私の苦悩~verナギ~ 2
「シロが本当は六十歳のおじさんで――」
「……もの凄い力持ちさんで……その力を魔法だと勘違いしてて――」
「その上、魔法じゃない不思議な力も使える――」
「そういう訳なの~。あ、若返りの魔法についてとかは他言しないでくれると嬉しいな~。私が権力者さんとかに狙われちゃうと思うから~」
不死や若返りの魔法については昔から研究されていた。私が若返りの魔法を使って若返ったと知られたら間違いなく狙われるだろう。そして捕まえた私に対し、拷問でもなんでもして若返りの魔法についての情報を吐かせようとするだろう。若返りの魔法について答えるのはいいんだけど、生憎私の若返りの魔法が成功した理由は私自身良くわかっていない。聞かれてもキチンと答えられないのだ。それで情報を隠してると思われて拷問される日々……うぅ、考えただけで恐ろしい。
「でもなんでナギ先生はシロに本当の事を話してあげないの? ずっと騙されてシロがかわいそう。シロが使ってる力が魔法じゃないって教えてあげればいいのに……」
スノーさんの言う事はもっともだ。でも――
「スノー姉、それは難しいと思う」
「どういう事? イリちゃん?」
「スノー姉、シロの今までの態度を見て分からない? なぜかものすごくナギ先生を尊敬していて、思い込みが激しい。多分あれだとナギ先生がキチンと話したとしても冗談か何かだと思われるのがオチ。それに……シロは魔法に対して妙な憧れがあるってさっきナギ先生が言ってたでしょ? そんなシロに『シロが使ってる力は魔法じゃない』だなんてナギ先生は言いにくいと思う。真実は時には人を傷つける。むしろ伝えるほうが可哀そうかも」
「そうなの!! シロ君はなぜか私の事をすごーく持ち上げるの!! それにシロ君が魔法を使えたと喜ぶ姿を見ていたらやっぱり『それ魔法じゃないよ』だなんてとても言えなくて……」
そうなのだ。
なぜかわからないけどシロ君は私を過剰に評価している。さっきなんて神だなんだと言っていたしシロ君はどれだけ私を凄い人だと勘違いしてるんだろう?
そして魔法を一つ覚える度(シロ君がそう思い込んでるだけ)に見せるはしゃぎようを見たら……とても『それは魔法じゃない』だなんて言えないのよね~。
もっと言えば先ほどイリちゃんを治療した力。あの力の事を『魔法じゃないならこの力は何ですか?』なんて聞かれたら答えられないのよね~。だって分からないとしか答えようがないものね~。分からないっていう事はあの力は魔法である可能性がない訳でもなくて――だからこそ私はシロ君に真実を伝えずにいるのよね~。まぁ今回、魔法が効かないはずのイリちゃんの傷を治したことであの力が魔法である可能性がさらに減ったわけだけど……。
「……ナギ先生はこれからどうするの? ……シロの事、どうするつもり? ……」
「どうするつもりって言われても困っちゃうかな~。私はシロ君を観察できればそれでいいのよ~。後は私が引きこもっているいる間に新しい魔法がどれだけ生まれたのかも知りたいかな~。それと新しく私が製作した魔法を広めたいわね~。私の目的としてはこんな所かしら~。まぁシロ君の観察が今一番したいことだから他はおいおいだね~」
シロ君は私が偶然発動させたと思われる若返りの魔法で若返った数少ない個体だ。シロ君の不思議な力も若返りの影響によるものかもしれない。ならば、シロ君を観察することでどうして若返りの魔法が偶然発動してしまったのか? どうすれば若返りの魔法を成功させることができるのかが分かるかもしれない。他の魔法の研究をする時間を得るために一番必要なのは時間だ。だからこそ、私は他のどんな魔法よりも先に若返りの魔法の研究を最優先にする。
「……つまり……シロ君と一緒に居ることだけが今のナギ先生の目的? ……」
「まぁそうね~」
若返りの魔法の原理を解明していつでも使えるようにできれば少なくとも寿命的な意味では不死になれる。そうすればいろんなことに時間をたくさん使えるようになる。シロ君と一緒に過ごして、若返りの魔法の原理を追求する。これに勝る優先事項はないわね~。
「つまりナギ先生は敵じゃないっ!」
「イリちゃん? 何かいい事でもあったの? ガッツポーズなんて珍しい」
「何でもない……ところでスノー姉とミコト姉はシロの事、どう思ってる?」
「シロの事を? うーん。凄く強い男の子だなーって思ってるよ? 正直六十歳って聞かされても今まで同年代だって思ってたから男の子っていう意識が消えないかな」
「いや、そういう事じゃなくてね。うーん……スノー姉、シロの事すき?」
あらら~? なんだか話が思わぬ方向に行っちゃったわね~。こういう話は苦手かも~。
「もちろん好きだよ!! 同年代の男の子の友達なんて初めてだし」
いやいやスノーさん? 鈍い私でもイリさんが聞きたいのはそういう事じゃないって分かるわよ~?
「よしっ! スノー姉も今の所、敵じゃない」
しかし、そんなスノーさんの答えでもイリさんは満足だったみたい。またもやガッツポーズをとっている。
「……シロ君……とっても良い子……仲良く……したいね? ……」
「ミコト姉、ミコト姉はシロの事すき?」
「……ん~~~~……ふふ、秘密……」
ミコトさんは人差し指を唇に当てて可愛らしくウィンクしてイリさんの問いに答えていた。
「!!!??? ミコト姉は危険。私も負けてられないっ!!」
「え? なに? 何か二人で勝負するの? 私も混ぜてーー!!」
「……ふふ……こういうのも……楽しいね? ……」
いつの間にか真面目な話は終わりになって、ガールズトーク的な物にかわっていた。私はそういう恋愛みたいなものに興味なんてなかったからちょっと付いていけない。それでも、これだけは分かった。
「なんていうか……シロ君モテモテだね~」
そうしてその数分後……三十分が経過して帰ってきたシロ君と一緒に私たちはアバンの街へと帰っていった。