちょっとお高いアイスをあげて解散になった。

「はあ、何だかなあ。ワシ、何しに来たんじゃろう」

孫娘は頭がパー、大したこと無いと言われ姫に慰められる。

おじーちゃん先生と呼ばれたのも束の間、早くも挫折感が漂う。

机を見るとそれぞれが居た席に紙が置かれていた。

(なんじゃろう?)

レイエンダの紙「ローレン様、今日はありがとうございました。よろしければ生前の父母の話などもお聞かせ下さい」

アイカの紙「おじーちゃん先生、酷いこと言ってごめんなさい。とても楽しく学べました。明日からもよろしくお願いいたします。でも孫贔屓はダメだぞ(ハートマーク付き)」

「おお、姫にアイラ殿………」

ローレンは復活しつつあった‼️最後、孫娘の紙

「お爺様の目線がお姉様の胸に向いた回数27回。お尻に向いた回数18回。改善されぬようであればお婆様に報告します」

ローレンは固まった。

(あやつ、やけに大人しくしていたと思ったらワシを監視していたのか!悲しき男の性なんじゃ!しかしマロワに知れたら)

削ぎ落とされ、その後串刺しにされ焼かれてウインナーのように食卓に並ぶ光景が目に浮かぶ。

(やっぱり女は恐い)

ローレンは股間を抑えながらまた力なく座り込むのであった。


第三章~尻破れ剣折れる~


また数ヶ月たった。新生フッカーヤ王国聖誕祭も終わりとりあえず国も落ち着いてきたのでローレンはそろそろクザーツ街に帰ろうかと考えていたが想定外の事態が起きた。

アイカが魔王と魔神を連れて帰ってきてしまったのだ。

「アイラ殿はよほどの大物なのか何も考えとらん阿保なのか分からなくなってしもうた」

ローレンは城の二階の窓から庭を見渡す。すっかり仲良くなったレイエンダと魔王のちびっこ組が走り回っていた。隅にはそれを見守るように眺めるアイカがいた。アイカはローレンの視線に気付いたのかこちらに手を振っている。ローレンは手を上げて答えた。

「相変わらず勘が鋭いの、本当に何者なんじゃろ」

再びローレンは庭を見渡す。今のレイエンダと魔王を見ていると人間と魔族は戦争にはならなそうだ。

「やはり大物なのかのう。グランレイを超えたかもしれんな」

この国の歴代の王の中でも傑物であったかつての盟友と比べても遜色ないどころかその上を行くような気がした。

そしてもう一つ気になる事が。

「うちの孫娘はどこ行ったんじゃろ?」

いつもは暇さえあればアイカを追いかけるか遊んでるか寝てるかの孫娘が最近は城にいない事が多い。もちろん騎士団長なので兵舎には仕事で顔を出しては居るらしいが城であまり見掛けない。

ちなみに城が大きかった頃は兵舎も敷地内に有ったが誰かさんが城を吹き飛ばした際、一緒に消し飛んだので先代ダニ王時代に作られた負の遺産、コロシアム跡を兵舎にしていた。

おもに貧困層やスラムの住人、罪人達の殺し合いを見世物にして上流階級の人間達が金を賭けていたが

「ふざけんな!金で命をもてあそぶとかとんだゲスじゃねえか、ぶっ潰す!」

とアイカが半ギレ状態になったのでさっさと閉鎖した。訓練施設や仮眠室が有ったので兵舎にはうってつけだった。牢屋もあるので自然と兵士が罪人達を見張る形になるので一石二鳥だった。

貧困層やスラムの住人達もアイカ達が考えた街道の整備や修繕に水路の工事などの仕事に就き国から賃金が出るのできちんと家に住み三食食べられる生活に変わった。まあそれが嫌なはぐれ者やアウトローも居るがそれはそれで仕方ない。

ローレンはもう一度アイカを見た。

「何をやっても上手く転ぶ。そういう星の元におるんじゃろな」

そう呟くと自室に戻って行った。


「二人とも体力無さすぎね、もーどっちも王様なんだからしっかりしないと」

そう言いながらアイカはぜえぜえ息してるレイエンダと魔王ちゃん事デュートに水を渡した。二人とも頭は良いし魔術も筋が良いのだが基礎体力がへなちょこぴーだった。ちょっと走り回っただけで息があがってしまう。

「まあ仕方ないか、レイちゃんはずっと教会暮らしだったんだしデューちゃんは500年引きこもりだもんね。でもこれからは体力つけてこうね」

最近アイカはレイエンダと魔王、デュート-エンドリヒの呼び名が長くてめんどくさいのでレイちゃん、デューちゃんと呼んでいた。それに魔王に関しては人間の街で魔王と呼ぶわけにもいかない。

「はーい」

「………………ふぇい」

すでに魔王のほうはへろへろであった。

薄紫の髪は乱れに乱れ汗がしたたっていた。

旧城の瓦礫に二人が座り込む。

「少し休んだらボール投げしよ、反射神経も鍛えられるし」

アイカ一人だけ無駄に元気だった。木箱から手にゴムボールをとグローブを取り出す。適当に街で買ってきた運動に使えそうな物を箱に詰めておいた。日本で言うテニスのラケットらしき物やバドミントンの羽っぽい物もあった。

「しっかし庭が広いと何でも出来るなあ、日本とは大違いだ」

「ええ、誰かさんが無駄に派手に城を吹き飛ばしたせいで本当に広い庭が出来ましたね」

「ひゃう!」

急に背後から声が聞こえた。アイカは変な悲鳴を上げながら距離を取り振り返る。

凍てついた微笑の神官長マーニがいつの間にか立っていた。

「びっくりしたなもー」

「ひゃう!ですって。アイラ様可愛い」

「ひゃう!だったな。アイラも可愛いとこあるのだ」

レイエンダとデュートはアイカの変な悲鳴を真似し始めた。

「むー、あんたらのほうが可愛いっての」

(元の世界にお持ち帰りしたいくらい)

「で、マーニちゃんどしたの?あ、城がふっとんだのはガワダーニのせい。私のせいじゃない」

マーニはアイカに対して割りと辛辣な時がある。嫌われてはいないがどうも皮肉ってくる。さらに

(私だって気を抜いてた訳じゃない、でも完全に気付かず背後を取られた。まったく気配を感じなかった。マーニちゃんて何者なんだろう)

ジュリアと幼なじみと言うのは聞いたが後は知らない。

「ジュリア見てませんか?城内に居ないんですよ」

「そーいえばここ何日か引っ付かれた記憶がない。いや、無くて良いんだけど………防犯上良いのかこれで………」

「そうですか。うーんちょっと用事があったんですが………」

マーニは考え込む。

相変わらず表情は読めないが。

(実はマーニちゃんって何気に隙がないのよね。うーん、実はかなりの手練れとか?いや、だったら神官なんかやらないか)

「もし見掛けたら私が探していたと伝えて頂けますか?」

「いいよ~」

アイカが返事をするとマーニは城に歩いていく。その背中を見て

(やっぱり隙がないような、ちょっと試してみるか)

アイカは持っていたゴムボールを思い切り振りかぶり綺麗なフォームで投げつけた。ビリっと何かが裂ける音がした。何の音だろう?それよりボールの行方だ。ゴムボールではあり得ない速さの速球がマーニの後頭部めがけて飛んで行く。

直撃する寸前。マーニがピクリと反応した気がした。

(やっぱり!避けられる!)

アイカは確信した。やはりマーニはただ者ではないと。が、

「へぶっ」

鈍い音と変な悲鳴と共にマーニの後頭部にボールは直撃した!ボールは角度を変えどこかに飛んでいった。

「もう何をするんですか~」

マーニが後頭部をさすりながら振り返りアイカを睨む。

「あれ?あはは、ごめん、手元狂った」

アイカが謝るとマーニは去って行った。

レイエンダとデュートはため息をついた。

「まったく困った大人だなアイラは」

「それよりアイラ様、お尻が大変なことに」

アイカがいつも履いてるジーンズの後ろが縫い目にそってキレイに破れていた。黒いレースの下着がこんにちわしていた。

「あ、何てこった!私のパーフェクト安産型セクシーヒップが丸見えに………はあ、でも一年以上ほとんど毎日履いてたもんなあ、そりゃ破れもするか………気に入ってたんだけどなあ。」

アイカは残念そうにため息をついた。

「今日はおしまいにしよっか。お姉さん、ちょっと服買いに行ってくる」

運動の時間を切り上げアイカは部屋に戻るのであった。


クザーツ街の近くの山、山頂の湖にゴムボールが落ちた。すると光に包まれた湖の精霊が現れた。

「………また誰もおらんやん、あかんやん。もうワケわからん」

ゴムボールを投げ捨てるとまた湖に沈んで行った。


アイカの部屋。

「何でこんな色物しかないんだ………」

タンス中を見て我ながらがっかりした。中には下着が何枚かとテキトーなシャツ。靴下。後は血染めのエプロン付きメイド(メルローズにもらったやつ)と裾が破り捨てられた濃紺のドレス(王国聖誕祭のやつ)しかない。元々子供を産んでから自分の服はあまり買わなくなったがこっちの世界に来てからは本当に服を買わなくなった。下着類はともかくこっちの世界の服屋には女性用は長いスカートばかりだった。男性用を履くという手もあったが布地がいまいちなので購入は見送っていた。

