馬鹿と天才 4
「全然下心出さねーなアイツ」
「そうだな。だが明らかにお前の事を疑っているのは分かった」
ファミレスの外の駐輪場辺りからファミレス内の騎士をこっそりと観察しながら俺と遼は作戦会議を開始していた。
「遼も気付いてたか···。くそ、あの野郎、美少女2人に囲まれてんだからもっとアホみたい頭空っぽにして楽しめや!」
「美少女って···ま、まあいいか。取り敢えず暁良がハニートラップを仕掛けるのはまず無理だな」
「ああ、悪いが仕掛け人を頼めるか」
「まあ仕方ねーだろ。その代わりしっかりとアシストしろよ」
「おう、任せとけ」
俺と遼はそう言葉を交わし、がっしりと握手を交わす。
するとその時。
「ちょっと暁良、遼こんな所でなにやってんのよ」
とリリネがファミレスから出て来るなり俺達の元まで駆け寄ってくる。
「え、えーっと、ちょっと外の空気を吸いに···リ、リリネさんは?」
「リリネさんは?じゃないわよ。アンタ達のすぐ後に私もトイレ行ったのにアンタ達いないから驚いたじゃない、まったく」
「そ、それは申し訳ありませんわ」
「···」
「??···なんですのリリネさん?」
リリネが何か言いたそうにこちらを見ていたため、俺は首を傾げながら尋ねる。
すると、リリネは少し気恥しそうに口を開いた。
「アンタって淀川先生みたいな人がタイプなわけ?」
「ん?どういう事ですの?」
「は?どういう事って、さっきから滅茶苦茶アピールしてるじゃない?と言うかちょっとがっつき過ぎよ」
「えっ!?そんなつもりはなかったのですが···」
と口では言うが、冷静に思い返すとリリネに言う通り、完全に騎士を狙っている人の立ち回りだった。
いや、まあ狙っていると言えば狙っているのだが、周りにそのように思われるのは俺が今まで培って来たイメージ的に宜しくない。
「淀川先生に楽しんでもらおうと言う気持ちが前に出過ぎましたわね。少し反省しますわ」
「そ、そう。まあ私は別にいいんだけどね。先に戻ってるわよ」
リリネは少し照れくさそうにそう言い残すと振り返り、ファミレスの中へと戻っていく。
「これからは少し抑え気味で行こうな」
「ああ、俺もキャラを見失ってたかも」
そして俺と遼はリリネが席に戻ってから数分くらいあけて、ファミレスの中へと戻っていく。
すると俺達が座っていた席の周りに数人のいかにも不良と言った見た目の男達が群がっているのが確認出来た。
「君達みんな可愛いね。その制服、九條学園の生徒だよね?これから俺達と遊ばね?奢るからさ」
数人の男達の中の一人がリリネの前のテーブルに手を置きながら尋ね、それと同時にその見るからに不真面目そうな見た目をした集団はニヤケ面を浮かべる。
「大丈夫だって、ただカラオケとかボーリングとかで遊ぶだけ、それだけだからさ」
「そうそう、何もしねーから、俺達の優しい心の持ち主なんで」
口々にその様な言葉を言い連ねる男達だったが、リリネと姉小路さん、それと我関せずといった様子の騎士以外の子達は苦笑いを浮かべるだけで何も言えずにいるようであった。
「ねえ、いいじゃん。一緒に楽しもーよ?」
「そうそう、それに俺達ってフェミニストだからさ、めっちゃ安全だから」
「ちょっとあんた達いい加減に!」
我慢の限界に達したのかリリネが立ち上がり、男達と向かい合う形になるが、その奥から俺と遼が歩いて来て、俺が手を軽く挙げて"待て"と指示を出した事でリリネの動きが止まる。
そして、最初にリリネ達に話し掛けた男がそれに気づいて振り返ろうとした瞬間。
「神具展開、百騎一閃」
と俺は鞘に収まっている状態の刀を召喚し、その男の首に押し当てる。
「お、おい、確か神具は外では無闇に使っちゃダメなんじゃねーのか?特に俺達みたいな善良なる一般人にはよ」
「善良ですか?それは申し訳ありませんわ。私の友人が襲われている様に見えましたので···でもそれもこれもその見た目では仕方ありませんわよね?」
「はあー、九條学園のお嬢様が人を見た目で判断するんだ。嫌いだわそういうの」
「···」
そいつの言葉を受けて、俺は笑いながら数秒間黙り、その後に再び喋り始める。
「ええ、だって人なんて殆ど見た目で判断出来ますもの、特に見るからに悪そうな見た目の方はね」
「は?」
俺から出た意外な言葉に男達は固まってしまった。
「だってそうでしょう?貴方が本当は良い人なら外見で悪い人に見られるのはデメリットでしかありませんから、まずそんな髪型はしないし、そんな格好もしませんわよね?外でだらしない見た目の人が家ではキッチリしているはずが無いのと同じ様に、良い人に見られようと外見に気を使わない人の中身が良い人なはずがありません。だって表面すらちゃんと出来ていないものの本質がちゃんとしている筈がありませんものね」
俺はその男の剃り込みが入った金髪や身体中に付けたアクセサリーやピアスなどを指して言った。
「ああ因みに良い人そうなのに悪い人ってのはざらに居るので気を付ける必要はありますわね。そっちの場合に限っては人を見た目で判断するのは良くないのかもしれませんわね」
更に俺はそう言葉を繋げながら再び男に笑顔を向け、男の首元の刀をさらに少し上へと押し上げる。
「くっ···」
「ふふっ」
「···ちっ、お前ら帰るぞ!!」
男は残りの奴らに向かって怒鳴るように言うと周りの客を威嚇しながらファミレスを出ていった。




