初クエストです!!
冒険者登録はスムーズに進んだ。特に試験もなく、手間取ることもなかった。パーティーメンバーの名前を登録して、リーダーを登録する。もちろんこのパーティーのリーダーはナギ先生だ。この中で一番しっかりしてるしね。スノーちゃんがリーダーをやりたいと少しごねたけど当然却下した。ナギ先生を差し置いてリーダーだなんてさすがに許容できないよね。
そうして登録が終わって僕たちは冒険者ギルドが運営しているっていう宿屋で一夜を過ごした。大部屋で泊まるか個室で泊まるかの選択肢があったけどこの日は個室を三つ借りて泊まることになった。これはスノーちゃん達からの要望で、男性が多くいるイメージのある大部屋で一夜を過ごすというのは抵抗があるっていう話だ。まぁ確かに冒険者って男の人が多そうだしなぁ。無防備な姿を晒したくはないよね。
スノーちゃん達は同じ個室で夜を過ごしたそうだ。そこまで大きくもない部屋だっていうのにね。よっぽど仲良しで離れたくないみたいだ。いやぁ、仲良きことは素晴らしきかなってやつだね。僕とナギ先生は普通に別々の個室で夜を過ごした。さ、寂しくなんかないんだからね!?
そうして日が明けて僕たちは再び冒険者ギルドへとやってきた。そう……これから僕たちの冒険は始まるんだ!!
「よぅし!! やるよーーー!」
スノーちゃんが拳を天に突き出して気合を入れている。昨日も思ったけどよっぽど楽しみみたいだ。
「……わくわく……」
ミコトも楽しみにしてる……のかな? ほぼ無表情だからよく分からない。微笑んでいるようにも見えるような……見えないような。
「はいはーい。みんな落ち着いてね~。まずはE級のクエストがあるかどうか見てみよっか~」
「「はーい!!」」
「……おー……」
「ん」
ナギ先生の言う事に従って、僕たちはどんなクエストがあるのかを見るためにクエストボードを見に行く。まだ朝早いからなのか、そんなに人は居なかった。
ナギ先生が言っていたE級クエストっていうのは一番簡単な部類のクエストだ。まだ冒険者登録をしたばかりで何の実績もない僕たちが受けられるクエストはE級だけ。
一番簡単で初心者でも受けれるクエストがE級。
そしてD級、C級、B級、A級とどんどんと難しいクエストになっていって、一番難しいクエストがS級と呼ばれるクエストらしいです。もっとも、S級クエストをこなせる人なんてほとんどいないっていう話だけど。
「見つからないなぁ」
張ってあるクエストはそのほとんどがC級以上の物だった。~~を倒せだったり、~~までの護衛依頼など、戦闘が必要そうなものが多く並んでいる。
まぁE級クエストは言ってしまえば雑用みたいなものってナギ先生も言ってたしなぁ。依頼はやっぱり少ないのかもしれない。
「見つからないよーー!」
「……文字たくさん……ぐるぐる……目がまわる……」
スノーちゃんがクエストボードの前でぴょんぴょん跳ねて懸命にクエストを探している。ところでミコト……別に一つ一つクエストの内容までジッと見る必要はないんだよ? 僕たちが受けれないC級のクエストの内容をジッと見つめても意味ないからね?
「見つけた」
みんなでクエストを探している中、イリちゃんが一枚のクエストの紙を持ってナギ先生の元へと持っていっていた。良かった、E級のクエストも残っていたんだね!
ナギ先生がクエストの紙をイリちゃんから受け取り、内容を読み上げる。
「どれどれ~。『ちゆちゆ草の採取。最低十本希望。南西のハプニンの森にて採取可能』だって~。みんなどうする~? 私はこれでいいと思うけど~。危険も少ないだろうし報酬も高いしお得だと思うよ~」
そう言ってナギ先生は手に持ったクエストの紙をみんなに見せてくれる。
内容はナギ先生が言った通り草の採取で貰える報酬が……十万ガル!?
えぇっと……昨日リンさんが頼んでくれたA定食が七百ガルだからそれの百倍以上で……あわわ。
草を十本むしるだけでそれだけ貰えるなんておいしすぎる。この依頼を受けない理由はないだろう。
「えーーーー! こんなのつまんないよー! 冒険者になったんだからもっと凶悪な魔物の盗伐依頼とかを受けようよ!!」
スノーちゃんは不満のようだけど……残念ながらスノーちゃん。凶悪な魔物の盗伐依頼なんてE級にはないと思うよ?