「ジーンズなんて売ってないよなあ」

動きやすさ重視のアイカはずっと同じジーンズを履いていた。先ほどご臨終してしまったが。

メイド服は論外なのでとりあえずドレスに着替えて街に繰り出した。なんとなく視線を浴びている気がする。

(まあ私、何着ても似合うからね。目立っちゃうのは仕方ない)

自画自賛しながら歩くと商店街に着いた。日用品から爆薬まで揃う素敵な商店街だ。

(うーんスカートってやっぱスースーするなあ。やっぱり慣れないなあ)

やはりふだん履いているジーンズが欲しい。この世界に有るのか謎だがせめて似たような丈夫な素材で動きやすい物が良い。

適当に商店街を見て回っていると少し他より大きめの建物が目に入る。

「およ?」

新規オープンしたのか開店セールをやっている模様。看板には「JB商会洋品店」と書かれている。聞いたことがない。しかし洋品店のようだしセールという響きに惹かれ入ってみた。やはり服も扱っていた。

だが

「大人気獅子王ルック」「これであなたもアイラ様」

「着るだけで無敵」「気になるあの人もイチコロ」

「謎ビーム出せます!」

等々変なポップが並べられている。

「!。マジか、ジーンズ売ってる」

この世界ではあり得ないと思われていたジーンズが沢山並んでいる。生地もしっかりしている。他にもTシャツが各色各模様、様々なサイズが並んでいる。

しかし他にはメイド服と濃紺のドレスしか置いてない。

「………どこかで見たとかそういうレベルじゃない、私が着た服ばかりじゃない」

アイカは何故か悪寒がした。少しするとTシャツにジーンズ姿の店員が話しかけてきた。小柄だが愛想が良い。Tシャツには「壊滅的良い女」と変なプリントが入っていたが。

「お客様!かなりの獅子王様マニアとお見受けしました!それは聖誕祭での戦う獅子王様ルック。その破り捨てた裾。なかなかの再現度!お客様、かなりの獅子王様ファンですね!」

(マニアとかファンとかじゃなくて本人なんだけど)

そう思ったが何だか話がめんどくさくなりそうなので黙っておいた。それより服だ。サイズによっては売り切れもある。なかなかの売れ行きのようだ。一応店員に聞いてみた。

「あの、この店の服売れてるんですか?かなりマニアックな気がするんですけど」

正直自分のテキトーに着てる普段着のレプリカが売れるとは思えない。だが

「はい、こちらの獅子王様コーナーはかなり人気です。サイズによっては品切れ入荷待ちも多いんですよ。やはり今をときめく獅子王様ですからね」

(いや、別にときめかなくて良いんだけど………まあおかげでいつもの服が買えるなら別に良いけど)

もうひとつ不安がある。女性としては背が高く胸や尻もちゃんと出ているため自分に合う大きさがあるかどうか。

「あの、私に合いそうなサイズあります?」

アイカは聞いてみた。すると店員は笑顔で答える。

「お客様、女性としてはなかなか背が高いですね。かなり獅子王様に体格が似てます。かっこよくてうらやましいです。こちらへどうぞ。おそらく合うと思います」

店の中央に獅子王様サイズと言う謎のコーナーがあった。

何着か手に取り試着室で着てみた。

(………合うと言うか気持ち悪いくらいピッタリなんだけど)

ますます悪寒が走る。まるで知らないうちに誰かが自分のサイズを図ったかのようだ。

(いやいや、そんなことあるわけないよね。うん)

そのまま試着室を出る。

「これ、ちょうど良いわ。このまま着てくわ。あと同じサイズのいくつかちょーだい」

試着室から出てくると店員は何故か涙を流し始めた。

「ここまで獅子王様サイズを着こなすお客様が居るとは………もうまるで本物のよう」

店員さんはうっとりして見とれている。

(うん、だから本物なんだけど、何かあのアホ騎士と同じ匂いがするから黙ってよう)

何だか不安は有ったがとりあえずジーンズを何枚かとTシャツを何枚か、それに下着も買い足しておいた。この国は年を通して温暖な気候なので年間通して同じ服を着られるので財布に優しい。

ちなみにアイカは遊撃傭兵として稼いだお金を使う。本来なら国に納められる税金で暮らせるのだが

「いやいや、国が貧乏なのに貰えないでしょ」

と断った。極力自分で稼ぐようにしている。困窮している民を見ていたらとてもじゃないが税金で暮らそうなどと思えない。

国民の生活が見えていないダニ王みたいな国に寄生しているクズなら平気で無駄使いしそうだが。

「それにしてもなーんかずっと視線を感じるんだよなあ」

特に洋品店を出てから強く感じる。

アイカは休憩がてら露店で飲み物とアイスを買うと路肩に転がっていた木箱に腰かけた。

(紅茶かな?ちょっとクセあるけど美味しい、アイスは………濃厚バニラ味ね。何だかなつかしいなあ)

エメルが言っていた。この世界と元の世界は発展したものが違うだけで元は同じだと。だからか食べ物などは似ている物や同じものも多い。特産品ネギだし。

「しかし活気が有る街って良いね、こっちも元気になるわ」

商店街は人出で溢れている。何しろ国の再建には自分が大きく携わっている。自分のお陰だなんておごりはないが多少は貢献出来たかな?とは思う。日本にもこんな時代が有ったらしいがアイカは知らない。父母より前の世代の話だ。

「んん?変な視線は感じなくなったけどおぞましい気配を感じる。何かすっごい近くから感じる」

アイカは周りを見渡す。特にアイカに視線を向けている者は居ない。通りがかりの街の人が挨拶してくる程度だ。そして気付いた。割りとアイカと同じ服装、Tシャツにジーンズの女性がけっこう通る。獅子王様ルック、本当に流行ってる。どうやらあの店の売れ行きは上々のようだ。

「えへへ、何だかモデルとしては照れくさいな~。しかしこのおぞましい気配は何なんだろ。ちょっとマーニちゃんに視てもらおうかな、やっぱり専門家に頼るべきよね」

アイカは強いが呪いとか幽霊が怖い乙女な一面もある。今この街で一番頼りになる聖職者が身近に居るのはありがたい。

「あれ?」

気付けば飲みかけの紅茶と食べ掛けのアイスが消えている。辺りを探しても無い。手品のように消えた。悪寒が止まらない。

「………いやいや、こんな昼間から幽霊とかあり得ないし!うん、そうだ仕事しなきゃ!早くマーニちゃんの所に、お城に帰ろう!」

何故か一人言い訳しながらそそくさと城に向かうアイカだった。

……………………アイカが座っていた木箱の中。

「ふー、お姉様は本当に勘が鋭いからなあ、ひやひやした。でも飲みかけの紅茶と食べ掛けのアイスを手に入れたぞ。じゅるじゅる、ふへへへ。コイツはたまんねえぜ」

おぞましい気配の正体、謎の変態女騎士はアイカから盗んだ物を心ゆくまで堪能するのであった。


城に戻るとマーニが飛んできた。

「獅子王様大変です!変な人が!とにかく変なんです」

凍りついた微笑のマーニが珍しく慌てている。

「どしたのマーニちゃん、変なおっさんでも出た?落ち着け~落ち着け~もう大丈夫~」

アイカはマーニを抱きしめて頭を撫でる。こういうことを普通にやっちゃうから周りに天然女たらしと呼ばれるのだが本人は無自覚なのだから仕方ない。

アイカは気配を感じ後ろを向いた。いつの間にか知らない華奢な少年が立っていた。おそらく高校生くらいの年齢だろう。ボサボサのキノコみたいな髪型で顔がよく見えないが。ヨレヨレのパーカーにくたびれたズボン。唯一何だか似合わない綺麗な剣を持っていた。知らない人間だ。

「ちっ、感の良い女だな。イタズラしてやろうと思ったのに」

やはり若い少年の声がした。

「ひい、また急に現れた!アイラ様!さっきからこうなんです。消えたり現れたり。幽霊でもないのに」

「ふーん、アンタ何者よ、私は安くないわよ?だいたい人んちに勝手に入ってくるなんて何を考えてんの」

アイカはいつでも戦えるよう構える。

少年は答える。

「ずいぶん威勢のいい女だなあ。まあそういうのもまた良いような気がする。よく聞け。俺の名はユーキ。異界より来たりし勇者だ。女神より授かりし透明になれる能力に全ステータスカンストした最強のチート戦士さ。この城には美人が多いと聞いてね。ここから俺の最高ハーレムラブコメ冒険譚が始まるのだ!」

アイカは考え込む。多分このユーキとか言うやつも現世よりエメルが連れて来たのだろう。理由は知らんが。

正直何を言っているかもアイカにはよく分からなかった。

「はあ、全裸ちゃんどうせならもうちょっとマシなの寄越してよ。チートだかミートだかニートだか知らないし。オマケに能力がエンストしてるとか意味分からん、お帰り下さい」

アイカはテキトーに手を振る。

少年は怒りで震えだした。

「誰がニートだ!ちょっと不登校なだけだ。どいつもこいつもバカにしやがって!せっかく俺様ハーレムに加えてやろうと思ったのに、後悔するなよ!」

少年が透明になる。目では完璧に見えない。音も聞こえない。これは万人には厄介な能力だ。

だがアイカは数歩後退すると振り向き様に上段蹴りを放つ。

ゴメス!

