馬鹿と天才 6
それから無事に帰路に着いた俺は寝る前にベッドの中で今日の出来事や今後の出方について考えていた。
まず最初にハニートラップを仕掛ける作戦の件は、ファミレスの外でも話たが俺も遼も適任とは言えなかった、がしかし、色々と疑われている俺よりは遼の方がマシであるという事になり俺はそのサポートをする事になった。
結局、歓迎会はあれから直ぐに終わってしまったが、この計画に関しては今後も継続という事でいいだろう。
次にあの不良達が騎士が持っていた機械と同じような物を所持していた件についてだ。
あとから気づいたが俺はあの時にその機械を"何時"手に入れたかを聞きそびれてしまった。
いや聞きそびれたと言うよりは、俺が勝手に、奴らがその機械を手に入れたのをファミレスを追い出されてから再び俺と会う間だと思ってしまっていたんだ。
よくよく考えると周りの目があるファミレス内であの機械を作動させるはずが無いのだから何時から持っていたのかは断定できない。
だから結果的にアレが騎士によって仕掛けられたものでは無いと断言する事も出来なくなってしまった。
俺自身、流石に今回の件に騎士が関わっているとは考えていないし、考えたくは無いが、その確率が0%だとは言えない以上警戒は必要だ。
とにかく明日、あの機械について俺の協力者であるブラクラさんに色々と聞いてみよう、あの人ならきっと何か知っているだろう。
俺はそう考え、その日は眠りにつくことにした。
そして翌日の夕方。
「淀川先生ちょっとよろしいですか?」
俺は誰も居ない廊下で騎士に後から声を掛ける。
「ん、どうした?」
それにより騎士はほんの少しだけ気だるそうに振り返る。
「昨日解散になった後はどうなさいましたか?」
「なんだ急に?···普通に真っ直ぐ帰ったが?」
···。
そう言う騎士には嘘をついている様子はなかった。
しかし俺がブラクラさんから得た情報ではあの機械は神具使いの神具を封じてしまうという強い特性から、その原理などは公にされておらず、普通に考えたらその辺の不良たちに販売される様な品物では無いとの事であった。
もちろんその技術を手に入れた堅気で無い人がビジネスに使用している可能性は無くはない。
しかし、ブラクラさんから与えられたその情報は俺が抱く騎士に対する疑念を僅かに増加させる結果となってしまった。
「質問はそれだけか?なら俺は行くぞ」
「あ、ああちょっと」
本来はもっとしっかりと追求するつもりだったが、あまりにあっさりとした迷いの無い回答に俺は返す言葉を失ってしまい完全にペースが崩されてしまった。
こうなったら適当なことを言ってお茶を濁すか。
「あと昨日、不良の方たちに絡まれた時、何もしてくださいませんでしたよね。ああいうのは教師としてどうかと思いますわ」
あー、今の俺めっちゃうぜぇだろうな。
とそう自分でも思いながらも少し気になったところを述べる。
「男は女を守るべき、とかそう言うと話か?まあ君達が普通の女性なら分からなくもないな。だが君達は御子だろ?ならあの状況1番の弱者は間違いなく俺だ。自分よりも遥かに強い者達を守るというのはお門違いではないか?」
た、確かに。
少し冷たいと様には感じたが、実際俺が神具を覚醒させなかったら同じ考えだったかもしれない。
しかし。
「ええ普通の人間としてはその反応でいいと思いますわ、でもやはり教師としては前に立って言葉で解決すべきだったと思いますわ」
俺は今の自分のキャラ的に言いそうな言葉を淡々と返す。
「···ああ、わかった。以後気をつけよう」
それに対して、少しウザったそうにそう答える騎士。
それから数秒間、無言の時間が流れた後、思い出した様に騎士が口を開く。
「ついでに俺からも一ついいか?」
「な、なんですの?」
「君の神具を少し見せてくれないか?」
「ええ、いいですわよ」
俺が快く答えて神具を召喚しようとした時、騎士が白衣のポケットに手を入れていたのがやけに気なった。
まさか、あの中に例の機械が入っていて作動させているのか?
もしそうなら神具が使えないと言うべきか?
いや待て、ブラフだった場合はそれだと余計に疑われてしまうし、普通にポケットに手を入れているだけという可能性もある。
!?
そうか、こうなればあの作戦しかない。
「申し訳ありません。私どうやら返納日に入ってしまった様で神具が出せないようですわ」
「···女性が男性に対して"返納日だ"なんて軽々しく言うものではないと思うぞ、それにさっきの訓練では使っていた気がするが?」
「!?···それは失礼しましたわ。神具を見せてくれと言われて理由を言わずに見せないのはどうかと思いまして、あと返納日に入ったタイミングに関しては訓練の最後の方からすでにちょっと違和感がありましたので、そのすぐ後かと」
「···」
「ははは···」
「ふっ、まあいい」
少し疑われてはいるが一応納得してくれたようだ。
俺はほっとして胸を撫で下ろす。だが。
「ああ、今さっき返納日に入ったと言うことは明日の任務日は強制的にボランティア活動になるな。小学生の山登りの付き添いらしいからまあ頑張れよ」
「なっ···」
すっかり忘れていた。くそ、小遣いとポイント稼ぎのチャンスが···と言うか任務日に出れない人はボランティア活動になるのかよ、初めて知ったぞ。
俺は苦笑いを浮かべながら見た目では分からないくらいの感じで騎士を睨みつけ、それに対する騎士も何か含みのある笑みでこちらを見返していた。




