禍津解錠 8
「ふぅ···はあ···」
コイツらの強さ的に力を温存出来ると考えたがその考えは捨てよう。
俺は一旦斬像を1体を除いて消滅させ、深呼吸をして気持ちを入れ替えると、それから目を閉じ精神を集中させ力を溜め込む。
そして。
「百騎一閃、猛者ノ大地!」
と目を見開いて溜まった力を放出するイメージで技を発動させた俺は、俺達が戦っていた道路とそこに面した建物の壁にまばらに100本近くの刀を地面や壁に刺さった状態で展開した。
「ぐ、ぐおう!?」
「グルルルゥ!」
それに対し、驚いた様子の2体は一瞬のお互いを目で確認し合う。
そして狛犬の方が一旦宣戦を離脱しようとしたのか、バックステップで後方へと下がる。
しかしその瞬間。
突如、着地した所の近くにあった刀に斬像が召喚され狛犬の後ろ足を斬りつけた。
さらに仲間のその光景に一瞬の気を取られた鬼に対し、死角からの一撃が入り、敵はお互いに手負いの状態になる。
「よし···」
俺は何度目か分からない敵の回復を見ながらも、ほくそ笑む。
敵にこの技がどういうものか分からせることが出来た。そして、それにより敵がする行動は···。
「ウゥゥ、ガウゥ!」
掛かった!
狛犬は続いて高くジャンプし、刀が周囲にあまり無い建物の壁に張り付き、更にそこから対面の、同じく周囲に刀が刺さっていない壁へと飛び移りながら、どんどんと高く昇っていく。
「ふー···」
それを見た俺は周囲の9本の刀を自身の持っている1本に束ね、そのまま鋒を数m先の鬼に向けて"突き"をする体勢で構える。
と、同時に狛犬が建物の屋上へと飛び移る為に壁を蹴って高くジャンプした瞬間、その屋上から狛犬と対峙する様に十束ノ刃状態の刀を上段で構えた斬像が飛び降りる。
そして。
「はあぁぁぁ!!!」
「···」
と、俺の突きと斬像の斬撃が同時に2体の敵の命を刈り取り、そいつらの骸は地面に転がる。
斬像も俺本人にであるから分かる。今度こそ完璧なタイミングであった。
「ふう···やった」
俺は猛者ノ大地を解除し、刀を収納すると勝利の余韻に浸りながらゆっくりと皆の元へと帰る為に歩き出す。
···。
本当に疲れたな。そう言えば新種のマガツモノを倒したら、そいつの命名する権利があるんだよな。
······。
と俺がそんな呑気な事を考えた、その時。
俺は後方から何か気配を感じ、まさかとは思いつつも、咄嗟に刀を召喚し振り返る。
「なっ···に」
そんな馬鹿な、有り得ない。あの2体は同じタイミングで仕留めた筈だ···。
俺の目には、再び再生しお互いに緑のオーラを纏っている敵の姿が飛び込んできた。
まさか俺はコイツらの再生のギミックについて大いなる勘違いしていたのか?
同時に殺せばいい訳ではなく、例えばそれぞれに命のストックを幾つか持っているみたいな単純なものだったのか?
「くっ···やるしかないか」
俺は再び刀を構えて2体の敵と対峙した。
「はあはあはあ···」
あれから10分程が経過しただろうか。
俺は膝を付き、呼吸を荒くしながらも敵の方を睨み付けるように見る。
あれから何度も何度も殺しては再生されを繰り返し、この2体のマガツモノを倒した回数は合計で言えば20回を優に越えようとしていた。
そして、それ故に俺はこの敵には命のストックが幾つかあるという仮説にも疑問を抱き始めていた。
条件無しの再生を何十回も行えるなど能力として強過ぎる。
確かに過去の文献でそれに匹敵するくらいの強過ぎる能力を持ったマガツモノが最強のマガツモノ達的な感じで載っていたのは見た事がある。
がしかし果たしてコイツらがそれに名を連ねる様なマガツモノなのか?