ひさびさに助っ人外国人野球選手みたいな音が出た。

「ゴフッ………何で俺の位置が」

アイカの蹴りは完璧に少年の顔面を捉えていた。鼻血が舞う。

「勘、それに気配でバレバレ。せっかくもらった能力もさ、ただ持ってるだけじゃ腐るだけ。まったくもったいない」

「ゲフッ、クソが!舐めるなよ。透明化しなくても俺にはステータスカンストとこのナンデモキレール君があるんだ!あっちに居た頃の俺とは違うんだ、もう誰にもバカにさせない」

何かクソダサい剣の名前だった。多分エメルが名付けた臭い。

「だっさ。丸腰の女相手に光りもん頼りとか」

「うるさい!どいつもこいつもバカにして!もういい、ぶっ殺す!みんなぶっ殺す」

怒り心頭の少年はそういい放つと剣を抜く。構えはへっぴり腰のへっぽこだ。素人だろう。

「あ、それは不味いです」

マーニが焦る。マーニは知っている。殺すだの死ぬだのは命を重んじるアイカにとって禁句である。

アイカは思い切りナンデモキレール君に踵落としを放つ。ナンデモキレール君は床に叩きつけられ砕け散った。

「何でも切れるからって折れない保証はない。ただ振るだけなら棒斬れと変わらん」

そのままアイカは少年の顔面を掴み持ち上げる。

「殺すとかさあ、簡単に言うなよ。命ってのは一個しかねえんだよ!力に溺れて大事なもんないがしろにすんなや!もちろん自分の命もだ‼️詳しいことは分かんないけど貰いもんの力だけで強くなれると思うな!」

「あぎゃぎゃひゃひゅへへ」

アイカは顔面を握りしめる。もはや少年は何も出来ない。

「そろそろいっか」

ポイっと少年を投げ捨てた。そのまま気を失っていた。

少年の服からパスケースやら持っていた本やらが落ちる。アイカはそれを拾った。

「新熊猫高校、一年四組、大多部 勇気君ね。まあ雰囲気からしてイジメにでもあってたのかな。そんで力を手に入れて暴走しちゃった感じかな」

アイカは少年を見下ろす。他の落ちたものも見てみた。初めての魔術入門書、剣の指南書などが多い。けっこう読んでいたのか擦りきれている。

「なんだ、ちゃんと努力してたんじゃない。だからって何やっても良いって訳じゃ無いんだよなあ。うーんどうしたもんか」

詳しくは知らないが彼は現世では不登校と言っていたし何か不遇な目に合っていたのだろう。詳しくは知らないが。

最後に日本語の本を見付けた。可愛らしい絵が書かれている。

タイトルは「異世界行ったら最強過ぎて世界が屈服!ハーレム作ってやりたい放題」と言うタイトルのいわゆるラノベだった。

「ふんふん、うっかり死んで目覚めたら不思議な能力持ってて最強。さらに色んな女の子にモテまくりと………何かあっても何だか分からないうちに何とかなってると。そんな都合のいい話ないって。こんな都合の良い話有ったら誰も苦労しないっての」

「……………」

マーニは「お前が言うか」と言う視線でアイカを見ている。

「私は違うよ?ちょっと強くて可愛くて美人なだけだよ?さて、コイツどうしよう。どうせ全裸ちゃん経由で来たんだろうけどどうしようか、マーニちゃん。他の人は?」

「ローレン様はレイエンダ様と魔王様を連れて街に出掛けてます。魔神様は神狼様を連れて街の外で訓練だそうです」

アイカはため息をついた。

「だからチビスケ来なかったのか~。魔神ちゃん本当に戦うの好きなのね。まあマーニちゃんが無事で良かったわ。前線組がみんな居ないんじゃ危ないし。しかしこういう時に一番居なきゃいけないのが居ないわね」

マーニも頷く。

「やっぱりそこですよね。いい加減自分の立場をわきまえてもらわないと」

そんな話をしていると黒髪をなびかせ魔神が帰ってきた。

所々傷ができ血が滲んでいる。

「ただいま。いやはや神狼殿も強いな。まったく歯がたたなんだ。二人ともどうしたんだ?そこの血まみれは何だ?殺したのか?新しいオブジェか?」

アイカは先ほどあったことを話した。

「拙者はその歳の頃には戦場に立っていたが………今の日本は違うのだな。そうだ鍛え直すのにちょうど良い場所なら知っている。拙者に任せてくれぬか?」

ちょうど良い場所が何処なのか知らないが数々の修羅場をくぐってきた魔神なら良い場所を知っているのだろう。預けられる。

「うん、任せちゃっても良いかな。何処に行くのか知らないけどこの子なりに現世では苦しんだみたいだから適度なとこで」

アイカがそう言うと魔神は「承知した」と言い残しユーキを担ぐとどこかへ行こうとする。その前に魔神はアイカに一差しの日本刀を渡した。

「今日修繕して鍛え直してもらった。拙者のとは兄弟剣になる。なかなかの業物だ。大事にして欲しい」

トーネ川の一件でアイカが折ってしまった刀だ。

「何でかな、お前に使って欲しいと思った」

「良いの?ありがとう」

アイカがそう言うと魔神は今度こそどこかへ居なくなった。

次にローレン達が帰ってきた。

「アイラ様!ただいま戻りました。ローレン様がぬいぐるみ買ってくださいました!」

「我は大人だからいらなかったのだ。でもレイちゃんがお揃いが良いって言うから」

ちっこい組はなにやら人をぷにゅっと縮めてデフォルメされたぬいぐるみを持っていた。レイエンダは目を輝かせ見せてくる。魔王は照れ臭そうに抱えている。頭の上にミニマムスケがへばりついて寝ていた。

フェルト生地をおもに使った女の子のぬいぐるみ、赤みのある茶色い頭、白いシャツにズボン。ぽへーっとした表情。

(これ?もしかしなくても私がモデル?)

タグには「JB商会」と書かれていた。

(またか、一体何者なんだJB商会)

「あ、そうだ。おじーちゃん先生」

アイカは城であったことを話す。

「うーむそんな事が。ワシまで城を空けるのは失敗じゃった。レイエンダ様と魔王殿が退屈そうでの。つい遊びに連れて………」

違う。ローレンは悪くない。元より引退した身だ。問題は別にある。現役のアホのほうだ。

「私、ちょっと外で待つわ」

アイカの顔には怒りが見える。いや、全身から溢れている。誰も止められない。

アイカは城の入り口の門に陣取った。

(さて、あのアホが帰ってくるまで何してよう)

選択肢①→適当に踊る

全部脱ぐ

(踊らないし!脱がないし!)

独り寂しい脳内会話を始めた。

(さて、あのアホが帰ってくるまで何してよう)

選択肢②→正座する

ウンコ座り

ヤンキー座り

(正座は足痺れるから嫌い。あ、豆知識!ウンコ座りはそんなに足開かないの。20センチくらい。ヤンキー座りはガバッと開いて膝に手をかけながら足の間に間に垂らすの、けっこう足腰鍛えてないと辛いからね!)

ろくでもない知識を披露し始めた。

じっとしていられない性格が滲み出ていた。うろうろ、イライラ………用が無いときは引っ付いて来るくせに肝心な時に居ない。

すっかり日は暮れた。そろそろ晩御飯の時間だ。

「お腹空いた~、あれ?お姉様だ~」

能天気な声と共に目的のアホ、ジュリアが帰ってきた。

「………何をしていた、騎士団長殿」

アイカは冷たく言い放つ。怒気も混じっている。

「何をってその………いろいろ……」

アイカがまったく表情を変えないのでたじろくジュリア。いつもみたいに飛び付いてベタベタ出来る空気ではない。

「ちょっとついてきなよ」

アイカは庭のほうへ歩き出す。

何かを感じ取ったのかジュリアも付いていく。

庭の中心あたりでアイカは振り替える。

「今日、城に侵入者が出た。幸い何も起こらなかったから良いけどもしレイエンダちゃんが傷つけられたり誘拐されたり、最悪、

殺されたりしたらと思うとぞっとした」

アイカはジュリアの瞳を真正面から見つめる。

「騎士団長の仕事とは何か?」

ジュリアはアイカから恐怖を感じあわあわしながら答える。

「国を、王を、民を守ること………です」

「そうだ、しかし今日、お前は居なかった。今日だけじゃない、ここ何日もだ。何も常に備えていろとは言わない。だがどこかへ行くのなら誰かに言伝てくらいしておくべきだろう、違うか?」

ジュリアは何かを言おうとしたがうつむいてしまう。

「違わない、でもお姉様居るしおじーちゃんも居るし大丈夫かなって」

「甘えるな!」

アイカの怒声にジュリアは直立不動になってしまう。

「ローレン公はあくまで隠居の身、今は厚意で居てくれているだけだ。私はあくまで国王代理。いつかはここから居なくなる。明日か、明後日か、10年後かは分からないけど必ず居なくなる」

