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初任務(仮) 10

 それから俺と二条院さんは村人達を引きつける役目を遼と東雲さんに任せて、全力で逃げると取り敢えず誰も住んでいないと思われるボロボロの小屋に隠れる。  


 「取り敢えず巻けましたわね」


 俺は小屋から外を眺めながら呟く。


 そして刀と斬像を操作しきれる限界まで召喚すると森に放って、フルマイミタマキドリの捜索に当たらせる。


 「ふう···」


 一通り作業を終えた俺はため息をもらし、その後、座って小さくなっている二条院さんを見る。


 「二条院さん大丈夫ですか?」


 「···ええ」


 「···」

  

 やはりルロウゴウケツとの戦闘を引きずっているようで元気がない。


 ···いや違うな。きっと二条院さんは3年前の事件からその件をずっと引きずり続けていたのだろう。


 だが、この状況は二条院さんに自主退学を思いとどまらせる最後のチャンスなのかもしれない。


 俺はそう考えて、頭の中で思考を巡らせる。

  

 こういう時はどうしたらいい。思いっ切り優しい言葉を掛けてあげればいいのか?あるいは少し強めに叱るような言葉がいいのか、もしくは何も言わずにそばに居るのがいいのか···。


 だめだ。どの道筋も上手くいくイメージが掴めない。


 「何か言おうとしてくれてるんでしょ。でもいいわよ。退学するのはもう決めた事だから、もし家族にそんな事させないって言われたら、縁を切って、家出してやるから」


 無理して微笑む二条院さんだったが、目は真剣そのものであり、このまま行ったらおそらく有言実行してしまうだろうと予想出来た。


 「······な、なら、もしそうなったら私が二条院さんを保護しますわ。言い値で雇いますから、家事全般をやってもらうことにしましょう。そして卒業したら即結婚!どうです?」


 「ふっ、ふふ、気を使ってくれるのは有難いけど、キャラがブレちゃってるわよ。アンタそういうキャラじゃないでしょ?」


 「そ、そうですわね···」


 「···」


 そして、そこで会話が途切れてしまう。


 雰囲気は最悪であり、もはや八方塞がりに思えた。


 ···いや、違う。八方塞がりではない。方法はあるかも知れない、ただ俺がそれをやりたくないだけだ。


 ···。


 しかし、二条院さんに御子をやめて欲しくはない。


 ······。


 やるしか無いのか···しかし。


 ·········。


 はあ、仕方ない···か。


 俺は散々思考を巡らせ、迷いながらもついに覚悟を決めた。


 こうなったら、俺の恥を自ら暴露するしかない。


 「···マガツモノが怖いのは私も同じですわ」


 「まあ、そうでしょうね。分かってるわ。皆マガツモノは怖い。でも戦っている、私とは違ってね」


 「そういう意味ではありませんわ!私は本当に命を掛けて戦うのが怖い、本来ならきっと戦う事なんて出来ませんわ」


 「?」


 「だから私はズルをして辛うじてこの場に立っているんですの」


 「それってどういう意味?」


 やっと興味を持ってくれたのか、二条院さんは俺の顔をまじまじと見つめてくる。


 「とても恥ずかしい事なので本当は言いたくない事なのですがね···」


 俺はそう言うと同時に自身の目の前に、目を瞑り刀を抱くようにして胡座をかき座っている斬像を召喚する。


 「私の実家にはこれと同じものが待機しています。何故か分かりますか?」


 「···生キ写シ?」


 「正解です。私は敵と戦っている最中、本当に死んでしまうと思った時は実家に置いているこれに生キ写シをして逃げる気でいるのです。これが私が化け物と命懸けで戦うことが出来るトリックと言うわけです」


 本当はこんな事言いたくはなかった。


 少しづつ戦いに慣れていって、誰にも知られないまま、何時しかこれをしなくても普通に戦えるようになり、この事は闇に葬りたかった。   


 だが、今はこの暴露が必要だ。彼女の中できっと異常に評価が高いであろう俺という存在もこんな事をしていると伝わればきっと何か考えが変わるはずだ。


 「因みにこれはまだ誰にも話してません。知っているのは二条院さんだけです」


 「私だけ?」


 「ええ、誰も知らない私の秘密です」


 「そう···」


 俺は二条院さんの表情が少しだけほころんだのを見逃さず、畳み掛けるように続ける。


 「今から私は最低な事を言います。いいですか?」


 「···」


 俺の言葉に二条院さんは息を飲み身構える。


 そして、俺は少しだけ大きく息を吸い、殺し文句を言い放つ。




 「命は平等とは言いますがはっきり言います。一般の人よりも御子の命の方が遥かに重い。だから命の危機を感じたら逃げていい、いや逃げるべきなのです」  

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