吉野宮暁良と隠された扉 7
まずいぞ、これは···。
このままでは夜の捜索は事実上不可能になり、放課後に神具能力を使わずに探すしかないという事になって、結果10倍くらいの時間が掛かることになってしまう。
くっ···。
しかし、しかしだ。
それと同時に俺は自分の中での九條学園に対する疑いの念は徐々に増していっているのを感じ、またあの噂についての信憑性も増大していっているように思えた。
噂を間に受けて、門限を破り夜の学園を探索した生徒が現れたのでその生徒に反省文を書かせた。
と、ここまでなら全然普通の事だ。
しかし、昨日の今日で会議をして警備の強化を決定し、尚且つ全校集会を開いてそれを学園全体に知らせるというこの手際。
俺の考えすぎなのかもしれないが、何かを必死に隠している気がしてならない。
···とそんな感じで俺は全校集会が終わった後の講堂で時間を忘れ色々と思考を巡らせていた。
その時。
「あれ?吉野宮さん帰らないのかい?」
そんな生徒が疎らになった講堂で1人の少女が俺に話しかけてくる。
「あ、貴女は三廻部会長?」
「そうそう、覚えててくれたんだね」
九條学園で生徒会長を務め、同時に学園最強の御子でもあるその少女は屈託のない笑顔を俺に向けながら首を傾げる。
そして、会長に話しかけられた事で周りに生徒が殆どいなくなっている事に気づいた俺は急いで立ち上がる。
「そうですわね。空くまで待とうとしてたらこんな感じになっていまいましたわ。ははは」
「ふーん、···ああ、そうだそうだ。最近ニュースとかでも、そろそろ来るんじゃないかーって言われてる"禍津解錠"の件なんだけどね。桐原先生に九條学園から参加するメンバーの一員として君達の事を推薦しておいたからさ」
「禍津解錠?」
俺はキョトンとした顔で会長の言葉をオウム返しする。
禍津解錠という名前はもちろん聞いたことがあった。
それはゲーム用語で言えば、いわゆるウェーブみたいな物だ。
それが起こる場所と時間は台風の様に事前に予測する事ができ、その周辺に住んでいる人はみんな避難させられ、選ばれた御子だけがそこに残り戦う。
強く、そして、巨大なマガツモノが次々に出現し、非常に危険なその任務は九條学園の御子ですら選ばれた者しか参戦を許さず、正直に言うと俺は今回は参加する事は出来ないだろうな考えていた。
そんな状態にこの申し出、俺としては滅茶苦茶有難い事であった。
「ああ、別に強制ではないからね。こればっかりは流石に無理強いは出来ないしさ」
「い、いえいえ、とても光栄なことですわ!」
俺は一気に会長の前まで近づくと、こちらから女の子に触れる事を禁止していた事をすっかり忘れて会長の手をしっかりと握る。
「そう、それは良かった。···ああ、それでなんだけどさ、もし、これが正式に決まったら、参加者には放課後に特別な訓練が入る事になると思うからそれも承知しててね」
「はい!······ん?放課後···」
「そう、じゃ、またねー」
硬直している俺を置いて、会長はまたも屈託のない笑顔を向けながら去っていった。
いやいやちょっと待て、放課後に訓練が入るという事はもしもその訓練が始まったら扉について調べる事は事実上不可能になってしまうというとこでは無いのか?
ぐっ···。
いや、だが自分の評価を上げるために"禍津解錠"への参加は諦めたくはない。
しかし次の禍津解錠まではまだ少なくとも1、2ヶ月くらいはあるだろう。
その間、捜索を打ち切らなくてはならないのも痛い。
俺は立ち尽くした状態でさらに少しだけ考える。
そして。
「···はあ、取り敢えず保留!」
それは今考えても仕方の無い事だ、それに会長は"君達を推薦しておいた"と言っていたし、恐らくその中には遼も含まれているだろう。
だとすれば遼と話し合わなくては最終的な答えは出せない。
まあ、そういう事も全て含めて、結局は桐原先生から正式に禍津解錠への参加を打診されてからでいい。
俺はそう思い至り、一旦考えるのを放棄して教室へと向かって歩き出した。
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