アイカはあくまで淡々と言い放つ。そして刀を抜いた。綺麗な波状の美しい刀だ。

「さあ、剣を抜け。お前の覚悟が知りたい。強い弱いじゃない。ジュリアちゃん、じゃなかった。騎士団長ジュリア-ブロンデルの意思を示せ!チビスケ!」

アイカが呼ぶとチビスケが厩舎から出てきた。

「チビスケ、悪い。立ち会いを頼みたい。どちらかが'殺し'そうになったら止めてくれ」

本気だ。アイカは軽々しく殺しなんて言わない。加減無しでやり合うつもりだ。

(私だってそんな大した人間じゃない。でもジュリアちゃんはこのままじゃ本当にダメになる。本気でぶつかるしかない)

アイカの真剣な眼差しに黒き神狼は神妙に頷く。

「はえっ?お姉様嘘だよね?冗談、ぐはっ、うぇ」

刀がジュリアの腹にめり込む。峰打ちだ。思わず膝を付き嗚咽が漏れた。無音の凪払いだった。

「次は斬る。今のは警告だ。戦うか逃げるか覚悟を決めろ」

再び無音の刃が放たれる。甲高い音が響いた。アイカの剣をジュリアが受け止め流す。

「さあ、殺す気で来い!」

そう叫ぶアイカの連撃をすべて受け流すジュリア。すべて無音の達人の域。空気を凪ぐ音も足運びの音すらしない。ぶつかり合う金属音のみ。

「くっ、重い!」

アイカは剣だけならジュリアに勝った事がない。剣だけならだ。何でもありの戦いだとどうなるのか分からない。

「何だか分からないけどやだよ、お姉様と殺し合いなんて」

ジュリアは何が何だか分からない。しかし殺らなければ殺られる。肌で本気で殺しに来ているをビリビリと感じる。何より振られる剣が一撃必殺。重さが違う。稽古とはまったく違う。剣が問うている。お前に国を、王を、民を、守る覚悟は有るのかと。

思えばアイカは肝心な時には常に居た。だから頼りきってしまった。本当ならさっさといろいろ片付けて娘のところに帰りたいであろうに。別にこの国に留まる必要はないのに。それでもアイカはこの国を見捨てなかった。いつの間にかアイカありきで物事を考えるようになっていた。

(それがそもそもの間違い。私の弱さだ!)

ジュリアの剣がアイカに届く!切っ先が左肩を凪いだ。血が舞い飛び散る。だが剣に力を込めすぎた。隙が出来る。

「んがあ!」

アイカは獣じみた叫びと共にジュリアの鼻っ面を蹴り飛ばす。ジュリアは受け身を取りつつ地面を転がる。転がりながら何かを呟く。鼻血が出た。別に剣の稽古ではない。殴ろうが蹴ろうが勝手だ。アイカは追撃を仕掛けようとしたが不意に飛び退いた。

「水円柱!」

ジュリアの魔法が放たれる。転がりながら詠唱を終えていた。先ほどまでアイカが立っていた場所から天に突き上げるように水が吹き出した。立ち昇る水流に飲まれれば吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。勘で避けた。超直感。

「はあ、はあ、危なかった」

アイカは剣を鞘に納める。戦いを止めた訳じゃない。抜刀術の構えだ。これは魔神に教わった。何でも鞘走りで速さがどうとか威力がどうとか言っていたが詳しいことは忘れた。

「はあああああ」

立ち昇る水流が勢いを失う瞬間ジュリアが水流を突き抜け上段から斬りかかる。ジュリアがこう来る事を読んでいた。

(良い意味でも悪い意味でも真っ直ぐ綺麗すぎるのよ、ジュリアちゃんは。だから裏で何かをやろうとすると失敗する。こんなのは奇襲にもならない!)

アイカは抜刀、そのまま全力で振りかかるジュリアの剣を凪ぐ。

ジュリアの剣は刀身の真ん中で真っ二つに折れた。ジュリアは折れた剣先を見つめる。スローモーションでも見ているように落ちていく。あれが今の自分のように見えた。中途半端で脆く弱い。

(あ、本当に敵わないなあ………お姉様、いや、獅子王アイラには)

「おおおおおお」

獅子の咆哮のようにアイカの叫びが響く。

そしてアイカが刃をひるがえしそのまま振り下ろす………ところで神狼が刃を爪で受け止めた。爪に刃がめり込む。

『お姉ちゃん!アイカお姉ちゃん!おしまい、落ち着いて!』

チビスケの声に我に返ったアイカは剣を引いた。鞘に納める。

「ごめんね、爪大丈夫?」

自分が斬ってしまった爪を撫でる。チビスケの大きくて太い爪の半ばまで達している

『ううん、もうダメ。これ生え変わるまで半日はかかる』

(はやっ!さすが神狼)

どちゃ

水浸しで膝をつくジュリアの音がした。綺麗な金髪も水がしたたい月明かりに反射している。鼻血が出たままだが綺麗な顔で呆然と虚空を見つめる。

(負けた、剣も魔術も何も届かなかった。いや、違う。届かなかったのは私の覚悟と想い。迷いだらけの心………全部未熟で、中途半端で足りてなかったんだ)

「国王代理、獅子王アイラが命じます。ジュリア-ブロンデルを騎士団長の任から解きます」

アイカはジュリアに告げた。ジュリアは一瞬戸惑いを見せたが答える。返す言葉はない。

「拝命致しました。騎士団長の任、お返しします。………今までお世話になりました」

ジュリアはふらふらと立ち上がると何処か闇の中へ消えて行く。

『え?本気の本気?本当にそれで良いの?』

チビスケはあわててアイカに問うが

ドサッ

アイカも地面に倒れこんだ。

「あー疲れた~お腹空いた~」

正直ギリギリの戦いだった。現世でヤンチャしていた頃は喧嘩していてもどこか自分を俯瞰出来る余裕があった。だが今回は完全に殺し合いに身を投じていた。余裕などまったく無い。思い返すと高揚感と恐怖を感じてしまう。

「はーこりゃ良い刀だ。これが無かったらどっちか死んでた。魔神ちゃんには何かお礼しとかないと」

アイカは自分の左肩を見る。結構な血が流れている。

「あのさ、この世界って種族に関係なく簡単に命のやり取りするじゃん?私より長くこっちにいるチビスケなら余計分かると思うけど。今のジュリアちゃんじゃ多分何も守れないし簡単に死んじゃうかも知れないって思ってさ。だからその自覚と覚悟をしてもらいたかったんだ」

『もーお姉ちゃんも不器用なんだから。もっと他にやりようがあったでしょうが。それに殺すなんてウソ。お互い戦闘不能を狙ってた。本当に不器用でウソも下手』

チビスケがアイカの肩の切り傷に魔術をかける。みるみる血が止まり切り傷は塞がる。

「えへへ、バレたか。いやー自分でも思うよ。あの変なビームも使いこなしたいしもっとうまく立ち回りたいって」

チビスケはため息をついた。

『だからって自分が殺し合いの真似事してどうするの、戦力は駄々下がりだし』

「いや、別に変わんないでしょ?」

………嫌な予感がした。

「チビスケ、ジュリアちゃんの気配近くに感じる?」

チビスケは首を振る。

「そう言えばお世話になりましたって言ってた!騎士団長の任は解いたけど別に騎士はクビにしてないんだけど!あの早とちり」

アイカは焦る。とりあえず考えとしてローレンに騎士団長をしてもらってその姿勢をジュリアに見てもらいたかっただけだった。

ちなみにアイカは今の怠けたジュリアに負けたら自分が出ていこうと思っていた。足手まといにしかならないだろうから。自分の目的を優先しつつたまにこの国を気に掛ければ良いかなと。

「あばばばばどしよ、探そう、えーと行くとしたら多分故郷だからこっちかな」

走り出そうとするアイカをチビスケが止める。

「そっち逆。どこ行くの。とりあえず僕が匂い辿るから」

アイカに行かせたら迷子が増えるだけだ。それにもう一つ

『ジュリアさん、今お姉ちゃんに会っても気まずいだけでしょ。ここは適任者に任せよう』

適任者。おじーちゃん先生かマーニだろう。

アイカは急いで城に向かう。そして夕食中のみんなに事情を話した。魔神だけはまだ帰ってきていないようだ。

「ワシが行こう。あいつを甘やかした責任はワシにもある」

『まったくろくなことやんねえなあ、困ったアバズレだぜ』

ミニマムスケが余計な事を言っている。アイカはそんなミニマムスケをつまみ上げた。

「お前、鼻効くよな?おじーちゃん先生と一緒に行ってこい」

「え~オイラやだよう。メシ途中だもん………でもあのパツキン姉ちゃんよくおやつくれるしなー。ちょっとだぞ?ちょっと探すだけだぞ」

こうしてローレンとミニマムスケは夜の街に出ていった。


第四章~やっぱりなんだかんだお前が1番~


「よう、毘沙門天様」

魔神はユーキとか言う少年を担いだまま槍を研いでいる女性に声をかけた。

「だから妾は毘沙門天じゃ無いっての。どうした?さっさとここを出ていったくせに今さら」

「拙者たまに帰ってきてるぞ。毘沙門天様がいないだけで」

「だから毘沙門天じゃ………もういいや。たまに来てたのか、そうか、悪いな。なかなか忙しいんだ」

ここは冥界。目の前には冥界の女王スカーシャ。そのスカーシャの工房だ。変な曲がった工具やら七色の炭やら不思議な物がたくさん転がっている。

今日は長い黒髪をポニーテールにして作業服を着ている。と言っても上半身は暑かったのか脱いで袖を腰に縛って巻いている。上半身は黒いタンクトップ一枚だ。いつもの女王様ルックじゃないのはレアである。

