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完成です!!


「えーっと~。これでもない~。これでもない~。どこにしまったかなぁ~」


「姉さんどんだけ自分の魔法の袋に物を詰めてんだい!? もう部屋がぐちゃぐちゃじゃないか! 整理整頓くらいしたらどうだい!! それに何だいこの宝箱みたいなのは? 中にはもう何も入らないのかい?」


「いえいえ~。その中には何も入ってませんよ~」


「何だそうなのかい。だったらこの中に散らかったもん色々放り込んじまうよ? こんだけ汚いと落ち着かないったらありゃしない」


「何も入ってませんけどその宝箱、開けた人を噛んでくるんで気を付けてくださいね~」


「ああそうかい――って危なぁ!? そりゃミミックじゃないかい!! なんで姉さんそんなの袋にしまってんだい!?」


「どういう原理でミミックっていうモンスターが生まれるか気になったので昔持ち帰ったんですよね~。結局未だに分かっていませんけど。分かったのは餌をあげなくても死なないっていう事くらいですかね~」


「ミミックをペット扱い!?」



 ――とまぁ、こんな感じだ。

 ナギ先生は準備すると言って魔法の袋から色々な物を取り出していた。何に使うのか分からない不気味な人形から明らかに何かヤバそうな液体が入ってる試験管まで。しかし、未だにあれでもないこれでもないと魔法の袋の中の物を外に出していく。まだ準備の段階だというのにそれなりに時間が経っていた。


「……すごい……あんなに色々入るものなんだ……欲しい……じゅる……」

「!! だ、だよね! 魔法の袋なんて存在すら知らなかったけど凄い便利なんだなぁ。いやぁ、そんな物をすぐに作れるなんてさすがナギ先生だなぁ!」

「ねぇシロ? そんなに頑張ってフォローする必要ないと思うよ? 冷や汗出てるし」

「うーん、あなたっていうのも良いけどなんか呼びづらい……ここはやっぱりシロ兄か……ダーリンにするべきか……お兄ちゃんも捨てがたい」



 と、こうしてナギ先生が準備を終えるまで四人でだらだらと話していた。リンさんはナギ先生が色々と物を魔法の袋から出すたびに驚いていたが、どんどんとリアクションが乏しくなってしまいには何が出ても『ハハッ』と乾いた笑いを浮かべるのみになっていた。疲れたんですね。分かります。


 そうしてどれだけの時間が経った頃だろうか。『ありました~。早速作りますよ~』という声が部屋に響いた。どうやらやっと準備が完了したようだ。



「それじゃあまずはこの伸縮自在の糸を――」

「ちょい待ちな姉さん。袋の製作はこの散らかりまくった部屋をどうにかしてからにしないかい!? 魔法の袋の製作には時間がかかるんだろう!? その間ずっとこのままだなんてあたしにゃ我慢できないよ!!」


 そう言ってリンさんは部屋を見渡す。確かに部屋は最初に見た時よりも少し……いや、かなり散らかっていた。最初に用意してあった机と椅子は消え失せ、代わりにナギ先生の実験に関わる物がそこら辺に散らばっている。なんだかよく分からないゼリーのような物も散らばっていてこれ以上ないくらいこの部屋が汚く見える。何も知らない人がこの部屋を見れば『ゴミ箱か?』と言うだろう。


「え~、すぐに出来ますよ~。だから終わってからでいいじゃないですか~」


 そう言いながらもナギ先生はテキパキと魔法の袋の製作を進めている……ん?


「すぐっつっても一時間くらいかかるんだろう!? そりゃ特級魔道技師が数か月かかるのに比べりゃ早いどころの話じゃないけど――」


 リンさんが文句を言っている間もナギ先生の手は止まらず作業に没頭している。手だけが別の生き物のように素早く動いていた。


「はい出来ました~」

「――それでも一時間もこんな汚い部屋のままなんてあたしにゃ我慢できな……って出来たぁ!?」


「「「早っ!?」」」


 あまりの速さにみんなが驚く。だけど確かにナギ先生の手元には赤・青・黄・ピンクの色の袋があった。つまりはあれが魔法の袋なのだろうか? ずっとみていたけどただ用意してあった布に糸を走らせて袋を作っただけにしか見えなかった。いやまぁそれでもかなり器用だなぁと思いながら見てたんだけど。


