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人身御供とテロリスト 9

 「······と以上のことから公共施設への返納機の配備を積極的に行うべきだと考えます」


 講堂の壇上で一人の男がパワーポイントを用いて返納機の有用性や神具使いが犯人である事件の対応の難しさを語り、返納機の更なる普及を促す為に熱弁していく。


 「随分なことを言うのですね」


 「ええ、あの方は御子嫌いだとネットでよく言われていますからね。それに返納機の開発にも携わっているっぽいので、普及が進めば彼にもお金が入るのでしょう。まあ返納機の普及がダメだとは言いませんが、賛否はあるでしょうね」


 男のプレゼンを観覧席から見ていた俺は隣に座るジイヤに返事を返す。


 「なるほど、日本もいろいろと大変なんですね」


 「ええ、まあでもかつての日本でも"神具狩り"というのを行った武将がいましたからね。それは基本的に神具の使用を禁止し、許可なく神具を使った者を非常に重く罰したというものですが···なんと言うか時が経っても変わらないなって感じですわね。メリヴァ王国もこの国も未だに問題山積みですわ」


 そんな感じで質疑応答等を聞き飛ばしながら雑談をしていた俺はふと辺りを見渡す。


 「なんだあいつは···」


 そして俺は最後列のその後ろに明らかに怪しい、フードを深く被った人物がいる事に気が付く。


 ちょっと見てくるか、ついでにちょっとトイレも行きたいし。


 と俺はそう考え、ジイヤにその事を伝えて、1人の女性SPを付けるのを条件に席を立つ。


 そしてフードの人物の横を通る時、わざと躓きその人物の方へとよろけて倒れ込む。


 「おっと大丈夫?」


 とその人物は俺が転んだ事に気づいて、素早く動き俺を抱き抱える様に支え、声を掛けてくる。


 そして、その声とフードから覗いた顔からその人物が日本女性である事が分かり、予想を外してしまった俺は少し言葉を詰まらせる。


 「あ、ああ、ありがとうございますわ」


 「いえいえ、気をつけてね」


 「は、はいでは失礼しますわ」


 格好はめっちゃ怪しかったけど、普通にいい人だった。


 ···んー、でも、どこかで見た気がするんだよな、あの人。


 とその人物は俺に新たなる疑問をもたらしたが、何はともあれ、一安心した俺はその足で2つ目の目的であるトイレへと向かった。





 

 ···うーん、ダメだあまり手掛かりがない。


 と、俺があーだこーだと考え事をしていると中で動きがあり、再び中の様子を覗き込む。


 どうやらアキリア王女が居ない事に気がついたらしい。


 くそ、やばいやばい。


 更に焦った俺はなにか使える物はないかと再び講堂の中を見渡した。


 「!?」


 と、そこには先程のフードを被った人物がそれを脱ぎ捨て、手には地面に置かれたパソコンに繋がるビデオカメラを持ち、講堂の全貌が見えるように自撮りしている姿があった。


 そして、その女性はかなり大きめな声でカメラに向かって喋り始める。


 「みなさーん。お久しぶりー。ベッキーチャンネルのベッキーだよ。いやー、3ヶ月も配信できなくてごめんねー」


 ベッキーと名乗る大学生の様な見た目と服装をした女性は元気良く、カメラに向けて挨拶をする。


 それを見た俺は彼女が誰で何故見覚えがあったのか分かり、自身の携帯で彼女のチャンネルを開く、すると、既にそのライブには1万人以上の視聴者が集まっていて、多くの低評価とアンチコメントの数々で埋め尽くされていた。


 人気者だったはずの彼女が何故こんなことになっているのか、困惑している俺だが、しかし、それにもかかわらず彼女はそれらを完全に無視して話し続けていく。


 「今日私がどこへ来ているかと言いますとー···こちら!御子の社会的な何とかをどうとかするシンポジウムに来ています!はい、パチパチパチって事で見えますか皆さーん、そこそこの人数が集まってますねー、返納機を増やした方がいいとかぬかしたクズに、それからそれから···ってあれ機関銃を持っている人もいますねー、まじめな会議の場にこれは良くないなー」


 ベッキーのただならぬ様子と明らかに講堂が占拠されてしまっている様子にアンチばかりだったコメントにも変化が起き、困惑の声や、"助けなくていいの?"的なものが増え始める。


