人身御供とテロリスト 11
その数秒前、大星は壇上の男に神具を向けていた。
「まあ、いい事ばかりもしてられねーよな。こっちの仕事もしねーと」
「や、やめ···」
そして大星は大剣をいとも簡単に振り上げ、そのまま振り下ろした。
それにより爆発音にも似た大きな音が講堂に鳴り響くが、しかし大星は自身の攻撃が何かに阻まれた事を悟る。
「おい、せっかく助けてやったのに恩を仇で返すってか」
「ええ、でも一応感謝はします。今度刑務所に自己啓発本でも差し入れますわ」
「けっ!言うじゃねーか!!」
突然現れた俺によって攻撃を阻まれたにも関わらず、大星は機嫌良さそうに笑う。
そしてその位置取りのまま数回神具をぶつけ合う俺と大星。
「返納機の廃絶を主張している様ですが、全くもって反対ですわね。だってそうでしょう?返納機がなければどうやって貴女のような人を閉じ込めておきます?」
「ふっ、全く聞き飽きた問だな。だがそれに対する私の回答は非常に単純だ。この世界から返納機が無くならば、この首くらい喜んでくれてやる。···だが現実問題そんな事は有り得ない。それ所か放っておいたら、返納機の普及はどんどんと進む一方だ。勿論それを悪用する奴も出てくるだろう、だから私は戦っている。御子の権利ってのを背負ってな」
「勝手に背負わないで頂きたいですわね」
俺はそう言って大星を僅かに押し返すが、同時に頭の中では数十日前、騎士と共に返納機のバイヤーを刑務所送りにした時の事を思い出していた。
あの時、返納機によって神具を封じられ、無理やり護衛として使われていた女性2人、俺の頭にはその情景がフラッシュバックしてしまい、刀が少し鈍りそうになる。
「はあ···」
がしかし俺は1度深呼吸をして、しっかりと目の前の相手を敵だと見定めると、冷静に今置かれた状況を判断しようと試みる。
敵が4人な上に、パッと見だがミーシャ以外の3人に関しては俺と同等かそれ以上の実力者だろう。
そして、この講堂に取り残されている返納機推進派の者達は5人程度。例えばこれが1人ならば抱えて逃げれば、斬像を足止めに使って逃亡する事は可能だろう。
しかし5人となると話は別だ。それに斬像は生命体に触れると消えてしまうので、斬像に人を抱えさせるも出来ない。
絶望的だ···。取り敢えずここに居る人達を守りつつ、ジイヤ達がここから避難する時間を稼ぐ事しか出来ない。
「忘レ刀」
素早くそう判断した俺は鍔迫り合いをしている現状を打開すべく、持っている刀を斬像に預けて俺自身は大星の懐へと入る。
そして速い動きで大星の鳩尾の部分に蹴りを入れる。
しかし敵も素早い判断で後ろに下がり、その攻撃は微かに当たったもののクリーンヒットにはならなかった。
「甘いな。殺すつもりで来ねーと私は倒せないぜ?」
「生憎、私の神具は人を殺す為の物では無いのでね」
「つくづく甘いな。おい!お前ら手を出すなよ!こいつは私の獲物だ」
大星が全員に指示を出し、さらにバックステップで1歩下がると同時に自身の周りに赤い球体状の機械を4機ほど召喚した。
そしてその4機から俺に向かってレーザーが射出される。
「くっ」
それに対し俺は目の前に4本の刀を生成し、更にそれを持つ斬像を生み出してその攻撃に備える。
そして攻撃を受けたタイミングで2本目の刀を手元に召喚し、その1本を真っ直ぐ大星へと投げ、もう片方は回転を加えながら右上の方向へと投げた。
他の神具使いは分からないが、間違いなくこの南雲大星という女は俺よりも強い。そう確信できる。
まともにやっても勝てないなら、1番可能性の高い方法を取るしかない。
「実力差がある相手には早いテンポでの攻撃と不意打ちで対処ってか?まあ良いとは思うが、見えてるぜ」
そこには既に俺の投げた刀を撃ち落とそうと大剣を振り下ろしている大星の姿があった。しかし。
「不意打ちはこれからですわ」
「!?」
瞬時にその刀に斬像を召喚し、事実上、空中で急停止させる。
それによりタイミングが狂ってしまって、大星の大剣は空振りに終わる。続いて間髪入れず、その隙を着いて召喚した斬像で斬りかかる。
しかし。
「全く危ねーな」
気が付くと一瞬で大星の身体は蠍のような尻尾状の物が生えた赤い機械に覆われていて、刀はその硬い装甲で守られていた。
続けて、大星は左手を左上の方へと上げるとサブマシンガンの様なものを召喚し、そこから放たれた銃弾により、予め放っていた刀も撃ち落とされてしまう。
