吉野宮暁良と隠された扉 11
そして放課後、現在時刻は丁度5時頃、ようやく学園へと帰ってきた俺は他の禍津解錠への参加者の1年生が訓練をしている横をこっそりと通り、ある場所へと真っ直ぐに向かう。
「よし」
そこは学園に2、3個ある体育倉庫の内の一つであった。
昨日の夜、大野木さんの協力者には何も無かったと嘘をついていたが、俺はこの倉庫内にあったマットなどの下の床に扉らしきものを見つけていた。
だが俺は遼の為にも、また今後の俺自身の為にも大野木さんに対して情報アドバンテージを得ようとその事を隠し、先んじてこの場所へと捜査に来たのだった。
また今日俺が学校をサボったのは周りから"吉野宮は今日欠席している"と思われた方が動きやすいと考えた為だが、しかし、扉を調べるのはどうせ放課後になってしまうので、それまでの時間を有効活用して実家に帰り斬像を置いて来たと言うのが今日の流れになる。
それにこの地下へと通じる道の先には、マガツモノが封印されていると言う話であった。その為いざ戦うとなった時、いつも通り実家に斬像が置かれていないと本領が発揮出来ないかもしれない。
「ふう」
そして深呼吸をして、俺は意を決して地下へと通じる扉へと手をかけるためにしゃがみ込む。
「くっ···」
しかし俺は昨日からの疲れからか目眩に襲われそのまま膝をつく。
そう言えば昨日も立ちくらみしたな。やはり、あの数の斬像を使っての数時間の捜索はこたえたか。
···まあいい、封印されているマガツモノが本当に居たとしても、今日そいつを倒す訳では無い、今日はあくまで下調べに過ぎない。
俺はそう考え再び地下への扉に手をかける。
しかし。
コツ、コツ、しゃりしゃり···。
!!?
俺は体育倉庫の外でこちらへと近づいてくる足音が響いた事を察知し、急いでマットを元に戻した。
そして、それからコンマ数秒後、半開きになっていた体育倉庫の扉が勢いよく開く。
「おいこんなのところで何をしている?」
「き、桐原先生···」
何とか体育倉庫の中を元通りにすることに成功した俺だが、自分自身は隠れる事までは出来ず、突然その場所に来た桐原先生に見つかってしまう。
しかし俺はせめて平然を装おうと、内心はめちゃくちゃ焦りながらも微笑を交えながら振り返る。
「こんなところで何をしている?それにお前は今日、授業を無断欠席していたな、どういう事か説明してもらおうか?」
「ええ、授業を欠席した件に関しては同室の遼さんが風邪を引いてしまったという事でどうしても心配になりずっと看病をしていたのですわ。ただ当時焦っていて東雲さん達にその旨を伝える事をすっかり忘れていまして······それに関してはとても反省していますわ。本当に申し訳ありませんでした」
俺はそう言うと深めに頭を下げる。だが桐原先生の追求は止まらない。
「···で?そんなお前が何故こんなところにいる?」
「···はい、それでしたら遼さんの体調が落ち着かれて、今はぐっすりと眠られていたので、禍津解錠の訓練中のリリネさん達に今日の事を伝えようと出向いていたのです。そうしたらこの体育倉庫の扉が空いている事に気がついて気になって入ってみたという感じですわね。聞く話によると、どうにも最近変な噂が流れているということではないですか?ですので、もし誰かいたら注意をしようとしたのですわ」
何も悪びれることはなく、平然とそんなことを言ってのける自分自身に驚きながらも俺は真顔で桐原先生に笑いかけた。
「···なるほどな」
「?」
「いいや何でもない。とにかく今日の欠席の件は了解した。無断欠席には変わりは無いが罰を科すのは無しにしてやろう。···ほら、取り敢えず今日のところは久瑠美の近くにいてやれ」
体育倉庫の外を親指で指しつつ、俺にそう促す桐原先生。
「ここは私が閉めておくから早く出ろ」
「え、ええお願いしますわ」
くっ、今日の所はここを調べる事は出来ないか。
くそ、···まあいい。ここに桐原先生が現れた事で怪しさは倍増だ。明日の放課後の訓練を終えた後にもう一度調べれば全ての真相は明らかになるだろう。
そう考えた俺は桐原先生の横を少し申し訳なさそうな様子で通り抜け、日が沈みかけている中を真っ直ぐに寮へと戻った。
そして翌日の放課後。俺は再びその体育倉庫へとやってきた。
だがしかし。
結果から言ってしまえば、その地下へと通じる扉の先には特に怪しいものは無かった。
そこにはただ床下収納の如く体育に使う道具が収納されているだけであり、さらに収納の床の感覚からもその奥が空洞になっている様子などはまるでなかった。




