馬鹿と天才 8
小学校の先生とボランティアの俺達を足した10人ほどは山を登っている小学生達の先頭から最後尾までまばらになるように配置され、俺はそのちょうど中間くらいに配置された。
この登山道は恐らく初心者でも安全なハイキングコースレベルのものなのだろうが、思っていたよりは急であり、俺は少しだけ子供たちが気にかかりそちらを見る。
「はい当たったー、お前鬼」
「くそぉー、まじかよ」
しかし、そんな心配などは不要のようで男子は石蹴りをしながら山を登る余裕すら見せていた。
俺は子供って意外と体力あるんだなと少し感心したものの、石蹴りに関してはさすがに許容できず声を掛ける。
「ほらほらそこ、石を蹴りながら歩くと危ないですわよ」
俺は子供達を指さして注意を入れる。
だが。
「あ?うるせえーよ。男女」
「お、男女?」
俺に反抗して来たそいつはさっき俺の挨拶中にちゃちゃを入れてきたクソガキであった。
名前は確か高橋だったか?···まあそんなのはなんだっていい。
俺はそいつの言動に少しイラつき、偶然、俺の近くに蹴られた石の元まで行くと、ヒールリフトで空中に蹴り上げそれを手で掴む。
「これは没収ですわ」
「す、すげえ」
驚いている高橋に勝ち誇ったようなドヤ顔を向けた俺は再び歩き始める。
が続いて。
「ねー、お姉さんはあの白衣のイケメンと付き合ってるの?」
と今度は女子の集団が俺の周りを取り囲む。
「はあー?···こほん、じゃなかった。いえ、あの方は先生ですわよ付き合うとかはありませんわ」
「えー、絶対嘘だよねー?」
「うんうん」
「だって隣で仲良さそうに話してたし」
ちっ、男子の次は女子かよ。全く。どっちも違う意味でめんどくせぇな。
俺は、俺の返答も聞かずに勝手に盛り上がり始める女子達を適当にあしらいながら先に進んでいく。
「な、なあ男女?」
全く次はなんだよ。俺が顔だけで振り返る。
するとそこにはさっき石を没収してやった高橋が俺の背後まで来ていた。
「···」
「なあって」
「···」
「おいババア!」
「··」
「お、お姉さん」
「なんですの?」
散々無視されてようやく呼び名を訂正したので俺は仕方なく反応してやる。
「なあ、あんた神具使いなんだろ?、神具、見せてくれよ」
「あんた?」
「お、お姉さん!」
「よろしい」
俺は満足気に頷く、だが残念ながら今は返納日を装ってここに参加している身分の為、神具を使うのはリスクでしかない、悪いな高橋。
「悪いですが、今は神具が出せませんわ。また今度見せて差し上げますから我慢して下さい」
「はあ?ケチ、男女!」
「おいこら、走ると体力が持ってかれますわよ」
高橋は忠告を聞かずに走って俺を抜き去り、そのまま俺の10mほど前をキープして歩き続け、他の男子達はそれに釣られ高橋の後を追いかけていった。
「はあ」
まあいいか。これで静かになったし。
そう考えた俺は、それから時々質問してくる女子達に答えながら数十分歩き続ける。
そして、目的地まであと1~2キロ程度の所までたどり着いたところで数m先で子供達が立ち止まっているのが目に入る。
なんだよ誰か怪我したのか?
と思い俺も駆け寄る。だがそこで座って靴を脱ぎ、足の手当を自ら行っていたのは小学生ではなく、白衣の男であった。
「淀川先生···」
俺は不謹慎ながら思わず笑みが溢れそうになり手で口元を軽く抑える。
「よし、痛っつ···」
手当てを終えて立ち上がろうとする騎士であったが、足はまだ痛むようでバランスを崩し倒れそうになる。
「ちょっと大丈夫ですの?」
「···ああ、少し休めば問題ないだろう」
「はあ···」
騎士の体を咄嗟に手で支えた俺は、頂上の方と登ってきた道を交互に見る。
まあ見たところ少しひねっただけっぽかったし、こいつの言っている通り少し休めば良くなるか···。
俺はそう判断し、その場にしゃがみこむ。
「ほら乗ってください」
「なっ!?」
「心配しなくても、ここから頂上くらいまでなら余裕ですわ。···それとも神具使いの方が自分よりも強いという理由で不良から守って下さらなかった自称男女平等主義者の貴方が、まさか女子に背負われるのが恥ずかしいとでも言うつもりですの?」
「それは無いが···」
「ああ、大丈夫です。神具が無くても普通に鍛えてますのでこのくらいは余裕ですわ」
「···はあ」
とそれからほんの一瞬考えていた騎士は遂に観念し、俺に背負われる。
「うわこの人、女子に背負われてる恥ずかしー」
「こら!人類は助け合いですわよ」
「うわ!?」
俺は騎士を馬鹿にするガキどもに向かって自身のカバンを投げつける。
「ほら貴方達はそれを持ってくださいですわ」
「えー、めんどくせぇ」
「つべこべ言うんじゃありませんわよ」
俺はそう言うとガキどもの頭を軽く押し、再び山道を登り始める。
「おや、君は誰ですの?」
すると先程まで俺が見ていた班にはいなかった男の子が居ることに気づく。
「ああ、この子は俺を心配してずっと待っててくれたんだ」
「へー、そうですの」
という事は先に出発した班の子ということだな。
「ほらあなた達、この子も仲間に入れてあげなさい」
俺はその子の頭を撫でるように軽く数回叩く。
しかし、その子は一通りそこにいる人間を見たあと、すぐ俺の手を振り払う。
「い、いいです。僕、上の班に戻りますから」
「あー、ちょっと」
俺は彼を引き留めようと声を掛けるが、彼はそれを聞かずに歩くスピードをあげて1人でどんどんと上へと登っていってしまった。
なんなんだ全く。
···はあ、まあ流石に今の俺はそこまで周りに気を配っても居られない。
あの子の事は一旦置いておき、俺は騎士を背負い直すと、再び山頂までの1歩を踏み出した。




