魔法、使えました!!
★ ★ ★ ★ ★ ★ ナギ視点 ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
「誰?」
私は先ほど出ていった青年に心当たりが全くなかった。しかもなぜか青年は裸だった。なんで裸? 変質者か何かなのかな?
「まぁ何はともあれまずは服を着ないとね~」
かくいう私もすっぽんぽんだ。いつまでも若くなった自分の姿に感動している訳にもいくまい。さっきの青年にも色々と話を聞きたいが、このまま外に出ても青年を困らせてしまう気がする。
そう――意図したわけではないけれど私は若返っていた。
私は不老の魔法の研究と並行して若返りの魔法の研究も行ってきた。古代の魔法に頼ってみたりしたこともある。しかし、全てうまく行かなかった。
そうして研究を始めてから六十年が経過――つまり私は八十五歳。立派なおばあちゃんとなっていた。
そしてつい数分前の事だ。もう無理かななどと思っていた矢先に光が視界を覆いつくした。何事!? と思って光が収まった後調べてみたけれど今のところ原因は不明。判明していることはひとつ。それは私が若返っているという事だった。
若返った自分の体に気づいたときはとても嬉しかった。嬉しくて本当に若返ったのか確かめるために鏡の前で色々確認する――つもりだったのだが、私は調子に乗って色々なポーズを取っていた。そんな中突入してきたのがさっきの少年という訳だ。
「先生って言ってたっけ~? でも私をそんな風に呼ぶ人居たかしら~? というかそもそも最後に人に会ったのって六十年くらい前よね~? あの子はせいぜい十五歳かそこらよね? どう考えてもあの子の勘違いのような……でもナギ先生って言ってたしやっぱり私の事なのかしら~?」
記憶をさかのぼる。この森で研究を始めたのは二十五歳の時。そして六十年間誰もこの森を訪ねていないのだから、最後に人に会ったのはやはり六十年以上前という事に……。
「……あ」
いや、違う。そういえばこの森に――私に会いに来た人間が一人だけ居た。
もはや顔も覚えていないが魔法の修行をつけてほしいと私に頼み込んできた少年が居た。魔力適正がゼロだった事が印象的で、それ以外の事が頭から抜け落ちているけど……確か私を先生と呼んでいたような?
「いや、ないない。それはないよ~」
確かにそんな少年は居たが、それも四十年以上前の話だ。あの少年もいまやお爺ちゃんとなっているだろう。それくらいの時が過ぎた。
それじゃあさっきの少年は誰? という話なのだが、こればかりは分からない。
「まぁまずは話してみよっか~」
私は適当に着れる服を着て、家の外に出る。
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
「あ、ナギ先生!!」
数分後、ナギ先生は家から出てきました。急いで出てきてくれたのか。ちょっとぶかぶかの黒い女性服を着ての登場です。うーん、やっぱり前に見たナギ先生より若いような……二十代前半のお姉さんにしか見えない。
まぁ気にしなくてもいいや。きっと魔法的な力が働いてるんだろう。ナギ先生だもの。それくらい出来ても不思議じゃないよね。
そんなことを考えるよりも先に僕にはしないといけないことがある。それは――
「すみませんナギ先生。僕、魔力を感じることができたことを一刻も早く先生に報告したくてノックもせずに……本当にすみませんでした!!」
僕はナギ先生に向かって頭を下げた。
「えっと……ごめんなさい。君は誰だったっけ~。ちょっと思い出せなくて……」
先生は申し訳なさそうな表情でそんな事を聞いてきた。
あ、そっか。前に会った時から時間も結構経ってる気がするしね。ナギ先生は凄い人だし僕みたいなどこにでもいるような一般人の事を覚えていないのも無理ないかもしれない。少しだけ悲しいけど。
「僕です。シロですよ! ナギ先生に魔法の修行を付けてもらいたくて遠くから来たシロです。……覚えていませんか? 先生? 僕、先生の出した課題をようやくクリアしてきたんですよ?」
「課題~?」
「はい! 僕、魔力を感じ取れることができるようになったんです! 先生、前に言ってくれましたよね? 僕が魔力を感じ取れるようになったら弟子にしてくれるって。僕、時間はかかりましたけど魔力を感じ取れるようになりました! 弟子にしてくれますか?」
「う、うーーーーーーーーん」
先生は頭に手を当てて何か考え込んでいる。あれ? 何かマズイ事でもあったのかな? やっぱりノックもしないような無礼な僕を弟子にするのは嫌なのかな?