「あの……姉さん? 確か魔法の袋の製作には一時間くらいかかるんじゃなかったのかい?」


 リンさんの言うとおり、確かにナギ先生はそれくらい時間がかかると言っていた。だけど、今かかった時間はせいぜい二、三分だ。あまりにも聞いていた時間と違いすぎる。

 ナギ先生は用意した道具と周りに散らばった実験道具? を自分の魔法の袋に戻しながら言う。


「そうですよ~。大体それくらいかかっちゃいましたね~。いや~、ここら辺の素材はあんまり使わないので袋のどこにしまってあるか分からなかったんですよね~。予想通り探し出すのに一時間近くかかってしまいました~」


 探す時間も含めての一時間だったの!? 確かに道具を探していた時間は一時間くらいだったかもしれないけどさぁ!?


「あー、うん。そうかい。もう驚かないよ」


 リンさんは虚ろな目でそう答えていた。どうやら驚き疲れて心が麻痺状態にあるらしい。



「それじゃあみなさんどうぞ~。可愛いのがいいとのことでしたのでそれっぽい色にしてみましたよ~。ただ、私は絵が下手っぴなのでイラストとかは付けられませんでした。後でそういう加工はいくらでも出来ると思うのでよかったら試してみてください~。なんだったら加工の仕方なんかも今度教えます~」


 そう言ってナギ先生は手元の袋を僕たちの目の前に並べてくれた。好きな色の物を取っていいという事だろう。


「じゃあこれもーらいっ!!」

「……かわいい……ピンク……ふふ……」


 スノーちゃんが真っ先に赤色、そのあとに続いてミコトがピンク色の魔法の袋を手に取っていた。

 残りは黄色と青色。


「お兄ちゃん。お兄ちゃんはどっちにする?」


 ………………んんん!?

 気のせいだろうか? いや、気のせいだろう。おーーーーい! どなたかのお兄さーーーん! あなたの妹がお呼びですよーーー! 何か言ってますよ――――!!



「ん。お兄ちゃんの心臓の鼓動が少し早い。これは私に恋してるとみた」 

「なぜそうなる!?」



 イリちゃんが僕の胸に自分の耳を押し当ててそんな事を言う。

 スルーしようとしていた僕だったが、さすがに無視しきれなくなって反応してしまった。



「大丈夫。照れなくても私は理解のある妹。結婚はまだ出来ないけど婚前交渉ならばっちこい」

「ダメだこの子僕の話まるで聞いてねぇ!?」



 少し前から積極的に話しかけてくれるようになったイリちゃん。……イリちゃん……だよね? 双子の妹かお姉さんだったりしないよね? もう以前のイリちゃんと完全に別人なんだけどどゆこと? 彼女に一体何があったの? 誰か僕に教えてくれない?





「はぁ。まぁいいや。じゃあ僕は青いのを貰おうかな」


 正直何色でも構わなかったけど僕が選ばない限りこの会話は永遠に続きそうな気がしたのでさっさと選んでしまう。


「ん」


 それを見てイリちゃんも残った黄色の魔法の袋を手に取った。

 よし、これでナギ先生の偉大な魔法の袋製作は終了だ。さぁ、帰って修行修行。もしくは他のクエストを受けて冒険者ランクを上げるっていうのもいいね。まだ僕たちは冒険者のパーティーの中では底辺の存在だ。折角冒険者になったんだから最高位ランクまで上り詰めたいよね! ナギ先生が確か聞いた話だとA級冒険者だったらしいから目指すのならばA級かなぁ。



「ねぇシロ。そろそろアレ出さない?」


 ……アレ? アレってなんだろう?

 スノーちゃんがじれったそうに僕を急かす。だけど僕にはスノーちゃんが何を言っているのかちんぷんかんぷんだった。



「……シロ君……倒した魔物の……素材……持って帰るの? ……」



 ……あ。

 そうだそうだ。すっかり忘れていた。僕が倒したえーと……グロースバジリスクの素材の鑑定をしなくちゃいけないんだった。ナギ先生の偉業に注目しすぎてて完全に忘れちゃってたよ。正直僕としてはどうでもいい事だったしね。そんなに高く買い取ってもらえると思えないし。



「ああ、そういや魔物を狩ってきたんだってねぇ? ゴブリンかい? それともスライム?」


「えーっとですね。これです」



 僕は懐にしまっていたグロースバジリスクの牙を見せる。


「………………」


 リンさんは疲れた様子で僕が提出した牙をぼーっと見ていた。疲れた感じで両目をごしごし。目をぱちぱちしてもう一度ごしごし。そんなに疲れているんだろうか?



