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入学式 5

 お互いに状況を何となく把握した俺と久瑠美さんはその場での面倒な疑問のぶつけ合いを避けて、一旦身体と頭を洗い、全てを終わらせた所で露天風呂へと身体を沈ませる。


 「いいお湯だ〜」


 「そうだな〜」


 「温泉なのかな、これ?」


 「うーん、多分そうじゃね。なんかヌメヌメするし」


 先程までとは口調などが違うことに対しても、お互いに同じ作戦を取っていたため特に気にはならず、俺と彼女、いや彼は温泉の力かリラックスし、たわいも無い会話を繰り広げる。


 「で、お宅はなんで女装までしてこの学園に入ったんだい?」


 「うーん、まああれだな。家庭の事情で金が必要でな。変な借金取りの野郎に乗せられて入学する事になった。そっちは?」


 「えっ?ま、まあ、あれだよ。やっぱり神具に目覚めたからには人の為に役立てたいじゃん?」


 俺は少し動揺しながらも、耳障りのいい言葉を並べていく。


 家庭の事情って、下心丸出しの俺と比べて中々まともな理由じゃん。


 「へえ、中々殊勝な心掛けだな。でもなんで男のままで入らなかったんだ?神具は本物なら特例とかで入れるかもしれなくね?」


 「いや、まあそれはですね〜···」


 「嘘だな」


 「え?」


 「お前、女の子として入学して色々と期待してたんだろ?あとはまあ、男のままで入学するとハブられそうで怖かったとか」


 「!?」


 ば、バレてる〜。くそ、このままでは完全にマウントを取られる。


 「そ、そう言うお前はどうなんだ?別に男として入学してもよかっただろ?それにさっき変な借金取りに乗せられたって言ってたけど、神具を使えば一般人なんて簡単に返り討ちじゃん?それを素直に話聞いたってのは怪しいぞ?あと脅されたとか揺すられたとかではなく、乗せられたって言う表現をしたのも少し引っかかる」


 「お、お前。それはだな···」


 俺と久瑠美はお互いの意見をぶつけ合い、その後お互いの顔を見つめ合う。


 こいつとは手を組んだ方が得策だ。


 と俺はもちろん久瑠美もこの会話や先程のマガツモノとの戦闘、また同室であることなどの情報からそう感じ取る。


 そして1度咳払いを挟み口を開く。


 「こほん、あー、この討論はやめよう」


 「ああ、そうだな」

 

 そう、何より確かなことはこの学園生活において心強い協力者を得たという事だ。


 しかし、男ながらに神具を得て、尚且つ同じ学園に女装して入学するとは恐ろしいまでの偶然が重なったものだ。


 「そうそう、お前っていつから神具を使えるんだ?やっぱり半年前くらい?」


 「ん、半年?いや俺は1年前位だけど?」


 「ふーん、そうか···」


 1年前か、という事は半年前、俺が神具を初めて使った時に世界的に何かが起きた訳では無いのか。


 まあ、何より俺や久瑠美の様に女装して女子校に入学しようとする奴が他にいるとも思えないし出来るとも思えない、それに男の能力者が他に現れたという話も聞かない、という事は俺達以外に男の能力者は存在しない、あるいは極々少量という事だろう。


 「じゃあ改めて、これからよろしく頼むぜ(りょう)


 「ふっ、ああ、よろしくな暁良(あきら)


 そう言うと俺達は腕相撲のような形でお互いの手を握り、握手を交わした。


 その時。


 ガラガラ。



 「おいお前らまだ入ってんのか、あと5分で閉めちまうぞ」


 急に露天風呂と大浴場を繋いでいるドアが開き極めて低身長の小学生程にも見える容姿の少女が俺達に声を掛けてくる。


 「は、はい、もう出ますわ。申し訳ありません」


 「疲れてさっき起きた、ごめん」


 俺と遼は即座に口調を変え、苦笑いを浮かべつつ、その少女に答える。


 「ああ、おめーら、あれだな。さっき居なかった奴らか。···あたしはここの寮長の御堂心音だ。因みに言っておくがこれでもっ···」


 「成人を過ぎた大人なんですわね。でもそんなもの見れば一目瞭然ですわ。ねえ遼さん」


 「うん暁良、どう見てもそう。内側から滲み出る大人のオーラは隠せてない」


 何処からどう見ても小学校高学年がいい所である少女に対し、俺達はお世辞を駆使し持ち上げていく。


 「お、おお、やっぱりそうだよな?桐原の野郎が毎回馬鹿にするもんでよ。ほらあいつ人を見る目ねぇーから。···ああ、そうそう、あたし桐原の2つ上だからよ、あいつに何かされたら言えよ。あたしが先輩として説教してやっから」


 「え、ええ何かあったら頼らせてもらいますわ」


 機嫌良さそうに語る彼女に対し、俺は彼女が桐原先生より年上という事に驚きつつも、それを隠し当たり障りのない返答をする。

 

 それにしても、まじか。桐原先生より上って事は確実に25は越えていそうだ。


 うーん、人ってのは見かけによらない。これから敬意を込めて、心の中では心音ちゃんと呼ぶ事にしよう。


 「ああ御堂さん、そろそろここを閉める時間でしたわね。もう出ますので···」


 「ああ、いいよそんなの。好きなだけ入ってなよ。出たらあたしの部屋によって声かけてくれればいいから」


 心音ちゃんは上機嫌なままそう言うと、露天風呂のドアを閉めて鼻歌交じりに大浴場を出ていく。


 「ふぅ、どっか行ってくれたか」


 「扱いやすい人で助かったな」


 「それにしてもあれで桐原先生より年上ってすごくないか」


 「ああ、合法ロリってやつか、なんかすげー···」


 「興奮するよな」

 「興奮するな」


 俺たちはゲスなハモリをしつつ、心音ちゃんの言葉に甘え、あと数分だけ温まるともう二度と入ることが出来ないかも知れない温泉に対して、名残惜しさを覚えながら大浴場を後にした。


 


 


 そして俺達は自室に戻り、これからの事について話し合いいくつかのルールを設けた。


 まず1つ目は、お互いに助け合い学園生活を送り、もしも片方の正体がバレてしまった時はもう片方も道連れにする。


 こうする事で相手を落とし入れるなどの行為を封じ、強制的に助け合わなくてはならない状況を作ることができる。

 

 そして2つ目、女の子に対して自分達から積極的に接触する事を禁止する。ただし触れなければ相手が怪しむ状況や緊急時は含めない。


 最後に3つ目。


 「じゃあ俺は二条院さんを狙う」


 「おう、もちろん俺は東雲さん狙いだ」


 俺達はお互いに最初に出会った少女の名前を上げる。


 「じゃあ、分かってるな」


 「そっちこそ」


 そして再び強く握手を交わした。


 3つ目のルール、相手が狙っている人物には手を出さず、お互いにアシストし合う。

 

 こうして俺達男2人、女子だけの学園での生活が始まった。

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