「もしかしてだけど~、本当にシロ君?」
「あ、はい。そうですよ?」
なんでそんなに自信なさそうに……あ、そっか!
あれから何十年か経ってる気がするし、きっと成長した僕の姿と前に先生が見た僕の姿が重ならなかったんだろう。
……しかしあれから何十年が過ぎたんだろう? ナギ先生は年をとったようには見えない。それどころか以前より若く見えるし、何十年たったか見当もつかない。もしかして僕が長いと感じてただけで数年しか経ってないのかな?
「やっと思い出したけどシロ君なわけがないような……。あ、もしかして私だけじゃなくてシロ君まで若返ったとか? っていうかシロ君って魔力適正がゼロだったよね? 魔力を感じ取れる訳がないような……」
なんだかナギ先生がぶつぶつ言ってる。一体さっきからどうしたんだろうか? まぁナギ先生の事だ。僕では想像もできないようなことを考えているんだろう。
「――――――あ、本当にシロ君だ。魔力適正ゼロの人なんてそうそう居ないし。私だけじゃなくてシロ君も若返ってたってこと? ……でももしかして若返ったことに気づいてない?」
「あ、あのー、ナギ先生。それでどうですか? 僕を弟子にしてくれますか?」
なんだかぶつぶつ言ってるナギ先生に気になっていたことを尋ねてみる。
「え? あ~弟子……弟子ね~。ねぇシロ君? さっきシロ君は魔力を感じ取れるようになったって言ってたけど本当に感じ取れたの?」
「もちろんです!」
なんでそんな事を聞くんだろう? 少し不安になる。
「そ、そっか~。それともう一つ質問するね~。さて、シロ君。前に私と会ってから何年くらいたっているでしょうか?」
「分からないですけど……多分五年くらい……ですか?」
本当は何十年か経ってる気がしたけど、先生の若い姿を見ているとそれは気のせいだったんじゃないかと思わされる。だから僕は五年と答えた。
「そっか~、分からないか~。それじゃあ私が答えを教えてあげるね」
そう言うとナギ先生は僕の腕を掴んで家へと引きずり込もうとしてくる。
「え? いや、そんな事より僕を弟子にしてくれるかを聞きたいんですけど」
「いいからいいから~」
強引にナギ先生の家に連れ込まれる。
「う、うわー」
なんていうか……すごく散らかってる。
分厚い本やナギ先生の服がそこらに散乱している。なんだかよく分からない液体が入っている瓶も転がっている。
まさに魔導士の家っていう感じなのかもしれないけど……うーーーーー、ここまで汚いとどうしても片づけたくなるなぁ。
「こらこら、乙女の部屋をそんなにジロジロ見るなんて失礼でしょーー。君が見るのはこっち」
「ご、ごめんなさい」
確かにナギ先生だって立派な女性だ。そんな人の部屋へノックもせずに入ったり、部屋をジロジロ見たり僕はなんて失礼なことをしていたんだ。反省しなきゃ。
ナギ先生が僕を連れてきたのは姿鏡の前だった。鏡を見ろっていう事らしい。
そこに映るのは当然僕だ。少し成長してるかな。でもやっぱり数十年も経っていなかったみたいだ。良くて五年くらいしか経っていないみたい。
「シロ君。私が君と会ってから経った時間はね――――――――――四十年だよ」
「え? 四十年?」
冗談かと思った。
ナギ先生はまだまだ若く見える。鏡に映る僕の姿も成長したと言っても二十歳前後にしか見えない。あれから四十年経ってるだなんてとても信じられない。
だけどナギ先生の顔は真面目そのもので冗談を言っているようには見えない。
「そう、四十年。私とシロ君はね。若返ったみたいなの。原因は――」
「魔法ですね!!!」
すごい! 魔法ってやっぱりすごいなあ!
