馬鹿と天才 5
「さすがお姉様ですにゃね」
「え、ええお易い御用ですわ」
俺は苦笑いを浮かべながら、姉小路さんの賞賛に応えるが、心の中は穏やかではなかった。
冷静に今の状況を考えると、確かに相手のガラは悪かったが女の子に直接触れたりなどはしていなかったし、相手の言葉を額面通りに受け取ればただナンパをしていただけであり、変な言葉も言ってはいない、十分に神具無しで対応できる事案であった。
もし問題にされたら処罰はギリギリされないだろうが、評価が下がってしまう可能性は十分にあった。
「あはは、で、では続きをしますか」
俺はそう切り出して、再び歓迎会の続きを始める。
だが、皆さっきの件で、テンシャンは最低になってしまっているのに加えて、それを盛り上げるべき俺も自分の早計な判断に落ち込んでしまっているせいでどうに建て直しができず、やがて流れ的に歓迎会は解散になってしまった。
そして、解散してから数十分後。
思いの外、歓迎会が早く終わってしまったことで、俺は後日買おうと思っていた漫画の新刊を買うために本屋へと立ち寄って目当ての物を買うと1人にとぼとぼと寮へと帰っていた。
「はあ···」
そんな道すがら俺は歓迎会での事を思い出してため息をもらす。
やっちまったなー。
···いやでも手を挙げられてからでは遅いし、あの時の俺の判断は間違ってないはずだ。
···。
あー、でも、不良とかヤンキーだとかいう人種に対しての昔からの恨みみたいなものをアイツらで発散したという可能性はゼロでは無いか。
はあ···自分の矮小さを反省しなければならないな。
「ん?」
「あ?」
すると夜道を歩く俺の視線の先には丁度さっき俺がファミレスから追い出した男達が居て、目が合ってしまう。
「おい、さっきのガキじゃねーか」
「本当だ。1人みてーだな」
とそんな事を話していた男達は瞬く間に俺を囲む様にして集まってくる。
そして、そのうちの1人が俺の手を強引に掴んできた。
この時点ですでに神具を使って抵抗してもいい気がしたがさっきのもあるし、少し猶予を与えてやってもいいかと考え、俺はされるがまま路地裏へと連れていかれた。
「あー、さっきは申し訳ありませんでしたわ。ちょっと早計過ぎたかも知れません。ただこれは乱暴過ぎると思いますわよ」
この忠告で引き下がったら今回の件は水に流してやろ。
俺はそう考えて優しく笑いかける。
だが、俺の言葉を聞いた男達は一斉に笑いだした。
「おいお嬢ちゃんどうやら状況が分かってねーみてーだな」
「自分が普通の人間よりも優れているって思って、お高く止まった神具使いのガキはいたぶりがいがありそうだな」
男達は気色悪い笑みを浮かべながら俺に迫ってくる。
「はあ···」
どうやらコイツらは俺が気を使う程の人間ではなかったという事か。
と、そう判断した俺は先程同様に鞘に収まった状態の刀を召喚して、俺の腕を掴んでいた男の手を振り払うと、相手のみぞおちを鞘の先で小突く。
「チ〇ポが剣よりも強いのはエロ同人の中だけたぜ」
「ぐうぅ···おえっ!」
腹を突かれた男は嗚咽をもらした。
「「···」」
しかし、その1連の動作を見た男達の反応は僅かに変であり、皆、焦ったように顔を見合わせていた。
「ぐっ···お、おい、例のアレはちゃんと起動してるんだろうな!!?」
腹を抑えなから、なんとか立ち上がった男は周りの者達に向かって怒鳴りつけた。
「お、おう、確かに起動中だぞ」
すると男の仲間の1人がなにか機械を取り出して、確認する。
「!?」
それは形こそ少しだけ違っていたが、状況的に何をするものなのか俺は本能的に理解出来た。
そう、きっとあれは数日前に淀川騎士が使った周囲の御子に返納日と同じ症状を引き起こさせる機械に違いない。
!!?
と、そこまで考えが行き着くと、俺はある事を警戒して周りを見渡す。
···。
ふー、どうやら淀川騎士は見張ってはいないようだ。
コイツらにあの機械を渡して俺への疑惑を晴らそうとしたのかと一瞬思ったが、どうやらそこまでする奴では無かったらしい。
いや、もしかしたら見張っていないだけでカメラとかで監視をしているのかもしれない、たが、まあいい。結局今の俺に出来る事はただ1つだ。
「おお、いいもの持ってんじゃんか。それの出どころ俺に教えてくれよ」
俺は不良たちを囲む様に残像を生み出し、刀で自身の肩を数回叩きながらたずねる。
「な、なんだお前はなんで機械を作動してるのに神具が使えるんだ!?」
「質問をしてるのはこっちなんですけど?」
「くっ···」
鞘から刀を僅かに抜き、刃を相手に見せつけながらたずねると不良達は諦めて両手を上げた。
そのため俺は例の機械をそいつらから取り上げて、不良達はその場に座らせる。
「質問が2つと命令が3つある。それに応えられたらこのまま帰してやるよ」
「···」
「では質問1、お前らはこれを何処で誰に貰った?」
「······フードを被っててどんな奴かは分からなかったがこの辺り裏路地にいた奴に借りたんだ。これがあれば神具使いの神具を封じれるって言われてさ。それで気に入ったら買ってくれって感じだったよ」
「ほほう、じゃあ質問2、淀川騎士って奴を知ってるか?」
「誰だそれは本当に知らない」
知らないか···。なるほどな。
「じゃあ次に命令だ。···もし誰かにこの場であった人物、つまり俺の特徴を聞かれたら全く当てはまらないことを言え、次に俺にこの機械が効かなかった事を他の誰にも言うな。最後に···」
俺はそう言うと手に持った機械を軽く投げ、刀を抜き、その機械を斬り刻む。
「今後一切、女の子に対してこんな卑劣な真似はするな」
俺の言葉から間もなくして、ガシャガシャという細切れにされた鉄クズの音が鳴り響く。
「今までお前らがどんなことをして来たのか俺は知らんし、それを調べるのは俺じゃなくて警察の仕事だ。···だがもし今後お前らが何かしでかしたら、それはここでお前らを見逃した俺のせいでもある。だから忠告しておく···お前らがなにかしでかしたその時に俺が斬りに行く、いいな?」
「「は、はい」」
「····はあ、行ってよし」
俺は刀で路地の方を指し、同時に不良達を囲んでいた残像を消した。
 




