禍津解錠 4
平穏を脅かす様な耳を劈く警報音を受けて、役所内はバタバタとしだして、皆、自分の出撃準備を整えて警報がなったら集まるように言われていた役所の駐車場へと向かった。
するともう外は午前中とは思えないくらいに暗く目に悪そうな赤色を帯びていて、少し遠くの空には既に何体かの翼を持ったマガツモノが我が物顔で飛び回っているのが確認できた。
禍津解錠の範囲はどうやらこの街のメインの駅を中心とした市街地で直径数kmほどの様であり、概ね前情報通りであった。
そして俺達はその駐車場で手荷物チェックを受けて、同時に無線機とスマートフォンよりももっと小型で薄い機械が手渡される。
これは仲間同士連絡を取り合うためというのに加えて、この街の外に設置された本部からマガツモノの情報を得る時に用いられ、その情報はもう1つの機械にデータとして送られる仕組みになっていた。
「···」
「どうしたんだ遼?緊張してるのか?顔が強ばってるぞ」
「あ、ああ、そんなとこ。···まあ、何はともあれ気合い入れねーと。九條学園では犠牲者を出したことはないらしいが、それでも禍津解錠では毎回数人の死者が出ているからな」
「死者か···。ふう···肝に銘じておかないとな」
と、俺達がそんな会話をしているとようやく全員分のチェックと支給品の配布が終了して、それぞれチーム毎に作戦会議の段階で指定された地域へと向かった。
「□□□□···では皆さん。くれぐれも無理はせず頑張ってください。私達の街をよろしくお願いします」
本部からの無線により聞こえてくる理事長の声を合図にいよいよ戦闘が開始された。
九條学園からは各学年の生徒をランダムに掛け合わせたチームが3チーム作られ、それぞれ駅の近くの3エリアを担当する事になっていてた。
因みに俺のチームはリリネと黒木さんが居て、更にリーダーは来島先輩が務めているのだが、まあチームと言っても基本的には1対1で危険度Dランクくらいの敵を相手にする事になっていて、敵の強さによってはその都度協力して討伐するという様な作戦が取られていた。
そうして戦闘開始から十数分程が経過する。
俺はドンドンと撃破数を稼いで行って、すでに5体ほどを倒し終えていた。がしかし同時に次々と湧いて出てくるマガツモノと、自分達が普段歩いている道をマガツモノ達が闊歩する状況に言い様のない恐ろしさも感じていた。
と、そんなことを考えながらも俺は襲いかかってきた巨大な蜥蜴の様な姿のマガツモノを危なげなく倒し撃破数を6体に伸ばした。
···だがその時。
「きゃーーーーーー!」
という小さい女の子っぽい金切り声が少し遠くから聞こえてきて俺は素早くそちらの方を向く。
「来島先輩、私が行ってきますわ」
「お、おい待て、あれは···」
「ええ、大丈夫です。念の為ですから」
と俺は来島先輩の忠告の意図を全て察しながらそう言い、グループから少しだけ離れてその声のした方へと向かった。
そして声のした所へとたどり着いた俺は1人の少女が車道の真ん中で泣いている姿を発見する。
「大丈夫ですの?」
「ぐすぐす···」
「お名前は言えますか?」
俺は一定の距離を保ちつつ、少女に声をかけるが少女は泣いているだけで決して答えようとしない。
「泣かなくても大丈夫ですわよ」
「···ぐす」
続いて優しく笑いかけるが反応は変わらない。
そこで俺は空中に10本ほどの刀を召喚し少女の方へと向けた状態で固定すると再び声をかける。
「これ見えます?あと10秒以内に私の質問に答えて下さなかったらこれを射出します、いいですか?···では何でもいいので何か言葉を発して下さい」
「ぐすぐす···」
「10、9、8」
「ぐすぐすぐす···」
「7、6、5」
「うわああああん!!!!!」
「4、3、2、1」
うるさい位の声で泣く少女を前に俺は無慈悲にもカウントを続け、手を軽く上げて刀を射出させる準備を整える。
そして。
「0」
「くぐぅおおおおお!!!」
俺が刀を射出するタイミングで少女のいた辺りの真下のコンクリートが円状にパカッと開いて中から5m程の蜘蛛が姿を現わし、少し離れた位置にいる俺に攻撃を仕掛けてくる。
しかし、それは少しだけ遠すぎた。
俺は冷静に刀の射出を遂行して10本ほどの刀が全てその蜘蛛に刺さるとそいつは俺の目の前で力無く倒れ込む。
「やはりこいつだったか」
そして俺は自身の手に持っている刀で最後に蜘蛛の頭を突き刺し、この戦いに決着を付ける。
こいつはセアカツリイトツムギというマガツモノで自身の特殊な糸で非常に精巧な人間を作り出すことが出来きて、同時に蜘蛛自体に人間の子供の泣き声に似た音を発生させる事が出来るという特技が備わっていて、それらを駆使して人をおびき寄せて捕食してしまうのだ。
その情報を知らなかったら初見殺し的な所があるヤバいやつだが、知ってさえいれば対応は至ってシンプル、一定の距離を保ちつつ敵がしっぽを出すのを待てばいい。
「よしゃ、ポイントゲット!」
セアカツリイトツムギは危険度Bのマガツモノだ。
対策さえすればそんなに強くない為、これは非常においしい。
···おっとダメだダメだ。これは禍津解錠、そういう油断は良くない。
俺は自分にそう言い聞かせて、深呼吸を1度するとチームに合流する為、走り出そうとする。
がしかしその時。
「きゃーーーーーー!!」
と再び女性の金切り声の様な声が聞こえてくる。
「!?」
だが今回は子供の声ではなく大人っぽい声であり、聞こえてきた方向から、そこは九條学園が担当している範囲では無いエリアである事が分かる。
その為、俺は1度無線を取り出し来島先輩へと連絡を取る。
「吉野宮です。聞こえますか?」
「ええ、聞こえてます。セアカツリイトツムギの討伐は完了しましたか?」
「はい先輩の指導の賜物ですわ。ただ私達の担当しているエリアの外から今度は本物と思われる叫び声が聞こえてきました。なので今から救援っ···」
「きゃあっ!!!」
「!?」
と俺が来島先輩から救援に向かう許可を得ようとしたタイミングで2回目の叫び声が聞こえてくる。
「すみません。向かいます!!」
「えっ、ちょっ···」
そして、俺は来島先輩の返事を聞く前に再び走り出した。




