決着……です
「まずは――エアロショットォ!!
身体強化以外で僕が唯一使える魔法を発動させる。エアロショットによる風の衝撃はまっすぐにディードへと向かったが、それを読んでいたのか。ディードは体を横にずらしてあっさりと避けてしまう。
「これがあなたの魔法ですか。なるほど。初めて見ましたが無詠唱でここまでの威力とは恐れ入ります。それに魔力がまったく漏れていないところを見るとその全てを魔法に込められているということが分かります。いやはや、そこまで完璧に魔力をコントロールするとは。さすがナギ様の弟子なだけはありますね?」
「え?」
何を言ってるんだろうこの人は? 正直何を言ってるのかまるで分からない。
こちらの困惑に気づいてもいないのか。ディードは僕と同じように手元から風を発生させながら話を続ける。
「魔法というのは術者の魔力によって精製されます。しかし、多くの術者が全ての魔力を魔法に変換できているのかと言えばそうではありません。五割程度が魔法に変換されていれば良い方でしょう。残りは大気に触れ、自然に消滅するのみです。これは大変無駄なのです。強大な魔力を放つ術者などを手ごわいと感じる方も居ますが必ずしもそうではないのです。示威行為で魔力を放っているなどではない限り、それは魔力の扱いが不得手で無駄に放っているだけ。強大な魔力を持っているからといって、強大な魔導士とは限らない。そういう訳です。それに比べてシロ君。あなたは素晴らしい。こうして相対していてもあなたからは全く魔力を感じ取れません。それはその魔力の全てを魔法へと変換できているからでしょう。私でも八割が魔法に変換できるかどうかという所なのに……いったいどのような修行をすればそこまで効率的に魔力を操れるようになるのか。興味が尽きません」
え? 魔法ってそういうものなの? 全く意識せずにいたんだけど……。
ディードの口ぶりから察するに、どうやら全ての魔力を魔法に変換するっていうのは結構な高等テクニックらしい。そして僕は自分で気づかないままその高等テクニックをマスターして魔法を操っていたらしいね。 ……これがナギ先生の修行の成果か! 才能のない僕でも魔力を完璧に操れるようになってしまうなんてすっごいね!!
「そこがナギ先生の凄いところだよ!!」
「なるほど。さすがナギ様というべきですね。それだけに惜しい。あなたより早くナギ様と私が会っていれば私は今頃遥かな高みに立っていたでしょうに……」
まぁそれはタイミングというやつだろう。可哀そうだとは思うが仕方ない。いくらナギ先生と言えども、その体は一つしかない。そんなにナギ先生の教えを受けたいと思うんなら僕と同じように自分から家を訪ねれば良かったのにとも思うけど、きっと何十年もたったこの世界ではナギ先生がどこにいるのか不明だったとかそういう話だろう。
「それは可哀そうだと思うけどね。でも、だからって二人を誘拐するなんて間違ってる!! ナギ先生の弟子として許せることじゃない!!」
「魔法の深淵を覗くためなら何でもしましょう。実験の為に部下の命が必要だというなら喜んで捧げましょう。民衆の命を捧げることで新たな魔法を開発できるのならば喜んで捧げましょう。すべては私が魔法の深淵へと到達するため! それ以外の事はどうでもよいのです!!」
血走った瞳で僕を見るディード。と同時にディードはそれまで手元で遊ばせていた風の魔法を僕に向かって放ってきた。
何も唱えず、ただ発動させた魔法。真の無詠唱魔法だ。僕でも魔法の名前を言わなければ発動させることができないっていうのに――ディードがどれほど優れた魔導士かを改めて実感する。
それだけに残念だ。
「身体強化――ぜん……かいっ!!!」
身体強化の魔法に僕の魔力の全てを注ぎ込む。
ディードが放つ風を僕は腕を振るう事で打ち消す。
響く轟音。ディードの風が消滅した事によるものだろう。
目を瞑って全ての力を身体強化に回す。僕の全力を……ナギ先生との修行で培った力を見せてやる!! もうディードの気配は覚えた。もう目を瞑っていてもディードの位置も行動も把握できる!!
