表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/29

ナギ先生は凄いんです!!


「僕の名前はシロ――最強の魔導士ナギ先生の一番弟子だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 改めてそう宣言する。しかし、目の前のクズ男――グリルからの反応はない。誰それ? みたいな反応だ。この野郎――ナギ先生の名前を聞いて何も反応しないなんて……なんて無礼なんだ!!


 グリルの態度に更にムカついた僕はグリルの手首を少し強く掴む。


「いっつぅ! 離せ!」


「うん、わかった」


 僕はグリルの言う通りに、彼の手を離す。

 グリルは一瞬訝し気にこちらを見たが、


「ふ、はは、ははははははははは! バーカめぇぇぇぇぇぇ! 敵のいう事を素直に聞くなど甘いを通り越して馬鹿としか言えぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! さぁ、踊れぇ! 血しぶきと共になぁ!!」



 そうしてグリルは僕から距離を取りながらその右腕を振るう。



 ――シュパッ――



 グリルの攻撃を僕は右の手刀で切り裂く。



「なにぃっ!?」


 グリルの目が驚愕で見開かれる。まさかこんな一撃をまともに喰らうとでも思ったのだろうか? このナギ先生の弟子であるこの僕に!!



「こんな糸で最強の魔導士であるナギ先生の弟子の僕を傷つけることなんかできないよ」



 グリルの攻撃は糸によるものだ。

 細い糸がグリルの十指から伸びていた。グリルはその糸で攻撃してきていたんだ。魔力でも込められているのか分からないけど、それは人間の肉も簡単に両断できる糸。まぁその糸もナギ先生によって鍛えられた僕を傷つけるには至らなかったみたいだけどね。逆に切ってやったよ。ざまぁみろ!!


「いやあの……一応この糸は硬度を極限に追求した鋼鉄製で簡単には斬れないはずなのだが……」


 なにやらグリルがぶつぶつ言っている。おのれ……ナギ先生みたいにぶつぶつ言いやがって……真似のつもりか図々しい!!


 僕は距離をとったグリルの懐へとダッシュで駆ける。



「っな!? 馬鹿な!? いつの間に!?」



 僕が少し本気でダッシュしただけで驚くグリル。三下である彼には僕の姿が消えたようにでも見えたのかな? まぁこれこそがナギ先生による修行の成果だね。そして喰らえ! これこそがナギ先生に教わった攻撃魔法!!


 僕は溜めの為に右こぶしを目いっぱい握って、力を籠める。そして思いっきり――突き出す!!


「エアロ――ショットォォ!!」


鉄線防御てっせんぼうぎょ――ってぐおぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



 グリル目掛けて放たれた僕のエアロショットはグリルを彼方へと吹き飛ばした。何やらグリルは残った糸で防御していたみたいだけど……どうやら無駄だったみたいだね。やっぱりナギ先生から教えてもらった魔法は凄いなぁ。



 さて、イリちゃんの事が心配だし戻るとしようか。今頃ナギ先生がイリちゃんの治癒を完了させている頃だろう。ナギ先生に不可能なんてないからね。

 そう思ってナギ先生やイリちゃんの居る方へと顔を向ける。そこには――



「イリちゃん……死なないで……イリちゃん!!」

「……」

「……スノーちゃん……もう……」

「私の……せいで……」


 全く動かないイリちゃん。僕の探知魔法でイリちゃんの反応だけがどんどん弱くなっているのに今更だけど気づく。まさか……まだ治療していないの!?



「何やってるんですかナギ先生ぇぇぇぇぇ!!」


 ナギ先生はイリちゃんの目の前で四つん這いになっていた。辛そうな顔をしているけど――まさかナギ先生の魔法でも治療できなかったとでもいうの!? そんな事はあり得ない! ナギ先生なら死者を蘇らせることすら可能なはずだ!(多分)



 僕は全速力でイリちゃんの元まで行く。



「シロ君!?」


「ナギ先生! イリちゃんを……イリちゃんを助けてあげてください! 僕のせいで……僕がもっと早くみんなの為に動いていればこんな事には……だから、僕のせいなんです。だから!!」


 僕がもっと早くイリちゃん達の手助けに入ればこんな事にはならなかった。相手が人間だからと油断しきっていなければこうならなかった。だから――イリちゃんが大怪我したのは僕のせいだ。


「だから、僕のせいだから……先生! どうかイリちゃんを……治してあげてください!!」


 別にイリちゃんと特別仲が良い訳じゃない。特にイリちゃんはあまり喋らないし何を考えているのか分からない子だ。昨日と今日少し行動を一緒にしただけで仲良くなれるわけもない。

 でも……死ぬのはダメだ! 目の前で誰かが死ぬのは嫌だ!! 僕の手の届く範囲の命なら――救いたいんだ!!

 


 などと考えていたら、



「んん……あれ? わたし……」

「「「イリちゃん!?」」」



 イリちゃんが目を開けた!

 僕は彼女の体を起こし、ゆっくりと揺さぶる。



「待っててねイリちゃん! すぐに……すぐにナギ先生が治してくれるから。大丈夫。ナギ先生に不可能はないんだ!」


「へ? え? え?」



 揺さぶられるイリちゃんは何のことか分からず慌てた声を上げている。あれ? なんか元気じゃない?



