禍津解錠 9
今度こそ本当に敵が消滅したのを確認した俺は今までの疲れが一気に押し寄せて来て、その場に座り込む。
「はあ〜、勝ったー」
あぁ、実に晴れやかな気分だ。
俺はそんな清々しい気持ちのまま、周囲を確認して周りにマガツモノが居ないことを確認すると道路の真ん中で横になり、警戒は怠らずに、少しの間休憩することに決めた。
一方その頃。
2グループに別れていた九條学園の生徒達は一所に集合し、敵と対峙していた。
「騎士!暁良はまだなのか?この敵にはあいつの能力が最適だろ」
「あ、ああ···今、新種のマガツモノを倒した所だが、少し待ってくれ」
遼が無線で本部にいる騎士に問いかけるが、騎士は何かを渋る様に取り合おうとしない。
「ちっ、意味わかんねー」
そう愚痴を言いつつ、遼は目の前のマガツモノを見る。
そいつは体長30mくらいの四足歩行の恐竜っぽい姿で、背中には自身の卵が数十個程埋め込まれているという大変に気色の悪い見た目であった。
またそのマガツモノも暁良の戦っていた敵と同様に新種であり、九條学園の生徒達は探り探りによる戦いを余儀なくされてしまっていた。
そして同時に、そいつは遼が今まで戦ったどのマガツモノよりも強力であり、九條学園の生徒数十名でかかってやっと相手できる様な存在であった。
「いや確かにお前がこの敵の能力をある程度解明してくれたおかげで戦い易く放ってるけどよ!!」
と、遼は自身の手に持った神具、参丁参段散弾銃を連射し、恐竜に攻撃をしかける。
それにより敵にダメージを与えることに成功すると、敵の背中の卵から人間位の大きさの二足歩行の恐竜が殻を破って外界に姿を現した。
そして、それを見た親恐竜との戦闘に参加していなかった生徒達は、待っていたとばかりにその生まれてきた子供に対して攻撃を仕掛けた。
···と、こんな具合に生徒達は親の恐竜を攻撃するグループと生まれてきた子供と戦うグループに完全に別れながら戦闘を行っていた。
それはドローン型のカメラでこのマガツモノとの戦闘を見ていた騎士が提案したものであり、そして騎士が敵を観察し導き出したこのマガツモノの能力は以下のようなものであった。
本体に一定のダメージを与えると、背中の卵が孵り、そのダメージの間に与えられた攻撃に耐性を持った子供を産み落とす。
産まれてくる子供は持っている耐性によって微妙に姿や色が異なる。
背中の卵が親の体力の指標になっていて、時間内(2分)に一定のダメージ(卵を2個孵化させる位)を与えないと卵1個分、敵の体力が回復してしまう。
と、これらの事から2チームに完全に別れる事で子供に与えられる耐性に対応していた。
がしかし問題もあった。
それは産み落とされた子供が耐性無しでも中々に強敵で1対1では対処が難しく、更に約1分で1体敵が増えてしまうことから、子供の処理が間に合わず、現在では親の背中に背負われた残りの卵が30個程で、既に産まれている子供が7体という状況になってしまっていた。
「ちっ、向こうの処理が間に合ってねーって」
遼はイライラしながらも、フォローに入るため親への攻撃を自身の能力で生み出した鎧を纏った鬼、鎧鬼に任せ子恐竜の方へと走る。
「騎士、俺の攻撃に耐性を持って無いやつはどれだ?」
「お、おお、ちょっと待て」
遼の問いに答えるため騎士はドローンのカメラを子恐竜の方へと向けた。
そして少し前の記憶と擦り合わせて、遼が攻撃していなかった時に産まれた子供が居ないか探す。
「あ、今飛び上がった赤い奴と、1番奥の少し黄色がかった奴、その2体には攻撃が通る筈だ」
「って、聞いといてあれだけど、なんで覚えてんだよ。すげぇなぁ!」
そう賛辞を送りながら、遼は散弾銃を構え赤い敵に向かってエネルギー弾を放つ。
しかし。
「っておい、効いてねーぞ」
無数の銃弾を浴びても、ほぼ無傷な敵を見て愚痴をもらす遼。
仕方なく、目標を奥の方の敵に切り替えて様子見で数発銃弾を撃った。
すると、どうやらそちらには攻撃が通る様で、いくつかの銃弾を浴びて敵は苦しそうに鳴き声をあげた。
「よし、こっちには通ったか」
「···」
「まあ、そういう事も有るって気にすんなよ」
と遼は押し黙る騎士に対してフォローを入れた後、敵の息の根を完全に止めるために一気に距離を詰め、今度は至近距離で全弾命中させる事で敵を消滅させる事に成功する。
「······ふむ、これは耐性が増えているという事か?となると尚更アイツは呼ばない方がいいかもしれないな」
そう。早い段階で分業をしてしまった事で気が付かなかったが、いつの間にか敵の耐性付与の仕組みが変わってしまっていたのだ。
恐らく1個前、あるいは2個前位までの子供が持っていた耐性と同じものを新しく生まれてきた子供も得られるようになっているのだろう。
そしてこのまま行くと最終的にどうなるのか騎士にはだいたい予想が着いてしまい、今まで漠然と感じていた嫌な予感が間違っていなかった事を察する。
それにより騎士は誰になんと言われようと暁良にはギリギリまで連絡をしない事を心に決めた。