 更にこのタイミング、傭兵達もベッキーに気が付き、リーダー格の男が部下に彼女を黙らせるように指示を出した。


 しかし、傭兵の事などまるで気にもかけずにベッキーは先程のコメントに反応する。


 「はい来ました。助けなくていいのだって、いやーこっちも助けたいのは山々なんだけど、あいつら返納機っていうの持ってて、今神具が使えないんだよね。みんなも知ってるよね返納機って、私の言い訳で聞き飽きたでしょ?」


 少し怖い顔でそう言いったベッキーだったが、直ぐに満面の笑みに変わる。


 「でも安心して、そんな時に有効な商品があるんだよね。···それがこれ!ババン!"アン·アップル"」


 そしてポケットから赤い飴玉の様なものを出し、袋を開けて画面の前の人に見せるよう自分の顔の横へと持っていく。


 「おい、大人しくしねーと撃つぞ」


 と1人の傭兵がベッキーの至近距離まで近づいて脅しをかける。が相変わらずベッキーは反応しない。


 「これは神具使いにとっての夢のアイテム、食べると一定時間、返納日や返納機の有無に関係なく神具が使えちゃうんだよ。見ててね、神具展開!」


 そして、飴を口に入れたベッキーはカメラ目線のまま、召喚されかかっている剣を軽々と振るう。


 「···ブレイブハート!」


 と、その後、剣が完全に姿を表す頃には敵は既に原型が残らない程に斬り刻まれてしまっていた。



 「「きゃあーーーーーーー!!!!」」



 その有様を見て観客達は絶叫し、動画のコメントは違う意味で荒れ始める。


 「くそ、やりやがったな!!撃て!!!」


 と少し後ろで待機し、様子を見ていた残り3名の傭兵が焦りながらもベッキーに向かって機関銃を乱射する。


 がしかし、神具を既に発動してしまっていたベッキーには意味がなく、これまたカメラ目線を外さないまま素早い斬撃で全て撃ち落としてしまう。


 「やれやれだね。じゃあ皆何時ものやつやるよ」

 

 銃撃が止んだところでカメラを三脚にセットしたベッキーはようやく敵の方を向き剣を構える。


 そして。


 「秘剣、音忘(おとわすれ)


 一瞬過ぎて、何が起こったか理解できず、気付いたら彼女は傭兵達の後ろ側に立っていた。


 そして、遅れることコンマ数秒、刀が振るわれ音がうるさいくらいに鳴り響き、気づくとそこには3つの肉塊が出来上がっていた。


 「な、なんなんだ!!お、おいこっちには人質がいるんだぞ!!」


 壇上の近くにいるリーダー格の男が額に汗を滲ませながら観客に銃を向け脅しをかける。


 しかし。


 「させません。神具展開、スカイエース」


 観客の中からそう声が響いき、水晶玉のようなものを召喚したその女性は傭兵達の機関銃を神具能力により発生させた鎌鼬の様な強い風で破壊する。


 「大鳳(おおとり)さんナーイス」


 「ええ、戸次さんはやり過ぎです」


 ベッキーと仲間らしい美人な女性は苦笑いで返事を返す。


 そして、振り返った拍子に見えた女性の顔からその女性は昨日、ミーシャと共にパーティーに来ていた人である事が分かった。


 「さあ、みなさーん。それでは主役の登場ですよー」


 再びカメラを手に取ったベッキーはカメラを壇上の方へと向ける。


 そして。



 ドゴォオオオン!!!!



 と天井が崩れる音が響き、機械っぽい巨大な赤色の腕が天井を突き破り現れて、壇上のリーダー格の男をそのまま踏み潰してしまう。


 皆がその様子に唖然とする中で、直ぐに腕は消えて無くなり、代わりに煙が残る壇上に2人の人物が在られる。


 片方の小学生程の見た目の少女は俺が昨日出会ったミーシャであり、もう1人は長身で眼帯を付けた凛々しい顔つきの女性であった。


 そして、その人物の正体は最初に壇上でプレゼンをしていた、男の口から明らかとなった。


 「な、な、南雲大星···」


 「よう、クズ共元気してたか?」


 怯えきって自分を指さす男に対し、大星はそう問い、笑いかけた。

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