禍津解錠 7
戦いが再開されると俺は数体の斬像が狛犬の方へと向かうのを横目に見ながら、再び鬼の方へと今度は4人掛りで斬り掛かる。
そして少しの間、有利な状況で攻防を繰り広げた後、四方八方から攻撃を仕掛ける斬像達に気を取られた鬼の頭に向けて一太刀浴びせる。
「ごぐぅっ!!」
「よし···」
やはり強くない。
俺は改めてそう確信し、数歩後ろに下がり倒れる鬼を観察する。
すると直ぐに鬼の身体は一瞬だけ強い光に包まれ、その後、狛犬がそうであったように緑のオーラを纏いながら、身体を修復していく。
そして同時に狛犬の方にも同様のオーラが現れ、鬼の復活に専念するかのように、急に斬像との戦いを放棄してしまう。
恐らく、片方が倒されるともう片方は相方を復活させる事に専念し、両方万全の状態にしてから戦いを再開する、と言うのがコイツらの戦い方なのだろう。
「ちっ、おら!!」
「ぐっお!?」
では回復している最中、攻撃したらどうなる?
俺はそう考え、一気に鬼との距離を詰めながら斬り掛かろうとする。
がしかし、狛犬の方と同様、再生している側も万全の状態になるまでは攻撃して来ないつもりなのか、俺が距離を詰めようとしたのに対して、十分過ぎるほどの距離を保ちながらバックステップで後方へと下がってしまう。
そして攻めあぐねる事10秒程、俺から逃げていた鬼の体から纏っていた緑のオーラが突然消える。
すると鬼は攻撃的に目を光らせ、執拗に距離を保ち俺の攻撃を避ける事しかしなかった所から急に前傾に態勢を変え、自ら取った距離を詰めて攻撃を仕掛けてくる。
「ぐっ!」
その急激な緩急に一瞬動揺してしまう俺。
ずっと攻めていた事でこれが狩りではなく、殺し合いである事を失念してしまっていた。
たがしかし敵は待ってなどくれない。無常にも敵の拳は俺の眼前にまで迫っていて、焦って体勢を立て直そうとしてステップを踏んだ所で俺は足を滑らせてしまう。
「しまった···」
···。
······。
「くふー、あ、危ねー」
危うくパンチ1発で勝負が決まっちまう所だった。
俺はギリギリの所で敵の攻撃に対応することが出来、尻餅を付きながらも、両手で持った刀の刀身の部分を片足の足の裏で支え、相手の体重の乗った重い拳を受け切る。
「斬像!!」
そしてすぐ様、斬像に左右からの攻撃を命じ鬼へと斬り掛かる。
それに対し、鬼は俺を殴っていない方の手で片方には対応し、斬像を蹴散らしたものの、もう片方はどうにも出来ずに、俺に殴りかかった方の手の肩の部分を斬り裂かれる。
「ぐぅおぁぁあ!!」
「おら!」
それにより寝転がっている状態の俺を押え付ける様にして拳を押し付けていた鬼の力がやや弱まると、俺は刀身をもう片方の足でも支え、そのまま両足の力で敵の拳を押し返すともに、その勢いで立ち上がる。
そして俺に押される形で後方にフラフラした足取りで数歩下がった鬼の腹に刀を突き刺す。
「よし···斬雨」
だがこのまま殺したりはしない。
俺は前傾姿勢で倒れ込む鬼に押し潰されないように、刀を抜きながら2歩ほど後ろに下がると同時に、鬼の手や足に向かって空中から刀を降らせ地面に磔にするようし、その刀にも斬像を召喚する事で鬼の身動きを封じる。
よし、これで回復されたとしても刀が刺さった状態のままなのでダメージを与え続けることが出来る。
後は狛犬の方とタイミングを合わせるだけだ。
そして俺は介錯をする様なポーズで鬼の首に刀をあてがうと、狛犬との戦いの方に8割ほどの神経を集中させる。
さっきまでは鬼の方がやられる寸前であったため、逃げる事に専念する狛犬はなかなか厄介で攻めきれずにいたが、ここからは違う。
俺は追加で4体ほどの斬像を召喚し、狛犬に波状攻撃をしかけ続ける。
「ぐるるぅ!!!があぅ!!」
さっき程に比べ1.5倍くらいのテンポで絶えず行われる攻撃に対して分が悪いと踏んだのか狛犬大きく後方へとジャンプして建物の壁に張り付くようにしながら口にエネルギーの球体を溜めて、俺達の方に向けて発射する。
「斬像!」
だが、その位なら対応可能。
俺は空中に刀を持った斬像を2体召喚し盾とする事で、エネルギーの球体から自身を守る。
そして。
「···!!」
「ぐがああぁ!!」
狛犬が攻撃に転じた事で出来た隙をつき、そいつと戦っていた斬像が無口のまま狛犬の後を追いかけて、ようやく一太刀浴びせることに成功する。
「よし」
「あが、ああ、あがああ!」
「ん?···なんだ最後の足掻きって感じか?」
この戦いの終わりを感じていた俺だったが、急に暴れ始める鬼に驚き、念の為、腕と足を突き刺している刀を持っている斬像に強めに鬼を押さえつけさせる。
そして、安心しきって最後に犬の方にトドメを刺そうと向こうに精神を集中した。
その時。
突然、ヒューという音が聞こえて来て、ハッとして再び鬼の方を見る。
「なっ···まず···」
俺の目に入ってきた鬼の体は先程よりも僅かに膨れ上がり、今度は赤色のオーラを纏っていた。
それが何を表しているのか俺は本能で理解し、この絶対的有利な状況を投げ捨て、いち早くその場から離れる。
そして僅かに1、2秒後、鬼は爆炎を巻上げながら自爆してしまった。
「くっ···」
俺は何とか爆発自体から逃れる事が出来たものの、それにより巻き起こった爆風に煽られ後方へと数m飛ばされる。
くそ、この作戦も対策済みってか。
恐らく、片方を拘束しておくようなやり方はこの自爆によって回避されてしまうのだろう。
俺は強い光を放ちながら、散らばった肉塊が集結し、その後緑のオーラを纏いながら姿を表す鬼を見ながら唇を噛み締めた。




