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入学式 2

 失敗してしまった。


 あの状況で"マガツモノは怖いけど放っておけない"なんて言ったしまったら二条院さんの心を傷付けてしまうのは明白だったってのに。


 目先の欲に囚われすぎてしまった。


 はあ、···いやいや、こんな雑念を抱いたまま戦っては本当に殉職しかねない。


 帰ったらそれとなくフォローを入れる、それでOK。この思考はこれで終わりだ。


 俺は正門まで走っている最中で考えを整理し、1、2分ほど走ってあと少しで目的地という所までたどり着くと、そこには何人かの野次馬が溜まっていた。


 「神具展開、百騎一閃(ひゃっきいっせん)


 その状況から俺はマガツモノが野次馬の向こうにいると確信し、いつ襲われてもいい様に神具を具現化し、非常にシンプルな形の日本刀を召喚する。


 「おい、そこの新入生止まれ、ここから先は危険だ」


 そんな俺の様子を見た、恐らく神具であろう鞭を持った凛々しい見た目の少女が俺を呼び止める。


 だが、止まる訳にはいかない。俺にはやらなくてはならない理由がある!


 「先輩、ご忠告感謝しますわ!」


 と俺はそう言い残し、そこに集まった人達の上を飛び越える。


 「これが危険度Aのマガツモノですか」

  

 俺の目の前には20mはあろうかと言う巨大なムカデのマガツモノが正門の近くで暴れ回っていて、俺と目が合うと気色の悪い口内を俺に晒して威嚇してくる。


 「全く気持ちわりいですわね!」


 巨大ムカデの威嚇に対して、若干口調を乱しながら日本刀を構える。


 「はあぁぁ!!」


 「○▽□◎▲!!!」


 そして俺とムカデは同時に叫び近いていき日本刀とハサミ状になっている顎をぶつけ合う。


 「流石に力はつええな」


 神具を発動させることで身体能力も上昇するのだが、それでも大きさが大きさなだけにパワーでは完全に負けてしまっていて気づくと数mほど押し戻されてしまっていた。


 「ちっ、百騎一閃、斬雨(きりさめ)


 マズいと感じた俺は上空に自身の今持っている刀と全く同じ物を2本出現させ、ムカデの顔のあたりに向けて射出すると、刀はムカデの固い殻を破って僅かに突き刺さる。


 「○▽▲◎○▲!!」


 「くっ!」


 しかし、それはムカデにとって致命傷になっておらず。寧ろ先ほどよりも力を上げて押してくる。


 「○□▲◎▽!!」


 「うげぇっ」


 俺は大口を開けたムカデの口内がまるで何かを吐き出そうとしているかのようにうねうねと波打っているのを確認し、思わず汚い声をもらす。


 そして、相手の次してくるであろう攻撃を予測し、回避行動を取ろうとした瞬間。


 「神具展開、参丁参段散弾銃トリニティ・ケルベロス

 

 とそんな声響き、ムカデの上空に飛んで来ていた少女の持つ大きめの拳銃から黒いエネルギーの銃弾が放たれると、それは無数に枝分かれしてムカデの背中に直撃する。


 「✕▽○□▲!!!!」


 それによりダメージを受けたのか、ムカデは体を大きく仰け反らせる。


 「大丈夫?吉野宮さん?」


 「く、久瑠美さん?待機していてくださいとアナウンスがありましたのに」


 「いやそれは吉野宮さんも一緒でしょ?」


 なんと俺の目の前に颯爽と現れ、俺を助けたのは白髪セミロング無表情系の少女の久瑠美さんであった。


 って、これはあかん。助けられてしまっているじゃねーか俺。


 「か、感謝しますわ。で、でも大丈夫です。こんな敵、(わたくし)1人で十分ですわよ。私まだ本気を出していませんので」


 不味い。このままでは本当に助けられた感じになってしまう。


 くぅ······こうなってしまっては力を出し惜しみしている暇は無いか。いま出せる本気で蹴りをつけるしかない!


 「百騎一閃、十傑(じゅっけつ)


 刀を構えた俺は先程と同じ要領で周囲の空中に9本の全く同じ日本刀が出現させる。


 しかし、それには先程と少し違うところがあった。


 「斬像(ざんぞう)!」


 それは9本の刀と同時に半透明な俺の分身が刀の傍に出現し、刀を手に持ち構えた事であった。


 「百騎をもって一騎を制す。これが百騎一閃の真の力ですわ」


 「···でも見た感じ、10人しかいない」

 

 「ぐぅ、そ、それはですね。出来ないことはないんですわよ。···ここに居る生命体を全て敵に指定すればですけれど」

 

 「とても迷惑···」


 久瑠美さんはそう呟くとおもむろに自身の銃に手を翳し、力を込め始める。


 すると空中に久瑠美さんが持っている銃よりも少しだけ大きいサイズの銃が出現し、同時にそれを手に持った、闇の様に暗いモヤモヤした煙の様なもので形成された、鎧を纏った鬼が2匹出現する。


 「参丁参段散弾拳銃トリニティ・ケルベロス、魔王の番銃、鎧鬼(がいき)

 

 そして久瑠美さんは銃をムカデに向けながら、得意気な顔で銃を構える。


 「ここは私がやるから、吉野宮さんは隠れてて」


 「い、いえいえ遠慮させていただきますわ。それにそちらこそトリニティ・ケルベロスと言っておいて、見た所、3丁しかないように見えますが?それでは普通のケルベロスではないでしょうか?」