「これ……なんの魔物の素材だい? 私の記憶が正しけりゃあグロースバジリスクの牙に見えるんだが……見間違いかい?」

「いや、合ってますよ?」


 どうしたんだろう? もしかして大したことのない魔物すぎて呆れられてるんだろうか? 怒られたりするんだろうか?



「そーかい。グロースバジリスクの牙かい。なるほどねー。あっはっはっはっは」

「そうなんですー。はっはっはっはっは」

「ところであんた。これはあんたら全員でやったのかい?」

「あー、いえ、僕がやりました。ナギ先生から教わった偉大な魔法の力で」


 まぁ、この程度の魔物相手ならナギ先生から教わった魔法を使うまでもなく倒せるんだけどね。


「なるほどねぇ~。ところであんた、このグロースバジリスクの他の部分はどうしたんだい? 皮とか目玉とか」

「ああ、それは置いてきましたよ。さすがにあれを全部持って帰るのは面倒ですからねー」



 魔法の袋がもう少し早く手に入っていればグロースバジリスクを丸ごと持ってこれたんだろうけど、あれを倒したときはそんなもの持ってなかったからなぁ。牙を持っていけば何の魔物か証明できるよと言われたから牙だけ持ってきたわけだけど。



「置いて来たのかい。なるほどねぇ。あっはっはっはっは」

「あっはっはっはっは」












「――なんてもったいないことしてんだいあんたら!? グロースバジリスクの素材なんてどの部位でも高く売れるんだよ!?」


 突然怒り出すリンさん。いや、そんなこと言われてもなぁ。


「その時は魔法の袋も持ってなかったし持って帰るのが面倒くさかったんですよ。……ちなみにおいくらくらいするんですか?」


 あまりのリンさんの怒りように少し気になったので聞いてみる。


「まず重要部位で綺麗に取れてるこのグロースバジリスクの牙は三百万ガルは下らないだろうねえ」


 三百万ガル? ちゆちゆ草のクエスト達成報酬が十万ガルだから……その三十倍の金額!?


「そんなに高く売れるんですか!?」


 驚いた。しかし牙だけでそんなに高く売れるなら確かに残りの部位も持ってきた方が良かったなぁ。


「そりゃまぁまずこんなのを狩れる冒険者なんて希少だからねぇ。値段も跳ね上がるさ。はぁ……まぁいいさね。さて、これの買い取りだけどまさかこれだけの素材を持ってくるとは思わなかったからね。ちょいと上に報告も必要だし金も持ってこないといけないから時間をもらいたいんだけどいいかい?」


「どれくらいかかりますか?」


「手早く済ませるつもりだけど……まぁ一時間程度もあれば問題ないはずさね」


 一時間かぁ。まぁ今日は帰って寝るだけだと思うけど……どうしよう?


「どうしましょうナギ先生?」


「いいんじゃないかな~? 別に急いで何かしなくちゃいけないって事もないしね~」


 確かにその通りだ。別に急いでないんだから一時間待つくらい問題ないだろう。


「話はまとまったようだね。それじゃあちょいと待ってくんな」


 そう言ってリンさんは部屋から颯爽と出ていった――かと思ったら数秒後にひょこっと戻ってきた。何か忘れものかな?


「ああ、それとだ。あんたらは確かE級冒険者だったよね? 多分この件でB級にあがるだろうから今度からはB級までの依頼は好きに受けてよくなると思うよ」


 それだけ言ってまたリンさんは引っ込んでしまった。え? 今なんて言いました? B級? そうか。B級か……。


「B級~~~~~!?」


 今までE級だったのにいきなりB級!? え!? なんで!? どうしてぇ!?

 いきなりのB級宣言にみんなも驚いて……







「まぁ、そうなるよね」

「……当然……むしろ……もっと上がるかな? って思ってた……」

「さすがシロ兄。パチパチ」

「まぁA級の魔物を倒したんですからそうなってもおかしくないですよね~」





 驚いていたのは僕一人だけで少し虚しくなった。



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