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初任務(仮) 6

 時刻は午後5時30分。


 夕暮れ時となり辺りの景色には夕焼けの赤が染み付くように映し出されていた。


 結局あの後、二条院さんと2人きりで辺りを散策し、話す機会は沢山あったのだがどうしても二条院さんのトラウマ的な部分に触れる事は出来ずに当たり障りの無い会話でお茶を濁すことになってしまっていた。



 

 「はあ」


 そろそろルロウゴウケツを退治しに行こうと準備をしている最中、俺は腹を時計回りに撫でつつため息をもらす。


 「まだやってんのかよ」


 「いや、そんなすぐ治るもんじゃねーって、言っとくけど朝からずっと鳴りっぱなしだぞ。···というかこっちは諦めてっからもういいんだよ。で、桐原先生は何て?」


 俺は苦笑いでそう言うと、遼に依頼していたことについて尋ねる。


 「ああ、取り敢えず22時までには確実に帰宅できるように帰って来いってさ」


 「22時か。という事は駅までの時間を入れて、捜索は出来て2時間くらいってところか。それまでに見つけられるかが問題だな」


 まあ普通に考えれば女子高生をそんなに夜遅くまで駆り出さないか···それどころか寧ろ22時ですら門限としては結構緩いくらいに思える。

 

 ···だがそれも依頼には真摯であれという学園の方針のあらわれって感じか。


 と、そんな事を考えているうちに俺は捜索に必要な最低限度の荷物を選別し終えた。


 そして桐原先生との電話の内容を村の代表である吉岡さんに伝え、承諾を得るとついにこの村に住まうマガツモノ、ルロウゴウケツの退治に向かった。




 

 「全然見つかりませんわね」


 「···そうね」


 現在時刻6時45分、俺と二条院さんの2人は暗くなってしまった山の道を懐中電灯で照らしながら歩いていた。


 捜索開始からルロウゴウケツの目撃例の多い場所を重点的に1時間ほど捜索していたのだが、気配すら感じることはできず、遂に日は完全に落ちてしまっていた。


 その為、森の中に入って捜索するのは流石に危険ということになり山道を二条院さんと俺、東雲さんと遼の二手に別れて、山道から見える森を懐中電灯で照らしながら捜索を続行していた。


 「···あ、あれですわね。二条院さんはこういう暗い所とかって大丈夫な方ですの?なんならもっと近づいてもいいんですわよ」


 俺は場を和ませるという目的で二条院さんに笑いかける。


 本来ならこちらからこういったことを言うのは遼と交わした制約で禁止されているのだが今回は下心が無いのでまあ許されるだろう。


 「別に苦手じゃないわ···」


 「あ、あはは。そうでしたか···」


 「···」


 「···」


 気まずい···。


 昼間はまだルロウゴウケツが出てこないと分かっていたため、少しは会話が弾んだが、今はいつ敵が出てきてもおかしくないという緊張感のある状態だ。まあ無理もない事か···。


 それから俺は会話を続ける事が出来なくなってしまい、空気を紛らわすように独り言を多用しながらルロウゴウケツの捜索に精を出す。

  


 そしてそれから数分後。



 「···あんた本当の所は私の事どう思ってるの?」


 二条院さんが突然口を開いた。


 「も、勿論お友達として好きですわ。そういう意味ではなくてですの?」


 二条院さんの質問の意図を完全に理解してしまった俺は嬉しい意味でなくドキッとして、すべてを察しているにもかかわらず、知らないフリをしてその様に言葉を返してしまう。


 「気を使わなくていいわよアンタは気付いてるんでしょ。私がマガツモノのこと怖がってるって」


 「っ···」


 あまりにもあっさりと二条院さん自身の口から語られた秘密によって俺は言葉を詰まらせてしまう。


 しかし硬直してしまっている俺を置いて二条院さんは尚も喋り続ける。


 「3年前位かしら旅行先で結構デカい奴に遭遇してね。目の前で何人か殺されてちゃってそれ以来···って感じよ」

  

 「3年前···ですの?」


 「ええ、勿論すでに神具も使えたわ。でも何も出来なかった」

 

 「···」


 「でもそれからここに入学するまではニュースとかでしかマガツモノを見なかったから、何かをする前が1番緊張して、やり始めたら案外平気みたいな感じで、実戦になったら意外とやれるんじゃないかって思ってた。···けど全然違った」

 

 恐らくこの前のツヅリコジキとの戦闘の事を考えて悲しそう笑いながら二条院さんは語る。


 そして、数秒の沈黙の後再び口を開いた。


 「でも今日で私は御子にはなれないってハッキリ分かったわ。···私の家は代々御子だから面汚しになっちゃうけど、アンタ達に迷惑はかけられないからね、帰ったら家族と相談する事にするわ」


 「···い、いやでも」


 どうにかしてやりたいが、どうするのが正解なのか分からない。


 俺は尚も悲しそうに笑う二条院さんを見て、どうしようもない悔しさを覚える。



 がその時。


 俺は強い敵意のようなものを感じて周りを見渡す。


 そしてタイミング悪く奴を見つけてしまった。

  

 「っ!?二条院さん私の後ろに!!神具も展開しておいてください」


 俺は俺達の進行方向の道の真ん中に鎧兜を身に纏った2m50cmを超える大きさのマガツモノ、ルロウゴウケツが刀を持って立っているのを確認する。


 「え、ええ、神具展開、バーニング・グローリー」


 「神具展開、百騎一閃」


 と俺達が速やかに戦闘態勢を取ると、ルロウゴウケツも静かに唸り声をあげながらゆっくりと刀を構えた。

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