魔力、感じ取れました!!
……あれからどれくらいの年月が経ったんだろう?
この森で修行を始めてから何日経ったかなんて途中で数えるのを止めてしまったからなんとなくでしか分からない。そもそも、数える余裕なんてないくらい森での修業は厳しかった。僕では太刀打ちできないんじゃないかっていうくらい強力な魔物がたまに現れるから気を抜ける瞬間がない。最初の頃は睡眠もまともに取れなかった。
少なくとも何十年かは経過している気がする。それだけ長い時間を修行に費やしても、僕は未だ魔力を感じ取ることすらできていない。出来るようになったことと言えば、生き物の気配を察知する事と気配を消すこと。それ以外の修行の成果と言えば日々続けている筋力トレーニングが生み出したこの引き締まった肉体くらいのものだ
とはいえ、その肉体も数年前? から衰え始めているような気がする。これでは魔力を感じるどころじゃない。一体いつになったら僕は魔力を感じられるようになるんだろう?
「はぁ」
思わずため息が漏れる。そんな時だった。僕の背後から急速に僕を目掛けて向かってくる生き物の気配。
「キシャアアァァァッッ」
当然それは人間ではない。人間の30倍ほどの大きさを持つ生物だった。
正式名称は分からないけれど。とりあえず蛇に似ているので『すごくでかい蛇』と僕は名付けた。見た目が蛇に似ているだけで本当に蛇なのかは分からないんだけどね。
背後から迫るすごくでかい蛇は僕を飲み込もうと突進してきている。すごくでかい蛇に丸のみにされる。そんなのはごめんだ。僕はすごくでかい蛇の進行方向から少し体をずらし、背後まで迫っていたすごくでかい蛇の長い胴体目掛けて蹴りを放った。
「ふんっ!!」
「ギャヒィン」
僕を獲物としか見ていなかったのか。すごくでかい蛇はまともに僕の蹴りを喰らってくれた。この森で僕の事を知らない生物がまだ居たとは……。まぁ僕としてはやりやすいからいいんだけどね。
怯んでいるすごくでかい蛇に僕はとどめとばかりに蹴りを放つ。
「はぁ~~~……アララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララァッ!!!」
「ギャビヒギィッ!?」
すごくでかい蛇が悲鳴を上げているが、それでも僕は蹴りを連続で放つ。蹴る――蹴る――蹴りまくる。このすごくでかい蛇が悲鳴すらあげなくなるまで蹴りまくるっっ!!
「――――――」
そうしてすごくでかい蛇は悲鳴を上げることも動くことも出来なくなった。
「ふぅ、向こうから食料が来てくれるなんて今日は良い日だなぁ」
まぁ落ち込んでいても仕方ない。この調子で修行をしていればいつかは魔力を感じられるだろう。なぁに、最初はこの森の生き物たちから逃げることしかできなかった僕だけど、今ではこの森に棲んでいる生き物たちを素手で相手できるようになったんだ。もしかしたら魔力を感じ取ることができる一歩手前まで来ているのかもしれない。そう考えるとやる気が満ち溢れてくる。
「よぅし! 今日も修行頑張るぞぉ!!」
そう決意した瞬間だった――
森をまばゆい光が照らしたのだ。
「なんだこれ!? まぶしっ!?」
とても目を開けていられない程の光の奔流。僕は目を閉じて、周りの気配を探る。生き物の気配は近くに――うん、小さな虫が何匹かいる程度で危険なものは居ない。
そうして辺りの様子を気配で探っていると光が収まってくる。
「収まった……何だったんだろう? 今のは?」
周りにも特に異常はない。すっごい眩しい光だったけど何だったんだろう?
「まぁいいか。とりあえずこのすごくでかい蛇を調理しよう」
そう思って僕はすごくでかい蛇を持ち上げようとする。
しかし、そうすることは出来なかった。
僕がすごくでかい蛇に触れた瞬間、なぜかすごくでかい蛇の体が崩れて消えていってしまったのだ。風の中にすごくでかい蛇の死骸は消え去ってしまった。
「えええええええええ!? 僕の食材が!? そんなぁ……」
僕は四つん這いになってその場で蹲る。今日はツいてると思った途端にまさかの不幸。ショックを受けるのも仕方ないと思うんだ。
あれ?
何か違和感がある。
なんだか体の奥から活力が溢れてくるというかなんだか体が軽いというか……うん。そうだ。体がいつもより軽い気がする。
それに手だ。僕は自分の手を見る。
そこにあるのは当然僕の手なのだけど、いつもと違う気がする。なんだか昨日までの物より瑞々しいというか健康的というか……とにかく昨日までの僕の手よりガッシリしているような気がする。
加えて体の底からあふれ出す活力。こんな力は感じたことがない。
これは……間違いない!!
「魔力だ!!」
この体の底からあふれ出してくるように感じられる力。これこそがナギ先生が言っていた魔力に違いない! さっきの眩しい光も、きっと魔力による物だろう。僕の魔力による物か、もしくはナギ先生の物かもしれない。
まぁ何はともあれ……これで僕はナギ先生の正式な弟子になることができる! 魔法を使えるようになるのもそう遠い話じゃないかもしれない。
「さっそく先生に報告しなくちゃ!!」
僕は駆け足でナギ先生の家に向かう。
ナギ先生とはこの数十年? の間会っていない。というより、先生から体を鍛えて魔力を感じるようにと課題を出されて以降会っていない。
同じ森に何年も居たのにおかしいと思うかもしれないが、これには理由がある。単純に僕が先生を避けていたのだ。
最初の頃、先生を避けていたのは先生に会ったら弱音を吐いてしまいそうだったから。
森での修行にある程度余裕が出来た時はまた別の理由で避けていた。長い時間を修行しているのに魔力を感じ取れない自分が情けなくて、先生に顔を見せたくなかったから。
だけどもう先生を避ける理由はない。むしろ、魔力を感じることができるようになった自分を見てくださいという気持ちが溢れてくる。
そうして僕は先生の家に辿り着くとそのドアを思いっきり開けて、
「ナギ先生! 僕……僕……魔力を感じ取ることができるようになりました!!!」
真っ先に報告したいことを口に出す。
そこには、
「へ?」
散らかった部屋の中、鏡に向かって色っぽいポーズを取っているナギ先生だった。しかも、何故か裸だった。
おっきな胸を腕で支え、谷間を見せつけるかのように屈んでいる姿は大人っぽいです。だけど、それとは反対にポケーっとしている感じの表情は子供っぽいなぁ。ナギ先生でもそんな顔をするのかー。
「…………」
「…………」
固まる僕とナギ先生。あれ? なんかナギ先生の雰囲気変わったかな? なんだか前に見た時よりずいぶん若くなっているような……なんて事を考える僕だったが、まずしなくちゃいけない事と言わなくちゃいけないことがあると遅れて気づく。
それは――
「ご、ごめんなさーーーい!!」
僕は急いでドアを閉めて、ナギ先生の家から出る。ああああああ、どうしよう。尊敬するナギ先生の裸をジーっと見ちゃったよ! 女性に対してなんて失礼なことをしてしまったんだ僕は……。これでスケベな僕を弟子にするなんてお断りだなんて事になったらどうしよう。ナギ先生だって女の人なんだからまずドアをノックするべきだったよーーー!
僕はナギ先生の家の前で頭を抱えてその辺を転げまわっていた。




