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人身御供とテロリスト 4

 そんな感じで、一部を除き充実した休日を過ごした俺は翌日の放課後、唖然としてしまっていた。


 「あっ···ああ···」


 嫌な予感はしていた。しかしこの行動力よ。


 禍津解錠に備えた訓練の見学と言う名目で九條学園に現れた、4名ほどのボディーガードと思わしき黒服の男女と1人の初老の男性に囲まれた少女を指差し言葉にならない声をもらす俺。


 アジアっぽい民族衣装に褐色の肌、その人は正しくメリヴァ王国の王女であった。


 そして、その光景に驚いているのは俺だけではなく他の訓練中の1年生も俺と王女を交互に見比べ絶句していた。


 「こら王女を指差すな!」


 「痛たたた!」


 そんな中、俺は桐原先生によって人差し指を掴まれ拗られてしまい、その痛みで悶えてしまう。


 しかし。


 「皆さんこんにちは、(わたくし)はアキリアと申します。今日はこの九條学園の訓練の様子を視察したく、無理を言って敷地内に入らさせて頂きました。どうぞ私は居ないものと思って訓練を初めてください」


 とメリヴァ王国王女であるアキリアは視界に入っているであろう俺の事を気にする様子なく、優雅な雰囲気でそう言う100点満点の笑顔を皆に向けて辞儀をしてみせる。


 王女のこの反応、少なくとも自分にそっくりな俺という存在がここに居ることは最初から知っていた感じだろう。


 しかし、それだけだと昨日の事まで知っているとは断定出来ない。···くっ、一旦様子を伺うしかないか。


 そう考えた俺は若干訓練に身が入らない中、王女の言葉の通り、普段通りを心掛けて無理矢理に訓練に身を投じた。


 



 そうして変な緊張の中、訓練を終えた俺は疑念を晴らすべくわざと1人になる為に自動販売機へと飲み物を買いに行く。


 ここで何も無ければ俺の思い過ごし、何かあればその時は···。


 そんなことを考えながらコーヒーを購入してその場で一気に飲み干し、ひと息つく。


 そして何も無さそうな事を確認しホッとすると、俺は皆の所へと帰るためゴミ箱に缶を投げ入れ、歩き出す。


 その時。


 嫌な予感が見事に的中してしまう。


 「少しお話よろしいですか?」


 そこには王女と一緒に九條学園を訪れていた初老の男性と黒服の女性の姿があった。


 「な、なんですの?」


 「私はジイヤ·ハンと申します。実は折り入って相談がありまして」


 「···と、言いますと?」


 面倒なのは嫌だ、面倒なのは嫌だ、面倒なのは嫌だ。


 作り笑顔を浮かべつつ、俺は心の中でそう連呼する。


 「貴女にアキリア王女の影武者をお願いしたいのです」


 「···は?」


 内容こそ予想はできたが、もう少し遠回しに依頼してくると考えていた俺は驚き、キャラを忘れて少々ドスの効いた声がもれてしまう。


 それにしてもこれは国民性の違いなのか、そんな命懸けの、頼みにくそうな事をこんなにストレートに依頼して来るこのおじさんの図太さが本当に恐ろしいまであった。


 しかし、これがもしも作戦だったならそれは大した物だし、偶然だとしても見事に刺さっている、何せこんなに失礼な事をズケズケと平気で言ってくる奴に対して、相手と同じ土俵に立つ以外での返答というのは意外と難しく、俺は何と返事をしようかと困ってしまったからである。


 ···さてどうするか。


 しかしこの依頼、もし報酬がとんでもなく良かったら受けてやらないでもない。


 相手は王族だ。順当に行けば相当吹っ掛けることも可能だろう···。


 ······。


 よし、ここは1度断って相手の出方と足元を見るか。


 「申し訳ありません。私は勉学と訓練で忙しい毎日を送っていまして、その様な事を受けている時間はありません。それにそういう事は1度学園を通して頂けると嬉しいですわ」


 「なるほど、やはりそうですよね」


 「ええ」


 「しかし学園を通してだとまず断られるのは明白ですからそうもいかないんですよ」


 「?」


 「···私偶然にも昨日このような写真を撮ってしまいましてね。是非あなたに見てもらいたいのです」


 「なんですの···っ!?」


 こ、これは···!!


 おっさんが手渡して来てきた写真は昨日のものであり、俺と騎士が楽しそうにカラオケ店に入っていく時の情景が収められていた。

 

 「脅すつもりですの?」


 「ええ、申し訳ありませんがこちらも必死なのです。···この国においても生徒と教師が交際していると言うのはバレたらまずい情報ですよね?」


 「···くっ、ぐぐ···」


 恐らくは昨日、俺が傭兵に襲われたのも全てこいつによって仕組まれていたのだろう。


 もちろん俺と騎士が付き合っていると言うのは事実無根であるが、その写真の内容は世間的にもそういう風にしか見えられない光景でだった。


 このジジイ、覚えてろよ···絶対後悔させてやるからな。


 俺は苦虫を噛み潰した様な表情でジイヤを睨みつける。


 そして。


 「···分かりましたわ。受けましょう」


 「ご協力ありがとうございます。我々は明日の夜に日本を経つ予定ですので影武者は今から明日の夜までという事でお願いします」


 泣く泣く影武者を了承する俺と、笑顔で返してくるジイヤ。


 偶然にも明日は任務日だ、遼達に頼めばギリギリ学園側に知られずに入れ替わる事も可能だろう。 

 

 そうして俺は必ず報いを受けさせると心に誓いながら、入れ替わりの為にジイヤたちと共に王女の元へと向かった。

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