人身御供とテロリスト 7
そんな事もありつつ思いの外、神経を使ったパーティーも終了し、俺は王女の使っていたホテルへと帰ってきた。
さすが一国の王女だけあって部屋は高級なホテルのスイートルームであり、窓からは夜景が一望できる相当な高層に位置していた。
すげぇこんなの一生に一度しか体験出来ないぞ。
というかまあ、飛行機とかもだけどスイートだとかファーストだとかランクを上げると割に合わない位に高額になるから自分の金では絶対にやらないという意味合いでもあるんだけどね。
!?···いや待てよ。でももし俺が御子として一財産築けば2度目も有り得るかもしれないんじゃないか、例えば今回の入れ替わりの件でぼろ儲けするとかな。
「くっ、はははははは!!!」
俺はそんなことを考えながら、街の夜景を見下ろし手を広げながら大声で笑う。
「え!?なんです急に」
「おっと、···いやあれだよ。この街、ひいては世界を手中に収める目前の悪役ごっこ」
「いやそれ、100%阻止される奴じゃないですか」
ジイヤはそう冷静にツッコミを入れた後、1度咳払いをして話を切り替える。
「明日は御子の社会的な在り方についてのシンポジウムに参加していたいただきます」
「え?私何も答えられませんけど?」
「大丈夫です。暁良様は観客席で見ているだけでいいので。もし万が一質問が来ても私に耳打ちしている振りをしてくだされば、適当に私が答えます」
「なるほど」
「では失礼します。何かありましたらドアの外で警備している者達にお伝えください」
「了解ですわー」
俺は空返事の様に答えながら、少しくしゃくしゃのベットに横になる。
そして、ジイヤが部屋を出たのを見計らって徐ろに起き上がり、布団を軽く撫でる。
高級ホテルでこのベットのくしゃくしゃ具合という事は恐らくはベットメイキングなどは入っていだろうことが伺える。
それに。
更に起き上がり部屋の中を改めて見渡すと、そこそこ散らかっている様にも見え、食べたお菓子の袋が散乱していたりと意外とガサツなようにも思えた。
それから俺はアキリアに関する情報を得ようと更にこの部屋を散策していくが、流石に私物は先にジイヤが回収してようであり、その辺の類のものは見つける事が出来なかった。
しかし散策する事、数十分。
「こ、これは···」
俺は遂に逆転する糸口を見つけ出すことに成功し、密やかに笑う。
そして、その裏付けの為に遼、騎士、そして自分自身の神具能力をフルに活用して証拠を集めて行った。
そして、それから数時間後。
俺はジイヤを部屋に呼び出していた。
「なんですか暁良様?もう23時を回っていますが」
「いやいや私思うんですけど、やっぱり脅されて身代わりをやるんじゃ身も入らないってもんじゃないですか?」
「なんです急に···」
「いや、こっちとしては王女身代わりをするのはやぶさかではないんですよ。ただそれに見合った報酬は頂きたい。何ならこっちが足元を見たい」
「···え?」
「何を言い出してるんだ?って顔ですね。でも尻尾掴んじまったんですよこっちは···」
俺はそう言ってジップロックに入ったティッシュを丸めた様な物を前に突き出す。
「これは一体なんなんですかね?」
「っ!?」
それを見せられたジイヤは驚愕し言葉を失う。
「貴方ならこれがなにか分かりますよね?何せ貴方がこの部屋に侵入して"致した"物でしょうからね。王女の残り香でするとは流石過ぎますね」
「···」
俺に煽られても尚も沈黙するジイヤに対して俺はこの数時間で得た情報をフルに活用して更に責めたてていく。
「私は神具能力を用い気付かれずに外に出て、警備員さんに頼み監視カメラの映像を確認しました。その結果この部屋の中にまで入ったのは私、アキリア王女、黒服の女性、そして貴方のみである事が分かりました。それ以外は誰一人としてこの部屋に入ってはいません。さらにアキリア王女が居ない時に1人でこの部屋に入ったのは貴方しかいません。貴方しかこの犯行は不可能なんですよ。···さあもう言い逃れは出来ませんよ!!」
そう言って俺は再び、印籠の如くジップロックを前に突き出す。
そして、数秒間の沈黙の後。
「申し訳ありませんでした!」
ジイヤはその言葉と共に土下座をして地面に頭を擦り付ける。
「仰る通りでございます。しかし、どうかどうか···」
「···」
「どうか、明日まではこの事を内密にお願い致します。そして、どんな金額でもお支払いしますので明日のシンポジウムだけは影武者として出席して頂けないでしょうか。その後は煮るなり焼くなり好きにしてもらって構いませんのでどうかお願い致します···」
「ふっ···」
ジイヤの必死の願いに俺は小さく笑う。
それは嘲笑や勝ち残った様な笑みではなく、優しい笑いであった。
そして俺はしゃがみ込んでジイヤの肩を軽く叩く。
「頭を上げてください。貴方が犯人でない事は最初から分かっています」
「へ?」
頭を上げると同時に驚いた様子で俺の方を見るジイヤ。
「勿論、その事を口外するつもりもありませんので安心してください」
「っ、という事はあの事を知っておられるのですか?」
「ええ、遼さんと淀川先生に協力して頂き、これはもうDNA鑑定済みです。そして既にこのDNAの主はアキリア王女である事が分かっていました。···つまりアキリア王女は男性···なんですよね?」
自分の身を犠牲にして主を守ろうとするジイヤの男気に触れ、既に100%協力する気になっている俺は裏の無い優しい笑顔で首を傾げた。




