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馬鹿と天才 15

 そして、数日後の夕方頃。


 「着いたぞ」


 「了解した。······なあ、やはり俺もそこへ···」


 「は?何言ってんだ。こういうのは適材適所だろ、お前らしくもねーな」  


 俺はパーカーを深く被り、下には動きやすくてゆとりのある長めのハーフパンツを履いた姿で無線の先の騎士に話しかける。


 あれから俺は騎士の"返納機のレプリカを裏で売買している組織を潰してし欲しい"というお願いを承諾し、現在取引が行われている普段は使われていない倉庫の外の壁際にいた。


 「お前の仕事は俺に正確な情報を伝える事だぞ、分かってるな?」


 「···ああ、分かってる」


 俺に諭され騎士は超小型のドローンを操作して中の様子を偵察し始め、その映像を俺も携帯電話で確認する。


 「中には機関銃を持った男が9人、いや、陰に隠れている奴が2人で合計11人だな。···それに女性が2人いる、恐らくは神具使いだろうな、この様子だときっと···」


 銃を持っている男達とは違い、その2人の大学生程に見える女性は酷く脅えた様子であり、またそこで商談している奴らの会話の内容からも、その女性達は恐らくは返納機を用いて逆らう意思が無くなるくらいに躾られて、神具を使える奴隷の様にされているんだろうと推測出来た。


 「ち、クソ共が」


 「吉野宮、気持ちは分かるが、奴らを殺したりするなよ」


 「ああ分かってるよ。くっ···悪いが最初に狙うのは彼女達だな。俺に返納機が効かないと分かったら、敵はきっと返納機を停止させて彼女達に俺を攻撃させるだろうからな」


 そんな感じで状況に合わせて作戦を立てつつ、その後も倉庫の構造をしっかりと頭に入れるために、騎士はしばらくドローンを飛ばした。


 すると。


 「···こいつは返納機の研究をしていた時に見た覚えがあるぞ···なるほど返納機の情報を売ったのはこいつだったのか」


 ドローンのカメラを白衣を着た中年の男に向けながらつぶやく騎士。


 「まじか、研究してた奴がこんな事をしているのかよ」


 「ああ、優秀とも平凡とも言えない感じの薄い印象だったが、野心が強そうな感じであったからな···」


 とそんな感じで敵の正体も掴みつつ、俺は倉庫内の敵の配置等を完全に頭に叩き込んだ。

 

 


 「よし、そろそろいいだろう。電気、よろしく頼むぞ」


 「ああいつでもOKだ、気をつけてくれ」


 騎士の返事を受けて俺は、この倉庫の入口あたりを警備している敵の仲間の近くに敵から見えないように斬像を配置し、自身は両手に鞘に収まった刀を召喚した状態で倉庫の上の方に設置された窓までジャンプして枠にしがみつく。


 そして俺は懐から翁の仮面を取り出して装着する。


 「いっせいのせで行くぞ。···はあ···いっせーのーせ!!」


 俺は目を瞑った状態でそう言い、騎士に合図を出す。


 パリン!!、ガタン!!