「こいつを鍛え上げてくれないか?アンタの相方がこっちの世界に連れてきたらしいのだが才能はあれどとんだ俗物らしいんだ。悪人再生女と呼ばれる貴女なら余裕だろう」

まだ気を失っている自称最強チート勇者、ユーキ君をスッ転がした。顔面血まみれ、と言うより所々骨折してそうだ。

「エメルが連れてきた者か、確かに妙な能力持ってるのはわかるな。あいつ祝福とか言って適当に能力与える困ったさんだからな。回収しておこう。心身伴わね者が妙な能力を持つとろくなことにならん。例えばあいつが持ってる能力だと死んでも生き返る能力なんぞ一番タチが悪い。弱者が持つと死の苦しみを何度も味合うだけだからな。ところで悪人再生女って何だ………まあいい。預かろう」

カンカンコン。槍の形が整っていく。

「普通の金属か、珍しいな」

スカーシャは普段は赤い神気を放つ槍、ゲイボルグを使う。普通の合金製は使わない。なのに何故か作っている。

「ああこれか?たまにな、耐神性だの耐魔術だのめんどくさいやつがいたりするんだよ。だからたまには普通のも作る。めんどくさいけどめんどくさいやつに勝つためだ。あれ?結局めんどくさいな。ワケわからん」

「いや、聞いてる拙者はもっと訳が分からないが。ところで何か冥界の雰囲気変わったか?」

魔神が400年前来たときは紫色の岩肌に血のような色の川、ぼんやりした灯りだったが今は「いらっしゃいませ冥界へ」と書かれたネオン看板やら「スカーシャちゃんちはあっち(ハート付き)」だのやたらフレンドリーかつ色鮮やかなボードが貼ってあったり木々がやたら適当に生えていたり色鮮やかに花が咲いていたり普通に太陽出ていたりやたらと明るい。

「妾は気付いたのだ、罪人の魂だろうと健全な環境で鍛え直さないといけない事に気付いたのだ!あと女子力!」

冥界が迷走し始めているのは確かだが別にどうでも良い、と魔神は思った。

「そう言えば小耳に挟んだが魔王と共に人間の国に居るらしいな、魔王が人と暮らすなんて大丈夫か?」

「よく分からないうちにそうなった。しかし拙者としては良かったと思う。魔王殿が毎日楽しそうなんだ。拙者だけではあの笑顔は見られなかった。もちろん何かあれば拙者は魔王殿を1番に守るがな。今のところその必要もない」

「ふーんそうか、楽しそうか。お前はどうなんだ?」

「世界は広かったと言わざるを得ない。まったく勝てる気がしない女がいる。何度か挑んだが全て返り討ちだ、情けない」

スカーシャは驚きを隠せない。魔神が神域に至る最後の試練はスカーシャとの実戦だった。実力はすでに充分だったし勝ち負けではなく魔神の曇りなき刃にスカーシャはこの娘が神を名乗るにふさわしいと思った。

「お前にそうまで言わせるか。ふふ、まあいい。せいぜいお前も楽しんでおけ。魔王と共にな」

「ああそうする」

そう告げると魔神は自らの刀で現世への扉を開き冥界から去っていった。

一人残されたスカーシャは一人微笑みながら呟く。

「そうか、楽しそうか。デュート、良かったな。今さら我は会う資格なぞないがせめて祈ろう。どうか幸あれ」

冥界の女王らしくない笑顔で祈りを捧げるスカーシャであった。

(ん?妾は誰に祈るんだ?妾とエメルのアホが最高位なのに)

余計なことにも気付いたスカーシャだった。


場所は戻ってフッカーヤ王国

城内の食卓の間。と言ってもちょっと大きな机に質素な照明があるくらいの王族が食事を取るとは思えないささやかな食卓。田舎貴族の食卓より貧相だ。

「ほえ?妾、今何か暖かくなった。何だろう?良いことありそうな気がする」

夕食を食べ終えてまったりしていた魔王は上手く口に出来ない気配を感じた。嫌な気配ではなく何か暖かい優しい風のような。

隣にはうたた寝してるレイエンダ。テーブル挟んだ向かい側にはマーニと机に突っ伏しているやらかし女王。

「そうですね。魔王様はとても良い子ですから良い事ありますよ。ちょっと席を外しますね、そこの魂抜けそうな人を元気付けてあげて下さい」

こくこく頷く魔王。それを見てマーニは食卓から出ていった。

「な~アイラ。今回はお前だけのせいじゃないし元気出すのだ」

「ガボゲブベブラ」

「汚いなあ。シチューに顔突っ込みながら話すんじゃないのだ」

「あい、すいません。でもさあ、このままジュリアちゃん帰ってこなかったら戦力的に痛いわけよ。今までの腐れ王だのゴミ神官とは違う。多分やべーヤツとの戦いになる」

顔面にシチューがくっついたまま話し出すアイカ。テーブルにはアイカともう一人ぶんの夕食が残されたままだ。

「相手は未だ影すら見せない、なのに伝導魔法石で人間操ったり魔物に変えたり水脈通して何だかちょっかい出してくるような正体不明さんな訳よ。でもそれだけ力はある」

「うん、妾だって地脈だの水脈だのに干渉するのは普通では無理なのだ。それ相応の準備がいる。きっとやべーヤツなのだ」

(出来ないことはないのか。さすがはちっこくても魔王)

見た目はせいぜいいまいちな発育の中学生程度でも桁外れの魔力を持つ存在である。

「だからこそあの子の直感頼りにしてたのに。ほらジュリアちゃんて剣振るう時って何も考えてないのに強いの。あれは天性の物ね、まあなんだかんだ頼りになるのよ」

「それ、本人が聞いたらさぞかし喜んだでしょうね」

マーニが何やら書類を抱えててこてこ歩いてきた。

「これ見て下さい。実は最近JB商会と言うところからかなり大きな寄付金が入ったんです」

アイカは紙を見る。

「おお、これだけあれば色々出来る。そんで結局このJB商会って結局何なの?今日買った服もソコんちの商品だったけど」

「我とレイちゃんのぬいぐるみもソコのやつみたいなのだ」

魔王もなんとなく話に混じる。

「はい、手広く色々扱っているようです。自社製品の卸売りに生産、店舗経営から貿易まで、特にフッカーヤ王国に入ってくる他国のものは7割以上この商会が関わっています」

「うわあ、超一流貿易商社じゃない」

「ちょーいちりゅーだな!」(魔神ちゃん、良く分かってない)

「でもよくガワダーニのカスに潰されなかったな」

「なー、不思議なんなー。ガワダーニって奴知らんけど」(魔神ちゃん、やはり良く分かってない)

「そこはここを見て下さい」

「代表、マロワ-ブロンデル………誰?」

「十数年くらい前までにこの国に居た伝説の騎士です。王都に近づくはぐれ飛竜数百体を宙を舞いすべて狩りさらに攻めてきた海賊団数十隻を海の上を走り抜け一人で沈める、等々かなりの功績を残しています」

アイカは頭のなかに空を飛び海を駆ける褐色肌ムキムキマッスル騎士を浮かべた。何か違う気がするが。

「まあ私もその頃のご活躍は知りませんがマロワ様はローレン様の奥様でジュリアのお婆様です」

ブロンデル………どこかで聞いたような気はしたがジュリアやローレンの姓だ。

「空飛んで海走るってどんな婆ちゃんだよ!」

「魔神ちゃんも飛べるのだ。疲れるからなるべく飛ばないって言ってたけど」

「魔神ちゃんとかならまだ分かるよ。おじーちゃん先生の奥さんって人間でしょ?神様とかじゃないよね」

マーニは頷く。

「私も幼少期とてもお世話になりました。今でも若々しく美しいお方ですよ。私の憧れているお方の一人です」

(マーニちゃんもかなりの才女だけどその憧れの人か。ジュリアちゃんのお婆ちゃん、ちょっと見てみたいような)

いらん血が騒ぎ始めた。

「マロワ様は騎士を辞めてから商会を開きました。子はすでに亡くなっていたので商会の名前にはいずれ家督を継ぐであろう愛しい孫の名を付けたそうです」

「JBってジュリア-ブロンデルの略だったんだ!ああ、納得したわ。あれだけ毎日すり寄られたら私の服のサイズくらい分かるか。いや、分かるか?変態恐るべし」

とりあえず疑問が一つ減った。

「それでローレン様が王都から去ると同時にマロワ様もついていったのですがその時にはすでに大商会。残されたスタッフも優秀でしたし後ろにローレン様とマロワ様がいますから欲深いガワダーニも手を出せず無事に残ったようですね」