いや、この場合は魔法っていうよりナギ先生が凄いっていうべきなのかもしれない。さすがナギ先生だなぁ。
「へ? いや、まぁ原因は魔法かもしれないけど……原因不明って言いたかったんだけどなぁ。まぁ本人がそれで納得してるならそれでいっか~」
またナギ先生が頭に手を当てて何か考え込んでいる。何か問題でもあったのかな? まぁいいか。気にしない。
「そんな事よりナギ先生。僕を弟子にしてくれるっていう件は?」
「そ、そんな事!?」
ああ、しまった! せっかくナギ先生が凄い魔法を使ってくれたのにそれを『そんな事』で済ませてしまうなんて失礼だったよ。
「ご、ごめんなさいナギ先生! 僕を若返らせてくれてありがとうございます! これで魔法の勉強ができる時間が増えたって訳ですよね? 先生にはすっごく感謝してます。本当にありがとうございました!」
そう言って僕に時間をくれた先生に僕は頭を下げた。
「あれ? 私が若返らせたって事になってる? シロ君の中で私ってどんな凄い人なんだろ? ……ま、まぁ本人が納得してるならもうそれでいいよね?」
またナギ先生はぶつぶつ言ってる。うーん。凄腕の魔導士ともなると色々と考えることがあるのかな? 僕も見習うべきなのかもしれない。
「こほん。さて、という訳でシロ君は若返ったわけだけど……何か違和感はある?」
「え? いや、特に何も……。魔力を感じるようになったという以外に変わった点はありません」
そもそもさっきナギ先生に言われるまで若返った事に気づいていなかったくらいだ。正直今でも半信半疑……いや、ナギ先生の言葉を疑うなんてどうかしている! ナギ先生の魔法をもってすれば他人を若返らせるなんてわけないに違いない!
「魔力ねぇ……ねぇシロ君? 本当に魔力を感じているの?」
「もちろんです! 先生の言う通りに鍛えていたら感じることができるようになりました!!」
しかし、なんでそんなに何度も確認するんだろう?
「そっかー。それじゃあテストするね」
「テストですか?」
「うん、テスト。魔力を感じることができているならなんてことないテストだよ~。魔力を感じることができているならね~」
一体どんなテストだろう? そしてなんでそんなに『魔力を感じることができているなら』の部分を強調するんだろう?
「一体どんなテストなんですか?」
聞いてみた。
「シロ君には魔法を使ってもらいます。詠唱や動作は私を真似てみて」
「ま、魔法!? この僕がですか!?」
いくらなんでも早すぎないかな!?
「風よ、烈風となりて敵を切り裂け」
ナギ先生は構わずに詠唱を唱えている。いきなり魔法なんて使えるか分からないけど――先生が言うならきっと出来るはず!!
「風よ、烈風となりて敵を切り裂け」
一言一句違わず、先生の唱える詠唱に続く。
「エアロショットッ!」
ナギ先生は右手をパーの形に開いて前へと突き出す。よし、僕も――
「エアロショットッ!」
思いっきり右手を前へと突き出す。
すると――
――ゴガァッッ――
前方にあった一本の木に大穴が開いた。
これが――魔法!!
「やった、やりましたよ先生! 僕が魔法を……いやった~~~~~!!」
全然魔法を使えなかった僕が……ついに魔法を使えるようになったんだ!!
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「えぇ……」
えぇっと……私は幻でも見ているのかな?
シロ君が手を前へ凄いスピードで突き出したと思ったらその直線状にあった木が倒れた。シロ君は魔法を使えたと喜んでいるけれど――
今の……魔法じゃないよね?
魔力の動きを全く感じなかったし、魔法ではない……はず。
そもそも私が唱えた「エアロショット」は初級魔法だ。一応攻撃魔法だけど、小さい切り傷くらいしか付けられないような魔法。どんな使い方をしても木に大穴を開けるなんて芸当は出来ない。
っていうか今の……ただの風圧じゃない?
シロ君……信じられない事だけど拳圧だけで木に大穴開けた? 魔法じゃなくて完全に物理じゃない? 魔法的要素ゼロじゃない?
伝えるべきだろうか? いや、だけど……
「やった、やりましたよ先生! 僕が魔法を……いやった~~~~~!!」
い、言えない……。
こんなに喜んでるシロ君に……今のは魔法じゃないと思うよなんて言える訳がない。もしかしたら――もしかしたら魔法だったかもしれない……し?
「よ、良かったね~」
とりあえず褒めておく。
しかし、問題はここからだった。
「それじゃあ先生。これからもご指導お願いします」
そう言ってシロ君は頭を下げてきた。
「え゛!?」
このシロ君に……指導? 何を?
いや、分かってる。魔法の……だよね? え? 魔法? 私が教える事って何かあるの?
「先生?」
返事がないのを不審に思ったのか。シロ君が頭を上げる。
と、とにかく何か言わないと!
「う、うん。こ、これからビシビシ行くからね~」
「はい! よろしくお願いします!!」
そう言ってシロ君はもう一度頭を下げてきた。
――って私は何を言ってるのぉ!? ビシビシ行くって何をどうするのぉ!? 誰か教えてーーーー!!
そうしてこの日、私はシロ君の師匠となった……らしい。




