馬鹿と天才 12
さて、どうしたものか。
理想では子供達にこの場から離れて貰いたいが、もし彼等を無闇に動かして、その結果何かあっては大変な事だ。
俺はそう考えて臆病になってしまい、しばらく現状のままやや押され気味で戦いを継続させる。
しかし、これでは埒が明かない。
一体どうすればいい。と考えながら敵と刀を合わせた瞬間
川の中で何かが靴に当たる。
!?···そうか忘れていたが、これなら。
「いくぜ!!」
俺は少し敵から距離をとって両手に刀を召喚して、その2本を敵の後方に回り込む様に回転を加えて投げ、更にもう1本の刀を手元に召喚し構えながら敵との距離を詰める。
敵は後方に注意をはらいつつも、先に前から攻撃を仕掛けてくる俺に対峙する。
掛かった!
敵が完全に前方にターゲットを絞ったと確信した俺は、すぐ様、敵の数m後方で数m上空にある、投げられた2本の刀に斬像を召喚する。
そしてそれらは背を向けた状態の敵に向けて、刀を真っ直ぐに投げ付ける。
3方向からの攻撃だ。さあどう来る。
「グゥアウルゥ!!?···グゥル!」
敵は後方をチラと確認し、現状を把握すると僅かにしゃがみジャンプしようと試みる。
よしここまで作戦通りだ。
俺はニヤリと笑い、そして次の瞬間。
「グゥグウァアアア!!!!?」
敵の足元にいきなり斬像が召喚され、刀で敵の足を地面に打付ける様に突き刺していた。
そして、それにより回避行動が取れなくなった敵に対して後方から2本、前方から俺自身が持つ刀が1本突き刺さる。
「ふう」
刀を敵の身体に刺した状態で俺は少し後方に下がり、敵から距離をとる。
因みにさっき敵の足を突き刺した刀は、先程"裏切リノ刃"で斬像ごと敵を突き刺そうとした時にその斬像が持っていたものであり、そのまま河底に沈んでいたのが役に立ったという訳だ。
「グゥ···グゥギュア、グギッ、グ···」
敵はそんな鳴き声を上げながらどんどんと静かになっていく。
そろそろ力尽きるだろうが、一思いにやってやった方がいいと考えた俺は、また刀を手元に召喚する。
だが、突然。
「グゥギュアアグゥアアアァアアアァァ!!!!!!」
と、このマガツモノに遭遇してから1番の慟哭とも言える叫び声をあげる。
しかしそれは断末魔という様な雰囲気ではなく、俺は身構える。
すると敵の身体は先程の1.5倍程に大きくなり、体色が緑から赤へと変化していく。
これはいわゆる、第2形態って奴か···。
「くそっ!」
俺は咄嗟に敵に刺さった4本の刀の所にそれぞれ斬像を召喚し直して斬り付ける。
だがさらに強靭になった敵の皮膚は中々に頑丈であり、例えるなら物凄い斬れ味の悪い包丁で肉を斬っている様な感覚であった。
更にそれらはすぐに振り払われてしまい、結果として敵の傷口を少し広げる事に成功した程度の成果にしかならなかった。
「グゥガウ!!!」
「くっ」
先程よりも更に速い速度で俺に攻撃を仕掛けてくる敵に防戦一方になりつつ、何とか攻撃を凌ぐ。
この強さ。推定だが危険度A~AAの間くらいって所か。
万全の状態ならまあいけるだろうが、この状況だと分が悪い。
何より自分と高橋達、それに対岸に居る子供達と3つに気を配りながら戦わなくてはならないのが辛い。
「くっ」
「ねーちゃん···」
そんな俺の様子を見た高橋が後方で呟き、なにやら他の4人に耳打ちをする。
そして数十秒間ほど経った後、高橋達は一斉に走り出し、あろう事か川の方へと向かって来る。
あいつらなにやって···っ!?
高橋達が向かっている先には対岸に向かって等間隔に石が配置されていて、それが橋の役割を果たしていることが分かった。
あいつら向こうに合流して俺の負担を減らそうとしてるのか。
それは非常に危険な行動であったが自分の意思で勇気を持って決断した事は他人に指示された行動よりも遥かに良い結果もたらす···少なくとも俺はそう思った。
ならば俺はそれに全力で乗っかってやるだけだ。
「グゥギュワワワァァァァ!!」
「ち、やらせるかよ」
しかし敵も子供達の行動に気づいたのか、高く飛び上がって口から圧縮された水を連続で吐きつけた。
だがそれに合わせて俺も"生キ写シ"で子供達の近くの斬像へとワープして襲い来る水圧弾を斬り裂いていく。
それにより、殺傷性のある攻撃は子供達には当たらなかったが、代わりに大量の水しぶきが降り掛かる。
「う、うわっ!」
「馬鹿野郎!1度決めた事はやりきれ、ほら走れ!」
「お、おう、分かってるよ」
とその後も何発も敵の攻撃を撃ち落とし、子供達が対岸へと渡るのをアシスタントした。
そしてようやく対岸に辿り着くと、男女の2人の子供達もそこまで来ていて合流を果たす。
よしこれでだいぶ負担が軽くなった。
俺はそこそこの雨に降られたくらいに濡れた子供達の頭を撫でる。
「良くやったな」
「へへ、まあな」
俺は子供達と笑い合うと、改めて敵の方を見る。
「百騎一閃、十束ノ刃」
そして俺は10本の刀を1本に束ね、その刀を敵の方へと向ける。
「さあ本気でいくぜ!」
俺はそう叫ぶと斬像を4体ほど子供達の元に残し、残りの2体を連れて敵と距離を詰める。
「おら!!」
ピキッ···バリン!!
放たれた俺の斬撃は敵の腕に当たり、それは一瞬だけ敵の硬い鱗に阻まれるが、やがてその鱗にヒビが入って、そのまま完全に砕け散り、敵の片腕は斬り落とされる。
「グゥアアアアアァァァ!!」
痛みで声を上げながらも敵は残った手で俺に攻撃を仕掛けてくる。
「ふっ」
しかし、連れてきた内の1体の斬像が俺と敵の間に入り、その攻撃をガードする。
さらにもう1体が川底に持っていた刀を刺して固定し、俺はその刀の柄の先端に飛び乗り、続いて斬像とせめぎ合っている敵の腕に飛び乗って、そのまま敵の上空へとジャンプし敵の首に目掛けて刀を振るった。




