禍津解錠 2
そして、その日の夜。
避難誘導を終えた禍津解錠に参加する者達は街の中心付近にある役所に集合して、その時が来るまでそこで生活する事となった。
そこには九條学園の生徒以外にも大学生っぽい人達や大人の姿もあったりしてパッと見でもその総数は余裕で100を超えていた。
そんな状況の中、俺は遼、リリネと他クラスの姉小路さん、黒木さん、本庄さんと共に役所の食堂で夕食を取っていた。
しかし、まあ食堂と言っても本来そこで働いている人は既に避難している為、集められた御子達が協力して大量のカレーライスが作られただけでメニューを選ぶなんて事は出来なかった。
が、しかし。
「やっぱりカレーは大量に作ると美味しいみたいですわね。他の人たちが話してましたわ」
よく刑務所のカレーが美味しいとか聞くがあながち間違いではないのかもしれない。
と俺はそう思って席に着くと周りの皆に笑いかける。
「私はお姉様とならなんでも美味しいですにゃ」
「おお、よーしよし、そんな君には人参をやろう」
「わーい、お姉様が別に嫌いでもない人参を嫌いな物を押し付ける感じでくれたにゃ」
元気よく俺の言葉に反応した姉小路さんと呑気にそんな会話をしていると続けてリリネがため息混じりに口を開く。
「あんたら元気ね、禍津解錠がいつ起こるかも分からないのに緊張とかしないの?」
「まあしますけど、九條学園の作戦は基本的に命を大事にですからね。危なくなったら即撤退すればいいんですわ」
「ちょっとそんな余裕醸し出して···フラグとか洒落にならないからね、ほんと気を付けなさいよ」
「ええ、分かってますわ」
俺はそう言ってリリネに笑いかけるとカレーを一掬い口に運ぶ。
そしてそれから少しの間、会話を楽しみながら食事に興じる。
···がしかし、突然桐原先生が少しだけ急ぎめで食堂に入ってくる。
そして。
「午後8時より大ホールに集合しろ。38代目朝倉御子様より挨拶があるそうだ」
と、そのような言葉を食堂に居た全員に聞こえるように残し、他の所にもそれを伝えに行くのか、直ぐに食堂を後にしてしまう。
因みに朝倉御子とは日本で最初に神具使いを取り纏め、そのリーダーとなった人物であり、それ以来この国では神具使いの事を御子と呼ぶようになり、同時に御子のトップは朝倉御子を襲名する事になっていた。
そして今は38代目という訳だ。
俺はやはりこう言うと時にはトップが何か気の利いた事を言うものなのだなと思いながら、何気なく時計を見る。
現在の時刻19時45分。
···。
······。
「あと15分しかありませんわ!」
あまりに急過ぎる招集に焦り、俺達は熱いカレーを急いで胃の中に放り込んだ。
そして15分後、大ホール。
100人を超える人数が集まり、大ホールに座ってその時を待っていると壇上の上の方から大きなプロジェクターのスクリーンが降りてきて、恐らくテレビ電話だと思われる映像が映し出される。
そこには巫女服を2段階くらいパワーアップさせた様な服を着た糸目の30代から40代くらいの女性が畳の部屋で正座をしていた。
俺はこの時初めて38代目をしっかりと見たが、流石は御子のトップと言うような高貴さと強さを身に纏っている印象を受けた。
「まず招集に応じ、この街の集まって頂いた事をこの国の神具使いの代表、第38代目朝倉御子として感謝を申し上げます。誠に有難う御座います」
そう言うと、38代目はトップとは思えない位の低姿勢で頭を下げる。
そして数秒後頭を上げて言葉を続けていく。
「今、この街の未来は貴女達に掛かっていると言っても過言ではありません。···皆さんご存知だとは思いますが禍津解錠は発生から数時間経つと自動的に消滅します。しかしその間、出現し続けるマガツモノを退治していかないと時間が許す限り禍津解錠の範囲は膨張し続け、被害も比例して大きくなっていってしまいます」
非常に聞き取りやすいスピードと声の高さ、そして落ちた着いた様子で喋る38代目の姿を見て、俺は彼女の来歴などろくに知らないにも関わらず彼女が立派な人間であると確信する。
そしてどんな言葉を俺達に掛けるのかと期待して次の言葉を待った。
「また禍津解錠では未知の強力なマガツモノが出現する可能性も十分に有り得ます。···がしかし、今、現在貴女達のいる街の近くには避難している途中の人達が多くいて、マガツモノの恐怖に怯えています。···なのでどうか皆さんには勇気を持って、それらの敵にも立ち向かって頂きたい。我々が何故神より神具を与えられたか考え、我々は人々の剣である事を自覚して頂きたい。禍津解錠に赴くのが今回で初めての方、あるいは何度目かの方、また学生から社会人の方まで色々な人が今此処に集まってくれていると思います。どうか皆で協力して降り掛かる困難に立ち向かって頂きたい。私は皆さんの最大限の活躍を期待しています」
38代目はそう言うと再び、最初と同じくらいに深々と頭を下げる。
するとコンマ数秒後、大ホールでは疎らに拍手が聞こえだして、それがどんどんと大きくなっていく。
そしてうるさいくらいに拍手が鳴り響く中、38代目が頭を下げた体勢のままで数秒が経ち、やがてテレビ電話映像は消えていった。




