初任務(仮) 7
「斬雨!!」
二条院さんの前に陣とったまま俺は空中に2本の刀を出現させて、相手に向けて射出する。
しかし。
「スゥーー、シュッ!!」
カン、カン!
敵の斬撃により2本の刀はいとも簡単に撃ち落とされる。
「まだですわ···ぐっ」
俺は弾き飛ばされた刀にすぐさま斬像の召喚を試みる、だがまだ本調子でないせいか、2本の刀のうちの片方に召喚された斬像はすぐに消えてしまう。
「なっ···」
「フンッ!!」
斬像の召喚に失敗してしまった事に動揺する俺を嘲笑うようにルロウゴウケツはもう一体の斬像を斬り裂く。
「コーーッ!」
そして間髪入れずに俺達との間合いを詰めて来て、重い斬撃を放つ。
「ぐっ···流石に強いですわ」
その攻撃を何とか受け止め、数回刀同士をぶつけ合うが、やはり今の身体の具合では相手の方に分がある。
「二条院さん!遼さん達に連絡をお願いします」
「え、ええ」
俺はほんの少しづつ後方に押されているのを感じつつ、同時に真後ろにいる二条院さんに指示を出す。
それから二条院さんが携帯で連絡をとる時間を稼ぐ為、俺は手に持った刀を握り直す。
そして。
「忘レ刀!!」
自分の持っている刀を斬像に預け、相手の懐に潜り込むと俺は相手の腹部に向かって回し蹴りを放つ。
だが。
「シュッーー」
「ちっ···生キ写シ」
"何かしたか?"とでも言いたげな様子で俺を見下ろしてきたルロウゴウケツに危機感を覚えた俺は俺を払い除けるように放った敵の攻撃を、先程、忘レ刀で入れ替わった斬像の場所へとワープする事でなんとか受け流す。
「やはりキツいですわね」
もう片方の手にも刀を出現させ、今度は二刀流にて敵と対峙する俺。
「二条院さん!遼さんとは繋がりましたか?」
「いま呼び出し中よ。···あっ、出たわ。もしもし遼?マガツモノが出たわ早く来てちょうだい」
「ほんとに!?今こっちもルロウゴウケツじゃないマガツモノが出て追いかけてるんだけど、やばそうな感じ?」
と気を利かせてスピーカーモードにしていてくれたため遼の声は敵と打ち合いをしている俺の耳にも届いていた。
げっ、もう一体かよ。······いやでも待て、逃げてるって事はそんなに強い敵ではないのかもしれない。
俺はそう判断すると真っ直ぐに敵と対峙したまま電話の向こうの遼に向かって少し大きな声で叫ぶ。
「やばやばのやばですわ。逃げてるのを追いかけてるならこっちに来て欲しいですわ」
「OK分かった。こっちはそんな強そうじゃないし、攻めあぐねてるからそっちに行く。何か目印出せる?」
「ええ、二条院さん!上に向かって炎を出せます?」
「わ、分かったわ」
「ああ、周りの木々に燃え移らない様に注意してください。山火事は洒落になりませんので」
「ええ、炎龍顕現!」
二条院さんは自身の神具、バーニング・グローリーに炎を纏わせるとそれを上空に向かって斬りあげる。
すると纏っていた炎が長細い龍のような形に変化しながら上空に登っていく。
「ナイスですわ、二条院さん!」
俺はそう言うと、敵の刀と交えている2本の刀を手放し、それぞれ斬像を召喚すると自分はバックステップで後方に下がる。
そして下がりつつ再び両手に刀を召喚して斬像に当たらないよう、弧を描く様に回転を加えながら敵の背後目掛けて刀を投げる。
が、俺はその結果を見届けることなく、すぐさま振り返ると敵から僅かに距離を取る。
本来なら最後に敵に投げた刀にも斬像を召喚して4人で攻撃を仕掛けるのが常套手段なのだが、今の状態で使っても失敗する恐れがある。
ならば遼達が来るまで耐えるのみだ。
「二条院さん距離を取りますわよ!」
俺はそう叫ぶ。
だが、その時の二条院さんの表情が強ばっている事に気づく。
そして。
「暁良!後ろ!!」
「!?」
二条院さんが表情の訳に気づいた俺は咄嗟に手元に刀を召喚し、振り返る。
そこには既に斬像を倒し、背中あたりには2本の刀が浅く刺さっている状態のルロウゴウケツが俺の背後で刀を構えていた。
まずい!