 と俺が蹴りで窓ガラスを割ったと同時にその倉庫の電気が騎士の操作によって消える。


 そうして敵が視界を奪われている時間を使って、最初から目を閉じ暗闇になれていた俺はまず女性2人の所へと近づき背後から軽く攻撃を加えることでその2人を気絶させる。


 「な、なんだ。何が起こっているんだ!!」

 「早く電気を付けろ!」

 「何かいるぞ、撃て、殺せ!!」

 「馬鹿、こんな暗闇で撃ったら仲間に当たるだろう!!!」


 とそこに居た男達は真っ暗な視界の中でも何かが侵入して来ている事を察したのか焦っている。


 チャンスとばかりに俺はその間に銃を持っている男5人ほどを片付ける。


 がしかし、わずか数秒で直ぐに電気が復活してしまい俺の姿は敵の前に晒されてしまう。


 「いたぞ撃て!!」


 堅気でなさそうな集団の組長っぽい男が俺を指さして命令を出す。  


 するとその近くの機関銃を持った男達が銃口をこちらに向けて弾を乱射する。


 「くっ···」


 それを俺は少し手を抜きながらギリギリでかわし、更に刀で銃弾を数個弾きながら男達に近づいて行き、鞘に収まった刀で殴ってそいつらを蹴散らす。


 「あと3人か···」


 「!?」


 出せる限りの低い声で呟く俺に敵は明らかに困惑していた。


 「お、おい返納機は作動させてるんだろうな!!」


 「は、はい確かに作動してます」


 「という事はこいつ男か···おい、だったら返納機を切れ、女共に闘わせろ」  


 「だ、ダメです。最初にやられた様で気絶しています」


 「ぐっ···どけ、おいテメーらさっさと起きて闘えよクソが!!···ちっ、マジで使えねー奴らだな」


 組長風の男は気絶している女性の胸ぐらを掴み乱暴に揺さぶるが彼女達はまったく起きる気配が無く、諦めた男はこれまた乱暴に胸ぐらを持つ手を離し、女性を地面に投げ捨てる。


 「くっ·······ふう」


 その行動に俺は怒りを覚えるがここは感情をグッと抑え込み、深呼吸で気持ちを落ち着かせる。


 ···まあなにはともあれ、どうやら俺を男だと思わせる作戦は上手くいったようだ。


 神具の能力は使っていないし、身体能力は少しだけ抑えたし、服装も男っぽいものを選んだ、それにプラス、返納機が効かないという事実。それが相まって、相手はきっと俺の事を達人レベルで強い普通の男だと思ったに違いない。


 こうすることでこいつらが警察に捕まって、俺の事を話したとしても捜査の手が俺の元まで及ぶ事はまず無いだろう。


 「き、貴様何者だ!!?目的はなんだ?」

  

 「いやいや、俺はただの竹取りの帰りの老人だよ。そうしたら何だか騒がしかったもんだからドンブラコとやってきてしまったしだいで」


 「は?ふざけてんのかてめー!!!」


 組長風の男は怒りながら懐から拳銃を取り出して俺に向ける、だが、その瞬間にはもう既に俺は相手の懐まで飛び込んでいて喉に向かって強烈な付きを放った。


 「ぐう、ぐわぁ!」


 「ふざけんなはこっちのセリフだ、クズが···」


 さっきの女性に対する態度に腹が立っていた俺は瞬間的に怒りを爆発させる。


 そして続けて残った奴らを睨み付ける。


 「ひ、ひぃー!お、おい外に居る奴らも早く中へ来い!敵襲だぞ!」


 「ああ、残念だが外に居た奴らは既に片付けちまったよ」


 「な、なに」


 俺の言葉を聞いて顔面蒼白になってしまった白衣の男は、ただ俺の顔を見返してくる。


 「さ、じゃあ残りを掃除するとするかな」


 そう呟くと俺は、烏合の衆となった残りの奴らを次々と倒して行った。





 「ふー、疲れたわ」


 「···ありがとう。吉野宮」


 「そう言うのは後ででいい。例の所で落ち合おう」


 「ふっ、そうだな」


 俺はそんな感じで騎士との通話を切り、指紋とかに気をつけながら気絶している倉庫の連中を縛り上げた後、倉庫を離れ、その後、騎士が匿名で呼んだ警察が到着したのを確認するとその場を後にした。


 そして、俺は騎士と落ち合う予定の場所へと向かった。


 がしかし10分程が過ぎても騎士が来ることは無く、心配になり一応お互いに登録しておいたGPSを使って騎士の居場所を調べる。


 すると騎士の位置は車で移動しているようなスピードで変わっていて、落ち合うはずのこの場所からも、俺に指示を出していた場所からも離れていた。


 これは騎士の裏切りか?


 いやそれは多分無いと俺の直感が言っている。


 と、なると考えられる1番大きな理由は···。


 「誘拐された···」


 報復か、それとも今回の件とは全くの別件かは分からない。


 しかしほんの十数分前まではここで会う約束をしていたのに今では全く連絡が取れない、これは何かある。


 そう確信した俺は騎士の携帯の位置情報を頼りに、それが向かっている方向へと走り出した。

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