「それが今何の関係があるの?」

「ガワダーニが王に就任してから最近までそんなに活発に動いていなかった商会が再び大きな取り引きを始めたのです。他国と貿易も頻繁に行われてます。きちんと国に届け出を出してくれているのは良い事です。しかしマロワ様はクザーツに居るようですし一体誰が商会の舵取りをしているのか」

マーニは商会の帳簿の写しを机に置いた。法律である程度の規模の商会などには取り引き記録を出す義務がある。あやしい武器やら薬やら危険物を持ち込ませないためだ。

「本当にここのところずいぶん稼いでるみたいね。うわあ、この国の店全部買い占められそうな額」

驚くアイカにマーニが冷たい笑顔で言う。

「今ならこの小さな城も買い取られそうです」

グサッ。元の城を吹き飛ばしたアイカに何かが刺さった。

「さらになんと、この売り上げのほとんどを寄付してくださいました。王国と教会の孤児院などに。本当に助かりますね」

さらにマーニはもう一枚紙を出した。

「こちらはジュリアの最近の欠勤届け記録です。商会の特に大きな取り引き日と比べると」

「まさか………」

「おおー、見事に重なるのだ!」

「あのアホはさりげなく出来るキャリアウーマンだったのか!私だってここまでの数字は出せないよ」

元々はOLだったアイカもびっくりだ。

「私も先程まで気付きませんでした。長い付き合いなのだから言ってくれれば良かったのに」

マーニは珍しくちょっと不満気にむくれた。

つまりジュリアは遊んでいたのではなくこの国のために商会を動かしていたと言うことだ。

「大事な取り引きほど重要な役職の人間が向かいますからね。他国へも行ってますね。ずいぶん飛び回っていたようです」

「そう言えば我の所にも来たぞ。特産品のネギと魔族が使っている頑丈な布を取り引きしたいって。魔族は野菜不足さんが多いからちょうどよかったのだ」

野菜もりもり健康魔族って言うのも変な響きだがまあいい。

「もしかしてこんな布?」

アイカは自分の新しいジーンズをつまむ。

「そうそれ。魔族はみんな血の気多いからな~。すぐ破れないように良い布たくさん作ってるのだ」

ベチャッ

再びアイカはシチューに顔を突っ込んだ。

(まさかこれすらジュリアちゃんの功績だったとは………まさかあの子があの子なりに国の財源考えたりしてた、なのに私は拒絶してしまった。参ったなあ、理由くらい聞けば良かった………)

目を覚ましたレイエンダが叫んだ。

「ふあ、寝てました………ああ!アイラ様が死んでいます!」

「ブクブク言ってるから多分生きてるのだ」

やらかし女王はシチューの海に沈んで行った。

そこに淑やかながら凛とした声が響いた。

「ずいぶん小さくて可愛いお城だね。不用心だけどさ」


街外れの小さな丘。大きな木が一本に切り株と丸太が並んでいる。ここからは街が一望出来る。ここには数年前まで家が建っていた。ブロンデル公爵家の家が。ジュリアが騎士団に入隊した日から誰も住まないのでローレンはあっさり取り壊す事にした。これはローレン自身、王都への未練を断ち切るためでもある。

「はあ、これからどうしよう」

ずぶ濡れて何やら萎んで見えるジュリアが切り株に腰かけているのを月明かりが照らしていた。騎士鎧を脱ぎ捨てた。中に着ていたシャツもスカートもびしょ濡れだった。

折れた剣を見る。綺麗な切り口で刃は斬られていた。

(負けちゃったなあ。剣に合わせないで中段で振られてたら今頃真っ二つなのは私の体)

ジュリアはアイカが殺しに来ていなかった事には気付いていたが本気でぶつかってくる相手を止めるには武器か体のどこかを破壊するしかないと思った。なので左肩を狙ったのだが

(浅かった、届かなかった。剣だけしか取り柄のない私が)

ジュリアは折れた剣を鞘に戻した。

(おばーちゃんとこに行くしかないや。もうここに私の居場所は無いんだ)

もう一度街を見渡す。自分が産まれ育った街。少し景色は変わったけどそれもまた感慨深い。ふと何かが空を横切った気がした。

「うん?何か気配を感じたんだけど、気のせいかな」

見上げた空には月明かりに反射して輝く何かが見えた。

「あ、あれ?」

水じゃない何かが垂れる。ポロポロポロポロ止まらない。涙だ。反射して輝いていたのは自分の涙。

「やっぱり嫌だ、ここに居たい、みんなと一緒が良い」

大泣きしそうなところにローレン達がやってきた。

「何湿気た顔しとるんじゃ。情けない」

(ビチョ濡れじゃん。色々透けて見えてよし!赤か、中々派手なの好きなんだな)

ミニマムスケろくなこと言わない。

(よし記憶したからもういいや。フオーーー)

ミニマムスケが息を吐くと温風が出てジュリアを乾かした。わりと役に立つミニマムスケである。

「おじーちゃん、私、おばーちゃんの所行くよ。クザーツでさ、もう適当に結婚でもして子供でも育てながらゆっくり過ごすよ」

一応アホだが仮にも王家と繋がりある公爵令嬢。見た目だって相当ハイレベルなジュリアならすぐ相手は見付かるだろう。

「獅子王に負けたからか?一回負けたくらいで何言っとるんだバカタレ。ワシなんかマロワに毎日負けとったぞ」

ローレン、言ってて悲しくなった。

「それにな、今のもまた獅子王を怒らせるぞ。簡単に言うがな、子供産むのも子育ても命懸けなんじゃそうだ。マロワも同じ事言うとったな、子育ては戦争だそうじゃ」

剣一筋で生きてきたジュリアにはまだよく分からない。

「獅子王アイラと言う人間は実に面白い。早く娘のいる元の世界に帰りたいだろうになんだかんだとこの国のために残っておる、絶対死ねない、生きて帰ると言う覚悟をしとる。だから強い。天性の素質もあるが強すぎる。かと思えば怒ったり泣いたり落ち込んだりうっかりしてたりアンバランスな面を見せる。思えばグランレイも危うい面はあったがそれとはまた違う。あやつは消えそうな危うさじゃったが獅子王は逆。どうなろうとも生きる、何があろうとも生きる。勝っても負けても何がなんでも生きようとする強さを感じるんじゃ、それが娘のためなのか国のためなのか世界のためなのか。いや、全てかもしれんな」

(うん、あいつ往生際悪そう)

ミニマムスケ、やっぱりろくなこと言わない。

「まあ、あれじゃ。いずれはお前も道半ばではなく何かに至ると思っとる。何しろワシとマロワの孫じゃからな」

ローレンは立ち上がると背に担いでいた大剣を抜いた。傭兵時代に使っていた大剣。

「おじーちゃん?」

「稽古つけちゃる。いや、そろそろ弟子を卒業してみせろジュリア。生きろ。お前の道を。見せてみろ、お前の剣を。獅子王との戦いで何か得たのではないか?」

確かにジュリアは負けたがアイカとの立ち会いから何か心にくすぶる物があった。きっかけさえ掴めば火がつきそうな。

「お爺様には隠せないな」

ジュリアも剣を抜く。折れてはいるが。

剣を向け合う時は祖父と孫ではなく師と弟子に戻る。

疲れてはいる。ただ疲労とは違う何かふわふわとした不思議な感触が体を包む。妙に高揚する。昂る。

(あーもーみんなチャンバラ好きだな。オイラは止めないからな。死ぬんじゃねえぞ二人とも)

ミニマムスケの声が始まりの合図のように二人は距離を取る。

仕掛けたのはローレンだ大剣を振るい凪払いながら進む。騎士剣術とはかけ離れた我流の荒々しい剣。暴風雨のような雄々しい攻めと対比するかのようにジュリアは躱し、いなし、清流が如く受け流し舞う。

(おおーパツキン姉ちゃんすげえ!すげえキレイだ)

ミニマムスケは素直に思った。まるで吟遊詩人が吟う剣の精霊の舞のように神秘的だと。

転じてジュリアが斬りかかる。剣が折れているぶん勝手が違うがこちらはお手本通りの騎士剣術だ。つまりローレンとマロワの教えを達人域まで昇華したもの。

(速いな、基礎も鍛えれば一つの奥義。じゃが真っ直ぐすぎる)

いくら速くとも太刀筋が読めれば受けるのは簡単に出来る。大剣を器用に翻し体重をかけるとジュリアは弾かれ転がり退く。再び二人の間に距離が開いた。

(あの大剣に折れた剣じゃ届かない。でも諦めたら今までのまま何も変わらない。お姉様なら、獅子王ならどうする?)

