仲間を集めます!!
そうしてリンさんが僕たちを引きずっていった先は先ほど目にした食堂だった。
リンさんは迷わずに食堂で働いている男の人に向かっていき、
「すみませーん! A定食二人前お願いしまーす!」
と、注文していた。
「おぉ、リンちゃんじゃねぇか。なんだい? またいつものお節介かい?」
リンさんに声をかけられた男の人はどうやらリンさんの知り合いらしい。そしてやはりリンさんのお節介はよくある事らしい。
「ば、バカ言うんじゃないよ! これはあれさ……この子らがあまりにも世間知らずだったんで色々教えるだけさね!! 世間知らずにそこらをうろちょろされたら敵わないからねぇ」
「へいへい。そうだな~」
男の人はニヤニヤしながらリンさんを見つめている。まるで幼い子供を見る親のような顔だ。
「ったくなんだいなんだい! ニヤニヤしてきっしょくわるいねぇ!! それよりA定食二人前だっつってんだろうが! 客待たすんじゃないよ!」
リンさんは顔を真っ赤にして色々文句を言っている。ただ、どう見ても誤魔化しているようにしか見えない。
「へいよ! A定食二人前お待ちぃ!!」
早っ!?
もう準備していたのか、男の人は二人分はあるであろう量の料理を盆にのせてリンさんの目の前に置いた。
「あぁっ!?」
しかし、リンさんは不満げだ。なんでだろう?
「おいおいゲンさん。まだあたしゃ金払ってないよ? このあたしに無銭飲食させようってのかい? あぁ!?」
あぁ、確かに。まだリンさんはお金を払ってない……ってそこ怒るところ!?
うん、これでハッキリした。
このリンさんっていう人――言葉遣いが荒っぽいだけで凄くいい人だ!?
「そうだったか? いや、もうお代は貰ってるはずだけどなぁ。なぁ、お前ら!?」
ゲンさんと呼ばれていた男の人が食堂で料理を作ってる男衆たちに呼びかける。
「あぁ、リンちゃんはもう金払ってるはずだぜ?」
「そこの二人ぃ! リンちゃんに感謝しろよぉ!」
「リンちゃんから金なんて貰えねえよなぁ」
「……な?」
食堂の男の人たちはリンさんからお金を受け取る気はないらしい。すごい人望だ。
「お……」
リンさんはその体を小刻みに震わせていた。そして、三人分の料理を受け取り、
「覚えとけアホンダラァッ!! いくよ、二人とも!」
と言って逃げ出してしまった。
「なんか……微笑ましいですね~」
ナギ先生はその光景を見てそんな事を呟いていた。うん、僕も同感です。冒険者ギルドってこんなに優しさで満ちているのか~。……まぁさすがにこれは例外かな?
そうして僕、ナギ先生、リンさんは食堂の空いている席へと座った。そこでリンさんが言ったセリフはこうだ。
「おぉっといけないねぇ。いつもならこんくらい私一人で食えるってのに急にお腹の調子が……悪いけど少し食べちゃくれないかい?」
と言ってA定食二人分を僕とナギ先生の前に押し出してきた。なんて分かりやすい嘘なんだろう……。
ありがたく僕とナギ先生は頂くことにした。まだ晩御飯も食べてなかったし丁度いいよね。
そうして食べている間に、リンさんから冒険者登録するために必要な事などを教えてもらった。さしあたっての問題は残り三人をどうやって集めるかだけど、その方法についてもリンさんは丁寧に教えてくれた。
「いいかい? 冒険ってのは危険がいっぱいだ。あんたらがどこの田舎から来たのかは知らないけどねぇ。ここまで無事にこれたのは運が良かっただけだと思いな? ちょいとそこらの森に行けばあんたらは生きて帰ってこれないだろうさ。おっと、これはあんたらが弱いとか言ってるわけじゃないよ? 単純に数の問題さ。何人かでパーティーを組めば森の中でも交代で休憩できるだろう? でも人数が少なかったら休むことも出来ない。休むことも出来なきゃ思うように動けなくなってくるし判断力も鈍る。最後にはおっちんじまうって話さ。だからこそ、ギルドでは五人以上のパーティーにしか依頼を出さないし、五人も集められないような冒険者にはお引き取り願ってるわけさ」
なるほどな~。
確かに人数が居れば交代で休むことも出来るもんね!
