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人身御供とテロリスト 10

 「ひ、ひぃーー」


 機関銃を奪われリーダーを無くした傭兵の残党はバラバラに逃げ始める。

 

 「は?今更どこへ行くってんだ?······神具展開、ブラッド·アラート!!」


 ドスの効いた声で叫んだ大星は手に赤いガントレットの様なものと光で形成された大剣を召喚する。


 「おおうらぁ!!」


 「や、やめ、ぐぅあっ···」


 そして行われる惨劇、逃げ惑う傭兵に容赦なく斬りかかり、次々に息の根を止めていく大星。


 「はあ···」


 そうして全ての敵を倒し尽した大星は観客の方を睨みつける。


 「きゃあーーーーーーー!」

 「やばいやばい」

 

 と観客は一斉に逃げ惑い、講堂に幾つかある扉から一斉に飛び出していく。


 そしてその流れは勿論、俺が覗いていた扉にも押し寄せて来て俺は1度扉から避け、その流れをやり過ごした。


 この行動は一見危険なものにも思ったが南雲大星達は観客に手出しする気は一切無いようであり、ただ見逃すどころか···。


 「はいはい、皆さんこういう時は"おかし"を忘れないでくださーい」

 

 とベッキーに至っては注意喚起を促す程であった。

 

 そうして、講堂には一部の関係者とメリヴァ王国の者達、そして南雲大星一味しか居なくなってしまう。


 「な、何が目的だ」


 「あ?私の目的なんざ昔からずっと変わってねーよ、知ってんだろ?」


 「···返納機か」


 「ああそうだ、返納機の廃絶だよ。私らは皆、あれにちょっとした恨みがあんだ。······ああ、でも今回に限っちゃあ、このクソな奴らが王女様の命を狙っているっていう情報を得たんでついでに助けたって訳だな。御子が国主になるなんて大いに結構な事だからよ」


 壇上に残っていた男と大星がそんな会話をしている中で俺はようやく講堂の中に入る事が出来て、そんな俺を見たジイヤ達がこちらに来るのが目視で確認できる。


 「おお、王女様の偽物じゃん」


 「!?···気づいていたんですわね」   


 「まあ、ミーシャの目に掛かればね。ああ、でも安心していいよ。一応向こう側にも仲間を送ってくるからさ、奴らにバレてたとしても何とかなる」


 と最後列にてベッキーが俺に声を掛けてくる。


 彼女の言う、向こうというのは恐らく九條学園の事だろう。


 しかし、俺はジイヤと2人で話す時以外はなるべく王女として振舞うよう心掛けたし、裏切り者を警戒し俺の周りには神具使いの女性SPが護衛についていた。


 ···!?いや待てよ。


 と、ここまで考えた所でトイレに付き添っていたこの女性SPと俺に身代わりを頼みに来た時にジイヤに付き添っていたのが同一人物である事に気が付く。


 いやいや待て、言ってしまえば王女の命を狙う奴らは女性が国主になる事をよく思っていない連中だ。そんな奴の味方を神具使いがするか?


 と、そう思いつつも、俺は恐る恐るSPの方を振り返る。


 だが嫌な予感は当たってしまっていた、振り返った瞬間、俺はこちらに銃口を向けている女性SPと目が合ってしまう。


 そして。


 「お父様の為に死になさい!」


 ヴァアン!!!


 と引き金が引かれ、耳を劈く発砲音と共に銃弾が放たれる。全く躊躇がない、敵ながら見事な判断だ。もう少し猶予があれば反応も出来たがこの速さは厳しい。


 しかし。


 「アキリア様!!」


 そう叫びながら、そこに駆け寄って来たジイヤはSPの方へと背中を向け、俺を庇うように背中へと銃弾を受ける。


 「くっ···神具展開、百騎一閃!」


 即座に神具を展開した俺はSPの間合いに入って、相手の腹に峰打ちを食らわせて気絶させ制圧する。


 そして、そいつを他のSPに取り押さえさせて、俺はジイヤに駆け寄る。


 「おいバカ何やってんだ。俺は返納機があっても神具使えるんだよ。かばう必要なんて···」


 「い、いえ、神具が使えるだとかそんなのは関係ありません。私にとって今の貴女は命を掛けて守るべき王女ですから···」


 「くっ、本当に馬鹿な事を···おい早く救急車を呼べ」


 俺はSP達を怒鳴り付け、早急に電話を掛けさせる。


 だがジイヤの背中からはどくどくと血が滴り落ち、息も絶え絶えでどんどんと弱っているように感じられた。


 「これはまずいですかね。ははは」


 「笑い事じゃねーだろうが」


 今際の際かのように、弱々しい声で笑うジイヤに喝を入れるが、その弱々しい感じは段々言動にも現れ始める。


 「······暁良様、私は不安なのです。アキリア様の秘密が何時か公になってしまうのではないかと考える度に不安に押し潰されそうになる。女王様からアキリア様の事を任され、今まで何とか隠し通して来ましたが、やはりそれにも限界を感じて来ていました。そして、神具を使う事が出来る暁良様がもしもメリヴァ王国の王女だったならとそんな不敬な事を考えてしまっていた」


 「···」


 「私はもう疲れきってしまったのです。アキリア様の事を任されてから心休まる時は1度たりともありませんでした。しかし貴女がアキリア様の正体を見破ったあの時、すーっと、重荷から解放されたような開放感で満たされてしまったのです。あの時に私は救われ、そして同時に御目付け役としては死んでしまったのでしょう。···しかし、そんな私が最後に貴女を守って死ぬ事が出来る。無駄死にだったかもしれない、でも私はそれでも満足です」


 「馬鹿言うんじゃねぇ!だったら残ったアキリアはどうなるんだ。理解者を1人失って尚も王女であり続けなくてちゃいけないだぞ」


 「···本当に申し訳ありません」


 俺は怒鳴り、嫌でも生きてもらおうとするがジイヤは口では謝罪するものの、ただ満足そうに笑うばかりであった。


 「くっ···」


 ···。


 ······。


 どうすればいいか、何かいい手はないかと、俺は散々思考を巡らせるが、結局の所、最初から手元にあった1つのカードを切る以外に方法がないことを悟る。


 仕方ない言おう。俺の秘密を。彼の生きる希望になるなら。


 そして、俺はジイヤの耳元に口を持っていき全てを話す。俺が何故返納機がある状態でも神具が使えるのかと言うことを。


 「そんな馬鹿な···」


 「これは事実だ。なんなら後で見せてやったっていい」


 そしてゆっくりと立ち上がり、壇上の方を見る。


 「神って奴はきっと面食いだ。そして俺とアキリアは同じ顔。希望はあるはずだ。···だからそれを見届けるまでは死ぬんじゃねぇ」


 「···」


 俺はそう言って唖然とするジイヤに笑いかけるとそれに対する返事を聞く前に、取り残された返納機推進派の男達を守る為、南雲大星のいる壇上の方へと走った。

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