走り迫るローレンにジュリアはとっさに上身を捻り折れた剣を思い切り突き伸ばし、そのまま放った。

「むう!」

顔面に届くギリギリでローレンは折れた剣を左手で掴む。

「剣が無ければ作る!全部無くなれば殴る!」

ジュリアは腰から鞘を抜き取り握りしめローレンに追い討ちをかけた!折れた剣を掴んでいる左手側から鞘を叩きつけようとしたところで

「待て、ワシの負けじゃよ」

ローレンは剣を捨て両手を上げてヒラヒラさせる。

「まだですお爺様、何故止めるのですか?」

「何言っとるんだ。剣が折れてなければさっきのでワシの頭は串刺しじゃ」

ジュリアは納得した。確かにその通りだ。まあ切っ先があればローレンの動きも違っただろうからオマケ勝利みたいなものだが。

「ふう、冷や汗出た。ちゃんと強くなってるじゃないか」

「獅子王の真似をしただけです。こんなの邪道です。剣士として恥ずかしい。所詮は借り物です」

ローレンは笑った。

「はっはっは。借り物だろうが真似事だろうが何だって良いんじゃよ。実戦は剣舞ではない。何があろうとも生き残ったほうが勝ちなんじゃ。正道も邪道も極めればそれが各々の剣じゃ」

ジュリアはいまいち腑に落ちない顔をしている。

『なあ、話し込んでるとこ悪いんだけどパツキン姉ちゃん』

突然子供のような声がジュリアには聞こえた。

「へっ?誰だ!もしかしてミニマム、お前なのか?」

辺りを見回してもミニマムスケくらいしか居ない。

『おう、オイラだ。魔王様の寵愛を受けた犬、ミニマムスケ様だ!やっぱり聞こえるようになったか。右手見てみろよ』

寵愛を受けた割にはかなりほったらかしだが。ジュリアはいまだに握りしめていた鞘を見る。

淡く赤味を帯びた金色に輝いている。

「これは………ちょっと色違うけどお姉様と同じやつ?」

『ああ、神気だ。形も出力も違うがな~。良かったな~姉ちゃん、それ超レアだぜ。人間で使えるヤツはそうそういね~』

ジュリアはまじまじと鞘を見る。アイカが放つ山吹色に近い金色とは違うけど凄まじい力を感じる。

「なんじゃそりゃ?魔術か?金色の魔術なんて初めて見るぞ」

「違うってミニマムが言ってる。神気?とか言うヤツだってさ。お姉様が捻り出すヤツと同じだって」

『捻り出すってうんこじゃねえんだからよー』

ミニマムスケとジュリアはくすくす笑う。

ローレンには相変わらずミニマムスケは相変わらずクンクン言ってるだけに聞こえる。

「なんじゃ、ワシだけ仲間外れか。いいもん、どうせ犬の声も聞こえないただのじじだもん」

ローレンはいじけて丸太が転がっているほうへ行ってしまった。

『聞こえないのが普通なんだけどな~』

「なあなあ、ミニマム。これどうやって消すんだ?お姉様のは勝手に消えてたぞ?」

「姉ちゃんのは出力固定型か~、消えろ~って念じれば消えるぜ。多分おそらくきっと」

ジュリアは適当に念じてみた。スッと鞘から光が消えた。

「なあ、ミニマム。もしさっきのでおじーちゃんの頭叩いてたらどうなってた?」

ミニマムスケは唸る。

「うーん、首から上が爆散、良くて潰れトマトだな。おっさんが戦いやめて良かったな」

(危うくおじーちゃん殺しになるところだった)

ジュリアは冷や汗が出た。

その時後ろからパカンと何かが割れる音がした。

ローレンが丸太を一本真っ二つにしていた。

「ふう、良かった。ちゃんとあった。やはりただの丸太にしか見えんからなあ。誰も気付かんよな」

真っ二つの丸太から一振りのやや細みの剣が出てきた。

「おじーちゃん何してるの?綺麗な剣だね」

白を基調に金の模様が刻まれた鞘。かなりお高いに違いない。

「これはな、マロワが現役じゃった頃に名のある職人に鍛えてもらった特別な剣なんじゃ。ジュリア、今のお前なら使っても大丈夫じゃろ。受け取れ。むしろ今までよく騎士団の支給品で耐えていたもんじゃ」

ジュリアは剣を受け取る。そう言えば訓練以外は祖父は大剣と普通の剣を使うし祖父の昔の仲間達もそれぞれ色々な武器を持っていた事を思い出す。

「あとこれもな。ずっと渡すの忘れとった」

ローレンはクザーツを出る時マロワに渡された御守りを渡す。

何やら曲線基調の模様が描かれたひし形の金属。ローレンのは普通の首から下げる手作り御守りだったがジュリアのは金属の塊。

「何か失くしそう。失くす自信しかない、むしろ失くす」

いらん自信が芽生えた!

とりあえずジュリアはひし形の御守り?をシャツのポケットに入れておいた。

試しに剣を抜いてみた。へにょん。刃が曲がって垂れた。

「何だこれ、刃がへなへなだ。こんなの役に立たないよ」

いくら振ってもへにょんへにょん。

「おかしいなあ。マロワが使っとった時はこんなんじゃなかったんじゃが。刃は輝いとるし劣化したようには見えん」

『なあ、さっきの御守り、ここにはまりそうじゃね?』

ミニマムスケはジュリアの腕に絡み付くと剣の柄を叩いた。

確かに何か窪みがある。試しにジュリアはひし形の御守りをシャツから取り出すとはめてみた。

ぶわっと風が起きると剣の刃に紋様が映り真っ直ぐに伸びた!

『おおーすげえ。この剣打ったの誰だか知らねえけどやりやがる。大した業物、いや、業物どころじゃおさまんねえ』

何故かミニマムスケが興奮気味だ。

「マロワはこうなるって分かっててワシに預けたのか?何だか上手いこと転がされてるような。いや、まさかな」

「凄いしっくり来る。おじーちゃんありがとう」

「礼ならマロワに言ってくれ。確かに国も大事、姫も大事。じゃがワシらにとってはやっぱりお前が一番なんじゃよ。一番大事じゃ。たった一人の可愛い孫娘じゃ」

ローレンはジュリアの頭をくしゃくしゃ撫でる。

「もう子供じゃないよ~」

ジュリアは照れくさそうに言う。

もう一度神経を剣に集中させる。地から風から月明かりから周りのすべてから何かで繋がるような感覚。金色の光が宿る。まるで手足のような不思議な感覚。

『どっかの火力バカの出力制御不能ぶっぱなし型よりよっぽど良いじゃんよ。立派だぜ!』

「なあミニマム。何でお姉様のは安定しないんだ?」

『おっさんの言う通りだと思うぜ。危なっかしいんだよ。精神が。何か迷いとか悩みとかあるんだろうな~。知らんけど。まああれに何かあるとでっかいオイラが色々大変だから支えてやってくれな~』

(勘違いしてたな。お姉様あんなに強くて何でも出来るから悩みとか無いと思ってた。やっぱり元の世界の事とか娘さんの事とか色々あるのかな、そもそも世界救う予定だもんな………あれ?)

ジュリアは感覚が研ぎ澄まされたのか城のほうから変な気配を感じた気がした。どこか懐かしいような、でも危険なような

「おじーちゃん、城に誰かお客さん来たみたい。お姉様居るから大丈夫かと思うけどやっぱり私戻らないと、やっぱり私が守らないとお姉様も安心出来ないだろうし」

ジュリアは城に戻る決意が固まった。新しい力と共に今度こそ役目を果たして見せる。

ローレンも何かを感じ取ったようだ。と言うより震えている。

「おじーちゃん?」

「城に戻ろう、胸さわぎがする」

二人は足早に城に向かった。


「ずいぶん小さくて可愛いお城だねえ、不用心だけど」

不意に声が響いた。凛としているが少し低い大人の女性の声。

マーニとレイエンダは声のほうを向く。アイカと魔王はそのままだった。この二人は気配ですでに感じ取っていた。

「本日の営業は終了しました」

シチューまみれのアイカがめんどくさそうに答える。

「神狼ちゃんが通したんだから悪いやつじゃないのだ」

魔王が眠そうに答える。

「敵意も悪意も感じない。屋上にも何かが居るみたいだけど」

アイカは呼吸しながら半分くらい食べたシチュー皿からちょっとだけ顔を上げる。汚い。

「分からないよ?世の中には殺意無き殺し屋だって居るんだから。昔、殺り合ったけどやっかいなものよ?でも屋上の子にまで気付いてるなんて中々やるみたいね」

アイカはダルそうに上半身を上げた。顔面シチューだらけ。美人台無し、国王代理として情けない姿だ。

見ればメルローズと同じくらい(アイカ行きつけの酒場の主人、アイカよりだいたい一回り歳が上)の見た目の大人しそうな婦人が立っていた。ややくすんだ金髪に麦わら帽子。若草色のワンピース。素朴な良いところのお嬢さんがお母さんになった雰囲気。

背はマーニに近い。多分150センチ後半。庶民的と言うか農民のような服装ながら立ち居振舞いのせいか気高さを感じる。そして背中に背負った薄青く輝く槍が異物感を放っていた。

(こんな時ですら高鳴る私、あかんやつやん)

アイカは彼女もまた強者であると感じ取った。胸が疼く。だが、

「マロワ様!」

「私は少し前にお会いしましたね」

レイエンダは走り出し婦人に抱きついた。マロワと呼ばれた婦人はレイエンダを撫でながら抱きしめた。マーニは見守っている。

「ごめんね姫様、なかなか会いに来れなくて」

(まろわ?まろわマロワ………あ、マロンケーキ食べたい!じゃなくてちょくちょく聞いた名前のような………?)