魔物が近づいてくるかどうかなんて気配で分かるんじゃないかって思ったけど、よく考えたら気配を消すことができる魔物とかも居るかもしれないしね。休憩中にそんな魔物に襲われたら危ないかもしれない。
「もちろんギルドも投げっぱなしじゃないよ? ちゃーんと人数が五人揃えられるように簡単なサポートはしてるさ。ほれ、例えばこの食堂さね。なんでこんなのが冒険者ギルドにあると思う? 周りを見りゃ答えは分かるはずだよ」
リンさんに言われるがまま、僕は周りを見渡す。
そこにはいろんな人が料理を食べながら、あるいはもう食べ終わっているにも関わらず会話していた。屈強な男の人たちから華奢な女の人まで。少し印象的だったのは、同じような人たちが一か所に集まっているんじゃなくて、バラバラなタイプの人間が一緒に会話しているっていう事だ。
「あ~。もしかしてこういう会話出来る場を提供してるってことですか~? 仲間が居ない人はここで集めてくださいねっていう意味なんですかね~?」
「それだけじゃないよ。ここは情報交換の場でもあるのさ。この食堂には冒険者、もしくは冒険者になる意思のある奴しか来ない。一般の客はお断りさ。まぁ、たまに一般客が入り込んでくるから困りもんだけどねぇ。それと食堂だけじゃないよ。冒険者ギルドが経営してる宿屋が隣にあんのさ。もちろん個室もあるけどお勧めするのは大人数が寝泊まりする大部屋だね。そういった場所で皆さん合いそうな人を見つけてパーティーを組んでくださいねってぇ話さ。まぁ、その程度の事しか出来てないんだけどねぇ」
「一緒にご飯食べて同じ屋根の下で寝たら仲良くなってるでしょ? って事ですかね~。……爆発しちゃえばいいのに~」
「「え?」」
僕とリンさんはナギ先生の方へと顔を向ける。そこにはにこにこと笑っているナギ先生が居た。あれ、なんか今ナギ先生の口から物騒な単語が飛び出してきたような……?
「ま、まぁそういう訳であんたらには後三人の仲間が必要って事さね! ああ、そうだ。そういやあんたらって何が出来るんだい? 見た感じ姉さんは魔法使いって感じだけど上級魔法とかも使えるのかい?」
「ええ~。まぁそれなりに~」
さすがナギ先生!
「おぉ、そりゃ凄いねぇ。それで? お前さんはどうなんだい?」
「僕も魔法使いです!」
やった! 堂々と言えたぞ! 僕も魔法を使えるようになったんだし立派な魔法使いさ!
「へぇ。で? あんたも上級魔法を使えるのかい?」
え? 上級魔法?
いやいや、そんなの使えませんって。なにせ魔法を使えるようになったのが数日前なんですから。
「いえ、使えません」
「なら中級魔法まで習得してるんだねぇ。魔法使いが二人って事はもう三人の仲間は前衛を任せられる人間がよさそうだね」
え? 中級魔法も習得してませんよ?
初級魔法を三つ使える程度ですよ?
「お? 丁度いい感じのが居るじゃないか。ちょいと待ってな! あたしがあんたらを立派な冒険者にしてやるっ!」
そう言ってリンさんは席を立った。うーん、初級魔法までしか使えないって事を伝え損ねたなぁ。まぁいいか。ナギ先生の下で修行していれば僕もすぐに中級魔法を使えるようになるだろう。多分。
「一体何をしに行ったんでしょうね? ナギ先生は分かりますか?」
「まぁさっきの口ぶりからすると私たちの代わりに三人集めに行ってくれたんじゃないかなぁ~? それにしても昔は一人でも冒険者を名乗れたっていうのに面倒だね~」
「ナギ先生みたいに一人で何でもこなせる人なんて限られてますからね! きっと普通の冒険者の為に出来た新しい決まり事なんですよ。まったく……ナギ先生一人で百人分くらいの働きをしてくれるっていうのに……」
「シロくーーーーん!? シロ君は私の事をどんな目で見てるのかなぁ!?」
あぁ、しまった。ナギ先生を怒らせてしまった。
これは僕が悪い。素直に謝ろう。
「すみませんナギ先生。僕が間違ってました」
そう言って僕は素直に頭を下げる。
「あら? 随分とあっさりだね~。まぁ分かってくれたのならいいよ~」
「はい! すみませんでした! ナギ先生一人で一万人分くらいの働きをしてくれる! の間違いでした。百人分とか言ってしまって本当にごめんなさい……」
そうだった。高名な魔法使いであるナギ先生がたった百人分の働きしかできないなんて事あるわけないじゃないか。先生が怒るのも当然だよね。
「違う、シロ君。それ違う。減らそ? そこは増やすんじゃなくて減らそ?」
「あ、ナギ先生。このお肉結構いけますよ」
「既に聞いてない!?」
やっぱりちゃんと調理されたお肉は美味しいなぁ。森で魔物を狩ってたときにも肉はよく食べていたけど調味料とか何もなかったから素の味で味わう事しかできなかった。やはり香辛料は偉大だね。
「うわぁ! いい食べっぷりだね!!! 相席いいかな!?」
聞き覚えのない女の子の声。僕は食べるのを中断して顔を上げる。
そこには前かがみになって僕に対して笑顔を向けている女の子が居た。




