馬鹿と天才 10
さらに騎士のいた所から少し歩いてみたが、そこまでの間に子供達の姿は1人たりとも確認出来ず、流石にここまで奥には誰も来ていないという考えに思い至った俺が引き返そう時、微かに木々の奥から子供の声が聞こえて来るのに気づく。
まだ誰かいたのか。よし覗いてやるか。
俺はそう思ってそちらへと歩いて行くと、4人くらいの男子が隠れるようにしてコソコソと何かをしているのが確認出来た。
それを少し不審に思った俺は、そこから背後に回り込んでこっそりと近づいて行く、すると徐々にそいつらが何をしているのか明らかになっていく。
「こんな所でゲームなんてやってるんじゃないですわよ」
「げっ、なんでお前ここにいるんだよ」
遠足中に隠れてゲームをしていた悪ガキ、高橋は俺の存在に気づくとゲームを隠すようにしながら文句を垂れる。
「せっかく遠足に来てこんなにいい景色ですのにゲームなんてして···それにこの絵ももうちょっと丁寧には描けませんの?」
俺は苦笑いを浮かべつつ高橋達の描いた雑な風景画を見ながら呟いた。
「うるせぇよ、こんなの描きさえすればいいんだろ。それにどうせ女にはこのゲームの面白さは分かんねーよ」
と言って高橋はゲームを俺の方に見せ付けるようにしながら再開する。
そのゲームは俺も普段からやり込んでいる人気ゲームであり、言わば多くの人数で行う格闘ゲームの様なものであった。
ほほう、いいだろう、舐め腐ったガキに大人の力を見せつけてやる。
「は?めっちゃ知ってますけど、ちょっと貸してみろって」
「お、おい···」
こいつらに対してキャラを作る必要なしと判断した俺は口調を遼と話している時の様に普段通りに戻しながら、無理やり高橋からゲーム機を取り上げる。
そして使うキャラクターを選択して、残りの3人とバトルロイヤル形式の戦闘が始まる。
「♪」
「な、何だこのねーちゃんめっちゃ強え」
「おら、喰らえ、って交わされた!?」
「は?全然ダメージ与えられねーんだけど」
俺は鼻歌交じりにガキ共をボコボコにし、5分程度の戦いが終了する。
最終的な結果も案の定俺の圧勝であり、子供達は唖然とした様子で俺を眺めていた。
いやー、弱い者をいたぶるのは気持ちがいいな〜。
と満足した俺は高橋にゲーム機を返そうとする。
しかし。
「ねーちゃんすげぇ強えじゃん。これだいぶやり込んでるだろ」
とそんな感じで高橋達は俺の方を目を輝かせながら見てきた為、俺は悪い気がしなくなってしまった。
「まあ、そうだな。発売当初は何日も徹夜してやり込んだもんだ」
「すげぇ!!すげぇ、けどほめられたことじゃねー」
「何言ってんだ。ゲームってのは自分の中でも世間の間でもいつかは飽きというものが来るもんだろ?熱が高まっている内にやり尽くすのが礼儀だぞ。ああ、でもガキは1日1時間までな」
「うわ、遂に本性を表してガキとか言い出したぞ、このねーちゃん」
「ほら続きやるぞ、ビリだった奴は高橋と変われよ。負けたら交代は世の常だからな」
「おら!!」
「うわぁ!···くっそ!」
「へへ、3人掛りでも無駄だったな」
最後の方は俺を3人がかりで倒そうとしてきたが、ギリギリの所で勝利をもぎ取った。
「ふう」
と俺が一息つき時計を見る、気付くとあれから30分近くゲームをしていた様で時刻は既に13時位になっていた。
それから何気なく周りを見渡して見ると木陰からこちらを見つめている人影を見つける。
あいつは確か。
「おい、お前も来いよ。一緒にゲームやろうぜ」
俺が木陰に隠れている先程騎士と一緒にいた少年に声を掛けるとこの場にいた他の4人もそっちを見る。
「って、ねーちゃんあんな奴誘うんじゃねーよ。あいつ家が貧乏でゲーム持ってねーからクソ弱いんだよ」
「···」
「なんだよ···」
俺は高橋の方を真っ直ぐ見て数秒見つめ合った後、頭にゲンコツをいれる。
「痛った!?」
「そんなみみっちい事言うんじゃねーよ。俺からしたらお前ら全員揃ってクソ雑魚のチンカスなんだからよ」
「ひど、と言うか高校生が小学生殴っていいのかよ。先生にチクるぞ」
「は?別に好きにしていいぜ。ただ先生は普段から悪ガキで遠足にゲーム機を持ってきてる様なお前らと、普段は極めて優秀で模範的な俺、どっちを信じるのかな?それにちゃんとコブとかにはならないように加減して殴ってるから証拠なんかも残らねーよ」
「「うわー···」」
4人はドン引きした様子で俺の方を見るが、それを気にせず俺は再度、そいつを呼び込む。
「ほらいいから来いって、こんな奴気にすんなよ」
「や、やめろよ」
俺はそう言いつつ高橋を自分の方に引き寄せて髪の毛をくしゃくしゃにしてみせる。
それからもそいつは少しだけ渋っていたが、諦める様子が無い俺を見て観念したのかゆっくりとこちらに近寄ってくきた。
「ほら負けたんだから、お前らの中から誰か代わってやれよ」
「いや、ねーちゃんが代わるんじゃねーんだ」
「当たり前だろ。勝負の世界は厳しいんだよ」
「「···」」
俺の言葉を聞いて、4人は顔を見合わせて黙るが、やがて1番成績が悪かった奴がゲーム機をその少年に手渡した。




