馬鹿と天才 14
な、なに!!!!???
俺は焦りながら急いで絵を確認する。すると絵の中の俺の腰辺りには刀がしっかりと帯刀されている事に気づく。
くそ、高橋め······。
いやまあ、小学校の先生がこの絵を九絛学園に送って来た事自体がイレギュラーだし、恐らくは悪気があった訳では無いのだろう。
だが、やってくれたな。
この状況、相手が俺の事を疑っている騎士で無ければどうとでも言い訳が出来きたのだろうが···どうする。
俺が言葉を詰まらせていると騎士がなぜか少しだけソワソワした様子で口を開く。
「いや、やはり君の口から言わなくていい。君には何故だかは分からないが返納機が効かない、それが俺の出した答えだ」
「···くっ」
くそ、いっその事、ここで気絶させて誘拐でもしちまうか?
俺がそんな最低な事を考えながら、神具を展開しようと手の中に刀1本分の隙間を作る。
だが、そんな俺の思惑とは裏腹に騎士は頭を低く下げてくる。
「君に協力して欲しいことがある」
プライドとかもやたらと高そうな騎士がそんな事をした事に俺は唖然とし、神具を展開しようとした事などすっかりと忘れて、まじまじと騎士を見つめる。
「君に何故返納機が効かないのかを追求するつもりは一切無い。だからどうか俺に力を貸してくれ」
「ど、どういうことですの。とりあえず頭をあげて説明してください」
尚も頭を下げ続ける騎士に俺はそう告げる。
すると騎士はゆっくりと頭を上げ、そうするに至った経緯を話し始めた。
「君に返納機が効かないと気づいた俺は最初、それを理由に君を脅して利用する気でいた。もしも返納機が効かない人物が居れば、それは社会的に危険視され、研究の対象として監視下に置かれる事や、最悪、拘束される事すら有り得る話だったからな、十分に脅しのネタになると判断したんだ」
「···」
俺は黙って騎士の言葉を聞いていたが、なるほど確かにそうだ、もしも返納機の効果が効かない俺みたいな奴が凶悪な犯罪者だったとしたら、その機械とのコンボで地上最強の存在となり得るかもしれない。
「現にあの遠足のボランティアの時まではそうしようと思っていた。だが気が変わった」
「···あの時に背負ってあげたことですの?」
「ふふ、まあ、それもあるが少し違う」
騎士は少し砕けた感じで笑い、俺の持つ高橋の描いた絵を指さしながら直ぐに続きを話し始める。
「あの遠足で俺は孤立していたあの少年が気になって一緒にいてやっていた。多分昔の自分と重なって情が湧いたんだと思う。···しかし俺はただ一緒に居てやることしか出来なかった。だが君は違っていたな」
「···見ていたんですのね」
「ああ、俺が他の生徒に呼ばれている間にあの少年は消えていて少しだけ探したんだ。···そうしたらそこには乱暴な言葉使いをしている君とその周りで楽しそうにしているあの少年の姿があった。俺がしてやりたかった事をいとも簡単にこなしている君を見て、その···」
「?」
「君がみりょっ···こほん、す、素晴らしい人間なんだと気付いた」
言葉を詰まらせながらも俺の方を見てそう言ってくる騎士の言葉に嘘が無いことは何となく感じる事が出来た。
「俺は母親を神具使いのテロリストによって殺され無くしている。だから君の様に返納機が効かない者にはもちろん、普通の御子の子達にも少なからず警戒心や敵対心を抱いてしまっていた。しかしそれは間違いだったと君が教えてくれた。···だから俺は正々堂々とお願いする。嫌ならもちろん断ってくれても構わない」
そうして再び騎士は俺に頭を下げた。
その様子を見て俺は少しの間考える。
なるほど騎士の少し冷たい様に思えた態度や返納機の研究をする理由はそこにあったのか。
騎士の言葉により彼がどういう人物であるのかを理解することで俺の騎士に対する不信感は薄れていった。
それにプラスで俺自身もあのボランティアで騎士が宮下と一緒に居てやっているのを見て、そんなに悪い奴では無いように感じていた。
それにこの態度、信用してもいいかもしれない。
「はあ、わかったよ。取り敢えず聞くだけだぞ」
俺は腹を括り、バレてしまっている口調を遼と話している時のように戻し、笑いかける。
「本当か!?ありがとう」
「まだ受けると決まってないからお礼はいいよ。で、何なんだ」
「ああ、そうだな···実はな」
そして騎士は俺に協力して欲しい事について話し始めた。
その内容は俺が当初騎士の差し金だと疑っていた、あの不良達も持っていた返納機のレプリカについての事であった。




