表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/152

禍津解錠 3

 それから時間が経って、深夜。


 寝室として九條学園には3部屋の会議室が割り当てられ、1年から3年までの禍津解錠に参加する生徒がここに学年毎に押し込まれ、支給された布団で眠りについていた。


 がしかし、俺の目は冴え切っていた。


 それは何故かと言えば。

 

 俺はため息混じりに起き上がり、四方八方を見渡す。


 そこには布団に入り、ぐっすりと眠っているリリネ達の姿があった。


 しかし、俺が寝れない理由はこの状況にドキドキしてしまっているからという訳ではなかった。


 「ん、んん、お姉様がこんなにいっぱい···そ、そんな···そんなに食べれないですにゃ」


 おい、お姉様を食べようとするな!

  

 「え、まじ···おしくらまんじゅうはワタウサ王国における最高刑のはずじゃ···くっ、殺せ···」


 いや、一方リリネはどんなメルヘンな夢見てんの?


 「ワタウサは集団で対象にくっ付いて身体を高速で振動させ、超高温になって中の人を蒸し殺す習性が···」


 と思ったら怖っ!ミツバチが巣に侵入してきたスズメバチを殺すやり方だわ!てかそれ実質死刑じゃん。


 「しかし、もふもふの中で死ぬのなら本望、一片の悔いもないわ···」


 ···まあ悪夢を見てるという訳では無さそうだし本人がいいならそっとしておこう。


 と俺が寝れない理由こういう事だ。····そう、うるせぇんだ。


 「そ、そんな私の為に争わないで、い、一緒に遊べばいいんじゃない?」 

 「よっしゃあ、全員まとめて相手してやらぁ」

  

 うわ、向こうの黒木さんと本庄さんもなんか言ってるよ。


 「はあ···」


 結局全く寝れる気がしなかった為、俺はゆっくりと立ち上がる。


 うるさくて寝れないと言うのもあるが、なんか皆、欲望の赴くままの夢を見ているから、このままだと俺は"メスガキッ!孕めオラ!イケッ!イキ死ね!"みたいな寝言を言ってしまいそうで怖い。


 ···いや、でもこう見てみると、同室にもかかわらず遼の寝言とかいびきとか聞いた事ないし、アイツってかなりマシだったんだなって再認識したわ。

  

 と、そんな事を考えながら俺は役所の中を歩く。


 そして、かなり広いバルコニーのようになっている所で誰かと電話している遼を発見する。


 「□□□□□□、じゃあ、段取り通りに頼む、ああ任せたぞ」


 「おう遼、誰と電話してんだ?大野木さん?」


 「!?···なんだ暁良か。···ああ、まあそんな所」


 少し驚いたような表情でこちらを振り向く遼だったが俺の姿を確認すると、ほっとしたように笑みをこぼす。


 「なに?女の子に囲まれて興奮して寝れなかったか?」


 「ああ、まあそれは1割くらいかな」


 俺は苦笑いでそう言うと事の顛末を遼に話した。


 「なるほどな、そんなにうるさかったか。······でもまあ、あれじゃね。気を許してリラックス出来ているからこそ、そう言うのも出るもんなんじゃねーの?例えば山小屋とかだったら周りを気にして絶対寝言とか言えないだろ?」


 「ま、まあそうだなー···」


 「皆お前がいるから安心してるんだろうぜ。じゃなきゃ大きな戦いを前にしてそんなぐっすり寝れねーよ。···お前にはそんな力がある気がする。だからみんなお前に寄ってくるだろうさ」


 「お、おう、なんだよ珍しく褒めるな。なに?死ぬ気?」


 「死ぬ気はねーよ。単純に普段から思ってた事を再確認したから言っただけ」


 「···」


 普通に褒めらてなんと言ったらいいか分からず、思わず黙ってしまう。


 すると。


 「ふぁ〜あ、なんか普通に眠くなってきたな」


 と遼が大欠伸をかまして時計を見る。


 時刻は午前の2時。


 正直に言って、今日ばかりはあまり夜更かしせずに明日に備えて眠っておきたいのも事実だ。


 「よし、じゃあ寝るか」


 と提案してみるがあの空間に戻ってもちゃんと寝れるかは怪しい。


 そのため俺と遼は掛け布団だけを持って食堂まで行き、それぞれ椅子を数個並べて簡易的なベットを作成すると学生寮と同じくらいの間隔を開けて横になる。


 そして、結局この配置が1番落ち着くんだな、と思いながら俺は普段よりも明らかに高い天井を眺めつつ、さっきから気になっていた事を遼に質問してみる。


 「なあ遼?俺って寝言とか言ってたりする?」


 「···ああ、なんかこの前は"オラ!孕めオラ!"とか"お前がメスになるんだよ!"とか言ってたな」


 「···」


 「···」


 「なんかごめんね。特に後半の方」


 と心の底から遼に謝罪をした俺はあのままリリネ達の横で寝なくて本当に良かったと思いつつも、次第に重くなる瞼に逆らう事なく眠りについた。


 そうして翌日、俺達は自然光が差し込んできた事により次第に覚醒していく様な心地のいい朝を迎え、このままこの平和が一生続くのでは無いかと錯覚していた。


 しかしそれも束の間の事。


 それから1、2時間ほども経つと、役所の中には禍津解錠が始まった事を知らせる警報がうるさいくらいに鳴り響き、外は午前中とは思えないくらいに赤黒く染っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