人身御供とテロリスト 5
「この様な申し出を快諾して下さった事、誠に感謝致します」
「え、ええ、こちらこそ光栄の極みですわ」
その後、お互いの服を交換し九條学園の制服に身を包んだアキリアは礼儀正しく俺にお辞儀をする。
その言葉に対して"快諾なんてしてねーよ!"とブチ切れ寸前ではあったが、おそらくその事情を王女は知らないであろうと思われる事から俺はその気持ちをなんとか押し殺して引きつった笑顔を浮かべた。
そして続けて、呼び出し掛けてこの場に呼んでいた遼の方に手を向ける。
「こちら私のルームメイトの久瑠美遼さんですわ。この方と明日1日行動していれば困る事はないと思います」
「え?何この状況どうなったん?」
「ははは、王女様、少しお待ちください···」
俺はアキリアにそう言い、呼び出しただけでなんの事情も知らない遼と肩を組んで先程あった事を端的に説明し、王女の面倒を見て欲しい事を告げる。
「えっ、やだよ面倒臭い」
「まあそう言うなよ。必ず奴らの弱みを握って形勢逆転してやるからよ。そうなったらお前にも報酬を30%くらい分けてやるからさ」
「はあ···まあ40ならやってやるよ」
「ちっ、分かったよ40な。その代わりしっかり守れよ」
と遼の肩を少々強めに叩き、無理矢理に納得させると、お互いに満面の笑みでアキリア達と向き合った。
そうして俺の王女としての入れ替わり生活が始まった。
それから九條学園を後にした俺は高そうな車に乗り込むとその足で、アキリアが招待されていたパーティー会場へと向かった。
「いいですか暁良様。貴女は今、王女の代わりとしてここに居るという事をお忘れなきようお願いします」
「ふぉっけー、ふぁかってますわ···」
「···いや、ですからね、王女はそんな風には食事にがっついたりしないですからね」
立食形式でテーブルに置かれた食べ物を片っ端から食べて行く俺にジイヤは少しイラつきながら言う。
「意外とこういう風な女子の方が男子に受けるんですわよ」
「いや、王女が男子ウケとか狙わなくていいんです」
俺のささやかな嫌がらせにジイヤはますます苛立ちを増していく。
そんなことをしていると、俺達の方へと数名のスーツを着た少し若めの男達が歩いてくるのが確認できた。
「っちょ!ジイヤ、本当に男子に受けてしまいましたわ。あの人たちこっち来ていますわね」
「と、取り敢えず王女っぽい返答を適当にしてください。キリがいい所で私が止めますので」
「ええ、了解ですわ」
そうして少し呼吸を整え、気付いていない振りをして歩み寄ってくる人を待つ。
「貴方はメリヴァ王国の王女のアキリア様ですよね。お会い出来て光栄です」
「ええ、どうも」
そして、それから少しの間、世間話の様な会話を続けていく。
「アキリア様はどんな趣味がお在りなんですか?」
「···そうですわね。趣味と言うか良くやるのは気に入らない奴を死刑囚の中に混ぜそいつらをそれぞれ違う部屋に閉じ込めて、全員に自分の体を使った残酷で過激な映像を生配信させ、より高評価を獲得した1人だけが死刑を免除されるっていうゲームを上級国民向けの娯楽として主催してますわね」
「···えっ」
「ははは、アキリア様は冗談がお好きでしてどうもすみません」
驚いている男達にジイヤがそう声を掛けると俺を連れて少し離れる。
「え?貴女なに?ジグソウの正体?···と言うかアキリア様をどうしたいんですか?」
「いやだって、王女っぽい返答しろって言ったから」
「いや何処の王女参考にしてるんですか、もっと参考にすべき人はいたでしょう?」
「えー、じゃあどうするんですの?」
「取り敢えず適当に話をしてください。さっきも言いましたが十分に話したと思った所で私が割って入って話を終わらせますから」
そうしてジイヤとの作戦会議が終わり、男達の元へと戻る。
「お待たせしましたわ」
「···」
「···あー、そうだ。これは私が昨日見た夢の話なんですけどね。私は欲しい本があって本屋に行ったんですけど結局、目当ての物が売ってなかったんです。少しがっかりした私は何故か適当な本を1冊持ってその本屋を出ていってしまい、そしてその足で2軒目の本屋に行ったんですけど、そこにも目当ての物が無く、仕方なく1軒目で取った本を置き、また違う本を持って出ていったんです。更に3軒目、4軒目と共に目当ての本が無く、先程と同じ要領で2軒目で取った本を3軒目に、3軒目で取った本を4軒目に置いていき、そうして5軒目に辿り着いた所でようやくお目当ての本を買う事が出来ました。でもそこでようやく、私が今までしていた事は万引きであったと気付き、また全てを元の本屋に戻すにはまた万引きみたいな事をしなくてはならない事に気がついて、何でこんなことしちゃったのかなーって思ったんです。···で何でだった思います?」
「···え?す、すみません分かりません」
「うん私も分かりませんわ」
「あー、ちょっとすみません。アキリア様ちょっとこちらに」
と再びジイヤが話に割り込んできて俺を誘導し男達から離れる。
「いや、なんの話!?確かに適当に話せって言っちゃいましたけど、適当が過ぎますよ」
「···」
「なんですか?」
「さっきからツッコミがうるさいですわよ。パーティーでテンション上がっちゃいました?」
「はあ···早く入れ替わり終わって欲しい。ただでさえ胃が痛いのに」
そんな本末転倒なセリフまで飛び出し、ジイヤは弱々しく腹を摩った。




