馬鹿と天才 11
「決めろ!宮下!!」
「うん」
さらにあれから30分、俺が無理やり引き入れた少年に向かって高橋が叫ぶ。
「な、ちょ待てって···」
油断したわけでは無いが、少しだけ疲れが出たのか、俺は3人のガキども追い詰められてしまい、そしてついに。
「うわ、まじか!!?」
「や、やった」
「よっしゃー、ねーちゃんを倒したぜ」
高橋は宮下の肩をぽんぽんと叩き喜び合う。
「ほらねーちゃん、負けたら交代だろ?代われよ」
「くっ···」
俺は渋々、高橋にゲーム機を渡す。
「一度勝ったくらいでいい気になるんじゃねーぞ。てめーら」
「うわこの人、大人気ねえ!」
「え?暁良お姉さんは大人気だって?」
「いや、その間違え方は文章じゃないと有り得ねーだろ」
「おお、よく今の拾えたなバカの癖に」
「バカって、もう何一つ隠そうとしねーなこの人!?」
そんな会話の最中、俺は自身の携帯で現在の時刻が13時30分である事を確認する。
「ほらほら、ゲームは1日1時間までだぞ、せっかく遠足に来たんだ。少しは自然で遊べ」
「げっ、負けたからって切り上げやがったよ」
「は?と言うかそもそもよ、わざと負けてやったに決まってんだろ。お前らの仲を取り持つ為に道化になってやったんだよ。分かれよな」
「う、うわー。と言うかもしそれが本当だとしたら普通言わないだろ」
「ほらいいから立てって。とりあえず川岸まで行って、川沿いにアスレチックのある所まで行くぞ」
「あれ?でも川は入っちゃダメって行ってなかった?」
「別に深い所まで入らなければ平気だろう。ほら早くしろよ」
まあ、いざとなれば神具も使えるし大丈夫だろう。
俺はそう言いながら急かすようにガキどもの肩を軽く叩く。
「まあいくか」
俺の提案にガキどもは、満更でも無い様子で従う。
いつの間にか俺は近所の悪い事を教えてくれる年上みたいなポジションについてしまったかもしれないな、···まあいいか。
それから俺はガキどもを5人引き連れて歩き始める。
そして歩くこと数分、ようやく川まで辿り着くと対岸の方には既に3つ程の人影があった。
その影の1つは明らかに大人の物で残りの2つは子供の物の様に俺の目からは見えた。
なんだ他の奴らもガキどもにせがまれたかして川まで付き添ってやってたのか。
俺はそう考えて木々を抜けて河原に出る。
しかし、先程の俺の考えは大きく外れていた。
「きゃーーーー!!」
俺が現状を把握すると同時に子供の悲鳴が響き渡る。
そこには後ずさりする男女の2人の生徒と、それをゆっくりと追う全身が緑色で黄色い嘴が生えた人型のマガツモノの姿があった。
「神具展開!百騎一閃!!」
「ってねーちゃん、神具使えないんじゃなかったのか」
「静かに、それよりも5人で固まって、ここを離れるんじゃねーぞ!!」
俺はそう叫び、この5人を囲む様に斬像を4人程召喚する。
そして俺は高くジャンプし、自身の周りに2本の刀を召喚して川の中にいる緑のマガツモノに向かって射出する。
バシャン!!
と刀が川に刺さった衝撃で物凄い量の水しぶきが飛び散る。
しかし俺は感覚的に刀がマガツモノに当たっていない事を確信する。そのため取りあえず射出した刀にも斬像を生み出して、襲われていた男女の生徒達を守るように配置して少しづつ後退させる。
が突然。
「クゥワワオオウウ!!」
と鳴き声を上げながら緑のマガツモノは飛び上がり、鋭く伸びた爪で斬りかかってくる。
「くっ」
高橋達と男女の生徒に気を遣いすぎていた俺だったが、その初撃には何とか反応し敵の爪での攻撃を刀で受ける。
しかし。
「フゥウワオオオウ!!」
「なに!?」
敵は素早く体を捻って、俺に対してそのままかかと落としを放ってくる。
俺はそれにも何とか反応して、攻撃をもろに受ける事は避けられたが、その衝撃まではカバーしきれず、川に向かって叩き落とされて水しぶきを上げる。
「ねーちゃん!!」
「大丈夫に決まってんだろ!心配すんな」
心配して近ずいて来ようとする高橋に向かって俺は声を荒らげてその場に留まらせる。
そして、空中から俺に向かって一直線に飛びかかってくるマガツモノの攻撃に対し、刀を構えて迎え撃つ。
「キュウワアァアア!!」
「おら!!」
「ギュワァ?」
「くっ」
完全に敵を捉えたと思われた俺の斬撃は敵の硬い鱗に覆われた腕に阻まれ、鱗にはヒビが入ったものの敵の皮膚を傷つけるまでには至らなかった。
そのため、俺は"忘レ刀"を使って素早く自分の持っている刀を斬像に預けて、後方に下がり自身の手に再び刀を召喚する。
「裏切リノ刃!」
そこから間髪入れずに召喚した斬像もろとも敵に突きを放った。
「グゥギッ!?」
ちっ、反応がいいな。
敵の喉元のギリギリくらいまで俺の放った突きが到達していたが、敵はバク転でそれをかわし、その途中に口から物凄い水圧の水を吐きかけてくる。
「クソ!」
なんとか刀でそれを受け、撃ち落とす。
しかし敵は俺に対して息付く暇を与えずに距離を詰めて来て、連打を放ってくる。
今の俺は6人の斬像を子供達を守る為に割いていてしまっている上、膝くらいまで水に浸かってしまっている状態での戦闘を強いられている、俺が圧倒的に不利なのは確定的にあきらかだ。
「クウワッファアア!!」
「うぐっ!」
体勢を立て直すため少し距離をとろうとした一瞬の隙をつかれ、敵の蹴りを腹に受けてしまい、数m後方に飛ばされる。
「ねーちゃん!」
「···平気だ」
俺は腹を抑えながらゆっくりと立ち上がり、俺を心配する高橋達に手で合図を送り無事を伝える。
神具発動時の肉体強化により見た目よりはダメージは少ないもののこれはまずいな。
この状況やはり敵に分がありすぎる。
俺は子供達を眺め、その後再び敵に目を向けた。