「……ちゆちゆ草……」
ミコト先輩が採取する草の名前を呟いて何事か考えている。何か知ってるのかな? 報奨金も高いし何か特別な草なのかもしれない。僕は草の名前なんて全然知らないけど。
「ねぇミコト。ちゆちゆ草がどんな草なのか知ってるの?」
「……可愛い……」
可愛い? 可愛い草なの?
可愛い草……想像してみる――――――ダメだ。草が可愛いなんて全然想像できない。
「えっと……ミコト。可愛いって具体的にはどんな草なの?」
「……? 私、見たことはないよ?」
「え? じゃあ可愛いっていうのは?」
「……ちゆちゆ草……ちゆちゆ……名前……可愛いね?」
「……ああ、そうかもしれないね」
目を輝かせるミコトに僕は脱力しながら答えた。何を真剣に考えてるのかと思ったらミコトワールドへと旅立っていたらしい。残念ながら僕には付いていけないよ。
「――ちゆちゆ草は傷薬や毒消しの薬を作ったりするときに作られる草。形はそこら辺の雑草とあまり変わらないけど色が赤色で目立つからすぐ見つけられる」
そんな中、イリちゃんがちゆちゆ草について説明してくれた。へー、そうなんだ。イリちゃんは小さいのに物知りだなぁ。
――と感心する僕。しかし、イリちゃんの説明はまだ終わっていなかった。
「魔法歴1353年……つまり今からちょうど100年前に植物学者のノルターが発見。磨り潰して傷口に塗るだけで痛み止めの効能があり、様々な解毒作用が確認されたことから『ちゆちゆ草』と命名。この草は至る所に生えているけど近年では需要に供給が追い付いてないって聞く。採取するなら少し危険な場所に行くしかない。後は――」
「ストーーーーーップ!! もういい! 分かった! もう十分わかったから」
物知りすぎだよ!?
何なの!? イリちゃんは草木にただならぬ興味でもあるの!?
「イ……イリちゃんは草や花が好きなの? 凄い詳しかったけど……」
気になったので思ったまま聞いてみる。
イリちゃんは表情を全く変えずに言った。
「別に。冒険に出るならこれくらい常識」
「嘘つけぇ!!!」
僕がいくら世間知らずでもそれが嘘だっていうのは分かるよ!? そもそもスノーちゃんとミコトは知らなかったじゃん!
「危険なの!? ねぇねぇイリ! ハプニンの森ってどんな所なの!?」
スノーちゃんが目を輝かせてイリちゃんへそんな質問をする。まるで危険を望んでいるかのようだ。
「ハプニンの森はそこに書いてある通りここから南西に向かえばある森。歩いて一時間くらい。森に生息しているのは基本的には普通の動植物。それと少数のE級相当の魔物が徘徊している。それと――」
「E級の魔物かぁ。まぁ最初の内は仕方ないよね。それじゃあみんな! 私はこのクエストの受注をしてくるね!」
まだ説明の終わっていないイリちゃんを放って、スノーちゃんはナギ先生からクエストの紙を取ってそのまま受付に行ってしまった。ちなみにクエストの受注はいくらでも出来るんだけど、期間内にクエストの依頼を達成しなければキャンセル料がとられてしまうらしい。だからクエストを受けるときは受けれそうなものを慎重に選ばないといけないんだけど……まぁ受ける流れだったからいいのかな?
「行っちゃった……まぁみんな行く気になってたからいいですよね? ナギ先生」
「いいんじゃないかな~? それにしてもハプニンの森か~。場所は知ってるけど行った事はないのよね~。人気がなかったことだけは覚えてるんだけど……今も人気はないのかしら~?」
「うん。普通の人も冒険者もあまり入らない。この依頼が残ってた理由も敬遠されたからだと思う」
「やっぱり今も人気はないんだ~。なんでなのかは分かる? イリちゃん?」
「うん。ハプニンの森は――」
「お待たせ! じゃあみんな行こう! 私たちの冒険の始まりだよ!!」
スノーちゃんは受付から戻ってきたかと思ったら勢いよくミコトと説明途中のイリちゃんの手を引っ張ってギルドの外に向かっていく。
「ちょっ、ちょっと待ってよぉ!!」
僕も慌てて追いかける。
「あらら~、結局どんな森なのか分からずじまいね~。報酬がE級にしては高いし少し不安だけど……まぁE級ならどうとでもなるわよね~」
そうして僕たちは駆け足でハプニンの森へと向かった。