「ブロンデルって名前に付くのが二人ここでお世話になってると思うんだけど居ないのかしら?」

マロワ-ブロンデル。ローレンの妻にしてジュリアの祖母。

ガバッ。思わず立ち上がりシチューが飛び散ったが気にせずアイカはマロワに近付きまじまじと見つめる。

「え?だって、あれ?おばーちゃん?いやいや若すぎでしょ、おばーちゃん感無いよ?ジュリアちゃんのお母さんだったらまだ納得出来るけど本当にこの人がマロワさん?」

マーニは頷いた。年齢の取り方が違う魔王は特に反応しなかった。

「ふふ、若く見られる事はあるけどそこまで言われると嬉しいねえ。獅子王さんてのはおもしろい娘さんなのね。いつもシチューまみれなのかしら」

アイカは慌てて台所で顔を洗い戻ってきた。

「何で私が獅子王だと?」

マロワはアイカに近付くと耳元で呟く。

「昔、軍の諜報部に居てね、いまだにその伝手で情報が入ってくるのよ。もうアタシには必要無いんだけどね、魔王やら魔神やらの話も聞いてる。安心してね?口外はしないから。悪さしないかぎりは殺しもしないし何もしないから」

一瞬寒気がした。アイカの事はともかく魔王達の事なんてごく一部しか知らないはずだ。アイカはどこかに魔術式の盗聴器じみたものでも有るんじゃないかと不安になる。しかも優しげな顔をして場合によっては魔王や魔神を殺すと言った。つまり実際はどうか分からないが魔王達より自分のほうが強いと信じて疑わないと言うことだ。

(何か想像よりも色々凄いなマロワさん。こりゃおじーちゃん先生じゃ敵わないわ)

ローレン、尻に敷かれるの図が頭に簡単に浮かんだ。

一段落するとマロワも食卓の椅子に座る。レイエンダとマロワは色々話し出した。そこへ人見知りの魔王すら早くも加わった。

「驚きましたか」

マーニが問う。

「うん、見た目も中身も想像以上だった。優しそうだけど絶対強いのは確か。空も飛べそうだし海の上も走りそう」

聞こえていたのかマロワが答える。

「ふふ、さすがに空は飛べないよ?人間だもの。海なら条件付きで走れるけど」

(人は海も走らないよって言いたいけど何かもう良いや)

アイカはため息をつく。元の世界の常識がくだらなく思える。

高校時代、色々規格外のアイカは教師に世の中の常識をわきまえろと言われた。型にハマった典型的なつまらない教師だ。

「私はアンタと違う常識で生きてる。自分が常識だと思うな。人にアンタの常識を押し付けるな」

と言って軽蔑した。そんな感性で生きてきたせいか非常識な存在に対する耐性はそれなりには身に付いたがこっちの世界に来てからは驚く事だらけだ。いつかは愛娘にも見せてあげたい。

(それにはまず平和にしないとね)

そんなことを考えていたらそれなりに時間がたっていた。

「あ!なんじゃありゃ!喰われちゃうよあんなんいたら」

「おじーちゃん屋上見てグレンデルだ!おーいグレンデル~」

「まったく気づかなんだ。いつの間に」

外から声が聞こえる。ミニマム、ジュリア、ローレンだ。

(ジュリアちゃん、元気になったみたいね。おじーちゃん先生に任せて正解だった。グレンデルって何だ?)

「マロワ!いつ来たんじゃ!いきなりびっくりするじゃろうが。夜は魔物がよく湧くし危ないじゃろう」

ローレンが勢いよく食堂に飛び込んできた。続いてミニマムスケも入ってきた。ミニマムスケはいつも通りご主人と慕う魔王の膝の上に収まった。

「さっき来たばっかり。久しぶりにグレンデルが遊びに来てね、神狼さんに会いに行くって言うからついでに乗せてきてもらったのよ」

慌てるローレンとは違いマロワは淡々と答える。何となく夫婦の形と力関係が見えた気がした。

「それよりアンタ、昔家があったあたりに居たね。アンタの気配を感じたからこっちも念を送ったのに。まったく気付かないなんて情けない。ジュリアは気付いたみたいだけど。そう言えばジュリアは?」

「それがの。何故かグレンデルと話せるようになったとか急に言い出して屋上まで上ってった」

それを聞いたマロワは血相を変えて急に立ち上がると食堂を出る。そして屋上への階段に一直線に向かう。アイカもついていく。慌ててどうしたのだろう。

「グレンデルって」

「私が現役時代跨がってた神龍。今でもちょくちょく会いに来る良い子だよ」

(マロワさん屋上から侵入してきたのか。これからは空からの侵入に対する強化も必要ね。警備も少し増やそうか)

城とは言え二階建てのちょっと広めなだけの言われなきゃ城とは分からない建物。アットホームな王城。守りやすいと言われれば守りやすいがまだまだ改善の余地はあるようだ。

「それでな~、剣がペカーって光ってな。自分でもびっくり」

「うーむ。隔世遺伝か、それとも元々の素質か」

能天気な声と共に重厚に響くような声がする。

屋上に出るとジュリアと灰銀色の竜が居た。竜としては小型のようだが人が何人か乗れるくらいは大きい。魔物の竜種と違うのは眼にはっきりとした意思を感じる。ただ生きてるのとは違う。

「ジュリア!」

「あっ、やっぱりおばーちゃんだ。あのね、私」

言葉を途中で遮るようにアイカが抱きついた。

「ジュリアちゃんのバカ、本当にバカ。でも良かった、戻ってきてくれて良かった。何で何も言わなかったの。あーもう気付いてあげられなかった私が一番バカ」

抱き締められるジュリアはキョトンとしている。すぐ戻ってきすぎて会わせる顔が無いなと思っていたのにいらぬ心配だった。

(お姉様泣いてるの?私のせいかな。でも私のために泣いてくれるんだ。何だか嬉しいな)

しかし本気で抱き締めてくるのでジュリアの体がミシミシ言い出した。骨何本か持ってかれたかもしれない。

「ゲホッ。お姉様、嬉しいけど苦しいよ。商会の事ばれちゃった?国は貧乏ってマーニがいつも言ってたし私も役に立ちたかったんだけどちょっと無理したかも」

マロワが口を挟む。

「何があったのか知らないけどやっぱりうまく行かなかったんだろう?騎士団長と商会の会長両方やるなんて無理だって言ったじゃない」

アイカはジュリアを離した。

「おばーちゃん、じゃなくてマロワさんは知ってたんですね」

思わず敬語になる。

「そんなかしこまらなくて良いって。まあ元々私が立ち上げたからね。それをある日ジュリアが譲ってくれって。最初からジュリアにあげるつもりだったけど騎士を引退してからの話だったんだけどねえ、でもこの子が自分からやりたいって言い出したのが嬉しくてね?試しにやらせてみたんだけど」

「そうですか。しかしジュリアちゃんに今騎士を辞められては国にとっても私達にとっても困ります。かと言って動き出した商会を止めるわけにもいかないし」

(本当に困ったぞ。どうしよう、商会からの寄付はありがたいけどジュリアちゃんは戦力として申し分無いし)

アイカが頭を悩ましているとジュリアが手をあげた。

「おばーちゃん復帰したら良いじゃん!」

「ふふ、やっぱりそれしかないかねえ」

苦笑いを浮かべながらマロワは承諾した。


~エピローグ~あれ?


ジュリアはブロンデル商会の会長室で書類に目を通していた。

「うん、大丈夫みたい。これで進めて良いよ~」

ジュリアよりはるかに年上の部下が書類を受け取り会長室から出ていった。

「これで当面は隣国方面は平気かな。一応代替案くらいは考えておくか」

ジュリア会長はふと窓の外を見る。旧コロシアム跡の兵舎が見える。今頃騎士団長命名式が行われているはずだ。見れないのは残念だけど。

「あれ?」

ジュリアは違和感を覚えた。


旧コロシアム跡の兵舎。

騎士や兵士が並んでいる。観客席には国民も詰まっている。

そして中央には簡易に組まれた式典用の台が置かれている。

その両端には黒き神狼と灰銀の神龍。両者共に傷だらけ。

何でも昨夜犬だのトカゲだの言い争いになって街の外で喧嘩してきたらしい。アイカとマロワに「しょうもない」と言われしょんぼり反省中だ。しかし事情を知らない者達は神狼と神龍が居るだけで歴史的だと大騒ぎだった。

台上にレイエンダとアイカが上がる。続いて反対側からマロワが上がる。フッカーヤ王国史に名を残す伝説の騎士の登場に会場はさらに盛り上がる。

レイエンダが必死に声を張って告げる。

「マロワ-ブロンデル殿、貴殿を王国騎士団長に命じます」

レイエンダの声に会場が静まった。式典用の装飾された剣が渡される。マロワはうやうやしく両手で受け取った。

「マロワ-ブロンデル、拝命致します。この身果てようとも王国を守り抜いて見せましょう」

拍手が止まらない。アイカはとても良い光景だと思った。レイエンダもマロワも国民に祝福されている。だがアイカとマロワは何となく違和感を覚えた。

そして商会にいるジュリアも同時に叫んだ。

三人の声が重なった。


『逆じゃん!』


「はい?へ?あら?」

レイエンダだけ頭に?を浮かべていた。

























































次は過去が謎の神官長マーニの話です。

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