馬鹿と天才 16
それから騎士を追って奔走する事、30分。
俺はようやくたどり着いたのはキャンプ場に併設しているコテージの1棟であった。
何故、騎士はこんな所に誘拐されたんだ。
ここは明らかに貸し出されている施設だ。やばめな組織ならきっと自分達のアジトみたいなものを持っている筈である。
···ちっ。考えても答えは出ないか。まあいい、乗り込んで見れば分かる事だ。
「神具展開、百騎一閃」
俺は神具を展開すると同時に再び翁のお面を装着し、後で(騎士が)弁償するからと心の中で呟き、明かりの付いている部屋へ窓を破壊しながら乗り込んだ。
「大丈夫か?騎士!」
そこには口にタオルを巻き付けられ腕を後ろで縛られながら、ベットでもがいている騎士の姿と、銃を持ち般若のお面を被った謎の人物が存在していた。
そのため咄嗟に俺は刀を峰打ちの状態で持ち、般若のお面を被った人物に斬りかかる。
しかし。
カキンッ!!!
とそいつも素晴らしい反応で俺の斬撃を銃で受け止める。
「って危ねーな」
聞きなれた声が般若のお面から聞こえて来て、俺はそいつの持つ銃をしっかりと確認する。
「お前、まさか遼か?」
俺は驚愕しつつもたずねる。
「ああ、当たり前だろ。てかメッセージ見て来たんじゃねーの?」
「メッセージ?」
遼に指摘され、急いで携帯を確認する俺。
すると遼からメッセージで"今日作戦を決行する。お前も来い"とあり、この場所の地図が添付されていた。
なるほど、そういう事か。
作戦とは夜な夜な俺と遼で考えていた最終手段の事でつまり今遼が行っているこれの事であった。
あとは騎士を神具などで脅しつつ、無理矢理に俺達のどちらかとヤッている様な写真を撮影すれば揺すりのネタの完成というわけである。
全くなんてひでー作戦を考えるんだ。
俺はため息をもらしつつ、騎士の口に巻かれたタオルを取ってやる。
「おい暁良、お前何やってんだ」
「こいつは大丈夫だ安心しろ。···それにこいつは科学や情報系に明るいから仲間に引き入れれば心強い筈だ」
「て言ってもよ···」
渋る遼の般若のお面を無理矢理に外し、自身も同じようにお面を取る。
そして騎士に向き合う。
「吉野宮、これは一体どういう事だ?」
不安そうであり、少しだけ悲しそうでもある表情で俺にそう尋ねると騎士とその様子を見て押し黙る俺。
···こいつは悪い奴ではない。話しても大丈夫な筈だ。
俺は覚悟を決めて、口を開く。
「···お前に打ち明けることがある」
「な、何だ」
「実は俺達はな······」
そして、俺と遼が男である事。またそれ故に返納日が無く返納機が効かないこと等を洗いざらい吐いた。
俺の告白を聞き騎士は案の定、驚愕の表情を浮かべていたが、地頭がいい為か信じる方向に考えを纏め始める。
「···確かに返納日は女性としての機能と大きく関係があると言われている。それが無い男なら返納日が無いと言うのも十分に頷ける話だな···」
「そういう事だ。で、お前には俺達が男だって事を黙っていて欲しいんだ。神具を使える男が現れたとか騒ぎになって注目されるのが嫌なんでな」
「······いや、まあそれはいいんだが」
「ん?なんだ。···ああ、まあ特別にお前の研究の手伝いくらいならしてやってもいいぞ」
「いやと言うかさ···女子校に男が2人女装して紛れてるのはヤバくないか?」
···。
······。
「ははは」
「いや、笑い事じゃなくてさ」
「···」
「おい?」
「······はあ、残念だ」
騎士、お前なら分かってくれると思っていたのにな。···全く、こんな事はしたく無かったよ。本当に。
「行ってこーい!」
俺は遼と示し合わせると、彼の背中を押して、ベットの上の騎士に覆い被さる様になる様に突き飛ばす。
「っておい、何をする」
「静かに」
口答えする騎士に対して俺は神具をチラつかせながら囁き、さらに続けて。
「今の生活を守る為なら俺はどんな事でもする。悪にだってなってやるさ」
「いや、カッコよく言ってるけど、お前元々悪だろ」
「うるさい!」
俺はそう言うとカメラを起動し、神具を匠に使い騎士の上の服を斬り刻む。
「うわ!何すんだ」
「口答えするな、···ほら遼!お前は騎士の絶倫チ○ポで逝ってるのに突かれを繰り返されて完堕ちしたんだ、もっと黒目の中にハートとかを作って事後感を出せ!それに騎士、この写真はお前が自撮りしてる設定なんだから、もっとそういう趣味のあるクズ男っぽい表情しろよ」
「は?なんで」
「へ、なんでって、この刀が見えないのか?」
「っ!く、くそが〜···」
と騎士は悔しそうな顔をしつつも、怒りの感情は少なそうな様子で俺を睨んだ。
しかしどうすることも出来ないと悟ったのか騎士は俺の指示したように演技をし、その様子を何枚も撮影する。
「これでいいんだろ」
「···まあな。あっ···んー、でもちょっと弱いかな〜。取り敢えずお前が遼を無理矢理に○○○してるパターンも撮っとくか?」
「は?ふざけんな!!」
と騎士の嘆きがコテージに木霊したが、やはり力には逆らえず、俺が納得するまでその撮影会は続いた。
「はい、お疲れ様〜」
「はあ、疲れた」
「という事で、これから宜しくな騎士、俺達は運命共同体なんだから仲良くやろうぜ」
ようやく俺が納得し、開放された騎士はかなり疲れている様子で、少しの罪悪感から俺は彼を慰める目的で肩を組んで笑いかける。
「全く本当に調子良いな」
「へへへ、まあ、もし俺達が女の子に対して最低な事をしたらその時は告発するといいさ」
「ああ、そうするよ」
そう言うと俺の笑顔につられて騎士も軽く笑みを浮べる。
そして続けて。
「···所でお前が男と言うのは本当に事実なんだな」
「まあな、見るか?」
「いや、いい。···はあ」
「どうした?」
「いや、神ってのは本当に···」
「ん?」
「いや、やっぱり何でもない···」
とそれっきり騎士は黙ってしまい、それから呼んだタクシーがこのコテージに到着するまでは会話する事は無かった。
そうして俺と騎士との攻防戦は結局"引き分け?"という感じの結果で、終わりを迎えたのだった。