「残念だったな」
「ふっ、いや」
俺はニヤリと笑う。そしてその俺の様子見た大星は周りの様子を確認する為、辺りぐるっと見渡した。
「!?」
そこにはミーシャに刀を突きつけている斬像の姿があり、大星は同時に俺の目の前の斬像が一体少なくなっていたこと気にがつく。
そして俺はその斬像へと生キ写シして場所を入れ替えた。
「ごめんなさい······さあ、神具を解除しなさい!」
俺はミーシャの首筋に刀を持っていき、彼女の耳元で1度謝罪してから、そう叫んだ。
「随分と小狡い事するじゃねーか」
激しく怒ると予想していたが思いの外、冷静な大星にこちらが驚いてしまう。
「さあ!早く神具を解きなさい!」
「解かなくても大丈夫だよ大星。彼女にはわたしを殺す事なんて出来ない。見れば分かる」
「!?」
刀を突き付けられているにも関わらずミーシャは全く怯える様子無く、こちらを真っ直ぐに見上げていた。
そしてその俺を見つめる瞳は不自然な程に綺麗で思わず吸い込まれてしまいそうになる様な煌めきを秘めていた。
「そ、それは···」
それは恐らくは神具だろう。
そして先程の"見れば分かる"という発言に、ベッキーが放った"ミーシャの目に掛かれば"という言葉。
それらから推理するにこの子には心を読む能力があると予測することが出来た。
「ちっ、早く解除を」
「まあそう焦るなって、そもそもミーシャの目が無くても、私すら殺す気で来れねー奴にミーシャが殺せるわけねーんだからよ。···それよりなあ?取引しねーか?お前"翁"なんだろ?」
「!?」
な、何故それを。まさかあの襲撃が見られていた?そうでなければコイツらもあの2人を助けようとしていて色々と嗅ぎ回ってたのか?
「ふっ、以外と分かりやすいな。この問に対して驚いた様な反応した時点で確定だろ?そもそも返納機をすり抜けられる特異な奴がこの世界に何人いるんだって話だしな。少なくとも私は知らねーし」
くっ、ぬかった。いきなりの問につい反応しちまった。
···しかし、こいつはもう確信してしまっている様だし、ここで否定しても意味は無いか、ここは···。
「だったら何だ?取引とは?」
「認めるか···まあいい。知ってると思うが、ここに来ていた傭兵共は陽動だ。残り半分は今、九條学園に行っている。そして"アン·アップル"を持った私の仲間もな」
「九條学園の生徒とアキリア王女を助けてやるから見逃せってことですの?」
「ああ破格の条件だろ?どうせてめぇはミーシャをどうこう出来ねーんだからよ」
「くっ···」
確かにそうだ。そしてこれは事実上の人質交換だとも言える。
ミーシャを傷つける事が出来ない俺と、御子の味方であるが故にきっとこんな条件無しでも九條学園の生徒を守るであろう大星。
実に滑稽な交渉だ。
しかし、受けるしか手は無い。
「······その条件飲みますわ。その代わり、ここに居る人達には手を出さない事、それからミーシャちゃんには1時間この刀を持っていて貰います。いいですわね」
そう言って俺は鞘に納まった状態の刀を召喚する。
「それはどういう意味だ?」
「そんなに変な事はありません。ただこの刀のある場所に私は移動する事が出来る。つまり変な行動をしようとしたら直ぐにその場に行って斬ってやるぞという意思表示ですわ」
「なるほどな。いいかミーシャ?」
大星の問に直ぐに頷くミーシャ。
そして。
「じゃあ交渉成立だな」
そう言うと大星は何故か満足そうに笑った。
それから俺はミーシャを人質に取ったまま、外へと移動し、彼女に刀を持たせると大星の方へと引き渡す。
そして4人が集まった所で大星は再び神具を呼び出す。
「神具展開、ブラッド・アラート」
「なっ···」
大星の呼び出した神具は先程とは大きさが桁違いであり、俺は度肝を抜かれてしまう。
形こそ先程と同じではあったがその大きさは15mほどにもなり、大星の神具が鎧ではなく、人型の機体であった事が分かる。
「ふっ、また会おうぜ翁」
そう言うと大星は機体の大きな手で仲間たちを掴むとそのまま空の彼方へと飛び去ってしまった。
「出来れば会いたくありませんわね···」
どんどんと小さくなっていく大星の背中に向かって俺は苦笑いで呟いた。
ここから1度、三人称で学園の様子を書きます。視点が変わって読みにくいかもしれませんがよろしくお願いします。
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