コイツらから感じる威圧感や単体の強さから、俺はコイツらの能力について疑問を持たざるを得なかった。
それにそれだと復活の最中にもう片方が完全に攻撃をして来なくなるのも何か変だ。
と俺はそこまで考え、不意に訓練中に来島先輩から聞いた話が頭の中を過ぎる。
"未知のマガツモノに出会った時どうすればいいかですか?そんなの直ぐに逃げてください。危険すぎます。······はあ、まあそうですね。相手の能力や行動よく観察してみて下さい。完全無欠な能力など無いので必ずや何処かに攻略のヒントみたいな物がある筈ですよ"
「はあ···」
前半の忠告を良く聞いておけばよかったのかな、と少し考えながらも俺は後半部分について吟味するため、斬像を自動モードにして敵との戦いを任せると少しの間考え込む。
そして2、3分程が経過する。
「そういう事か···」
確証は無いが調べてみる価値はある。
俺はある結論に至り、一旦、10体ほどの斬像を引かせて自分の周囲に集める。
そして2体の敵を無視して、この位置から半径200m位の範囲を対象に何かの捜査に当たらせる。
すると。
「ぐおうあああ!!!!」
「ガァアアガァァァ!!!!!」
と何かのフェーズが変わったかのように、目の色を変え、より攻撃的に変貌した2体が俺に攻撃を仕掛けてくる。
「ちっ、さっきより強い。だが」
鬼の方を自身で受け止め、もう片方を召喚した斬像で受けた俺は敵がパワーアップした事に驚きつつも、同時に自分がやっている事が間違ってない事を確信する。
俺自身探しているものが何なのかは分からない。
だが、こいつらには隠している何かがある。この猛攻を耐え抜けば恐らくは俺の勝ちだ。
普通の人なら何かを探している最中にこれだけの猛攻を受ければ、探し物どころでは無くなる。
だが俺は違う。しっかりと敵と戦いながらも捜索を続けることが出来る。
そして敵と攻防を繰り広げながら、更にそこから数分が経過する。
「見つけた···」
俺は斬像の1体と視界を共有しながら呟く。
ようやく尻尾を掴んでやった。これがこのマガツモノ達の正体か。
俺は裏路地に積まれた荷物のその裏に小鬼と子犬のマガツモノの姿を発見する。そう、コイツらは2体で1体のマガツモノでは無く、4体で1体のマガツモノだったんだ。
そう思ったきっかけとしてまず敵の復活の仕方がある。
自爆した時がかなり顕著だったが、敵が死ぬとまず強い光を放ち、その後、緑のオーラに包まれる。
この2つの光がそれぞれ別の能力であると考えた。
そして前半の光は対象を復活させ、後半の緑のオーラは回復させるものであると仮説を立て、緑のオーラが戦っている2体に共に現れていたのに対して、最初の光は片方にしか現れていない事から、あの2体を復活させている奴がどこかに居る、そう思い至った。
敵の正体が明らかになって分かったが、コイツらは恐らくは鬼同士、犬同士で復活させ合って、大きいもの、小さいもの同士で回復させ合うという面倒な条件を自分達に課すことであの馬鹿げた回復精度と回復回数を手に入れたのだろう。
だが分かってしまえばこちらの物だ。
「さあ、本当にラストだぜ!」
俺は少しだけ敵から距離を取って、再び十束ノ刃を発動させる。
すると。
「があぐああがぁぁああ!!!!」
と敵は慟哭にも似た声を上げる。
そして能力が明らかとなり、最終フェーズに突入したのか、鬼と狛犬が合体し、ケンタウロスの様な見た目へと姿を変えた。
だがその程度問題ではない。
「カラクリが分かっちまえば、合体した所で大したことはねーな!」
俺はそう叫ぶと、小鬼達の前にいる斬像と息を合わせて、同じタイミングで敵に斬りかかり、その命を刈り取った。




