なんかグイグイ来ます!!
という訳でやってきましたギルドのカウンター裏にある個室。リンさんの話では秘匿情報が関わるクエストについての案内をするときや、大口の報酬が支払われるときに使われる部屋らしい。余談だけど似たような個室が他に二部屋あるらしい。
部屋には大きな石の机。そこに配置してある八つの石の椅子のみ。洗練された石は輝いてすらいます。石の種類や製法なんかには興味ないけどなんだかお金がかかっていそうな感じです。
「あ、これちょっと邪魔なんでどかしますねー」
その椅子と机をナギ先生は速攻で消し飛ばした。
――否。正確に言えば椅子と机はナギ先生の持っている魔法の袋へと入って部屋から消えた。
「はあああああああああああああああ!? 姉さん一体何やってるんだい!?」
リンさんはそんなナギ先生のファーストアクションに早速ビックリしていた。まぁ僕も正直驚いたのだけど。
「え? いや、ですから邪魔だったんでどかしただけですよ~?」
「どかしただけって……じゃあどこで作業するんだい!?」
「どこでって……ここでですよ? それじゃあ準備をするのでちょっと離れててくださいね~」
まだ色々と言い足りない様子のリンさんだったが、もうツッコムのにも疲れたのか。ため息と共に肩を落として黙ってナギ先生の事を見つめていた。
「早速びっくらこいたね?」
「……便利な袋……わくわく……」
「私もびっくり」
「だよね! さっすがナギ先生だよ!!」
ナギ先生の偉業に驚いているスノーちゃん達の会話に混ざる。
「うん! さっすがシロの先生だね! 私もナギ先生の下で修行すればシロみたいに強くなれるのかなぁ」
「もちろんだよ! スノーちゃんはもう魔法が使えるんでしょ? 僕は全く魔法が使えなくて弱っちかったけどナギ先生の下で修行してここまで強くなったんだ。スノーちゃんならもっと強くなれるよ!」
「本当!?」
「もちろん! ナギ先生に不可能はないんだよ!!」
「ナギ先生って本当にすごいね!?」
「そうでしょそうでしょ!? さすがはスノーちゃん。話が分かるね!!」
さすがナギ先生としばらく行動を共にしてただけあるね! 人間の中には悪い人も居るってこの前ナギ先生に教えてもらったけど、ナギ先生の事を尊敬する人に悪い人は居ないのさ!(確信)
「スノー姉……ナギ先生の話ちゃんと聞いてたよね? ナギ先生の修行を受けても意味がないっていうかナギ先生は修行なんてシロにさせた覚えはないってスノー姉も聞いてたよね?」
「……イリちゃん……ムダ、だよ? ……スノーちゃんは……ノリと勢いで生きてるから……きっともうそういうの……忘れてる……」
「まだ半日も経ってないのに……スノー姉……」
「……ふふ……いい雰囲気……だね? ……」
「!!?? 負けない」
なんだかミコトとイリちゃんがこそこそと話してる。ミコトは終始微笑ましそうにこちらを――主にスノーちゃんを見つめていた。逆にイリちゃんは可哀そうな人を見るような目でスノーちゃんを見つめていたかと思えば次の瞬間にはまるでライバルを目の前にしたかのような鋭い目でスノーちゃんを見つめだした。一体どんな会話をしていたんだろうか?
そしてイリちゃんはまるで今から戦いに赴くのではないかというくらい険しい顔でこっちに近づいてくる。なんだか分からないけど凄い気迫だ。気迫だけで言えばナギ先生の家がある森で修行をしていた時に一番手ごわいと思った魔物レベル……いや、それ以上かもしれない。
そしてイリちゃんは口を開く。
「わ、私もナギ先生に弟子入りするっ!!」
……
…………
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「えーと……いいんじゃない?」
僕はそう答えた。むしろそれ以外にどう答えろというのだろう?
「だからシロは私の兄弟子」
「う、うん。そうだね。でもまだナギ先生がOKするか分からないよ?」
「大丈夫。ナギ先生が嫌って言っても弟子にしてもらう」
「それって本当に大丈夫!?」
僕も人の事を言えないけどどんだけナギ先生の弟子になりたいんだろう? そんなに強さを求めるタイプには見えなかったんだけど……。
「シロは私の兄弟子。だから、呼び方を改める。これからは『シロ兄』でいく」
「兄弟子との距離がいきなり近くなったね!?」
僕の知ってる兄弟子と弟分はそんなに馴れ馴れしくなかった気がする。
「ダメ?」
「いや、別に僕はどう呼ばれてもいいからいいんだけどさ――うん、そうだね。どう呼んでもらってもいいよ? イリちゃんとはあまり話せてなかったから仲良くしたいしさ」
イリちゃんは口数が少ないからあんまり会話をしないんだよね。こうやって向こうから話しかけてくるなんて初めての事じゃないかな?
「仲良くしたいって……それじゃあ……あ、あなたって呼んでも……いい?」
「いや待って。それはおかしい」
一体何がどうなってそういう呼び方になったんだろう?
「さっきどう呼んでもいいって言った。男に二言はないはず。シロ――あ、間違えた。あ……あなた」
顔を真っ赤にさせて断固『あなた』呼びをやめないイリちゃん。何が彼女をここまで突き動かしているんだろう?
「いやまぁ別にどう呼ばれてもいいんだけどさ……」
「ん!!!」
僕が了承するとイリちゃんは小さくガッツポーズ。小さくこっそりしているつもりかもしれないけど、そんなに何度もガッツポーズをしてたらこっそりだろうが嫌でも目に入るよ? 何がそんなに嬉しかったの? 僕にはさっぱり分からない。
「ねぇシロ、そろそろツッコんでいいかな?」
スノーちゃんがある一点を見つめながらそう問いかけてくる。かくゆう僕もイリちゃんと話している間、スノーちゃんが見つめている一点をチラチラと見ていた。だからスノーちゃんが何を言いたいのか、凄くわかる。だけどあえて言おう。
「ダメだよ」
一刀両断。ダメだと端的に告げる。
「いや、でも――」
「ダメったらダメだよスノーちゃん。僕……いや、弟子である僕たちには見守る事しか出来ないんだ」
そうして僕は言葉通り見守る。魔法の袋の製作に勤しむナギ先生を。
――いや、あれは製作に勤しんでいるといっていいのだろうか? だってナギ先生は――