「ディード。君がナギ先生と今まで出会えなかった不幸については確かに同情する。ナギ先生に教わらずして誰に魔法を教わるんだって話だからね。きっとディードは一人で魔法の腕を高めてきたんだろう。教わる相手が居なかったから。それなのにひょっこり僕みたいな才能のない奴が最高の師匠の下で育ってるのを見るとむかつくよね。怒ってもいい。妬んでもいい。でもそのすべては全部僕に向けるべきだったんだ。ナギ先生やイリちゃんにまで危害を加えた時点でディードはナギ先生の弟子になる資格を失っていたんだ――」
「あの……シロ? ちょっといい?」
「それにディードは魔導士としてじゃなくて人間としてやっちゃいけない事をした。さっきの言葉から察するに魔法の為に多くの人間を犠牲にしてるんだよね。この部屋にあった赤黒い汚れ。まさかとは思ったけどあれは人間の血の跡なんじゃないかな? ナギ先生は多くの人々の役に立つために魔法はあるんだって言ってたよ。それなのに人間を魔法の高みか深淵かよく分からない物のために犠牲にするなんて。魔法を極めるのに夢中すぎてそんな事にも気づかなかったのかな? ――」
「……シロくーん……おーい? ……ひらひら……」
「ナギ先生はこの世で最も輝かしい女神のような存在なんだよ? ああ、今気づいたけどきっとナギ先生はディードの内面を最初から見抜いていたんだよ。でもナギ先生は優しいからディードに自分で気づいてほしかったんだ。ナギ先生ならディードなんて瞬殺できるだろうしね。そうしなかったのは魔法を愛するディードなら自分で過ちに気づいてくれると思ったからだと思う。仮に気づかなかったとしても僕がそれをディードに教えてくれるだろうってナギ先生は思ったのかもしれない。ナギ先生は先々を見据える人だからね。まるで全知全能の神みたいだ。そう――ナギ先生はディードが言う魔法の深淵なんて軽く突破してるくらい凄い人なんだよ。それもまっとうな方法で誰も犠牲になんかしやしないんだ。ナギ先生は気高く美しくてちょこっと抜けたところもあるけどだからこそ下々の人々も話しかけやすくてでも裏ではきっと何手も先、もしかしたら何十年、何百年先の事にも考えを巡らせていてその為に自分の力を惜しみなく使ってだから魔女とかじゃなくてやっぱりナギ先生は神様でむしろ神様がナギ先生だって言うべきで――」
「そいやぁぁぁぁぁぁっ!」
「あいでっ!?」
ディードとの戦いの中、僕は不意に後頭部から鋭い衝撃を受けた。こ、これはまさかディードの隠された魔法!? くっ、ナギ先生の一番弟子たるこの僕の裏をかくなんてやるじゃないか。
「……追加……」
「あぶぅっ!」
「ミ……ミコト!?」
後頭部から衝撃を受けたと思ったら今度は顎の下から衝撃が!? まるで鋭い打撃が顎下から入ったみたいだ。っくぅ、こんな魔法まで用意していたなん……て……あれ?
衝撃のあった後頭部と顎の下をさすりながら僕の懐で刀を振りぬいたままの姿勢で固まっているミコトと目が合う。
「……落ち着いた? ……」
首をかしげながら訪ねてくるミコト。あれ? 確か僕はディードと死闘を演じていたはずだけど。
「ま、まさか幻術!? いつの間にかディードの魔法にかかってたっていうの!?」
「何の話!? 勝手にシロが暴走してただけだよ!?」
背後からスノーちゃんの声がする。なぬ? 暴走? 言われてみれば勢いにまかせて色々ディードに説教かましたことは覚えているのだけど、何を言ったのかはよく思い出せない。
だけど、決着がついていない事だけは確かだ。
「二人とも下がって。これはナギ先生をかけた神聖な戦いなんだ。いくら相手が卑劣な誘拐犯だとしても一対一で最後までやらせてほしい」
いくら性根が腐ってるとはいえ、ディードもナギ先生の偉大さを知る人間の一人だ。そんな相手とは一対一で決着をつけたい。
「「ん」」
すると二人はそろってある方向を指さす。
一体何があるんだろうと思って見てみれば――そこには肩口から足までバッサリ何かで切り捨てられて白目をむいているディードの姿が!?
「な!? そんな……ディード。一体だれに……」
「いやこれシロがやったんだけど!!!???」
「……シロ君……大勝利……」
「うえええええええええええええ!?」
かくして僕とディードの魔法戦は(いつの間にか)終わった。




