初任務(仮) 11
俺の言い放った言葉に二条院さんは唖然とし押し黙る。
この状況、二条院さんが俺に対してどう答えてくるかが肝だ。
俺の意見をやんわり反対するのもいいし、否定して口論になるのもありだ、それにもちろん受け入れたとしても今の段階では全然いい。
とにかくどう転んでもいいので二条院さんに変わるきっかけを与えなければならない。
「だってそうでしょう?日本に居る御子の数は多く見積っても10万人程度、さらに実践レベルの神具を使えるが半分程度と仮定し、その中で前線を退いている人を抜くとその数は更に減ってしまいますわ」
「確かにそうかもだけど···でも」
なるほど二条院さんの選択はやんわりと反対か。まあそれもいい。
「そうですわね。確かに私だって全ての人間を救いたいとは思いますし、その心は大切だと思いますわ。でも同時に今の自分の実力ではやはり限界もあります。···例えば今、自分が命をかけて1人の人を守るのは、将来自分が助けるかもしれない数百の人を殺す行為でもあるのです」
「······」
「皆、口には出しませんが頭の中できっとその計算が成されている。学園もたぶんそうです。だからこそ私たちに神具能力テストで死の恐怖を教え、今回の任務も生きて帰って来るのが目的なんて言ったのだと私は思いますわ」
俺は少しづつ二条院さんに近づきながら尚も語り続ける。
「確かにかつて、御子は国民を守るために命を掛けて戦うものといった考えがありましたし、二条院さんの御家族がそこに位置してしまっているのかもしれません。しかしそういった考え方や御子の戦争への利用、はたまた単純な少子化などの問題で御子の絶対数が年々減少してしまっている現在においては、ハッキリいってその考えは古いと言わざるを得ませんわ」
二条院さんの僅かな言葉から俺は、彼女がマガツモノを恐れる様になった理由の一端には家族が何かしら関わっているかも知れないと推理してこの様な言葉を選んだが、どうやらそれは正解だった様で彼女は青天の霹靂に打たれたのような驚いた表情を浮かべていた。
よし、もう一歩だ。
俺は深く息を吸い込み、そして言葉と共に吐き出す。
「勝てない敵からは逃げる。だけれど万事は尽くす。それでいいと思いますわ。···きっと二条院さんは色々と考え過ぎなんです。人々を絶対に救わなければいけない、御子が敵から逃げることなどあってはいけないといった考えが重みになって、貴女を動けなくさせているというのもあると思いますわ。だからもっと肩の力を抜いていきましょうよ。そうする事でもしかしたら今よりも良い結果が生まれるかもしれませんよ」
そう言って俺はしゃがみ込みながら二条院さんの肩に手を置き、笑い掛けた。
そしてそれとほぼ同じタイミングで斬像の一体がフルマイミタマキドリを見つけだし、その姿をしっかりと確認する為に俺は片方の目を手で隠し、斬像と視界を完全に共有する。
するとそこには9本の尻尾を持った体長2~3mほどの大きな狐のマガツモノが身を隠すように木の隙間に寝そべっていた。
「なに?見つけたの?」
「ええ、バッチリ見えますわ」
そして俺は立ち上がると再び二条院さんの方を見て、手を伸ばす。
「さあ二条院さん。奴を倒しに行きましょう」
「······ええ、分かったわ。騙されたと思ってやってみる」
少しの間考えていた二条院さんはそう決断して、俺の手を握り返し立ち上がる。
「ただ1つお願いしてもいいかしら?」
「なんです?」
「私の事も、···その、し、下の名前で呼んでくれるかしら?アンタ、遼の事は"遼さん"って言ってるのに私とか美波の事はずっと苗字で呼んでるじゃない?」
二条院さんは少しだけ恥ずかしそうに呟く。
俺はその事について意識していた訳では無かったが、彼女にとってそれが、ずっと気がかりな事だったのだろうとは推測出来た。
しかし今まではマガツモノと満足に戦えない自分に引け目を感じ、ファーストネームで呼んで欲しいとお願いすることはすら出来なかったのかもしれない。
だか今、それを言ってきた。
それはきっと彼女の覚悟の現れだ。ならばそれには答えねばならない。
いざ、呼ぶとなるとすごく緊張するが仕方がない。そう、これは仕方の無いことなんだ!!
「そうですわね。ではリリネさん行きましょう!」
「ええ!」
そうして俺はリリネの手を引き、小屋を後にしてフルマイミタマキドリを見つけた斬像の方に向けて走った。




