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神具能力テスト+α 1

 色々あった入学式から数日が過ぎた朝。


 「ほら早く起きろ遼」


 俺は既にカードゲームやゲーム機に漫画本、飲みかけのペットボトルに菓子のゴミなどで荒れた学生寮の一室で未だに寝ているルームメイトの遼を起こしにかかる。


 「桐原先生には風邪って言っといてくれ」


 「何言ってんだ。それでもしこの部屋に桐原先生が押しかけて来たりでもしたらどうすんだ。怪しまれんだろ」


 「ぐ、確かに···」


 俺の言葉を受け、遼はゆっくりと起き上がり完全に高校生の部室(ぶしつ)と化している部屋を見渡す。


 「改めて見ると九條学園の学生寮の一室とは思えない有様だなこりゃ。多分、他の部屋ではアロマキャンドルとかが焚かれていて、優雅に紅茶でも飲みながら談笑とかしているんだろうな」


 「ああ、2日前から放置されてるミルクティーならあるけど飲むか」


 「いや、もう雑菌だらけでしょそれ···っしょっと」


 遼はそう言うとゆっくりと起き上がり、パジャマとして使っているジャージまま着替えを持ってシャワールームへと向かった。


 「早くしないと二条院さんと東雲さんが迎えに来ちまうぞ」


 「分かってるー」


 シャー、というシャワーの音の向こうから響く遼の返事を聞いた俺は部屋の惨状を眺めながら、掃除をするでもなくそのまま自分のベットに座り込む。


 この寮生活は当初に俺が求めていたものとはだいぶかけ離れてしまっていた、がしかしそれでも俺はこの生活に概ね満足してしまっていた。


 この部屋の惨状は、お互いに相手が男であると分かるやいなや、趣味のものを大量に持ち込んでやりたい放題であったが、これはこれでスポ根漫画の男子寮の様で楽しかった。


 コンコン。


 「ちょっと、2人共早くしなさいよー。御堂さんにご飯抜きにされるわよ」


 物思いに耽っているとドアの外から二条院さんの声が響く。


 「い、今開けますわ。···百騎一閃」


 俺は急いで神具を発動させ自身がドアまでたどり着く間に、数体の斬像により部屋のゴミと趣味の物を部屋の隅のドアの外から死角になる場所に寄せる。


 そして、ドアまでたどり着いた所で神具を収納し、ドアを開ける。


 「二条院さん、東雲さんおはようございますわ。今日も優雅な朝ですわね」


 そして今日も俺は優等生で育ちのいいお嬢様風の仮面を被り、ドアの外で待つ2人に向かって微笑んだ。


 「おはよ。遼はどうしたの」

  

 「遼さんなら今さっき起きた所で、現在はシャワーを浴びていますわ。昨夜はマガツモノを倒すシミュレーションを夜遅くまでなさっていましたので」


 うん、まあゲームなんだけどな。


 「ふーん、そう、あんたも少し眠そうだけど一緒にやってたの?」


 「ああ、いえいえ。(わたくし)は専門の文献を用いて、戦闘でどういった立ち回りが相手の意表を付けるかについて考察を重ねておりました」


 戦いの専門書。すなわちバトル漫画だけど。


 「ふーん、余念ないわね。私らなんて中身のない雑談しかしてないわよ。ああ、そうそう聞いてよ。美波ったらまた胸が大きくなったんだって」


 ん?な、なんて?


 俺は楽しげな言葉が耳に入ってきた事を認識して東雲さんの方を見る。


 「ちょ、ちょっとー、やめてくださいよー」


 「ほんと、けしからんって感じよね···って、暁良?あんた目ヤバいわよ。本当に寝不足なんじゃないの大丈夫?」


 俺は気づくと透視でもしようばかりの眼力で東雲さんの胸をガン見してしまっていて、その事について二条院さんは本気で心配している様子で訊ねてくる。


 「こ、これくらい大丈夫ですわ。おほほ」


 あ、危ない。男と認識されていたら完全にセクハラ認定される位の行いだった。

 

 ······ふふ、まあしかしだ。入学から数日経っても俺と遼の邪悪なる本性が彼女たちにバレてる様子は無く、疑われてもいないようであった。


 全くちょろいものだぜ。


 「寝不足って大丈夫なんですか?今日は神具の能力テストの日ですよ?」


 「ああ、ついでに健康診断もあるわよね。これでアンタの胸がどれだけ大きくなったか分かるってものよね?」


 「い、いえ、たしか胸囲の診断はやらないのではなかったですか?」


 「ええ、つまらなーい。···まあいいわ私が直々に計ってやるわよ。うりゃあ!」


 「ちょ、ちょっとやめてくださいよ〜」


 と、そんな閲覧料を取れるほどの光景が目の前で繰り広げられているにも関わらず俺の思考は全く違うものに支配されていた。


 神具能力テストが行われる事は知っていた。しかし。


 健康診断···だと。


 それは予想外だ。全く目に入っていなかった。恐らく遼の今朝の様子から考えてあいつも認識しては居ないだろう。


 「や、やはり、ちょっとだけ体調が優れないので朝食はパスさせていただきますわ。遼さんもまだかかりそうですし、お二人共先にいてください」


 「え?そ、そう?無理はしないでね」


 俺は恐らく本当に青ざめている顔で必死に笑顔を作り二条院さんと東雲さんを先に行かせるとゆっくりドアを閉めた。


 そして、数秒間の沈黙の後。


 「遼ーー!!大変だーー!!!」


 回れ右で部屋の中に舞い戻りながら俺は断末魔にも似た声を上げた。

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