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団体客です!!



 クエストの依頼通り、僕たちはちゆちゆ草を十本採取した(多すぎると後の人が困ると思ったので十本きっかりにした)。採取したちゆちゆ草はナギ先生に持ってもらっている。この中で一番強いのはナギ先生なので先生にお願いしたのだ。ナギ先生は凄く微妙そうな顔をしていたが了承してくれた。もしかしたら荷物持ちをさせられているみたいで不満だったのかな? やっぱり僕が持つべきだったかもしれない。


 そうして僕たちはハプニンの森から出た。ハプニンの森を出るまで辺りを警戒していたけど特に危険なことはなかった。イリちゃんが言うには原因不明の事態とやらは一か月に一回起こるか起こらないかという程度の頻度らしい。ましてやA級の魔物がいきなり出てくるなんて今までになかったことなんだとか。だからこそハプニンの森に行くとなっても反論しなかったらしい。



「ん?」


 念のため展開していた気配察知が近づいてくる異物を知らせてくる。

 一、二、三、十……反応が幾つもある……ってなーんだ。この気配は魔物じゃなくて人間の物だね。僕たちと一緒でハプニンの森でクエストをこなす人たちかな? 随分と多くの人で挑むんだなぁ。



「どうかしたのシロ?」


 急に立ち止まった僕を気にしてスノーちゃんが振り返る。どうやら彼女は近づいてくる人たちにまだ気づいていないみたいだ。まぁまだ視認も出来ないしね。まぁ危険でもないし伝える必要もないか。


「いや、何でもないよ。それよりも早く帰ろう。これが本当にA級のグロースバジリスクだったのか気になるしね」


 僕はグロースバジリスクの牙を取り出しながらそう言った。これは先ほど始末したグロースバジリスクの牙だ。死体をそのままにして帰ろうとする僕をスノーちゃんは止め、これは取って帰ったほうが良いと教えてくれたのだ。クエストなど関係なく、魔物の素材買い取りはギルドでいつでも受け付けているらしい。


「きっと大騒ぎになるよ!! A級の魔物を狩れる人なんてそうそう居ないもん!!」


「あはは」


 スノーちゃんはそう言ってくれるが僕としてはやはり疑問だ。というより未だにさっき僕が倒したのがA級の魔物だと僕は信じられないでいる。案外ギルドに行って調べてみたらなんてことない動物の牙だって言われるんじゃないかな? とすら思っていた。


「スノー姉、ミコト姉。止まって。誰か近づいてくる」


 そう言ってイリちゃんが腰から見慣れない物を取り出す。金属で作られている筒状の何かだ。何かってなんだよって? それが分からないから何かって言うしかないんだよ!!


「誰かって?」

「……人間? 何人? ……」


 スノーとミコトは懐から刀を取り出して構える。あれ? 雲行きが怪しいなぁ。もしかして近づいてくるのが魔物だと勘違いでもしているのかな?


「少なくとも十人」

「狙いは私たち……かな?」

「……多分……そう……」


 なんだか目と目で通じ合っている感じのスノーちゃん達。僕とナギ先生は置いてけぼりだ。



「ナギ先生。スノーちゃん達はどうしたんでしょう? 何に対して警戒してるんでしょう?」


 周囲を探っても感じ取れるのはやはり人間のみだ。近づいてくる十六人の人たち。魔物なんて混じっていない。僕たちと同じ人間なんだから危険なんてないのに。


「シロ君、シロ君は何か感じる?」

「? はい。十六人がこっちに向かって真っすぐ向かってきています……いや、一人だけなぜか立ち止まりました。どうしたんだろう?」


「シロ君は最初っからそれに気づいていたの? イリちゃんが気づく前に?」


「はい。特に危険もないし言う必要もないかなと思って何も言いませんでした。相手が魔物ならともかく人間ですしね」



 相手は言葉の通じる人間だ。警戒する必要なんて皆無だろう。



「そっか~。まぁ今回しっかりと学ぶといいよ~。私もしっかり観察させてもらうから~」


「??」


 観察って何のことを言ってるんだろう?

 などと思っている間にも僕たちの元へと向かってくる人達。それは視認できるくらいの距離まで近づいてきていた。



 僕が察知した通りの人数の十五人の男たち。その全員が武器を持って僕たちとの距離を少しづつ詰めてきていた。ある男はナイフを片手でクルクルと弄び、またあるものは片手で大剣を引きずりながら歩き、またある者は黒い水晶の付いた杖を構えながら向かってくる。


「何の用ですか?」


 スノーちゃんが向かってくる男たちに問いかける。その声にいつもの気楽さはない。それは敵に向けるような低い声だった。視線も魔物を見るような……いや、それよりも鋭い視線をスノーちゃんは男たちに向けていた。

 それはミコトやイリちゃんも同じだった。相手は人間だというのに魔物を相手にするよりも強烈な殺意を男たちにぶつけていた。



「おーおー、随分な挨拶だなぁ! こちとら先輩冒険者として色々教えてやろうと思ってわざわざやってきたのによー」

「初心者さんがこんなとこ来て危ないよー。俺たちがもっと安全で確実な稼ぎ方ってやつを教えてやるぜ?」


 男たちが嫌らしい笑みを浮かべながら、しかしとっても親切な事を言ってくれている。先輩冒険者さんがこんな所までアドバイスしに来てくれるなんて……やっぱり冒険者っていうのは互いを助け合う素晴らしい人たちなんだなぁ。



「心配してくださってありがとうございます! でも心配いらないですよ。僕たちはきっちりクエストをこなしましたし、こっちには偉大なるナギ先生がいらっしゃるんですから」


 こんな所まで来てくれた冒険者さんたちには悪いけれどこっちには元ベテラン冒険者だったナギ先生が居るんだ。教えてくれる先生は一人でいいだろう。というより僕はナギ先生以外の人の下で何かを学ぶ気はない。



「あ゛? 何いきなり前に出てきてくっちゃべってんだ? オメェ? まぁなんだ……男は要らねぇ。死んどけ」



 男たちの一人がイリちゃんと同じような金属で作られている筒状の何かを僕に向ける。シンドケ? シンドケって何かの暗号だろうか? 冒険者なら知らないといけない事だろうか?



「シロ!!」



 後ろでスノーちゃんが僕の名を叫ぶ。一体どうしたというのだろう? 僕は向けられている筒状の何かから目を逸らし、振り返る。


 ――パァンッ――


 振り返る途中で衝撃で僕の体が飛ぶ。衝撃? 一体何が起きたの? 振り返る途中で重心が後ろにあったという事もあって僕の体は後ろに飛んでいく。何が起きたか把握できていない僕はそのまま倒れる。



「シローー!!」


「あひゃひゃひゃひゃは。なんだぁ? 銃を真正面からジーーーーっと見つめやがってよー。田舎もんは銃の事も知らねえのかぁ? 一発で沈むとはさすがルーキー。手間がかからなくて助かるぜ」


「後は上玉の女だけだぁぁ! てめぇら、あんまし傷つけんじゃねぇぞぉぉぉぉ!」


「「「おーーーーーーーー!!」」」



「シロ……っく、行くよ、ミコト、イリちゃん!」

「……シロ君の仇……天誅……」

「スノー姉とミコト姉は私が守る」



 そうして戦いの火蓋が切って落とされる。


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