「うそ……」

「……治ってる……」

「これは……」 



 スノーちゃん達がまじまじとイリちゃんの背中を見つめている。そこはイリちゃんが敵の攻撃を受けた場所だ。

 まさかと思って僕も彼女の背中へと目を向ける。



「治ってる……」


 イリちゃんの背中の傷はきれいさっぱり消えていた。出血した時の血が色々な場所に付いているものの、傷自体は完全にふさがっていた。

 自然治癒なわけがない。こんなのは自然現象じゃ絶対に起こりえない。という事は――答えは一つ!



 ――さすがはナギ先生だね!



「すみませんでした先生。僕が何かを言うまでもなくイリちゃんの治療をしてくれていたんですね。そうとは知らず声を荒げちゃってすみませんでした!」



 僕はその場でナギ先生にDO・GE・ZAする。これは頭を地面にこすりつけ、相手に誠心誠意謝罪するポーズだ。


「「「「え?」」」」


 不思議そうな顔を見せるスノーちゃん達三人&ナギ先生。あれ? また何かやっちゃったかな?

 はっ!? そうか! さっき僕はナギ先生に対して『何やってるんですか!』と愚かにも先生に対して意見しちゃったからね。この程度のDO・GE・ZAで足りる訳がないじゃんっていう事か!!

 そうと決まれば話は早い。



「本当に……ホンッッッッットウにすみませんでしたナギ先生! 僕みたいなひよっこがナギ先生に意見するなんてどうかしていましたぁぁぁぁぁぁぁ!」



 僕はDO・GE・ZAを連打――地面に頭を何度も何度も何度も叩きつける。勢いよく頭を打ち付けているせいで頭が痛い。それと心なしか頭を打ち付けるたびに地面が削れている気がする。


「ちょっ!? シロくん!?」


「生意気なこと言って本当にすみませんでしたぁぁぁぁぁ! 許してくださいナギせんせぇぇぇぇぇぇぇ! だからどうか……どうか破門だけはご勘弁をぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 まだまだナギ先生にはいろんな魔法を教えて欲しいんだ! 破門だけは避けないといけない。頭から血が出ているような気がするがそれでも僕はDO・GE・ZAを続ける。



「わ、分かったから~。許すし破門になんてしないから~。だから落ち着こう? ね?」


「ナ、ナギ先生……」


 なんて優しいんだナギ先生! 偉大なるナギ先生に意見した僕の事を許してくれるなんて……。






「……シロ君……」


「ん? どうしたのミコト?」


 僕の肩をトントンと叩くミコト。まったく……ナギ先生の慈悲深さに感動してたというのに邪魔された気分だよ。もちろんそんな事思っていても口には出さないけどね。


「……シロ君……ちょっと遠くに行ってて?……」


「え? なんで?」


 僕をナギ先生から引き離そうとするなんて……


「……シロ君……ナギ先生の言う事聞かない……悪い子……」



 なん……だと




「それは一体どういう事かなミコト? 詳しく聞こうじゃないか。僕はナギ先生の一番弟子にして従順な下僕だよ」


 

 胸を張って僕はミコトに宣言する。



「シロくぅん!? シロ君は本当に私の事をなんだと思ってるのかなぁ!?」

「? 神ですが?」

「神ぃ!? シロ君それ冗談だよね!? 冗談って言ってぇ!?」


 まったく……ナギ先生は謙虚な人だなあ。ナギ先生ならこの世の全ての人間から女神として祭られていても全く違和感ないというのに。


「さてミコト。僕がこの世の神にも等しい……いや、神よりも上位に位置しているナギ先生の言う事を聞かない悪い子だって? 一体どうしてそう思ったのか詳しく聞こうじゃないか」


「あぁ……シロ君の中で私への評価が際限なく上がっていく……」

「ナギ先生ってとっても凄いんだね!!」

「スノー姉、多分そういう問題じゃないと思う」


 ナギ先生がまたぶつぶつと何かを言っている。どこか不満そうな顔だ。うーん……ナギ先生の偉大さを示すために比較として神を出してみたんだけどそれが気にくわなかったのかな? そもそもナギ先生は偉大過ぎて他の何かと比較する事なんて出来ないって言うべきだったかな? うーん、失敗失敗。


 まぁ後悔は後でしよう。それよりも聞き捨てならないのはミコトの言葉だ。僕がナギ先生の言う事を聞かない悪い子だなんて……そんなことある訳が――



「……ナギ先生……『落ち着いて』って言った……シロ君……さっきから慌ただしい……」




 ………………


 …………………………


 …………………………………………ハッ!? 確かに!!

 思い返してみればさっきから僕は全然落ち着けていないじゃないか!!



「……だからシロ君……ちょっと遠くに行ってて? ……うーんとね……さんじゅっぷん……のんびりごろごろ……そうしたら……落ち着くね?……」



 確かにミコトの言う事は正しい。このまま僕がこの場に居ても落ち着くなんて事は出来ないだろう。というか近くに偉大なるナギ先生が居るっていうだけで僕のテンションはアゲアゲマックスで落ち着くとかぶっちゃけ無理だ。


 という訳で――



「うんわかった! それじゃあすみませんナギ先生! 三十分くらい頭を冷やしてこようと思います!」


「ちょっと!? シロくぅん!? お願いだから話を聞いてぇ!?」



 そう言って僕はダッシュでその場を後にした。テンションが上がりすぎてさっそくナギ先生が僕を呼び止める幻聴が聞こえてきたよ……。まずは落ち着かないと……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