俺は召喚した刀で敵の斬撃をガードするが、態勢が良くないせいか、足を踏ん張る事が出来ず、そのまま吹き飛ばされてしまい、背中を木に叩きつけられる。
「かはっ」
俺は吐血こそしなかったものの、背中を強く打ちそんな苦しそうな声をもらしてしまう。
だが、それよりも俺を傷付けたことがあった。一瞬だったが間違いない。
野郎、峰打ちしてきやがった。
非常に屈辱的だ。だがしかし今はそんな事に腹を立てている場合では無い。
俺は木に寄っかかった態勢のまま、二条院さんのいる方向へ手を伸ばし、彼女の目の前に2本の地面に刺さっている状態の刀を生成しそれと先程までルロウゴウケツの背中に刺さっていて今は地面に転がっている2本を足した4本の刀に斬像を生み出す。
たが。
「シューー···」
突然動きを止めたルロウゴウケツは、数秒間、斬像と二条院さんを眺めた後、刀を鞘に収め、そのまま森の中へと消えてしまう。
···助かった。
俺は安堵のため息をもらす。
が同時に出発前の桐原先生の言葉を思い出していた。
"弱者だと判断された者やこいつの姿に怯えていたりしている人には手を出さない"
そう俺達はルロウゴウケツに弱者だと判定されてしまったのだ。
「はあ···」
非常に悔しい結果だ。がしかし何はともあれ、俺は俺達が無事な事と後は吹き飛ばされた衝撃で漏らさなかった事に対して再び安堵のため息をつく。
それから少し経つと背中の痛みもすぐに引いて、今にでも立ち上がる事は可能だったが、俺は遼達が来るまでのしばしの間、そのままの態勢で居ることを決め、星が綺麗に輝く夜空を見上げた。
その後、俺達は遼達と合流し、更にそこから4人で捜索を続けたが、あれからは1度もルロウゴウケツと遭遇する事は出来なかった。
そして結局、門限を守れるギリギリの時間になってしまったため、俺達は一旦村へと戻り、代表の西岡さんに一声かけて、必ず後日また来る事を約束すると少し急ぎ足で村を後にした。
「で結局、お前らの方はなんだったんだ?なんか電話で変な事いってたじゃん?」
駅へと向かう最中、俺は遼にだけ聴こえるくらいの声量で喋りかける。
「ああ、あれか。なんか狐?みたいなマガツモノと突然遭遇してさ。すぐ逃げたからそんなに害は無いかなって思ったんだけど、取り敢えず気になったから追いかけて倒そうとしたんだよ。···んー、でも何か不思議な感覚で、上手く銃弾が当てられなかったんだよなー。···で、丁度その時にお前達から電話来たってわけ」
「まじか···。じゃあ、次来た時はそっちも倒さねーとなぁ」
仕事が増えてしまったか。でもまあ今回失敗したお詫びって事なら、全然いいか。
「···って痛た」
そんな事を考えながら歩いていると突然、高反発の何かによって吹き飛ばされ俺は尻もちをつく。
「おい大丈夫か?」
「あ、ああ、ってなんだこりゃ?」
尻もちを着いた状態で上を見上げると目の前には村と周辺の森を囲むようにして、僅かに光る薄い膜の様なものがドーム状に形成され、それはまるで俺達をここから出さないように作られた檻のようであった。