 「···九條学園無差別銃乱射事件が起ってもいいなら···出す?」


 「私と全く同じではないですか!?」


 


 「○◎▽▲✕✕✕!!!!」


 

 

 俺と久瑠美さんが話し合いをしていると、突然ムカデが物凄い鳴き声を上げ、再び俺たちを威嚇してくる。


 やはり、そんなに長くは痛がっててはくれないようだ。


 「···あれは危険度Aのマガツモノ、ダイダラカッチュウ。口から分泌してくる毒と強靭な顎、硬い甲羅が厄介な奴」


 「詳しいんですわね···で?どうします?」


 「そんなのはあれでしょ?」


 そう言うと俺たちはお互いを見つめ合い、そして再び敵の方に睨みを効かせる。


 そして同時に叫んだ。


 「早い者勝ちですわね!」

 「早い者勝ち!」

 



    


 

 数分後。


 「貴女達は本当に何をやっているのですか!新入生は講堂で待機と言われていたでしょう!!それにあの戦い、あれはコンビネーションを無視した手柄を取り合うような戦い方ですね。そんなようでは今後必ず痛い目を見ますよ」


 そこには先程正門まで来た時にであった鞭を持った眼鏡の少女、来島咲枝先輩に怒鳴られ、正門の前で正座させられている俺と久瑠美さんの姿があった。


 「待機の命令を無視した事に関しては、駄目だと分かっていながらも人々をいち早く救いたいという気持ちが抑えられなくなってしまった(わたくし)たちの落ち度であり、素直に謝罪致します。しかし、手柄を取り合うような戦い方と言うのは流石に不服に思いますわ。それに今日出会ったばかりの方とコンビネーションを取れと言うのは酷な要望に思います」


 「そう全て誤解。それは先輩が優秀である故の慢心。自分が出来る事を誰もが出来ることであると思うのはダメなこと」


 「そうですわ。"初心忘るべからず"、"実るほどこうべを垂れる稲穂かな"ですわよ。例えば自分も元々初心者だった癖に自動車学校の教習中の車に苛立つ様な人間は最低だと思いませんか?今それに成りかけてしまっていましたわよ」


 「···」



 ムカっ!

 


 とそんな擬音は本当は鳴らなかったが、俺と久瑠美さんにはそのような幻聴が確かに届いていた。


 「ではいいでしょう。命令を破った罰と見事にマガツモノを倒したご褒美として、貴女達の戦闘のダメな所をわかり易く1から10までレクチャーしてあげましょう。安心して下さい。貴女達の戦いは最初から最後までこの頭に入っていますので」


 来島先輩は鞭を持っていない方の手の指で自分のこめかみの辺りを数回叩き、誰が見ても分かる作り笑いを浮かべた。




 そして、さらに正座のまま1時間。


 「以上です。分かりましたか?」


 「は、はい。そりゃあもう。0から100までバッチリですわ」


 「か、掛け替えの無い時間だった。人生観が変わった···」


 来島先輩は俺達の5分程の戦闘について、まじで1時間ほどしっかりと解説すると妙に顔をツヤツヤとさせながら作り物ではない本物の笑顔を浮かべていた。


 間違いないこの人は完全にドSだ。


 「今日は寮に運ばれた荷物の荷解きなどあると思いますのでこれで解散にしましょう。今回の命令違反はこの1時間の正座で不問とします」


 「あ、ありがとうございますわ」


 「感謝する」  


 俺と久瑠美さんは先輩の許しを得ると痺れ切った脚でなんとか立ち上がり、来島先輩に一礼するとそそくさとその場を後にした。




 

 


 「彼女たちはどうだった?咲枝」


 吉野宮と久瑠美がその場を離れるのを見計らって木陰から出てきた平均的な身長に栗色の長髪をした少女、三廻部(みくるべ)桜は笑顔で首を傾げながら来島に話しかける。


 「ああ三廻部(みくるべ)会長。来られていたんですか?」


 「もう咲枝、2人の時は名前で呼んでと言っているでしょ?」


 「···分かりましたよ桜」


 「で、どう?」


 「そうね。はっきり言って今回だけでは判断ができないわね。彼女達がこの学園を背負(しょ)って立つ者となるのか、それとも腐ったミカンとなるか、もう少しだけ観察が必要って感じ、桜はどう思ったの?」


 「うーん、そーだねぇ。···毎年行っているこの行事は命令も守らず身の程も知らない者たちを燻りだし再教育するためのものであると同時に、それらを超越する次世代の先導者を発掘するものでもあるわけだけど、そんな試験に対して彼女達はマガツモノを見事に討伐してみせた、それも貴女の持つ神具、女王の盾あるいは剣クイーンズ・スレイブスで手懐け強化されたものをね。しかし戦いの内容を見ると力任せでチームワークもバラバラだし決して合格点とはいえない。よって普通に考えたら咲枝の意見が妥当だよね」


 「普通に考えたら?では桜の意見は違うの?」


 「まあね〜。私はどちらかと言うと合格寄りかな。なにせ私は2年前にここに来た口だからね。···まあその時はマガツモノでは無くて先輩数人と闘わされたけど」

 

 「···桜、贔屓(ひいき)はよくないわよ。それに武勇伝も聞いてない」


 「えへへ、ごめんごめん。······まあでもどちらにせよ。これからどうなって行くのか楽しみだね。咲枝もそうでしょ?」


 「···そうね」


 少女たちはそう言って微笑み合うと吉野宮と久瑠美の歩き去って行った方を眺めた。

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