吉野宮暁良と隠された扉 1
「お前は女装の何たるかを全く分かってないな!!」
騎士を無理矢理に仲間に引き入れてから数日後、俺は歓迎会をやったファミレスにて、机を軽く叩きながら騎士に向かって説教をする。
今はある作戦会議の真っ最中であるが、騎士と2人でいるこの光景を他の九條学園の生徒に見られても面倒なので、俺はパーカーのフードを被り、男である事を装いながら(?)それに臨んでいた。
まあ最も作戦会議と言ってもこの前の様な大それたことをしようとしているのでは無い。
その内容とは。
「いいか、お前は女装して可愛くなりたいのか?···違うよな、お前は女装をして皆の目を欺き九條学園の女子寮に侵入したいんだよな?」
「確かにそういう事になってしまうんだが、改めて聞くとめっちゃ人聞き悪いなそれ」
俺達の作戦とは、騎士をどうにかして九條学園の女子寮に侵入させ、俺達の部屋へと来させるための物だった。
その為に俺が女装しようと提案したところ、騎士が"自分には似合わない"とかほざいた為に俺の説教が始まったというわけだ。
「いいか?目的をしっかりと見据えれば、おのずと最適解を導き出す事が出来るんだ。お前は世間一般の女装という概念に引っ張られ過ぎている、あれは可愛い女の子になりたいと思ってやっている事で、つまり女装すること自体が目的なんだよ。しかしお前の場合は、純新無垢な女の子の集う九條学園の女子寮に土足で侵入する事が目的な訳で女装はその手段でしかないんだ」
「うん、というかわざと人聞き悪くしてるよなお前···」
「うるさい、脱線するんじゃない!···こほん、まああれだ。つまり今回の目的を達成するのに可愛くなる必要は一切無いんだ。お前がすべき事はたった2つ、1つは女子寮の生徒達に自分の事を女だと思わせること、そして、2つ目にそこに居ても全く違和感のない人に化ける事だ。······つまり今回お前が女装すべき対象は清掃のおばちゃんという事になる!」
俺はそういうと同時にスケッチブックに簡易的に描いた清掃のおばちゃんの絵を出す。
そしてそれを例に取りつつ説明を続ける。
「まず常に頭巾とマスクをしていても違和感が無い大きなアドバンテージだ、そしてなるべく厚着めで身体の輪郭を隠す、あえて腰が曲がっている感じにして身長を誤魔化すのも忘れるな、そこまですれば後はカツラをつけて目元だけ年老いた女性風のメイクをすればもう女性に見えるはずだ、イメージ的には志村がやってる様な感じだな」
熱弁する俺に圧倒される騎士。
しかし、ある事に気づき苦言を呈する。
「まあ、行きはそれでいいとして帰りはどうするんだ?夜中に清掃員がいるのはおかしいだろ?」
「は?そんなの、この作戦を実行するのを後日が休みの日だけって事にすれば問題ないだろ?俺達の部屋に泊まって次の日のいい感じの時間にまた清掃員の格好で出て行けばいいんだしな」
「と、泊まるのか?」
「嫌か?もしかして潔癖症?」
「そうでは無いが···」
「ふーん·····あ、分かった。美少女2人の部屋に泊まるとか緊張するみたいな感じだろ、安心しろほどよく散らかってて男子運動部の部室みてーだから」
「いや、別にそういう訳でも無いが」
「ふーん」
変な奴だな全く···ああ、そうかこいつずっと友達が居なかったみたいだったからな、こういうの初めてなんだろう。
全く仕方なの無いやつだな。
「まあ最悪、泊まらないで済む手段として、幽霊の格好も用意してるからその点は安心しろ」
「···はあ、もうなんでもいいや」
とそんな感じで俺達の話し合いは終了した。
そして数日が過ぎ、金曜の放課後となった今まさに作戦が開始されようとしていた。




