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入学式 4

 「ん、こ、ここは?」


 すでに真っ暗になっている部屋で目を覚ました俺はおぼつかない頭で記憶を呼び起こしていく。


 見慣れない部屋。ベットが2つ。


 ああ、そうかここは九條学園の学生寮で、学園中のトイレを掃除して回ったせいで疲れて寝落ちしたのか。


 ようやく俺の脳みそは正常に機能し始め、その流れで現在の時刻を確認する。


 23:39。


 まじかー、随分寝てしまったようだ。


 はあ仕方ない。風呂に入ってまた眠るか。


 そう考えた俺は着替えを用意し、まだ若干ボーっとしている頭で学生寮の大浴場へと向かう。


 学生寮の廊下は明かりがまばらに着いているものの薄暗く、みんなもう寝てしまっているのか、防音になっているだけなのかは分からないが物音1つ鳴っていない静かな空間であった。


 そしてようやく大浴場にたどり着きやっと俺は正気を取り戻す。


 「···1つしかない」


 そりゃそうであった。女性にしか扱えない神具を使いマガツモノを倒す御子を育てる学園の、それも学生寮に男性用の風呂場などあるわけがなかった。


 俺は若干、大浴場の前で立ち止まりしばし思考を巡らせる。


 明日以降、この議題についてはしっかりと考えなければならないかもしれない、だが、こと今日に関しては既に0時も近くなっていて今入っている人はいないだろう。


 と俺は大浴場の入口の横の"風呂は0時まで!"と書かれた張り紙を確認しながら考える。


 いや、決して大浴場を前に大欲情して理性を失っているわけではない。本当に面倒くさいだけなんだ。


 俺はそう自分に言い聞かせて風呂場に入っていく。


 「···誰もいないか」


 俺は少しガッカリした様な、ほっとした様な様子で呟く。


 いやいや、これでいい、これでいいんだ。


 と言うか俺の女装が完璧とはいえ流石に脱いでしまったらバレてしまう。

 

 次からは恐らく部屋についているであろうシャワーで誤魔化して行くしかない。···ああ、でも流石に同室の久瑠美さんには怪しまれてしまうかも、さて、どう言い訳するべきか。


 そんなことを考えながら俺は、制服、スパッツ、ボクサーパンツと次々に脱いでいき肩まである長い後ろ髪をお湯に入らないように縛る。 


 そして禁断の扉の前に立ち、呼吸を整え、いざ中へと侵入する。


 開けた瞬間、俺に吹き付ける濃縮した華の香りと、嗅いだことも無い、恐らく脱法の何かだと思える匂いに脳内がおかしくなりそうになってしまう。


 「いや落ち着け、人としての尊厳は保て俺」


 突如、制御不能になりかけた右手を左手でしっかりと押さえ付け自身に言い聞かせるように呟く。


 「···はあ」


 やばかった。


 例えばここがスーパー銭湯の女子風呂だとするなら、本当に申し訳ないが老若男女が入っているわけだから、萎える要素があると言える。···ああ(なん)は違うか。


 しかし、しかしここはどうだ。女子高生の純度100%、濃縮還元無しのストレート。


 ここに薄汚い俺という存在が入って穢してしまっていいのか?どうなんだ?


 ···。


 いやまあ、常識で考えたら何処の女子風呂でも100駄目なんだけどね。


 と俺はそれを言い出したらお仕舞いとばかりにこの話題を棚上げして、冷静に風呂場を眺める。

 

 その風呂場にはまず手前に体を洗う場所があり、奥には一際大きなお風呂、その横にはジャグジー、更にはサウナなどまで設備されていた。


 俺は普通に旅館のお風呂くらいに整えられた設備に感動しつつ観察を続けていると奥の外へと繋がる扉に目が行く。


 これはまさかあれか?露天風呂か?


 俺は一旦かけ湯など後回しにし、純粋で無垢な興奮を胸に少しだけ早足でその扉の前まで行き扉を開ける。


 そこに広がったのは枯山水をモチーフにしたような情緒ある風景···ではなく。




 「あっ···」

 「あっ···」




 そこにいた人物と目を合ってしまった俺は人生の終了を覚悟する。


 だってこんなギリギリの時間に人がいるとは思わないじゃんか。


 俺はそう心の中で呟く。


 そして脳内にはこれまでの人生が走馬灯のように駆け巡って、それは徐々にこれから訪れるであろう悲惨な未来のビジョンへと推移していっていた。


 終わった。あまりにも早い。ここまでの苦労、手を貸してくれた協力者の尽力、全てが初日にして水泡に帰してしまった。


 ······ん?


 だが、何故だか一向に叫び声などが響かない現状に疑問を抱き、俺は再び目の前の人物と目を合わせる。


 白髪のセミロングで無表情が印象的だったその人物は、その印象からは想像出来ないほどに動揺し、目を見開いて驚いていた。


 そしてお互いにハッと我に返り、同時に下の方へと視線を移していき、再び目と目を合わせる。


 うん、結論から言おう。この大浴場はすでに女子高生純度100%では無くなっていたのだ。

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